門井慶喜の小説『銀河鉄道の父』が2023年に映画になって登場!
宮沢賢治とその父の究極の親子愛を描いた、門井慶喜の第158回直木賞受賞作『銀河鉄道の父』。
作家の門井慶喜が宮沢賢治資料の中から父・政次郎について書かれた資料をかき集め、宮沢賢治の生涯を父親の視線を通して描いた小説です。
店の主人である前に父親であるべきか、父親である前に店の主人であるべきか。昔気質の商売人の政次郎が、店の跡継ぎである賢治とどう接していたのかと興味深い……。
本作では、子煩悩な反面生真面目な政次郎の眼を通して、宮沢賢治という人物像がとてもリアルに描き出されています。
この小説が2023年度映画化決定。『八日目の蝉』(2011)『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2020)『いのちの停車場』(2021)などの作品の監督を務めた成島出がとりまとめ、役所広司、菅田将暉、森七菜といった豪華キャストで公開されます。
2023年5月5日(金・祝)の映画公開に先駆けて、小説『銀河鉄道の父』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『銀河鉄道の父』の主な登場人物
【宮沢政次郎】
岩手で繁盛する質屋の主人。宮沢賢治の父。
【宮沢賢治】
岩手出身の農業学者、文学者。
【宮沢トシ】
宮沢賢治の妹。
【宮沢イチ】
宮沢賢治の母。
小説『銀河鉄道の父』のあらすじとネタバレ
1896年(明治29年)。岩手の大きな質屋を営む宮沢政次郎は、京都へ出張中故郷で第一子となる長男が生まれた連絡を受けました。
男子誕生に喜ぶ政次郎。仕事を終わらせ、知らせを受けて二十日後に、故郷の岩手へ帰ります。そして生まれて間もない長男との対面を果たしました。
父の期待を背負って生まれてきた赤ん坊は、その後父の弟で写真家であった治三郎が名付け親となり、「賢治」と名付けられました。
賢治の父政次郎は厳格な父親で、浄土真宗の熱心な信者でした。質屋という商売にも熱心で家業は繁盛しています。家庭も円満でした。
賢治誕生から数年がたつ頃には、賢治の下には長女・トシ、次女・シゲ、次男・清六、三女・クニと4人の弟妹がいました。
4人の子宝に恵まれた母イチは、夫の世話と子供たちの世話を一手に引き受ける働き者でした。政次郎は家長はいつも威厳を持っているものと思っていますが、実は相当な子煩悩。
7歳になるかならないかの賢治が赤痢で入院した時は、病院に泊まり込みつきっきりで看病し、夜はわらべ歌を歌って寝かせてやりました。
賢治の付き添いが原因かどうかはわかりませんが、政次郎はこの付き添いの後、腸カタルに感染します。
この後腸の働きが悪くなる政次郎でしたが、賢治の看病が出来て無事に退院できたことばかり喜んでいました。
やがて賢治は小学校に入学します。成績はとても優秀なのに、悪友たちと遊び回ることを覚え、川辺で火事を起こす悪戯をし、父から問い詰められても、「知らねす」と即答する程の悪ガキになっていました。
しかし政次郎は、こんな些細なことで賢治の未来に傷をつけることはできないと、賢治を叱ることのないほどの親バカでした。
その後賢治は、妹のトシと石集めに没頭し、周りから「石っこ賢さん」と呼ばれるようになりました。
そして小学校を卒業し、中学校に進学します。
「質屋に学問は必要ない」という祖父は賢治の進学に反対ですが、子どもの頃自分も進学したかった政次郎は、祖父を制して進学を許可したのです。
小説『銀河鉄道の父』の感想と評価
宮沢賢治といえば、明治に生まれ大正時代に活躍した童話作家です。仏教信仰と農民生活に根ざした創作を行っていました。
代表作には『風の又三郎』『注文の多い料理店』『よだかの星』『セロひきのゴーシュ』、そして『銀河鉄道の夜』があります。
土地を耕し土地に根付いた生活を好んだ宮沢賢治。童話に綴ったその想いからは、優等生としての賢治の姿が窺われます。
ですが、この小説ではとんでもない賢治の姿が描かれ、彼のイメージが狂ってしまうかもしれません。
賢治の生きた時代より未来に生きる私たちからすれば彼は偉大な文人なのですが、賢治の父・政次郎からみれば、商売のことも考えずに自分の好きなことばかりに熱中する困った長男だったのです。
けれども、商売人としては出来の悪い息子だとしても、父親としての政次郎はやはり子煩悩で子どもには甘いところがありました。
子供の頃に赤痢で入院した賢治を泊まり込んで看病したり、大人になっても家を出て下宿生活をする賢治に仕送りをしたりと、一見頑固オヤジのような政次郎は、子どもの現状を常に考えて一番いいことをしてやろうとする、優しい父親だったのです。
政次郎は賢治からすれば祖父にあたる自分の父から、おまえは‟父親すぎる”と言われていました。
威厳を崩さず、愛情を隠しながら、我が子の所業を見守る政次郎は、外からは厳格な父に見えるのですが……。あの頃の時代の父親像からすれば、彼は子どもに甘い父だったのでしょう。
そんな政次郎は、面と向かっては口に出せない息子への愛を、照れ隠しのような笑顔とぶっきらぼうな言葉であらわしていました。
こんな父親は現代にはそぐわないでしょうが、なぜかどこか懐かしく感じられ、親しみやすいオヤジという気がしてなりません。
その政次郎も、また賢治の書く童話のファンでした。
孫に対して未完で終わる『銀河鉄道の夜』を朗読する姿には、親として賢治にしてやれなかった多くのことを残念に思う気持ちがあふれていました。
右往左往してきた賢治との親子関係ですが、彼の童話の大ファンである政次郎は賢治の良き理解者であり、紛れもない賢治の父であるのです。
映画『銀河鉄道の父』の見どころ
直木賞作家・門井慶喜氏による『銀河鉄道の父』。
父親すぎる父と道楽息子だった宮沢賢治の物語を、『八日目の蝉』(2011)『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2020)『いのちの停車場』(2021)など、多くの作品を手がけてきた成島出監督が映画化しました。
賢治の父・宮沢政次郎は役所広司、宮沢賢治に菅田将暉、賢治の妹トシに森七菜と、親子役も初共演。
役所広司は原作にある‟厳格だが、妙に隙だらけの父親”というような一文から、政次郎という人柄のヒントを得たと言います。
原作の表紙を飾るのは丸ぶち黒メガネに懐中時計。これは、政次郎のイメージそのままであり、それらを身につけた役所広司もまさしく、‟厳格だが、妙に隙だらけの父親”となっていることでしょう。
またそんな政次郎から大きすぎるほどの愛を受ける賢治を演じるのは、『百花』(2022)や『糸』(2020)の菅田将暉。
これまでにさまざまな役をこなしてきた菅田将暉が、丸坊主姿で演じる、父から見たどこか危なかっしい宮沢賢治に注目です。
映画『銀河鉄道の父』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【原作】
門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社文庫)
【監督】
成島出
【キャスト】
役所広司、菅田将暉、森七菜
まとめ
2023年GWに公開予定の映画『銀河鉄道の父』の原作小説をネタバレ有りでご紹介しました。
作中、政次郎をあらわす‟厳格だが、どこか隙だらけの父”あるいは‟父でありすぎる父”というフレーズに、その人物像がリアルに浮かんできます。
後に著名な童話作家となる賢治との葛藤を余すところなく描かれ、親子ってこんなにぶつかり合っても思いやれるものなのかと、思うことでしょう。
そして、2023年のGWには、このホットな親子関係が実写映画で観れると言います。
映画『銀河鉄道の父』は2023年5月5日(金・祝)公開予定! 菅田将暉と役所広司が演じる、童話作家宮沢賢治とその父に早く会いたいものです。