家族愛あふれるマフィアの血と涙の歴史を描く大ヒットシリーズ
イタリアのシシリー島からアメリカに移住し、巨万の富を築き上げたマフィアのボス、ビトー・コルレオーネファミリーの跡目相続やほかのマフィアとの抗争を重厚に描き出す映画史に輝く金字塔『ゴッドファーザー』。
アメリカのマフィアの内幕を描いたマリオ・プーゾのベストセラー小説を、当時32歳のフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化。世界的大ヒットとなり、72年度のアカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞しました。
主演を『波止場』(1954)のマーロン・ブランドと『狼たちの午後』(1976)のアル・パチーノが務めるほか、ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、ダイアン・キートンら豪華キャストが顔を揃えます。
血と涙の家族の歴史を描く壮大なドラマ『ゴッドファーザー』の魅力をご紹介します。
映画『ゴッドファーザー』の作品情報
【公開】
1972年(アメリカ映画)
【原作】
マリオ・プーゾ
【脚本】
フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ
【監督】
フランシス・フォード・コッポラ
【出演】
マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、ダイアン・キートン、リチャード・カステラーノ、ジョン・マーレイ、アルベルト・デ・マルチーノ
【作品概要】
シチリア出身のマフィア、ヴィトー・コルレオーネ一族の栄華歴史を描く壮大な物語。
マリオ・プーゾのベストセラー小説を、当時まだ若く無名だったフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化した大ヒット作。72年度のアカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞しました。
続編として作られたPARTⅡも高く評価され、その後最終章も製作されています。
40代のマーロン・ブランドが60代のヴィト・コルレオーネを好演しアカデミー主演賞を受賞。当時無名だったアル・パチーノは本作のマイケル役で大スターとなりました。
ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、『アニー・ホール』(1978)のダイアン・キートンら名優が顔を揃えます。
『道』(1957)をはじめ、名匠フェリーニの作品を数多く手がけたニーノ・ロータが音楽を担当。「愛のテーマ」の哀愁漂う美しい旋律は世界中の人々から愛されています。
映画『ゴッドファーザー』のあらすじとネタバレ
1945年。シチリア出身のマフィアのボスであるヴィトー・コルレオーネの娘・コニーの結婚式が盛大に開かれました。
式の合間に葬儀屋のボナセーラがヴィトーを訪問し、暴行された娘の仇を殺してほしいと頼みます。これまで疎遠だった彼の勝手な願いを一度は断るドン・コルレオーネでしたが、ボナセーラが「ゴッドファーザー」と呼んで手にキスしたことから、依頼を受けます。
式の合間に次々とヴィトーに客が訪れる中、三男のマイケルも恋人のケイを連れてパーティーにやってきました。マイケルはただひとり裏社会に入らず、大学を卒業後軍隊で活躍していました。彼はケイに自分の家族がマフィアであることを話します。
家族を何より大切にするヴィトーは、家族写真を撮った後、娘の手をとりみんなの前でダンスを披露します。
ヴィトーが名付け親の人気歌手・ジョニーがパーティーに現れました。仕事がもらえないと泣き言を言うジョニーのために、ヴィトーは義理の息子で弁護士のトムを話をつけに行かせます。
コルレオーネの使者と知り、自慢の愛馬を見せるなどしてプロデューサーのウォルツはトムをもてなしますが、不実なジョニーの起用については断りました。すると翌日。ウォルツのベッドには愛馬の頭が転がっていました。
5大ファミリーのひとつであるタッタリアと関係を持つ麻薬売人のソロッツォと面会したヴィトーは取引を断ります。ヴィトーは麻薬を薄汚い仕事だと嫌っていました。ヴィトーはルカにソロッツォについて調べさせます。
クリスマスの晩、タッタリアにルカが会いに行くとソロッツォもその場におり、隙を狙ってルカを絞め殺しました。
その後、トムもソロッツォに連れ去られます。果物を買っていたヴィトーもまた二人組の男に襲撃され重傷を負いました。
ケイと街を歩いていたマイケルは、街角で売られていた新聞で父が撃たれたことを知ります。
ソニーのもとに、トムを預かったという電話がソロッツォから入ります。麻薬取引に乗り気なソニーを引き込みたいソロッツォはトムにも取引を持ちかけます。
ヴィトーは命をとりとめ、兄弟で今後のことを話し合います。マイケルを巻き込まずに進めようとする彼らのもとに、ルカが死んだというメッセージが届きます。
マイケルが父の病院を訪れると、病室前には手下も警護もまったくいませんでした。異変に気付いたマイケルは家族に電話で事態を伝え、父を暗殺から守るために別の病室へと移します。
見舞いにきたパン屋のエンツォとともに、病院の入り口で銃を持っているふりをして襲撃者を追い払うマイケル。
そこに警察がやってきますが、ソロッツォに買収されているマクラスキー警部がマイケルを殴りつけます。そこにトムたちが現れ、法に乗っ取って警察を追い払いました。
病院の一件に怒ったソニーがタッタリアの二代目のブルーノを殺してしまったことから全面抗争となります。
裏の世界に入ることを決意したマイケルは、レストランでの会談中にトイレに隠してあった銃でソロッツォとマクラスキーふたりの額を撃ち抜き、シチリアに身を隠します。
映画『ゴッドファーザー』の感想と評価
親子の壮絶な愛の物語
映画史に残る名作『ゴッドファーザー』は、家族を何より大切にするマフィア一家の歴史を辿る物語です。フランシス・フォード・コッポラ監督は作品をホームビデオだと評しています。
短気で正直な長男のソニー、気弱な次男のフレド、気の強い娘のコニー、拾われて義兄弟となった弁護士のトム、そして賢く肝の据わった利発な三男のマイケル。
彼らは偉大な父と温かな母と深い愛情でつながれていますが、愛が深いゆえに、大きな苦しみの中に巻き込まれていきます。
家族のための果物を選んでいる最中に敵に撃たれたヴィトー、暴力を振るわれている妹を助けるために無鉄砲に飛び出し罠にはめられたソニー、器が小さいためにひとりベガスに飛ばされた気の弱いフレド、頭脳明晰ながら血のつながりがないことで不安定な立ち位置にあるトム、そして本来なら表舞台で輝ける人生を歩むはずが家族への愛ゆえに裏社会で生きることを余儀なくされたマイケル。
マリオ・プーゾによる原作がベストセラーとなったことでプレッシャーが高まる中、当時まだ無名だったコッポラ監督が何よりこだわったのはキャスティングでした。そこには大変な苦労があったといいます。
パラマウントは当初、トラブルメーカーとして知られていたブランドと、無名俳優のアル・パチーノの起用に難色を示しました。しかし、コッポラ監督が食い下がりテストに持ち込みます。
まだ若かったブランドはヴィトーの年齢の貫禄を出すために置いてあったチーズを自ら口に含み、ブルドッグのような容姿を作り出したそうです。
ヴィトーは義理人情に厚い昔気質の人間です。何よりも家族を大事にし、自分を心から慕っている者には無償で力になり、麻薬の汚さを憎み、愛息を失っても復讐をしないという立派な選択をします。
そんなゴッドファーザーだからこそ、人々から愛され信頼を勝ち得ていました。
黄金期から衰退期までを辿るヴィトーは映画史上もっとも偉大なキャラクターとして選出され、「I’m going to make him an offer he can’t refuse.(文句は言わさん)」というセリフは、「アメリカ映画の名セリフベスト100」の第2位にランクインし、今なお世界中の人々から愛され続けています。
ヴィトーの魅力の魅力を余すことなく演じ上げたブランドは見事アカデミー主演男優賞を受賞し高い評価を得ています。
マイケル・コルレオーネの進化
初登場シーンでは、まだ学生くさくて青っ白い青年だったマイケル・コルレオーネ。しかし、父が襲撃され、ファミリーが危機に陥ったことをきっかけに、家族を守るために裏社会で生きていくことを決意してから表情が変化していきます。
会合の開かれたレストランで、トイレ裏に隠しておいた銃でソロッツォを撃つシーンは圧巻です。恐ろしいまでの緊迫感とマイケルの決意が痛いほど伝わってきます。
当時まったく無名俳優だったアル・パチーノをキャスティングすることにパラマウントは反対したそうです。しかし、アルが気に入っていたコッポラ監督は、オーディションで彼を選びました。スタッフのひとりマーシア・ルーカスの「彼にしましょう。目がいいわ」という一言が決め手となったそうです。
アル・パチーノは映画会社から認められていないことを知りながら演じていましたが、前半のクライマックスであるソロッツォ殺害のシーンを撮り終えてから何も言われなくなったといいます。彼のオーラのすごさに圧倒されたのでしょう。
シチリアに身を隠していたマイケルは、一目惚れした美女・アポロニアと幸せになろうとしますが、部下の裏切りによって彼女は目の前で爆死してしまいます。マイケルは自分がもう決してもとの世界には戻れないことを痛感したに違いありません。
その後アメリカに帰国したマイケルの表情はどんどん非情で冷酷なものに変化していきます。
家族を守ることを一番に考え、父の教えを尊重しながらも、マイケルは裏で着々と復讐への布石を打ち続けます。
父・ヴィトーの死後、復讐を否定する父の教えを捨て、冷酷に5大ファミリーのドンを全員粛清するという大変な仕事を一瞬で片づけたマイケル。
裏切り者は決して許さないという彼の凄みに圧倒されます。常に大きく見開かれた目は、異次元の世界までも見通せるかのようです。妻に対しても、まっすぐ目をみながら嘘をつける冷酷さを彼は身につけていました。
まだ世に認められていなかったアル・パチーノは、撮影中にぐんぐん成長して周囲を納得させていきました。その姿は、ドン・コルレオーネとなる道を選んだマイケルが進化していく姿に重なります。
アル・パチーノが放ち始めたオーラは、そのままマイケルの圧倒的な凄みを生み出しました。アル・パチーノという名優と主人公・マイケルが見事にリンクした稀有な名作は今なお多くの人々から愛され続けています。
まとめ
壮大なロマンを描くマフィアの家族史『ゴッドファーザー』。まだ若かりし頃のコッポラ監督、落ち目になっていた名優マーロン・ブランド、そして当時無名だったアル・パチーノのあふれんばかりの情熱がほとばしる名作です。
不遇の時代にあった監督とキャストの反骨精神から生まれた強大なエネルギーが、壮大な物語を動かす原動力となったことは間違いありません。
どんな時も家族を大切にし、自分の伴侶を大切にする男たち。しかし、それは彼女たちを幸せにできないことへの贖罪の意味もあったことでしょう。
裏切り者とはいえ、かけがえのない夫・カルロを殺されたコニー。ドンとなって変わっていく夫の姿に心が引き裂かれていくマイケルの妻・ケイ。
ヴィトーがママのためにと、ハチの巣にされた息子・ソニーの遺体をどんなに取り繕ったところで、彼女の痛みをやわらげることなどできるはずもありません。
血と悲しみに染まった彼ら一族の愛。その宿命に囚われた姿はそれでもどうしようもなく美しく、だからこそ観る者の心をとらえて離さないのでしょう。