27歳で夭折した伝説の歌姫
グラミー賞を5部門受賞したイギリスの歌姫エイミー・ワインハウスの伝記ドラマとなる映画『Back to Black エイミーのすべて』が、2024年11月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショーされます。
若くして脚光を浴び、突然の名声に戸惑いながらも、本能のままに歌い続けたエイミーの波乱に満ちた27年の生涯と、その素顔に迫ります。
CONTENTS
映画『Back to Black エイミーのすべて』の作品情報
【日本公開】
2024年(イギリス・フランス・アメリカ合作映画)
【原題】
Back to Black
【監督】
サム・テイラー=ジョンソン
【製作】
アリソン・オーウェン、デブラ・ヘイワード、ニッキー・ケンティッシュ・バーンズ
【製作総指揮】
サム・テイラー=ジョンソン、アナ・マーシュ、ロン・ハルパーン、ジョー・ナフタリン
【脚本】
マット・グリーンハルシュ
【撮影】
ポリー・モーガン
【美術】
サラ・グリーンウッド
【編集】
マーティン・ウォルシュ
【音楽】
ニック・ケイブ、ウォーレン・エリス
【キャスト】
マリサ・アベラ、ジャック・オコンネル、エディ・マーサン、ジュリエット・コーワン、レスリー・マンヴィル
【作品概要】
27歳の若さで急逝したイギリスの歌手エイミー・ワインハウスの生涯を、親族が中心となり創設したエイミー・ワインハウス財団公認の下で描きます。
『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(2009)、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015)のサム・テイラー=ジョンソン監督が手がけ、脚本を『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』も手がけたマット・グリーンハルシュが担当。
エイミー役を『バービー』(2023)のマリサ・アベラが演じ、『フェラーリ』(2024)のジャック・オコンネル、『おみおくりの作法』(2013)のエディ・マーサン、『ミセス・ハリス、パリへ行く』(2022)のレスリー・マンヴィルらが脇を固めます。
映画『Back to Black エイミーのすべて』のあらすじ
イギリスで、10代で歌唱力を開花させたエイミー・ワインハウスは、別居中の父ミッチと母ジャニス、元ジャズ・シンガーの祖母シンシアら家族に見守られながら、シンガーソングライターとしてのキャリアをスタートさせます。
20歳で発表したデビューアルバム「フランク」が全英で大ヒットを記録。ところが、レコード会社の方針で全米進出が果たせないという屈辱を受けることに。
そんな中、パブで出会った男性ブレイク・フィールダー・シビルと恋に落ちたエイミー。しかし、すぐさま彼が元恋人と寄りを戻してしまったショックから、アルコールやドラッグに溺れるようになります。
ブレイクとの失恋を歌った「バック・トゥ・ブラック」は世界的ヒットを記録し、再会した2人は周囲に内緒で結婚しますが……。
映画『Back to Black エイミーのすべて』の感想と評価
栄光とスキャンダルの狭間を駆け抜けた歌姫
1983年9月、イギリスでタクシー運転手をしていた父と薬剤師の母との間に生まれたエイミー・ワインハウスは、祖母で元ジャズ・シンガーのシンシアの影響を受け、14歳から曲を書き始めます。
16歳の時、元クラスメイトの歌手タイラー・ジェイムスを介してレコード会社にデモ・テープを送ったのを機に、シンガーソングライターとしてのキャリアをスタート。20歳で発表した2003年のデビューアルバム「フランク」が、英国内で67万枚を超えるヒットに。
ジャズを基盤にR&Bやソウル、ヒップホップなどを融合したメロディに沿って、自ら書いた詞をハスキーヴォイスを活かして歌い上げる。加えて、目尻のアイラインを跳ね上げたキャットライン・メイクに、1960年代に流行したビーハイヴ(蜂の巣)・ヘアーのファッションを纏った彼女は、世界中にフォロワーを生みます。
2006年のセカンドアルバム「バック・トゥ・ブラック」も全世界1200万枚のセールスを記録し、グラミー賞5部門受賞を成し遂げたエイミーでしたが、プライバシーではドラッグとアルコールの依存症を抱えていました。
ステージ上で突如号泣したり、夜の街を傷だらけで徘徊するといった奇行も目立ち、そのため連日パパラッチの的となりスキャンダラスなイメージもつくように。
本作『Back to Black エイミーのすべて』は、そんな、歌手デビュー前の17歳から、2011年7月23日に急性アルコール中毒により27歳で早世したエイミーの素顔に迫ります。
音楽への追及と愛の追求
エイミーを題材にした先行作品としては、2015年製作のアシフ・カパディア監督のドキュメンタリー『AMY エイミー』があります。
圧倒的なステージパフォーマンスを見せるその裏で、恋人にして後に夫となるブレイクとドラッグを吸って乱痴気騒ぎを起こしたり、摂食障害とアルコール中毒で死に近づいていく彼女の姿が映し出されています。
批評家に高く評価され、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞も獲得した『AMY エイミー』でしたが、そのあまりの生々しさに、遺族や近しい人物たちによる上映に反対するキャンペーンが行われたほど。
そこで、本作の監督サム・テイラー=ジョンソンは、遺族が中心となって創設したエイミー・ワインハウス財団の公認を受け、彼女の言葉、彼女が書いた曲、そして彼女が歌った歌を通して、エイミーの生涯をドラマとして描くというアプローチをしています。
エイミーが生前に受けたインタビュー発言を脚本に活かし、彼女が遺した曲を使って自身の心を表す。アルコール依存症を治すために、周囲からリハビリ施設への入所を勧められた心境を歌った『リハブ』などは、音楽に自らを追及させた代表的なナンバーといえます。
エイミー役のマリサ・アベラにも触れておかなければなりません。オーディションの段階から「エイミーという人物を真に反映する何かを、自分の中に見出していた。そこにいた皆が『エイミーがそこにいる』と思ったの」とテイラー=ジョンソン監督に言わしめたアベラは、トレーニングを積んで役作りに臨み、自らの歌唱力でエイミーの曲を歌い上げています。
テイラー=ジョンソン監督が、本作で特に描きたかったのは、エイミーとブレイクの恋愛。
定職に就かずドラッグの売買をしているブレイクは、まさに絵に描いたようなバム(Bum=クズ)男。それでも、初対面時の会話で彼の音楽センスに惹かれたエイミーは、彼が暴力沙汰を起こして刑務所入りしても、彼から別れを告げられても、一途に追い求めます。
セカンドアルバムにして彼女の遺作となった「バック・トゥ・ブラック」には、ブレイクのことを歌った曲が多数収められており、当然ながら劇中でも効果的に引用されています。
ブレイクに向けたエイミーの依存心は、多くの人には理解できないかもしれません。しかし、テイラー=ジョンソン監督は、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』でサディズムとマゾヒズムな関係に陥る男女の愛を描いたように、愛の形は多面的なものであることを提示します。
エイミー・ワインハウス「リハブ」PV
まとめ
エイミー・ワインハウス「バック・トゥ・ブラック」PV
エイミー・ワインハウスの楽曲はオリジナルアルバム2枚と、死後に発表されたコンピレーションアルバム1枚。もし現在も存命なら40代となっていた彼女は、どんな曲を提供したのでしょうか。
自らの心情を赤裸々に歌詞にぶつけるからこそ、ファンは共感するもの。そういう意味でもエイミー・ワインハウスは、まごうことなきシンガーソングライター。彼女の楽曲は、アデルやレディー・ガガといった名だたるミュージシャンたちも賞賛します。
本作『Back to Black エイミーのすべて』には、1人のシンガーソングライターとして、そして1人の女性として生きたエイミーのすべてが詰まっています。
映画『Back to Black エイミーのすべて』は2024年11月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー。
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)