Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2023/11/10
Update

『香港の流れ者たち』あらすじ感想と評価解説。ジュン・リー監督がホームレスたちの尊厳をかけて闘う人間模様を描く

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『香港の流れ者たち』が、2023年12月16日(土)よりユーロスペース、2024年1月6日(土)より大阪シネ・ヌーヴォほかで全国順次公開!

香港アカデミー賞11部門、台湾アカデミー賞12部門を席捲し、日本では全国5都市にて開催された「香港映画祭2022」で動員数No.1となった注目の香港映画『香港の流れ者たち』(原題:濁水漂流)。

デビュー作『トレイシー』(2018)が東京国際映画祭で上映されたジュン・リー監督の長編2作目にして、実際のホームレス荷物強制撤去事件から人間の尊厳を問いかける社会派ヒューマンドラマです。


(C)mm2 Studios Hong Kong

『エグザイル/絆』(2006)の香港のベテラン俳優フランシス・ンがヤク中のホームレス役を熱演するほか、1990年代を代表するロレッタ・リー、セシリア・チョイ、ウィル・オーら、香港の新旧世代を代表するスターキャストたちが集結しました。

さまざまな人々の人生が交錯する濃密な人間ドラマの魅力をご紹介します。

映画『香港の流れ者たち』の作品情報


(C)mm2 Studios Hong Kong

【日本公開】
2023年(香港映画)

【監督・脚本】
ジュン・リー

【編集】
ヘイワード・マック、ジュン・リー

【キャスト】
フランシス・ン、ツェー・クワンホウ、ロレッタ・リー、セシリア・チョイ、チュー・パクホン、ベイビー・ボウ、ウィル・オー

【作品概要】
香港アカデミー賞11部門、台湾アカデミー賞12部門を席捲し、日本では全国5都市にて開催された「香港映画祭2022」で動員数No.1となった注目の1作。デビュー作『トレイシー』(2018)が、東京国際映画祭で上映された、新世代の香港映画の担い手の一人であるジュン・リー監督の長編2作目です。

実際のホームレス荷物強制撤去事件から、移民問題、そして薬物に蝕まれる貧困層など様々な社会問題を浮き彫りにし、人間の尊厳を問いかける社会派ヒューマンドラマである本作。1980年代から香港映画界で活躍し『エグザイル/絆』(2006/ジョニー・トー監督)などで知られる香港のベテラン俳優フランシス・ンが、ヤク中のホームレスの人生の悲哀を表現し、新境地を切り拓きました。

舞台や映画で活躍するツェー・クワンホウが、ホームレス仲間の長老役を好演。1990年代を代表するロレッタ・リーが本作でカムバックしたほか、『風の輝く朝に』(1982/レオン・ポーチ監督)で知られるセシリア・イップが特別出演するなど、香港映画を代表する俳優が集結しました。またキーパーソンとなるソーシャルワーカー役をセシリア・チョイが演じます。

映画『香港の流れ者たち』のあらすじ


(C)mm2 Studios Hong Kong

刑務所を出たファイは、雑多で陰鬱な街・深水埗(シャムスイポー)へ戻ってきました。ヤク中の彼は、ラムじいが出所祝いにくれたクスリを道端でさっそく打ちます。

かつてのホームレス仲間たちとふたたび高架下で暮らし始めたものの、事前通告なしにやってきた食物環境衛生署になけなしの財産を一掃され、家も身分証明書も何もかも失ってしまいます。

新人ソーシャルワーカーのホーはファイたちと裁判を起こし、政府に賠償と謝罪を求めました。

そんな中、ファイはハーモニカを吹く失語症の青年に出会います。青年は大きな2段ベッドを運ぶファイを手伝ってくれました。

その後、再会した青年にファイは「モク」という名前を与え、ヤクに手を出さないよう父親のように見守り始めます。

ある時、建設中のマンションに忍び込んだファイは、まばゆい光の海が広がる夜の深水埗の街を見下ろしながらモクに静かに語りかけ……。

映画『香港の流れ者たち』の感想と評価


(C)mm2 Studios Hong Kong

ゴミ溜めのような場所で身を寄せ合い、人間らしく生きようとするホームレスたちの姿を映し出す作品です。悲惨さの中にも、そこはかとないユーモアも交えたドラマとなっており、人々の紡ぐあたたかな人情が胸にじんと染み入ります。

刑務所帰りの主人公・ファイは、仕事のない無為な日々をヤクでつぶして生きていました。しかし、仕事を持つ友人をうらやましく思う彼は、中毒を断つために病院に通い始めます。

理不尽に行政に持ち物全てを奪われたホームレスらは、ソーシャルワーカーの力を借りながら団結して訴訟を起こし、自分たちが生存する権利を必死で訴えます。持たざる貧しい者から、町を清潔にするためというだけに全て奪い去り、平気で捨て去る行政の非情さに怒りを覚えます。

その後、ファイは失語症の純粋な魂を持つ青年と偶然に出会い、モクという名を与えて父親のように面倒を見始めました。

息子同様にモクを深い愛情で見守るファイ、仲間と一緒にいたいという一心から盗みをせずに禁断症状に耐える男、そんな男を見捨てられない情に厚い女、ホームレスたちを救うために奔走するソーシャルワーカー。

それぞれの人生が交錯し、思わず涙する胸を揺さぶる人間ドラマが映し出されます。どうぞ最後までお楽しみください。

まとめ


(C)mm2 Studios Hong Kong

実際にあったホームレスに持つ強制撤去をモチーフに描いたジュン・リー監督の意欲作『香港の流れ者たち』

さまざまな社会問題とともに、登場人物それぞれの人生や思いを丁寧にクローズアップしていく見事な手腕に驚かされます。

香港映画『香港の流れ者たち』は2023年12月16日(土)よりユーロスペース、2024年1月6日(土)より大阪シネ・ヌーヴォほかで全国順次公開です。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

赤毛のアン映画あらすじ!2017夏の舞台主役は元国民的子役女優!

カナダの小説家ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』。これまで映画やテレビ、アニメで映像化されれ、現代に引き継がれてきた古典の名作。 今回は、エラ・バレンタインが主演する日本公開2017年5月6 …

ヒューマンドラマ映画

インド映画『ガリーボーイ』あらすじと感想レビュー。ラップになったヒンズー語の迫力と字幕のリリックに注目

映画『ガリーボーイ』は2019年10月18日(金)より新宿ピカデリーほかで全国ロードショー! インドのスラム街に住む一人の青年が自身の境遇に縛られ悩みながら、ラップという唯一の武器で一歩を踏み出す勇気 …

ヒューマンドラマ映画

『大河への道』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。伊能忠敬のすごいエピソードを時代劇と現代劇の2つの視点から功績を解く

伊能忠敬は、日本地図を完成させていなかった!? 地域活性化の為に、伊能忠敬を主役に大河ドラマを誘致しようとする、千葉県香取市役所の職員が直面する、日本地図完成に隠された、真実の物語を描いた映画『大河へ …

ヒューマンドラマ映画

映画『テスラ』ネタバレあらすじと評価感想。ラスト結末も【イーサンホークが移民の発明家が歩む生涯を演じる】

愛と人生に裏切られた天才発明家の半生を描いた伝記ドラマ マイケル・アルメレイダが脚本・監督を務めた、2020年製作のアメリカの伝記ドラマ映画『テスラ エジソンが恐れた天才』。 移民としてニューヨークに …

ヒューマンドラマ映画

映画『ローガンラッキー』ネタバレあらすじと感想!ラスト結末も

スティーブン・ソダーバーグの約4年ぶりとなる監督復帰作。 チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ダニエル・クレイグと豪華俳優陣が集結。 娯楽性とメッセージ性を見事に融合させた力作『ローガン・ラッキ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学