ブロードウェイ名作“反戦”ミュージカルを映画化!
愛と平和、そして“人間性の回復”を謳いあげたブロードウェイの反戦ミュージカルを映画化した『ヘアー』(1979)。ベトナム戦争に徴兵された田舎の青年とニューヨークのヒッピーたちの交流をコミカルに描いた名作です。
監督は『アマデウス』(1985)『カッコーの巣の上で』(1976)の巨匠ミロス・フォアマン。また『ゴッドファーザー PART III』(1991)のジョン・サヴェージ、『ザ・グリード』(1998)のトリート・ウィリアムズが出演しています。
自由を求めて身を寄せ合って暮らすヒッピーたちによるコミカルな展開の一方で、彼らでさえ逃れられなかった衝撃の運命に胸を打たれる映画『ヘアー』。
高い熱量で歌い上げるミュージックナンバーと、若者たちのピュアな心情を表現したストーリーに圧巻される本作の魅力をご紹介します。
映画『ヘアー』の作品情報
【公開】
1979年(アメリカ映画)
【監督】
ミロス・フォアマン
【脚本】
マイケル・ウェラー
【キャスト】
ジョン・サヴェージ、トリート・ウィリアムズ、ビバリー・ダンジェロ、アニー・ゴールデン、ドーシー・ライト、ドン・ダカス、シェリル・バーンズ、リチャード・ブライト
【作品概要】
ブロードウェイの人気ミュージカルを『アマデウス』(1985)、『カッコーの巣の上で』(1976)の巨匠ミロス・フォアマン監督が映画化。素晴らしいミュージックナンバーで、当時の若者たちの想いと強い反戦へのメッセージを歌い上げた名作です。
ベトナム戦争での従軍を前にオクラホマからニューヨーク見物に来た主人公と、ヒッピーたちとの間に生まれた深い心の絆をコミカルなタッチで描きます。
キャストは『ゴッドファーザー PART III』(1991)のジョン・サヴェージ、『ザ・グリード』(1998)のトリート・ウィリアムズなど。
映画『ヘアー』のあらすじとネタバレ
ベトナム戦争期のアメリカ。ベトナム戦争に徴兵されることになったオクラホマの青年クロードは、軍に入隊する前に2日間ニューヨークを見物するため、バスに乗り込みました。
ニューヨーク・マンハッタンのセントラル・パークに訪れた際に、平和と反戦をパフォーマンスにより訴え続けるヒッピーのバーガー、ハッド、ウーフ、ジーニーの4人と出会ったクロード。
そこで彼は、馬に乗った上流階級の美しい娘を目にして心を奪われます。
クロードが間もなく軍隊に入ると聞いたバーガーは、昨日の美しい娘がショート・ヒルに住む令嬢シーラだと知り、クロードを連れて彼女の社交界デビューとなるパーティーへ忍び込みます。
しかし、パーティーに潜り込んでいたのがバレてしまったバーガーは、ベトナムに行くクロードがシーラに一目惚れしたことを話し「5分でいいから眺めさせてやってほしい」と頼みますが、周囲からはねつけられます。
金持ちたちの代わりに戦地に行かされる、クロードの想いを無下にする人々に反発したバーガーは、テーブルの上でダンスを踊ってパーティーをメチャクチャにしてしまいます。一方、上流社会に嫌気が差していたシーラだけは、その姿に目を輝かせました。
騒ぎを起こした罪で、裁判所に連れて行かれたクロードたち。
クロードだけは自分の分の罰金を払って出所しようとしますが、バーガーは「全員で出所するために金を工面してくるから、まずは自分を釈放させてくれ」と彼を説得しました。
映画『ヘアー』の感想と評価
“狂気の戦争”に翻弄される若者たちの現実
若者の持つエネルギーに圧倒される、力強い反戦映画『ヘアー』。彼らの怒りや悲しみ、若さゆえに持ち続けられる明るさが画面からほとばしり、音楽の力強さがさらに疾走感を際立たせます。
まず冒頭の大ヒット曲『アクエリアス』の迫力に驚くことでしょう。その後も圧巻の歌声にただただしびれる一作です。
都会の公園で自由に生きるヒッピーたち。家も財産も何もない、それでも何もかも手にしている彼らの姿に、羨望の思いを抱くかもしれません。
主人公のクロードは、ベトナム戦争のために徴兵されたオクラホマ出身の青年で、軍に入る前にひと目ニューヨークを見ようとセントラル・パークにやってきました。
そこで出会ったのが、バーガーたち4人のヒッピー。気のよい彼らは、軍隊入りを前にしたクロードを気の毒に思い、彼が一目惚れしたシーラとの仲を取り持ってやろうと画策します。
彼らが一緒に過ごしたのはたったの2日間でしたが、恋心を打ち明けられたシーラをはじめ、バーガーたちヒッピーはクロードと深い絆を結びます。結果、彼らは遠く離れた軍キャンプ地までクロードに遥々会いに行くのです。
田舎者のクロードにとって、自由奔放なヒッピーとの交流、美しい上流階級との恋は、楽しい夢のような出来事でした。しかし彼はやがて、非現実の際たるものである“狂気の戦争”に駆り出され、“悪夢”ともいえる軍キャンプにたどり着いたのだといえます。
戦争に翻弄される、たくさんの若い命。美しい人間の歌声と心、そして楽しく美しい“夢”を一瞬にして奪い去る、戦争という悪夢。ホワイトハウスの前で無数の若者たちが声を揃えて歌う、ラストの『フレッシュ・フェイリュア〜レット・ザ・サンシャイン・イン』には、胸を打たれずにはいられません。
“反抗”の象徴「ロング・ヘアー」
当時のヒッピーたちの伸ばした長髪は“自由”の象徴でもあり、権力者に対する“反抗”の象徴でもありました。
髪を切らせるのは、いつの世も権力者側です。現代の日本の学校や会社社会でも、いまだ同じことを行なっているところは少なくありません。 ヒッピーのウーフを捕らえた刑務所も、バーガーの父も、ハッドのフィアンセも、皆そろって彼らの長い髪を非難し「切ろ」と迫ります。
権力者たちはなぜ、髪を切らせようとするのでしょうか。その答えの一つが、本作の終盤で示されます。
軍隊に入ったクロードにバーガーたちは会いに行きましたが、面会禁止という理由で追い返されます。そこでバーガーは、長い髪をばっさりと切り落とし、軍曹になりすましてキャンプに潜り込むのです。
髪を短くし、軍服に身を包んだだけで、バーガーはいともあっさりゲートを通されます。彼はクロードを仲間たちに会わせるために、ほんの数時間のつもりで入れ替わりましたが、突然前線への出動命令が出たために戦地に送り込まれます。そして、悲しいことに戦地で命を落としてしまうのです。
髪を短くしたバーガーは、その他の兵士と同じ姿になりました。その時から、彼は期せずして権力者側の「駒」として扱われるようになってしまったのです。これこそが、お上の目論見とは言えないでしょうか。
バーガーは自分の計画のために自ら髪を切りましたが、これがもし誰かほかの権力者によって無理やり切られてしまうとしたらどうでしょうか。その時点で、人は自分の魂ともいえる大切な何かを奪われてしまうのかもしれません。
本来ならば、髪の毛一本まで人間は自由であるべきではないでしょうか。「真の自由とは何なのか?」考えずにはいられません。
まとめ
反戦への熱い思いが込められた名作ミュージカル映画『ヘアー』。
ベトナム戦争で戦死したバーガーの墓の前で立ち尽くす、仲間たちの悲しみが胸に迫ります。そこにはバーガーだけではなく、数えきれないほどの墓標が立っていました。
それは決して、映画のためだけの演出ではありません。現実にこうした墓地が存在し、ヒッピーたちのように彼らのために涙を流した人々がいるという事実に、底知れぬ恐怖を感じます。
今こうしている間も、恐ろしい戦争によって命を落とし、その人のために嘆き悲しむ人々が大勢いる事実から目を背けることはできません。
あまりにも愚かな人間を嘆きながらも、私たちは皆、反戦の声を決して途絶えさせてはならないということを改めて教えられる作品です。