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Entry 2022/12/21
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映画『彼岸のふたり』あらすじ感想と評価解説。北口ユースケ監督が虐待をテーマに新たに築く母娘関係を描いた長編デビュー作

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『彼岸のふたり』は2023年2月4日(土)より池袋シネマ・ロサにてレイトショーほか全国順次公開

北口ユースケ第1回監督作品映画『彼岸のふたり』が2023年2月4日(土)より池袋シネマ・ロサにてレイトショーほか全国順次公開されます。

伝説の遊女「地獄太夫」をモチーフに、一人の少女の成長と葛藤を独自の視点で描く作品です。

主演を務めるのはアイドルとしても活躍する新人、朝比奈めいり。母親役を『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2008)の並木愛枝が演じます。

母が暴力的な恋人を持ったために運命を狂わされた悲しい母娘が長い年月を経て再会し、新たな関係を結んでいく姿が描かれます。

映画『彼岸のふたり』の作品情報


(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会

【公開】
2023年(日本・アメリカ映画)

【監督・編集】
北口ユースケ

【脚本】
北口ユースケ、前田有貴

【出演】
朝比奈めいり、並木愛枝、ドヰタイジ、寺浦麻貴、井之上チャル

【作品概要】
国内外の映画祭で高く評価される新鋭・北口ユースケ監督による長編第一作。

室町時代の堺市に実在したと言われる伝説の遊女「地獄太夫」をモチーフに、ヒロインの成長と葛藤を独自の視点と見事な演出手腕で描き出します。

主演にはアイドルとしても活躍する新人、朝比奈めいり。その母役に『14歳』(2007)『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2008)の並木愛枝。

共演はドヰタイジ、寺浦麻貴、井之上チャル。

映画『彼岸のふたり』のあらすじ


(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会

親からの虐待を受け、児童養護施設「わかば園」で育った西園オトセ。成長した彼女は園を離れ、段ボールひとつの荷物を持ってアパートに移り、高級ホテルの清掃係として働き始めます。

オトセが去った後に母の陽子が施設を訪ねてきて、娘の居場所を聞き出すために職員の男性を色仕掛けで誘惑します。

一方、望まぬ妊娠をした地下アイドルの広川夢は、そのままステージに立っていました。帰宅した夢は、食堂を営む母に妊娠したことを打ち明けます。既婚者のマネージャーが相手だと知った母はこれからどうするのかと詰問します。

ある日、オトセの母・陽子がホテルに娘を訪ねて来ました。会いたかったといいながら、金を無心する陽子。ショックを受けながらもオトセは喜びを隠しきれず、初月給が出たら渡せると答えてしまいます。

給料日に陽子はオトセを待ち受けていました。夢の母の営む店に入り、オトセに食事とワインをおごらせます。オトセは母に金も渡しました。

その後、陽子はホテルを直接訪ね、娘の給料の前借りを要求する騒ぎを起こします。酔いつぶれて眠ってしまった母に思わず殺意を抱いたオトセはカッターを向けてしまい、誤ってスタッフを傷つけてクビになってしまいました。

通りがかりに夢の母からライブの案内をもらったオトセは、ステージを観に行きます。汗を流して懸命に歌う少女たちを見て、オトセは感動の涙を流しました。

オトセは過去の自分と対峙するために母の住む家を訪ねますが…。

映画『彼岸のふたり』の感想と評価


(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会

母を愛さずにはいられない子どもたち

父親となって子を育てる大変さを知ったという北口ユースケ監督が、幼児虐待とその後の彼らの人生に真向から向き合った作品です。

アイドルであり女優としても活躍する朝比奈めいりが、ヒロイン・オトセ役で素晴らしい演技を見せています。深い孤独が宿る大きな瞳と、あどけなさが残る話し声のアンバランスさが、なんともいえない魅力を生み出しました

オトセは母とその恋人から虐待されたため家を逃げ出し、児童養護施設で育った少女です。成長した彼女が自活することになったところから物語が始まります。

ひとつひとつの描写に、彼女たちの抱える厳しい現実が映し出されます

年齢に達したら施設を出て自活しなければならない子どもたち。出発の日にふるまわれるメロン。新居に持っていくたった段ボールひと箱の私物。

大勢でのにぎやかな生活から、突然ガランとした部屋でひとりきりで暮らし始める寂しさと不安。弁当のメニューをみつめるばかりで、買うことのできない貧しさ。

そんな彼女の前に、何年もの間音信不通だった母の陽子が現れます。ひどい母と思っていても、思わず喜んでしまうオトセ。彼女の抱える深い孤独に胸が締め付けられます。

金、酒、男にだらしない薄情な陽子を演じるのはベテランの演技派女優・並木愛枝です。心の奥底が読み取れないつぶらな瞳で独特の色気を放ちます。

成長したオトセは、本当は母がまったくあの頃と変わっていないことを知っていました。それでも嬉しいという気持ちには勝てず、金を無心する母を受け入れてしまいます。

深いトラウマに捕らわれ、自分を叱るもうひとりの自分と常に会話し続けるオトセ。何度も自分の本音と向き合う孤独な少女に、観る者の心はぐいぐいと引き込まれていきます

現実と非現実の境目がわからない不思議な空間は、まさにオトセの心の中そのものを表しているかのようです。

一方、オトセが出会った地下アイドルの夢は、望まぬ妊娠でありながらも命を生み育てる道を選びます。

ふたりの少女が放つ「与えられた生を懸命に生きる」という強いメッセージに心打たれる作品です。

まとめ


(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会

虐待によって児童養護施設で育った孤独な少女と、成長した娘に金を理由に会いにきた母との苦い関係を描く『彼岸のふたり』。

現実の世界では母親の恋人による子どもへの暴力という悲劇が後を絶ちませんが、主人公のオトセもまたそんな悲しい子どものひとりとして描かれます。

リアルな描写により、オトセという少女が本当に存在するかのように感じられてきます。そしていつの間にか、彼女の魂が救われることを必死で願いながら観ていることに気づかされるのです。

観る者の心の奥深くを揺さぶる強い力を持つ作品『彼岸のふたり』は、2023年2月4日(土)より池袋シネマ・ロサにてレイトショーほか全国順次公開予定です。


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