Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2018/09/25
Update

映画『愛しのアイリーン』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【吉田恵介×新井英樹】

  • Writer :
  • 白石丸

閉鎖的な地方の農村に、フィリピン人女性が嫁いだ事で巻き起こる騒動を描く、映画『愛しのアイリーン』

『宮本から君へ』『ワールドイズマイン』で知られる漫画家・新井英樹の同名コミックを、『さんかく』『ヒメアノ〜ル』の吉田恵介監督が完全映画化しました。

人間のむき出しの本質を描いてきた2人の鬼才がコラボした傑作ジャパニーズ・ノワール。

綺麗事一切なしのエゲツないストーリーの先に訪れる美しい愛の物語『愛しのアイリーン』に胸を打たれること間違いなしです。

映画『愛しのアイリーン』の作品情報


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
吉田恵介

【キャスト】
安田顕、ナッツ・シトイ、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、田中要次、伊勢谷友介、木野花

【作品概要】
42年間恋愛経験のなかった主人公が、フィリピンからお金で買った花嫁を北国に連れて帰ってきたことによる事件を描く衝撃作。

恋愛、親子愛、性欲、人種問題、様々な人間の業をぶち込んだ闇鍋のような映画でありながら、爆笑できるコメディであり、最後には感動できる純愛映画でもあります。

原作は『宮本から君へ』『ワールドイズマイン』で知られる漫画家新井英樹の同名漫画。演出は『さんかく』『ヒメアノ〜ル』の鬼才・吉田恵介監督です。

主演は人気演劇ユニットTEAM NACSの安田顕。そのほか木野花、伊勢谷友介、河井青葉といった実力派キャストが周りを固め、フィリピンからはアイリーン役にナッツ・シトイ、マリーン役にディオーヌ・モンサントと実績ある女優が参加し、原作執筆から20年余りが経ち、ついに実現した衝撃作です。

映画『愛しのアイリーン』のあらすじとネタバレ


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

東北の農村に両親と暮らす宍戸岩男。独身のまま42歳の誕生日を迎えた彼は、その年まで女性と恋愛をしたことがありませんでした。

母親のツルは岩男の結婚相手を探そうと躍起になっている日々。父親の源蔵はボケが始まり毎日ノコギリで木を切って何かを作っていました。

岩男は近くの町のパチンコ屋でホールとして働いています。彼はそこの同僚でバツイチ子持ちの吉岡愛子という女性が気になっていました。

しかし岩男に誕生日プレゼントをくれたのは同じく同僚の良江という中年女性だけ。
彼は少し前に良江と酔った勢いで肉体関係を持ってしまいそれを激しく後悔していました。

同僚の斎藤のカラオケの誘いも断って家に帰るとツルが誕生日ケーキを用意していましたが、岩男はろくに口もつけず、いつものように自分の部屋でエロビデオを見て自慰行為をするのでした。ツルは障子の穴からそれをコッソリ覗いています。

翌日、ツルは友人のスギと岩男の嫁探しについて話していました。スギは後家の子持ちやスナックで働く娘など、近所の年頃の女を挙げていきますが、ツルはどれも納得せず「うちの岩男にゴミをあてがう気はねえ!」と怒鳴ります。

その日、岩男がホールを掃除していると愛子に話しかけられます。愛子は一日遅れで彼の誕生日を祝い、仕事終わりに飲みに誘います。

居酒屋でも口下手な岩男は愛子の子育ての話に相槌を打って聞くばかり。しかし愛子は岩男に誕生日プレゼントをくれます。それは彼にどことなく似てるゴリラのキーホルダーで、先日良江が渡してきたものと同じでした。

それでも岩男は喜び、車のバックミラーにキーホルダーを付けて帰宅します。

ツルは寝る前に岩男の部屋の前で「お前の嫁はオレが見つけてやっからな」と言ってきますが、彼は「母ちゃん、春遠からじだ」といって眠りにつきます。

翌日、岩男が職場で女を見つけたのかと思ったツルはこっそりとパチンコ屋に行き様子を伺っていました。

仕事終わり、岩男は良江と愛子と駐車場で出くわします。バックミラーのゴリラキーホルダーを見た良江は「あら岩男ちゃん付けてくれたの?」と嬉しそうに言い、近くにいたお調子者の斎藤も「なに良江さんといい感じ?」と囃し立てますが、彼は「いえ、吉岡愛子さんから頂きました!!」と怒鳴ります。

その様子を面白がった斎藤は岩男を飲みに誘います。店は町にあるフィリピンパブでした。

店の売れっ子マリーンと一緒に飲む二人。他愛もない話をしていたのですが斎藤がマリーンに煽られて「俺セックスに不自由してないもん」と言い出します。

そして酔った彼は、岩男の誕生日の日、岩男の代わりにカラオケに誘った愛子とそのままなし崩し的に肉体関係になった話を嬉々として語りだします。

岩男はそれを聞いて無言で酒を何杯も飲み干し、突然マリーンに向かって「ハウマッチ!?」と叫びました。

売春もしていたマリーンは岩男とホテルに行きます。
しかし惨めになってしまった岩男は男性器が立たないと言ってマリーンに帰るように言います。
しかし本当は彼はガチガチに勃起していました。マリーンにそれを見抜かれた岩男は激高して彼女を叩き出します。

彼は車で愛子の家まで行くとインターホンを鳴らします。出てきた愛子の前でゴリラのキーホルダーを地面に叩きつけた岩男は彼女に「好き・・・でした」と言って去ろうとします。

愛子は岩男を呼び止めると「ごめん、うち本気だと困るんだわ」と言いました。

絶望した岩男が家に帰ると、ツルがものすごい剣幕で怒鳴ってきます。

「愛子とかいう女、子持ちなうえに職場の男何人にも体許しとるそうでねえか!そんな女この家の敷居跨がせねえぞ!!」

ツルは店長や色んな人間を問いただし詮索をしていたのですが、彼はそれを聞いて「やかましい!おめえはどこからそんなこと聞いてくるんだ!!」と怒鳴り返します。

すると、それを聞いていた父・源蔵が突然ボケが治ったかのように話し出します。

「岩男、おめえに嫁は来ねえよ。親も家も捨てらんねえ男に女は惚れねえ。俺はずっと覚悟してた、いつかおめえが俺たちを捨てる日を!」

ツルは「何を言うんだ!岩男が出て行ってもええんか!」と怒鳴りますが、岩男は無言で家を飛び出してしまいます。

道路をふらつきながら彼は「女、女はいねえが…」と夢遊病のようにつぶやきます。

道路の真ん中に立っていた岩男はやってきた車に跳ね飛ばされてしまうのですがすぐに起き上がり「おマ〇ゴォォォ!!!!」と絶叫しました。

そして翌朝、岩男は忽然と姿を消してしまいます。


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

ツルは彼の職場含めいろんな場所を必死になって回って探しますが、行き先はわかりません。源蔵はまたボケ老人に戻ってしまいノコギリと金槌で何かを作っています。

3週間ほど経っても岩男は帰ってきません。
その日もツルは一日中村や町を回っていました。途方にくれて家に戻ってくると源蔵がずっと作っていたものが出来上がっていました。それは揺り椅子でした。

ツルと源蔵が熱海に新婚旅行に行った時に旅館で座っていた思い出の品。ツルはそれに座り「オメエにしちゃ上出来なもん作るでねえか」と笑いますが、その背後で源蔵は急に力尽きたように倒れて意識を失っていました。

数日後、宍戸家の面々が集まって源蔵の葬儀が開かれていました。読経中、岩男が突然アロハシャツを着たまま帰ってきます。岩男も父の葬儀が行われているのを見てビックリしていました。

親戚が「岩男、おめえどこ行ってたんだ」と問い詰める中、彼の背後から小柄な東南アジア系の女性が現れます。

「イワオサン、オヨメサンナリマシタ、アイリーンデス」

話は3週間前に戻ります。家を飛び出した岩男はフィリピンパブの店長の紹介を受けて、ツアーでフィリピンに飛んでいました。モテない男たちがフィリピンで現地の女性とお金で結婚するツアーでした。

現地で30人のフィリピーナと一気にお見合いをすることになる岩男。

しかし40年以上ほとんど女性と縁のない生活をしてきた彼が言葉も文化も違う女たちと話が合うわけもなく、「ハロー、アイム、イワオ」を繰り返すだけで誰とも交流は深まりません。

15人くらい見合いしたあと岩男はツアー引率者の竜野に「俺はもうわかんねえ!決めらんねぇ!」といいます。

そして順番を守らずに彼のそばに寄ってきた若いフィリピーナを見ると「もうこの子でいいです!」と言いました。

竜野は「本当にいいんですか」と驚きますが、岩男はもう決めたと言い、竜野がその子にも意思確認をすると、彼女も快諾します。

名前はアイリーン・ゴンザレス。大家族の娘で、大黒柱の父親が働けなくなったために家族にお金を入れようと必死でした。岩男は家族と面会し毎月できる限り仕送りはすると誓います。

そのまま結婚式も行い、手続きも済んで2人は正式に夫婦になりますが、その夜のホテルで岩男がアイリーンと初夜を迎えようとすると、彼女は乗り気ではありません。そして彼のそそり立つ巨大な陰茎を見るとアイリーンは悲鳴を上げます。

結局アイリーンは突如生理が来たと言い、初夜を断ります。

アイリーンはまだ処女でした。

落ち込んでる岩男に竜野は「あなたはこの結婚に引け目を感じる必要はない。彼女だってああ見えてしたたかだ。」と言います。

「アイリーンを幸せにしてあげてください」と言われ頷く岩男。

翌日アイリーンは家族と涙の別れを終えます。


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

そしてアイリーンを連れて我が家に帰ってきた岩男は父親が死んで葬儀が行われていることに愕然としていました。

ツルは無言で彼を見つめています。スギは「こりゃあ血の雨が降るぞ」とつぶやきます。

親戚から「とりあえずお焼香しろ」と言われ遺影の前に行く岩男。

アイリーンは状況を理解しておらず、外で源蔵がツルのために作った揺り椅子を漕いで「イワオサ~ン!」と叫びながらはしゃぎ、激しく漕ぎすぎて揺り椅子を壊してしまいます。

それを見ていたツルは黙って葬式を抜けて家の奥に消え源蔵が持っていた猟銃を抱えて戻ってきます。

騒然とする一同。

「母ちゃん何考えてんだ!」と止めようとする岩男にツルは「これでオレかあの女かどっちか撃て!」と怒鳴ります。

彼は「馬鹿なこと言うでねえ!」と言いますが、ツルは今度は自分でアイリーンに銃口を向けます。

おびえるアイリーン。タガログ語(フィリピンの公用語)で「何、私何かした?」と叫びツルと揉み合いになり銃を奪って、ツルに銃を向けます。

岩男は何とか二人を止めますが、こんな状態ではアイリーンを家に入れるわけにはいきませんでした。

その夜フィリピンパブに行く岩男とアイリーン。マリーンと意気投合したアイリーンは、彼女からタガログ語と日本語の翻訳のための日比辞書をもらい喜びます。

パブに来ていた斎藤から「岩男ちゃんいい買い物したねえ」と茶化されるも、彼は何も言い返せませんでした。

その夜、ホテルに泊まった岩男は再度アイリーンに関係を迫るもまた拒否されてしまいます。「おめえの生理はどんだけ長えんだ!俺はおめえに300万払ってんだぞ!」と押し倒そうとしますが、備え付けの電子レンジで頭を殴られてしまいます。

数日後、岩男が頭にネットを巻いて職場復帰すると愛子が「ご結婚おめでとうございます」と話しかけてきて彼はそれにブスっとお礼を言います。

アイリーンは店の外で辞書を読んだりして遊んでいました。

その夜の仕事帰り、愛子の自転車がパンクして困っているのを見た岩男は車で送っていくと提案します。

アイリーンは後部座席で寝ており、助手席の愛子はそれを見てつい「アイリーンちゃんにいくら使ったの?」と聞きます。

そのあと「ごめんなさい、こんなこと・・」と言いますが岩男は「色々込みで476万」と答えます。それを聞いた愛子は少し笑って「うらやましい・・私にそんなお金使ってくれる人いないから・・」とつぶやきます。それを聞いて驚く岩男。

家に送り届けての別れ際、アイリーンは「アイコサ~ン」と愛子に抱き着きます。困ったようなうれしいような複雑な表情の愛子。

それからしばらく、岩男はアイリーンがツルと仲良くできるよう「カアチャ~ン、ダイスキ」など日本語を教えていました。

そうして段々とアイリーンと岩男は絆が深まっていきます。

ツルはスギと一緒に今後の話をしていました。その時スギの家に親戚の娘が手伝いに来ていました。

彼女は岩男が疾走する前に岩男とお見合いする予定だった娘です。真島琴美27歳、漬物工場勤務で皆勤賞、休日は遊ぶこともなく家事と家業の手伝い、メガネで黒髪、礼儀正しいとツルが理想とする大和撫子でした。

ツルがスギに「でも年頃だべ、男関係は・・」とこっそり聞こうとすると琴美本人が「私は生娘ですよ。初めては旦那様と・・、ってそういうのが好きですから。」と言ってきます。ツルは感動の表情を浮かべました。

ある夜アイリーンはフィリピンパブでマリーンと話をしていました。「処女は愛する人に上げたい」というアイリーンにマリーンは「今更何言ってんの」と笑います。
「岩男さんのことは?」と聞かれるとアイリーンは「だんだん愛してきてる」と言いました。

マリーンがお客さんの相手で卓に行ってしまったあと、カウンターに座っていた美形の男がアイリーンに話しかけてきます。

男はタガログ語で「日本人と結婚したのか。」と聞いてきます。「なぜタガログ語を話せるの。」と聞くと男は自分は日本とフィリピンのハーフだと言います。

そして「金で買われたのか。」「フィリピンは日本に金で侵略されてセックスを買われているんだ。」「俺と一緒に来ないか」などと言ってきます。

アイリーンはそれに反論しつつも言い返せなくなっていましたが、そのタイミングで仕事を終えた岩男が彼女を迎えにやってきました。

話しかけてきた男を尻目にアイリーンと岩男はパブを出ていきます。

今夜も泊まるホテルを探そうと運転をしていると彼の携帯にツルから電話が入りました。「人間、この世に生まれたからにはみんな兄弟だ。何も言わねえから戻ってこい」。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには「愛しのアイリーン」ネタバレ・結末の記載がございます。「愛しのアイリーン」をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

翌日アイリーンと岩男は家に戻ります。ツルはアイリーンを歓迎しようとしていますが、あからさまな作り笑いを浮かべていました。

その夜の食事も彼女が食べられないような納豆、味噌汁、漬物に白米という典型的な和食ラインナップで、岩男は「母ちゃん嫌がらせはやめろ」といいます。そしてアイリーンにはツナ缶を食べさせます。

数日間、アイリーンは家に残って家事を手伝ったりツルの畑仕事を手伝おうとします。

ツルは「余計なお世話だ」と拒否しますが、少しやり取りすると彼女がまだほとんど日本語を理解していないことに気づきます。

ツルはニコニコ笑いながら「おい、虫けら」など思いつく限りの罵詈雑言を浴びせるのですが、アイリーンもタガログ語で「そんな作り笑いには騙されないからね」と返します。

2人は対立し合ったままゲラゲラ笑います。

ある夜、岩男はアイリーンに日本食になれてもらおうとラーメン屋に行きます。完食はできなくともラーメンなら彼女も多少美味しく食べることができました。

店を出て商店街を歩きながら覚えたての日本語を楽しそうに叫ぶアイリーン。無邪気に笑う彼女を見て、岩男は思わず「おめえ綺麗だな…」とつぶやきます。

岩男もアイリーンを愛し始めていました。見つめ合ったあと2人は初めてキスを交わします。

また数日後、アイリーンは自分が壊してしまった源蔵作の揺り椅子を修理しようとしていました。

そこに先日パブで会った男がやってきます。「そんなことをしてもお前は結局受け入れてもらえない」と言ってくる男にアイリーンは「何しに来たの?」と邪険に扱い、ツルも「おめえ誰だ」と聞いてきます。

男は塩崎と名乗りました。塩崎は「あなたはこのフィリピーナの扱いに困っているでしょう。私が手助けしてあげましょうか」と言ってきますが
ツルは彼の顔に唾を吐きかけ「あいにくヤクザもんは信用せんようにしとるんでな」と言い放ちます。

塩崎は一切動じず「お宅の息子さんはアイリーンと結婚するためにおそらく何百万も払っています。私ならその件も助けられますよ」といいます。

塩崎は外国人売春婦の斡旋を行っているヤクザで彼の話を聞いたツルは動揺します。

その夜、アイリーンに添い寝をしながら行為には及べずこっそり自慰行為をしている岩男を襖越しに見ながらツルは「何百万も払ってゴミ買うバカがどこにおる!」と吐き捨てます。

ある日、岩男が仕事に行っている間、アイリーンは近所のお寺に行きます。

住職は源蔵の葬式にも来ていたのですが寺のあと取り息子政宗が英語を話せたので、アイリーンは自分が不安に思っていることなどを定期的に相談に行くようになります。

ツルは岩男もアイリーンもいない間に琴美とスギを家に呼びます。

ツルはアイリーンと岩男が結婚してしまったのは過ちだと言った上で、親は人の道を外れても子供の幸せを願うもんだ、ともう一度岩男とお見合いをしてくれと琴美に泣いて頼み込みます。

琴美も純情な娘なのでそれに絆されて岩男と見合いをすることを承諾します。

後日、朝早くアイリーンはツルに買い物に行かされます。

岩男は非番で寝ていましたが、ツルにたたき起こされて無理やりスーツを着させられます。

何かと思うと琴美が家にやってきます。

ツルは二人で話せと言ってきますが岩男は何を話せばいいのか困惑します。

ツルはお茶の代わりに二人に変なドリンクを出します。岩男の方のドリンクにはマムシやニンニクなど精力がつく物がたくさん入っていました。

結局ろくに話もできませんでしたが、琴美が帰ろうとしたときに彼女が乗ってきたスクーターが壊れていることに気づきます。ツルは岩男に琴美を送っていくように言います。

岩男は琴美を乗せて運転していましたが途中でエンストを起こしてしまいます。琴美もツルにドリンクに何か盛られたのかスヤスヤと眠ってしまっていました。

岩男は車を修理していましたが精力ドリンクが効いてきてしまい、眠っている琴美のスカートをめくってそれを見ながら自慰を始めます。しかし琴美は目を覚まし、下半身を露出している彼を見て悲鳴を上げてどこかへ逃げていってしまいました。

その頃、アイリーンが家に戻ってくるとツルが猟銃を構えて家の外に出ろと脅してきます。家の外に塩崎が待ち構えており、彼女を捕まえて縛り車に押し込めます。

ツルと塩崎は手を組んでアイリーンを売り飛ばすつもりでしたが、そのタイミングで岩男の車が戻ってきます。

岩男はアイリーンを守ろうと塩崎に掴みかかりますが、塩崎に殴り倒されてしまいます。

ツルは岩男を傷つけられたので怒って車に向かって発砲しますが、塩崎はそのまま車を発進させます。

岩男はツルから猟銃を奪うと車で塩崎を追いかけます。

山道を走りながら塩崎は車内でアイリーンに「今幸せか?」と聞きアイリーンは「わからない」と叫びます。

彼は「結婚だとか限られた枠の中で幸せをさがすな。俺がもっと幸せを見つけられるようにしてやる」と言ってきます。

岩男は「アイリ~ン!!」と叫びながら追いかけてきて塩崎の車に車体をぶつけて止めようとしますが振り切られてしまいます。

しかしその先は通行止め区画があり、塩崎は車を止めます。

岩男も車を止めて塩崎に猟銃を突きつけますが、隙を突かれて殴り倒され、地面に這いつくばります。

塩崎はそのまま岩男に何発も蹴りを食らわせますが、アイリーンも縛られたまま車を降りて「止めて!死んじゃう!」と止めに入ります。

アイリーンは塩崎と口論していましたが、突然銃声が鳴り響き塩崎は倒れ込みます。アイリーンは返り血を浴びました。岩男が這いつくばったまま塩崎を猟銃で射殺してしまったのです。

アイリーンと岩男は塩崎の死体を山に運んで埋めます。

彼は人殺しになってしまった自分にアイリーンを巻き込まないようにするため、彼女に財布を渡し「フィリピンにけえれ!ゴー、フィリピン!」と言います。

しかしアイリーンは「私が岩男さんを守るから!」と泣いて彼を抱きしめます。

タガログ語で何を言っているかはわかりませんでしたが、気持ちは伝わり、岩男もアイリーンを抱きしめます。

岩男とアイリーンが家に戻ってくると、血まみれになっている2人を見てツルは何があったんだと問いただしますが、岩男は「やかましい!」と怒鳴ります。

そして部屋に入るとツルに見せつけるように2人は裸になり、結婚してからようやく初夜を迎えます。

ツルはその様子を呆然と見ていましたが、ふと自分の股間を触ると血が出ていました。「ツキのもん・・・」ツルは驚きます。

とうとう結ばれた岩男とアイリーンでしたが、翌日以降、怯えて暮らすことになります。

職場にヤクザらしき2人組がやってきます。塩崎の写真を見せて「ウチのもんがこないだから行方不明なんだけど知らない?」と聞いてきますが岩男は「知らねえ!」の一点張り。

その後、車や家の壁に「宍戸岩男は人殺し!」と書いたり、ガソリンスタンドで岩男に「塩崎の死体が見つかった」と嘘をついてきたりとヤクザの嫌がらせが始まります。

「人殺し」と書かれたままの車で出勤する岩男に職場でも不審がる人間が増えていきます。

岩男はある日、愛子を女子トイレで押し倒そうとします。愛子は最初抵抗しますが、岩男が震えながら「人殺しちまった」というと彼女は「おいで」と彼を受け入れました。

2人はそれから度々行為を交わすようになり「岩男さんがもっと強引だったらもっと早くこうなってたかも」と愛子は言います。

アイリーンは寺で正宗と話す回数が増えていきます。政宗はアイリーンに般若心経を教えます。

アイリーンがツルとうまくいってない事を話すと、政宗は「日本の農村では昔、働き口でなくなった老いた親を山に捨てる“姥捨て”という文化があったんだ」と話します。

フィリピンは親をとにかく大事にする文化なので、彼女は「ありえない!」と驚きます。政宗は「ありえないよね」と笑います。

家でもアイリーンと性行為をする岩男ですが、行為中に塩崎の死体を思い出してしまい、アイリーンの顔にゲロを吐いてしまいます。

ある日ヤクザの嫌がらせで家の壁に書かれた「人殺し」の文字を消しながらツルはアイリーンに「岩男は殺したのか」と聞き、アイリーンは頷きます。

ツルは「オメエさえ来なければこんなことにならなかったんだ!」と怒鳴り雑巾を投げつけます。アイリーンも投げ返し、2人は雑巾をぶつけあいます。

岩男は不安からかどんどん性欲が暴走していき良枝とも関係を持ってしまいます。

ある日、いつものように逢引した後、愛子を家に送り届けると、愛子の兄が飛び出してきて「子供ほっぽらかしてどこ遊び歩いてるんだ!」と彼女をひっぱたきます。愛子は悲しそうな目で岩男を見て家に入って行きました。

スギが病気で亡くなり葬儀に参列した際に、ツルは近所の人間からアイリーンと政宗が最近頻繁に会っているので噂になっていると聞いてしまいます。

その話は岩男にも伝わります。寺で話しているアイリーンと政宗のところに岩男がやってきて、政宗をボコボコに殴りつけます。

アイリーンはそれを止めますが彼は「おめえも俺が人殺しで捕まりそうだから、新しい男見つけたんか!」とビンタして家に連れ帰ります。

アイリーンは岩男とのセックスを拒否しますが岩男は彼女に3千円を叩きつけ「これでオマ〇コだ」と言います。アイリーンもやけくそになって「イイヨ!オマ〇コサンゼンエンネ!」と言って服を脱ぎます。

アイリーンとの愛の無い生活、ヤクザに怯える生活、罪の露見を恐れる生活。岩男はどんどん荒んでいきますが、彼は仕事の帰り、寺の裏の山の木に何かを掘るのが日課になっていました。

そして数ヶ月が立ち、冬がやってきます。アイリーンも日本語をそこそこ覚え、雪国での生活にも慣れ始めていました。

愛子は別の男と駆け落ちしており職場にはもういません。岩男がアイリーンと3000円払ってセックスをする生活はまだ続いていました。

ある日仕事中に琴美が岩男を訪ねてきます。

外の駐車場で琴美は岩男の自慰行為を見てしまったお詫びをしたいと言い出したので、岩男は今自分の目の前で自慰をしろと言います。

琴美は渋々パンツを下ろして自慰を始めますが、岩男は彼女に掴みかかり押し倒そうとします。

しかしそこに岩男の弁当を届けに来たアイリーンがやってきてその光景を見てしまいます。

アイリーンは琴美を突き飛ばすと岩男に「なんで優しくしてくれないの!」と怒鳴ります。琴美はパンツを履いて逃げ出します。

岩男とアイリーンの仲はどんどん険悪になっていきます。

クリスマスの夜、岩男はフィリピンパブに行きマリーンに売春を要求します。

マリーンは何も聞かず受け入れてくれますが、行為後に岩男は「アイリーンはフィリピンに帰すつもりだ」と言います。

岩男はまた山に行き木に何か掘っていましたが、闇夜で足を踏み外してしまい転げ落ちて木に頭をぶつけて気絶してしまいます。

岩男が帰ってこないのでツルは数日間近所を回って探します。ヤクザの仕業かも知れないと思い駐在に捜査を頼みに行きますが、何の証拠もなくそんなことはできないと断られてしまいます。

アイリーンも岩男を探し寺の前に岩男の車が停まっているのを見て境内に入ると裏の山に入ります。

するとそこら一体の木に「アイリーン」と彫り込まれています。

驚きながら奥に進むと坂の下の木の根元に雪にうもれた岩男の死体がありました。気絶したまま凍死してしまったのです。

岩男はアイリーンを愛していましたが、明日をも知れぬ身の自分に巻き込まないよう距離を置いていたのです。

そして思いを吐き出すようにアイリーンと掘り続けていました。

全てを悟ったアイリーンは岩男の死体に顔をうずめて泣きます。

アイリーンは家から布団を持ってきて岩男の死体に被せ般若心経を唱えました。

家に帰るとツルが方々をさがして戻ってきていたところでした。

岩男がいなくなってもあまり動揺していないアイリーンを見て彼女は怒鳴ります。

「一人目と二人目が流れて、三人目が二つで病気で死んで、ようやく授かったのが我が岩男だ!」

アイリーンは決心して「イワオサンミツケタ」とツルを岩男がいる場所に連れてきます。

布団を避けて岩男の死体を見たツルは発狂したかのように叫び、その後家に帰って寝込んでしまいます。おまけにショックのあまり失語症になってしまいました。

アイリーンはツルの看病をしますがツルは遺書を書いていました。

そして身振り手振りで自分を山に連れて行って捨てるようにアイリーンに要求します。

アイリーンはこれが正宗の言ってた姥捨てかと気づき反対しますが、ツルは近くにあったハサミを手に取ると自分の耳たぶを切り落とします。

キリスト教が主流のフィリピンでは自殺は絶対にいけないこと。アイリーンはツルに自殺させないために渋々彼女を背負って山に連れて行きます。

雪山の奥の祠のような場所まで来るとツルはそこに寄りかかって死ぬのを待とうとします。

しかしアイリーンは彼女が死ぬのを止めようと「コドモイルド!イッパイオマ〇コシタカラキットイルド!ソウオモワネガ?」と言います。

彼女はツルを背負って来た道を戻ります。

ツルはアイリーンの背中で昔を思い出します。

源蔵に嫁いだ時のこと、岩男が生まれるときに難産になり苦しむツルを尻目に姑が「使えねえ女だなオメエは」と悪態をついてきたこと。

走馬灯のようにいろんなことを思い出しながらツルは息を引き取りました。

アイリーンは駐在のところに行き岩男とツルが死んだと言ってそのまま去ります。

荷物をまとめて雪道を歩いていく中、岩男の声が聞こえてきます。

「アイリーン、愛してっど」

アイリーンは振り返り空を見上げました。

映画『愛しのアイリーン』の感想と評価


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

本作の話はほぼ原作通りで同じように非常に衝撃的な内容になっています。

この映画はとにかく人間の醜い部分を見せつけてきます

セックスに飢えて妻を外国から金で買うという事の発端からして攻めた内容ですが、老人だらけの閉鎖的な田舎の保守的な雰囲気、40歳まで親元で暮らす独身男、いろんな男に体を許してしまうシングルマザー、売春の斡旋をするヤクザ、生きがいを失って一気に老け込む老人、など社会の暗部が浮かび上がってくる作りになっています。

原作漫画は90年代半ばに描かれた作品ですが内容的には現代日本に、より突き刺さるものになっています。

その人間の暗部を描くというコンセプトの元、モザイクが掛かっているとはいえ男性器と女性器も画面に登場し、放送禁止用語も飛び交い、グロもガッツリ描き、老人の月経という誰も見たくないような描写まで出てくるという、えげつない映画になっているのです。

原作の漫画ではリアルな内容に対してデフォルメされたキャラが多いです。

岩男は190センチ越えの怪力大男、ツルは猟銃を二連打ちできるような超人老女、アイリーンも映画版よりさらに騒がしく、塩崎は3ヵ国後を操り哲学的な内容を話す上に格闘術も一流のスーパーインテリヤクザという荒唐無稽ぶり。

この映画ではその要素はなるべく削りつつ、実際にいそうな変人たちというラインを絶妙についたキャラ造形がなされた演出がされています。


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

また吉田監督らしく意地悪で露悪的な笑いが散りばめられていて、原作と同じシーンでもよりブラックな笑いがこみ上げてくるように作られています。

そして吉田監督の演出に答えるように主演の安田顕を始め日本・フィリピンの実力派俳優が体当たり演技を見せているので、映画の枠を越えてむき出しの愛憎劇が迫ってくるような作品になっています。

そしてどうしようもないくらいリアルな人間の暗部を見させられた上に待っている純愛にも涙を誘われます。

口下手で自分の性欲も抑えられない男のなけなしのアイリーンへの愛情表現。あれをどう思うかは観客に委ねられます。

そして本作は親子愛の映画でもあります

ツルの岩男への偏執的愛情はずっとやりすぎなギャグのように描かれているのですが、最後の最後に彼女の過去が描かれ岩男を溺愛する理由に至り、不意を突かれるような感動が襲って来るのです。

これは吉田監督のブラックコメディ演出が効いているからこそ。

意地悪さと素直な感動が9:1くらいの割合ですが、その1の感動の深さが大きい作品でもあるのです。


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

まとめ


(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

吉田監督は「自分よりうまい監督はたくさんいるが、自分が一番(本作の)原作を愛している」と語り、本作は映画化を志してから12年かかってようやく実現した企画です。

漫画も傑作ですが、映画をまっさらな状態で見て衝撃を受けてから漫画を読むのをおすすめします!

原作の持ち味と現代日本映画としてのバランスをとるための工夫が見えてとても面白いです。

新しいジャパニーズノワールラブストーリー。本作を見たら自分と重ねて色んな人と議論したくなること間違いなしです。


関連記事

ヒューマンドラマ映画

『ライフ・イズ・ビューティフル』ネタバレ結末感想とあらすじ最後の伏線解説。名言の数々も飛び出す強制収容所に送られた父子の家族愛

過酷な状況下に陥ってもなお、妻と息子を救ったのは多幸感いっぱいの父の笑顔。 今回ご紹介する映画『ライフ・イズ・ビューティフル』は、田舎からトスカーナ地方の小さな街に、叔父を頼りに出てきた主人公が、旅の …

ヒューマンドラマ映画

映画『ギャングース』あらすじネタバレと感想。高杉真宙×加藤諒×渡辺大知の演技力に注目

裏社会の実態をリアルに描いた❝超実証主義漫画❞『ギャングース』が、遂に実写映画化。 ハリ?タタキ?道具屋?ヤラレ名簿?受け子? 聞きなれない言葉が飛び交う世界。どこか他人事のように思える世界が、リアル …

ヒューマンドラマ映画

Netflix映画『ハーフ・オブ・イット』ネタバレ解説と考察感想。ラブレターの代筆がもたらす真実の愛

愛は寛大でも親切でも謙虚でもない。愛は厄介。おぞましくて利己的。それに大胆。 Netflix映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』は、「ラブレターの代筆」という古典的な設定から始まる青春ス …

ヒューマンドラマ映画

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』感想評価と解説レビュー。アルマホドロフスキーが未来の⾳楽を作るミュージシャンを好演

映画『ショック・ドゥ・フューチャー』が、2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋⾕ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開! 本作は、電⼦⾳楽の黎明期にその⾳⾊に魅了され、男性優位の音楽業界 …

ヒューマンドラマ映画

【ベルイマン代表作】映画『仮面/ペルソナ』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。“芸術は多くを救う”の正体は価値観の定義

イングマール・ベルイマン監督が描く自意識の仮面。 映画『仮面/ペルソナ』は、失語症となった女優と、献身的に療養を見守る看護婦の物語です。自意識の境目を無くし、仮面が剥がれていく様子を描いた心理ドラマ。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学