わかっているけど、わかってあげない。
もどかしい感情があふれだす。忘れられない夏休み。
漫画家・田島列島の人気コミック『子供はわかってあげない』を、沖田修一監督が上白石萌歌を主演にむかえ、実写映画化しました。
女子高生の美波は、ひょんなことで意気投合した同級生のもじくんと、もじくんのお兄さんの協力で、幼い頃別れたままの実の父を捜すことになります。
知らなかった感情があふれだし新しい自分と出会う。これぞ、青春。それは、忘れられない夏休みとなりました。映画『子供はわかってあげない』を紹介します。
映画『子供はわかってあげない』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
田島列島
【監督】
沖田修一
【キャスト】
上白石萌歌、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、豊川悦司、高橋源一郎、湯川ひな、坂口辰平、兵藤公美、品川徹、きたろう、中島琴音、富田美憂、浪川大輔、櫻井孝宏、鈴木達央、速水奨
【作品概要】
田島列島の同名コミックを原作に、『南極料理人』(2009)『横道世之介』(2013)の沖田修一監督が映画化。
主人公を演じるのは、ドラマに舞台に声優としても大活躍、主演作が続く上白石萌歌。相手役には『町田くんの世界』(2019)で町田くんを演じ注目を集めた細田佳央太が登場。
他キャストは、千葉雄大、斉藤由貴、古舘寛治、きたろう、豊川悦司らが、高校生の主人公を取り巻く個性的な大人たちをそれぞれ演じます。
劇中アニメとして製作された『魔法左官少女バッファローKOTEKO』には、声優の富田美優、浪川大輔らが出演し、映画と一緒にアニメも楽しめる内容になっています。
映画『子供はわかってあげない』のあらすじとネタバレ
朔田美波は、アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」をこよなく愛するJK。父と母、弟の4人家族です。
今日もアニメのエンディングをKOTEKOと一緒に踊り熱唱する美波。いつの間にか帰ってきていた父も踊っています。
母は酢飯をうちわで扇ぎ、風呂あがりの弟はパンツ一丁で走り回っています。歌声と笑い声で賑やかな朔田家は、平和です。
学校で水泳部に所属している美波は、背泳ぎをしながら笑ってしまうという癖があります。真剣にならなければならない場面で、なぜか笑ってしまう。そんなお年頃です。
ある日、美波はプールから見える校舎の屋上でKOTEKOの絵を書く男の子を発見。駆けつけた美波が出会ったのは、書道部の門司昭平、もじくんでした。
同じアニオタな2人は一気に仲良くなり、美波はもじくんの家に遊びにいくことになりました。もじくんの家は先祖代々、書道家一家です。
美波は、もじくんの家で見覚えのある「お札」を見つけます。それは、幼い頃いなくなってしまった実の父から、最近届いた「お札」とまったく同じものでした。
もじくんが言うには、その「お札」はある宗教団体のもので、教祖の変わりに門司家が執筆をしてきたということでした。
美波から事情を聞いたもじくんは、実の父親を捜そうと提案します。探偵をしているという、もじくんの兄を訪ねます。
もじくんの兄・明大(明ちゃん)は、情に脆く涙もろいジェンダーレスです。バイトで猫を捜した程度の探偵歴でしたが、美波の境遇になぜか感情移入し父親探しを手伝うと言い出します。
そして、あっけなく見つかる父・藁谷友充。友充は、宗教団体「光の匣」の教祖でしたが、最近は田舎でひっそり暮らしていました。
「やばいね、会ったら継承問題に巻き込まれて、拉致されんじゃない」。同じ水泳部の友達・ミヤジが脅します。当の本人である美波は、「ふへへへ」とやっぱり笑ってしまいました。
学校は夏休みに入り、水泳部は合宿があります。美波は、その合宿にこじつけ、実の父を訪ねてみようと、家族に内緒で計画を立てていました。
もじくんは、夏休みの間、子供たちに書道を教えています。「気持ちを込めて文字を書くと、半紙から文字が飛び出すことがあります」。「ないよー」子供たちに猛反発を食らうもじくん。
書道教室には美波の書いた「暗殺」の文字が風に吹かれて揺れていました。もじくんが心配するなか、美波は明ちゃんに連れられ実の父・友充に会いに行きます。
友充がいた場所は、美波の幼い頃の写真に写っていた海がある小さな町でした。家を訪ねるとひとりの女の子が顔を出しました。「いま、おっちゃんは、かっこつけてます」。隣に住んでる友充の指圧の師匠・阿掘の孫じんこちゃんです。
事前に、明ちゃんから美波のことを聞いていた友充は緊張しているようです。「やぁ、よく来たね」。
美波は聞きたいことがたくさんあるのに、言葉が出てきません。ぎこちない時間がただ過ぎていきます。
映画『子供はわかってあげない』の感想と評価
タイトルの『子供はわかってあげない』から想像するに、少し挑戦的な反抗期のお話かと思いきや、思春期の恥ずかしさや、素直になれないもどかしさが詰まった心温まる青春ドラマでした。
主人公の女子高校生・美波は、真面目な場面になればなるほど笑ってしまうという癖があり、その様子はこの映画全体の雰囲気にも通ずるものがあります。
シリアスな場面も可笑しな台詞でクスっと笑えたり、辛い境遇の中にも明るさがあり、随所に優しいユーモアがあふれています。
美波の成長する姿は、青春時代の気持ちを思い出させてくれました。また年齢に関係なく、素直になることは成長につながると教えてくれます。
素直になることで見えてくる相手の気持ち、自分の大切な人たち。美波は、自分を包み込んでくれていた大きな愛に気付いた時、人にも優しくなることが出来ました。
素直になることの恥ずかしさ、気持ちを言葉にすることの照れくささ、感情がコントロール出来ず涙があふれること、初めての恋、青春の尊さがぎゅっと詰まった作品です。
美波を演じた上白石萌歌と、もじくんを演じた細田佳央太の等身大の演技が、きらきらと眩しく、青春感を増長させています。胸キュンの告白シーンは、「青春っていいな」と思わずにはいられません。
また、美波を取り巻く大人たちも、みんな良い人ばかりです。美波の実の父・友充は、一見胡散臭い感じですが、不器用ながらも美波を理解し向き合おうとしてくれます。
久しぶりに会った美波の成長を喜びながら、どこか寂しい父親の心理が垣間見えます。「人を好きになれる子に育ってくれてありがとう」と言える友充は、素敵な父親です。
演じたのは豊川悦司。ミステリアスな雰囲気が魅力的な豊川悦司ですが、今作では娘と仲良くなろうと奮闘するお父さんをユーモラスに演じています。海パン姿で娘に嫌われるお父さんに注目です。
ほかにも、すべてを知っていながらも、温かく見守る母。本当の娘のように心配し、寄り添ってくれる今の父。自分のことのように世話を焼いてくれる、もじくんの兄・明ちゃん。
様々な事情があっても、穏やかに心優しく受け止めてくれる人たち。人生は色々あって、面白いと思わせてくれます。
そして、「人はひとりでは何も出来ない」と、劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」が教えてくれました。
まとめ
田島列島の人気コミックの実写映画化、上白石萌歌の主演作『子供はわかってあげない』を紹介しました。
青い海、青い空、そして超能力!?「好き」な気持ちは時に奇跡を起こす。忘れられない夏休みが始まります。
主人公・美波と一緒に青春の1ページをめくってみませんか。来ますよ、胸騒ぎってやつが。