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Entry 2021/05/25
Update

映画『北斎漫画』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。タコをおもちゃに海女のエロティックな春画を描く

  • Writer :
  • からさわゆみこ

品行方正からは傑作は誕生しない、魔性に魂を込めた葛飾北斎の一面に迫る

映画『北斎漫画』は、矢代静一が1973年に発表した同名の戯曲が原作です。

『愛妻物語』(1951)で監督デビューし、モスクワ映画祭グランプリ作品『裸の島』(1960)や『鬼婆』(1964)など、性のタブーや社会派映画を手掛け、“表現の自由と思想の自由”を貫いた、新藤兼人が監督を務めました。

葛飾北斎は『冨嶽三十六景』や『北斎漫画』などの代表作がある世界的に有名な画家です。森羅万象を描き、生涯に3万点を超える作品を創作しました。

その北斎と娘お栄、北斎と共に江戸後期の化政文化を大きく担った、滝沢馬琴(曲亭馬琴)との交流を描いた映画『北斎漫画』をご紹介します。

映画『北斎漫画』の作品情報

(C)1981 松竹株式会社

【公開】
1981年(日本映画)

【原題】
Edo Porn

【監督・脚本】
新藤兼人

【原作】
矢代静一

【キャスト】
緒形拳、西田敏行、田中裕子、樋口可南子、乙羽信子、佐瀬陽一、殿山泰司、宍戸錠 、大村崑、愛川欽也、梅津栄、戸浦六宏、観世栄夫、大塚国夫、森塚敏、今井和子、フランキー堺

【作品概要】
映画『北斎漫画』は、性のタブーや社会派映画を手掛け、『讃歌』(1972)や『』(1973)などで“表現の自由と思想の自由”を貫いた新藤兼人が監督を務めました。

葛飾北斎役には『楢山節考』『陽暉楼』『魚影の群れ』(1983)、『火宅の人』(1986)などで、 日本アカデミー賞主演男優賞を受賞した緒形拳が演じます。緒形拳は戯曲『北斎漫画』でも主演を務めました。

葛飾北斎の娘お栄は、15歳から70歳まで田中裕子が演じて話題となり、第5回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。

滝沢馬琴は、『敦煌』(1988年)で日本アカデミー賞主演男優賞受賞、「釣りバカ日誌」シリーズで人気となった西田敏行が演じます。

映画『北斎漫画』のあらすじとネタバレ

(C)1981 松竹株式会社

突然の夕立に江戸庶民は、慌てて商店の軒先に逃げ込みます。鉄蔵(葛飾北斎)はかまわず土砂降りの中、ずぶ濡れになりながら走り抜けます。

鉄蔵は銭湯で十返舎一九が、改名を機に考えたという“辞世の句”を聞きます。

「この世をば どりゃ おいとまに せん香の 煙とともに はい(灰)左様なら」一九は、昨日までの自分とは左様ならという意味だと言います。

そこへ太助(式亭三馬)が会話に加わり、“浮世風呂”の構想を話し、創作の意気込みを語ります。

一九は鉄蔵に世間で話題になっている浮世絵師、“歌麿”について話します。

“天下の浮世絵師”といった風貌で君臨し、“大首絵(美人画)”や“わ印(枕絵)”を絶賛し、鉄蔵にはっぱをかけます。

鉄蔵は歌麿の美人画と枕絵を見ながら、「なんだい! ただ奇麗なだけじゃないか! 活きてない!」と負け惜しみを言って破り捨てます。

ふと、橋のたもとの柳の下を見ると、ホオヅキを口の中で鳴らし、佇む色白の美女をみつけて声をかけます。

女は何も言わずにホオズキを鳴らしながら、艶めかしく鉄蔵をみつめます。

鉄蔵は履物屋を営む、左七(滝沢馬琴)の家で居候になっています。

鉄蔵は、女を連れて帰ると間借りしてる2階に行き、寝ている娘のお栄を起こすと、女を裸にしてその姿を描き始めます。

女のうつろな表情、白く透き通るような艶めかしい肌、鉄蔵は夢中になって彼女を描きます。

そして、鉄蔵を誘惑するような仕草をすると、彼はとっさに女の乳房を掴みます。しかし女は「そんなつもりで連れ込んだの?」と言い放ち、鉄蔵も我に返ります。

女の名前は“お直”といい、若い男よりも老いた男の方が好みと、鉄蔵に話していました。

鉄蔵の実家は幕府御用達鏡磨師、中島伊勢の家ですが勘当されています。鉄蔵は庭へ回ると、そこらの大名よりも金持ちだとお直に言います。

お直は鉄蔵に「お前は何をしてるんだい?」と訊ねると、絵師だという鉄蔵にお直は馬鹿にして笑い、ろくでもない絵を描いてると言います。

鉄蔵は「夕立が…ザザザーーっとやってくるんだ」と語り始めます。

人は夕立なのだから、一時雨宿りしてればいいというが、ずぶ濡れになりながら歩き、弾みがついたら駆け出すのが自分だと言います。

時々、自分の中に夕立みたいな衝動がおき、何もかもを捨てて、新規巻きなおす時があるということです。

そこに父親の伊勢が現れ、用は何かと聞きます。鉄蔵は金の無心に来たと率直に答え、女が伊勢の眼鏡に敵うか連れて来たと言います。

しかし、伊勢は鉄蔵への援助はこれで打ち切ると告げます。鉄蔵は反対を押し切り、絵師になると家を出ており、その時に縁を切ったと言い放ちます。

子供のなかった伊勢は、葛飾郡本所の貧しい家の子供だった鉄蔵を養子にしていました。

中島家に出入りしていた、シジミ売りの叔父が連れて歩いていて、幼い頃は利発な子だったから養子にしたが…と、ぼやきます。

伊勢が鏡研ぎの跡継ぎとして迎えたというと、鉄蔵は跡を継いで余技で絵も習うと言い出します。

鉄蔵は家を出てから会派を問わず、何人も師を変え、腰を据えて修行に精進しません。伊勢はそんな中途半端な鉄蔵を見限りました。

お直は伊勢の元に残され、伊勢は彼女が持つ魔性の美しさに夢中となりますが、お直はその気持ちをもてあそびます。

一方、鉄蔵はお直の面影を思い浮かべ、憑りつかれたように枕絵を何枚も描き、そんな鉄蔵を面白く思わないのがお栄です。

間借りしている履物屋の左七は旗本の家来の家系でしたが、武家が困窮していた時代に、履物屋の婿養子に入っていました。

左七は読本作家を志していましたが、年上の女房お百は家で執筆することを禁じ、朝から晩まで絵を描いている鉄蔵のことも、快く思っていませんでした。

鉄蔵はお直を手放してから、飲んだくれてしまったとお栄は言います。そんな鉄蔵はある日、狩野融川宅を訪れ融川の絵を、構図がおかしいと指摘し破門されてしまいます。

そのことをしたり顔で左七とお栄に話すと、お栄から絵とはいろいろな描き方があって、そろばん勘定みたいにきちっと揃っていたら、つまらない絵になると諭されます。

更に鉄蔵の絵が売れないのは、偉い絵師の良いところばかりを盗んで、つなぎ合わせケチのつけようのない絵ばかりだからと、的確かつ辛辣なことを言われます。

そんなところに、生気のない顔をした伊勢が鉄蔵を訪ねてきます。

以下、『北斎漫画』ネタバレ・結末の記載がございます。『北斎漫画』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

伊勢はお直は毎晩訪れ酒を酌み交わし、背中も流す間柄にはなっても、床入れ寸前に怪しい笑い声を残し、消えてしまうと訴えます。

鉄蔵もお直のことを思いながら描く枕絵は、今までで一番評判よく、後の世まで残ると言われていると話し、自分の心をかき乱したままどこへ消えたと言います。

伊勢はフラフラとした足取りで、左七の店を出て行きます。すると少ししてひょいとお直が姿を見せ、夕刻に伊勢の庭に来るよう言って去っていきます。

約束通り鉄蔵が伊勢の庭に行くと、伊勢もお直に言われてきたと現れます。ところがお直の姿が無く言い争っていると、植栽の影からお直の笑い声が聞こえます。

覗き込んだ伊勢が見たものは、お直が左七の所にいる丁稚を押し倒し、またがっている姿です。伊勢は2人の関係を問い詰めますが、お直の顔をまともに見れません。

そんな生気を失った伊勢の顔を見たお直は、首を括ったわけでもないのに…と、言いかけると、自分の両親は首を括って死んだと告白します。

伊勢はお直に入れ込むがあまり、地位も財産もいらない、一緒に暮らしてほしいと哀願しますが、お直は江戸の暮らしは飽きたから出て行くと言います。

伊勢はお直を“ばいた”と罵ると、いっそ自分を殺してほしいと言いますが、お直は鉄蔵に近づくと、ジッと目をみつめ庭を出ていきました。

そこに左七とお栄がやってきて、お直はどこなのか聞きます。しかし、鉄蔵は突然、絵師を辞めて七色唐辛子売りになり、昨日までの自分とおさらばすると言い出します。

しかし、お直のことだけはおさらばできないと、未練たらたらなままでした。

そこへ中島家の使用人が慌てて来て「首吊った!」と叫びます。伊勢は梁に帯をかけ首を括って自死してしまいました。

お直と伊勢を失った鉄蔵はその後、左七のところを飛び出し、“七色唐辛子売り”になったこともありました。

ある日、お栄は“七色唐辛子売り”描いた絵を左七に見せ、おじさんの口から褒めて、励みにしてあげてほしいと頼みます。

それを聞いていたお百も、友達なら褒めてあげるくらいできるだろう?と言い、鉄蔵の絵を見て褒めました。

左七は版元の蔦谷重三郎のところに行くと、鉄蔵に自信を持たせるため、彼の絵を置いてはもらえないかと、金銭を渡して相談します。

重三郎は目利きとして、金をもらって絵を置くことはしないと、自ら鉄蔵の家を訪れて彼の絵を吟味します。

ところが当の鉄蔵は創作意欲がそがれて、筆がすすみません。そんな鉄蔵にお栄は自分の身体をあらわにして、自らがモデルになります。

鉄蔵はお栄の顔をモチーフにした美人画を描き、彫り師、刷り師にダメ出しをしながら、満足のいく浮世絵を完成させました。

一方、左七は妻のお百が体調を崩し、寝込んでしまいます。お百は今際の際で左七に、「よく辛抱しましたね」と語りかけます。

そして、自分が死んだら店をたたんで、読本作家として精進するよう言い、履物屋を潰す以上、作家として成功するのが使命だと告げます。

最期に“曲亭馬琴”という名前を、重々しくていい名前だと褒め、そのまま息を引き取ります。

左七はせきを切ったように執筆活動を始め、たちまち流行作家となりました。

鉄蔵も絵師として葛飾北斎を名を馳せ始めましたが、傲慢な性格から生活自体は相変わらず貧しいままでした。

お栄は読物作家として売れっ子になった、左七に金の無心にいきます。そこに鉄蔵も金の無心にいきますが、成り上がりの鉄蔵に貸す金はないと断ります。

鉄蔵は左七の読物が売れているのは、自分の描いた挿絵のおかげだと言い、貸さなければ2度と挿絵は描かないとまで言いだします。

鉄蔵はあろうことか、仏壇にあった金を持ち出し、「今宵一夜、大臣遊びをしたら、俺は旅に出る」と宣言し、富士山をぐるっと巡り、あっと驚く富士を描くと言い残します。

そこに血相を変えた式亭三馬が駆け込んできて、天下の歌麿が御上を侮り幕府に捕まり、手鎖50日の咎めを受けたと言います。

そこに当然、夕立がおこり鉄蔵は豪雨の中、駆け出していきました。

放浪の旅から戻った鉄蔵は、「富嶽三十六景」を発表しますが、その中でもできの良い絵は2、3枚であり、富士は自分の姿で、人生を見下ろしているのだと語ります。

時は流れ鉄蔵は八十九歳、お栄は七十歳、左七は八十二歳を迎えていました。ある日、お栄は地方から江戸に出てきたばかりの田舎娘を連れて来ました。

その娘はお直と瓜二つの上、名前も一緒でした。鉄蔵は娘の顔を見ると「お直…」と叫ぶ北斎は娘に抱きつきます。

お直は北斎の家で働けると喜んでいましたが、散らかり放題の粗末な長屋だったため、鉄蔵を北斎とは信じません。

そこへ左七が訪ねてきて、「30回も名前を変えて、今度はどんな名じゃ? 北斎!」と言ってやっと信じてもらえます。

鉄蔵はお直に奇麗な着物を着せてくるよう、お栄に言いつけ、2人は越後屋へ出かけます。

鉄蔵は富嶽三十六景、北斎漫画、諸国瀧巡りなどの仕事を懐かしみ、左七は失明しかけていることに不安を抱えています。

奇麗な着物を着て、髪を結い直したお直が帰ってくると、その姿にまた鉄蔵は創作意欲を掻き立てられ、外は激しい夕立がおきます。

鉄蔵はふらっと海岸を旅します。そこには若い海女たちが、捕れた蛸を使ってはしゃいでいます。

それを見ていた鉄蔵の頭には絵のアイデアは膨らみ、お直をモデルにして実現しようとします。

お直は鉄蔵の構想を聞き、モデルをやってみる気になります。鉄蔵は「人間は誰にでも“魔性”の部分を持っている…」と言い、お直は鉄蔵の言うがままモデルとなります。

こうして描き上げたのが、「喜能會之故眞通」通称、“蛸と海女”です。

感極まった鉄蔵とお栄のところに、完全に失明してしまった左七が訪ねてきます。

左七は何もかも見えなくなって落ち込み、たった1行の文章も、たった一言の言葉も浮かばないと嘆きます。

そんな左七の姿を見て鉄蔵は、左七を死神だとたとえ、「追い出して塩を撒け」とお栄に言います。

やる気が回復してきた鉄蔵にとって、やらなければならない仕事がたくさん残っているという理由です。

お栄は左七に、立派に死ぬことよりも、浅ましく生きることの方が、いいってことを教えると言います。

鉄蔵はその言葉を聞いて、お栄は左七に惚れていて、70歳まで独身を貫き通したと見抜きます。

鉄蔵は自分の不甲斐なさで、お栄が嫁にいけなかったと思い込んでいて、詫びる気持ちでいたことを悔い、俺にはお直がいると、お栄と左七を追い出します。

お直も鉄蔵の面倒は見ると言って、2人を見送ります。

ところがお栄の本心は他にありました。自分がいなくなり、若いお直にもてあそばれた鉄蔵が、野垂れ死ぬところをみたいからだと言います。

お直は鉄蔵に1日1枚描いて、1年たったらお嫁さんになってあげると言いますが、鉄蔵の熱しやすく冷めやすい性格が、創作意欲を打消しました。

ほどなくして左七はお栄の腕に抱かれ、彼女の胸の中で亡くなります。そして、鉄蔵もお直をお栄と呼ぶまでに衰え、お直は鉄蔵の元を離れてしまいました。

鉄蔵はよろよろと立ち上がり「悲と魂て ゆくきさんじや 夏の原」と、自分の時世をつぶやきます。

101歳の夏に死ぬと決めた鉄蔵は、5年間は西洋画を学び直し、95歳から99歳で総仕上げし、100歳になればやっと納得のできる、絵も描けるだろうと意欲に燃えます。

鉄蔵が玄関の上がりかまちを踏み外し転倒していると、お栄が帰ってきて鉄蔵を起こしますが、鉄蔵はお栄が帰ってきたことよりも、浅草の明神祭りのお囃子が気になります。

そして、幼い頃に別れた母を思い出し、芝居を見せに連れて行きたいと言います。

鉄蔵の目にはお栄の姿は見えていません。お栄は鉄蔵ですら、自分を思い出してもらえないことに愕然とします。

鉄蔵は日蓮像に勤行を唱え、お栄の顔を見ると「お直を返してくれてありがとうと」とつぶやきます。

お栄は諦めたように寝床に寝かせようとすると、鉄蔵は「日蓮さん、正直言うとお直じゃなくて、お栄を返してほしかった」と言います。

そして、お栄にかんざしの一つも買ってあげたいと、絵を描こうとし筆を所望します。筆を持たせようとしたお栄の顔を見て、やっとお栄を認識した鉄蔵でしたが…。

「天我をして五年の命を保たしめバ、真正の画工となるを得べし…」と、言い残しお栄の足下で臨終します。

お栄はその屍を突っ立って見下ろしながら、「死ぬときゃ、誰でも、体裁のいいこと言い残すもんだ」と、大粒の涙をこぼしながら咳きます。


映画『北斎漫画』の感想と評価


(C)1981 松竹株式会社

映画『北斎漫画』の見どころは、田中裕子と樋口可南子が惜しみなく、美しい裸体をさらしたことや、緒形拳と西田敏行の特殊メイクと名演技であったといえます。

しかし、原作者の矢代静一が描きたかったことは、作中で北斎が言っていた「人には誰にでも魔性の部分を持っている」という部分でしょう。

名高い浮世絵師、作家であってもその“魔性”の部分がなければ、傑作は誕生しなかったと伝えたかったのではないでしょうか。

新藤兼人監督もまた、社会派作品、性のタブーに挑戦した映画監督として、その魔性の部分をフィルムに投じた人物といえます。

2人のインスピレーションが融合し、舞台からスクリーンへ生まれ変わった作品でした。

現代映画ではなかなか表現、発表できない世界が、この『北斎漫画』にはあると言えます。

まるでそれは江戸後期の幕府制度が厳格に取り締まられていたように、現在の映画界も閉塞感があると否めないと感じました。

知っておきたい史実と脚色の違い


(C)1981 松竹株式会社

本来、『北斎漫画』とは“絵手本”といって、花鳥、風景、道具、人の表情など、日常にあるものを思いつたときに、気ままにスケッチした画集のことです。

その『北斎漫画』が映画の題名になったのは、葛飾北斎の生涯をスケッチしたという意味合もあるのでしょう。

さて、映画『北斎漫画』は戯曲として、脚色された作品であるため史実とのズレが多くあります。

例えば、北斎は2度結婚していて2男4女を儲けています。お栄は三女で実は結婚歴もあります。

本作の北斎の最期は孤独で寂しいものに見えますが、実際には弟子が数名おり、北斎の時世、今際の際に言った言葉などを記録しています。

お栄の生涯も北斎のアシスタントのような立場と、葛飾応為と名乗る絵師として活躍もしました。

曲亭馬琴との関係も、作家と挿絵師というコンビは約10年間です。葛飾北斎も浮世絵師として、不動の地位を得ていったので、自然にコンビが解消されたと考えられています。

本作は北斎と馬琴の有名なエピソードに焦点をあて、架空の人物“お直”を登場させることで、戯曲の北斎一生をドラマ仕立てにしていました。

また、北斎には素性のわからない、2代目北斎を名乗る者がいます。

本作の後半で馬琴から金を借りるため、北斎の弟子になりたいという、馬琴の甥に北斎の名前を10両で譲ると言ったのが、この2代目北斎に絡めた脚本ではと考えることもできるでしょう。

このようにこの映画は、“忠実な史実ではない”ということを前提に、葛飾北斎の“もしも”的なフィクションとして、表現した作品として観ることができます。

知っておきたい芸術的文化への弾圧

本作では重要な一面も扱っていました。それは庶民の娯楽、芸術への制限制圧する幕府の政策です。

1790年「寛政の改革」の“改め印制度”によって、贅沢につながるものが規制され、たびたび浮世絵界も取り締まりがされていました。

のちの1804年頃の江戸幕府は、織田信長や豊臣秀吉の時代の人物を扱った、浮世絵や読本を禁止したために、歌麿は手鎖50日の処分を受けます。

歌麿の作品は世の中に悪い影響を与えるとして、目をつけられることが多くあったようです。

北斎の仕事が歌麿の影に隠れていた時代、お栄がわざと歌麿の大首絵を幕府に密告しようとしたほどに、芸術家の生業に影響与える制度でした。

まとめ

映画『北斎漫画』は葛飾北斎と彼にまつわる人々、同じ時代に生きた文人や絵師の様子を描いた、絵見本のような作品でした。

浮世絵のような美しさと、斬新なアイデアで浮世絵の世界を表現した秀逸作です。

また、今観ることで、一世を風靡した浮世絵師や作家の姿を通し、現代の映像業界にさらなる情熱を掻き立てようとする作品ともとれました。




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