2019年4月19日(金)より公開の映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』
「ミステリーの女王」「史上最高のベストセラー作家」と称される伝説の推理小説家アガサ・クリスティーが自ら“最高傑作”と認めた小説『ねじれた家』の初の映画化作品。
それが、ジル・パケ=ブレネール監督の映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』です。
世紀の大富豪の謎に満ちた死にきっかけに、その一族が抑えてきた憎悪や秘密が露わになってゆく様を描いたミステリー・ヒューマンドラマです。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』をご紹介します。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』の作品情報
【日本公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
Crooked House
【原作】
アガサ・クリスティー
【監督】
ジル・パケ=ブレネール
【脚本】
ジュリアン・フェロウズ
【キャスト】
グレン・クローズ、マックス・アイアンズ、ステファニー・マティーニ、テレンス・スタンプ、クリスティーナ・ヘンドリックス、ジリアン・アンダーソン、アマンダ・アビントン、オナー・ニーフシー、ジュリアン・サンズ、クリスチャン・マッケイ、プレストン・ナイマン、ジョン・ヘファーナン、ジェニー・ギャロウェイ
【作品概要】
伝説的推理小説家アガサ・クリスティーが自ら“最高傑作”と認めた小説『ねじれた家』の初の映画化作品。
監督には『サラの鍵』(2011)で知られるジル・パケ=ブレネール。また脚本には、『ゴスフォード・パーク』でアカデミー賞を受賞し、大人気テレビドラマ『ダウントン・アビー』シリーズの企画・脚本も手掛けるジュリアン・フェロウズ。
キャストには『天才作家の妻 -40年目の真実-』でゴールデン・グローブ賞を受賞しアカデミー賞にもノミネートされたグレン・クローズをはじめ、多くの実力派俳優が出演しています。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』のあらすじとネタバレ
ギリシャに生まれ、無一文でイギリスへと渡ったのちに巨万の富を築いた世紀の大富豪レオニデス氏が、心臓発作を起こしてこの世を去りました。
しかし、彼は何者かによって殺害されたのであり、その犯人は今もレオニデス家にいると感じたレオニデス氏の孫娘ソフィアは、私立探偵であるチャールズの元を訪れます。
ロンドン警視庁では名の知れた警視監だった父を持ち、私立探偵になる以前はエジプト・カイロで外交官を務めていたチャールズは、かつてそこでソフィアと恋人の関係にありました。
一度は彼女の依頼を断ったチャールズですが、探偵事務所の経営事情、そして恋人だったソフィアの身を案じて捜査へと乗り出します。
手始めにロンドン警視庁の警部であり父の知人もであるタヴァナーに会い、捜査の状況、レオニデス氏の遺体の検視結果・司法解剖結果を聞こうとするチャールズ。
タヴァナーは、レオニデス氏の遺体からは本来緑内障用の点眼薬に配合される薬物(血管を通して多量に摂取した場合、心臓発作を起こし得るもの)が検出され、糖尿病だった彼は日頃からインスリンを注射していたことから、何者かがその薬物とインスリンをすり替えることで彼を毒殺した可能性があると説明しました。
警察の本格的な介入を開始する前に、そしてマスコミが「殺人」と騒ぎ立て始める前にこの事件の全貌を探るようタヴァナーから頼まれたチャールズは、件のレオニデス家の屋敷へと足を踏み入れます。
遺体の第一発見者であるソフィアと当時の現場状況を確認し終え、早速レオニデス家の人々への聞き込み捜査を始めるチャールズ。けれども、彼ら彼女らは、一族の絶対的権力者だった“ねじれた”老人レオニデス氏によってその情念を抑圧され続け、まさに“ねじれ”てしまった者ばかりでした。
レオニデス氏の亡き前妻の姉にして、現在のレオニデス家を取り仕切っているイーディス。
レオニデス氏が晩年に結婚した若き後妻であり、事件当日に彼へ注射を施した張本人である元ダンサーのブレンダ。
レオニデス氏の長男にしてソフィアの父であり、事件当日には妻が主演の映画への出資をレオニデス氏に頼み断られていた芸術家気取りのフィリップと、彼の妻にして売れない舞台女優のマグダ。
レオニデス氏の次男であり彼からケータリング社の経営を引き継いだものの、倒産寸前に陥り、彼に金の無心をしていたロジャーと、彼の妻にして毒の専門家であるクレメンシー。
ロック音楽と反権力主義に傾倒し、生まれつき足が悪いために屋敷に引きこもりがちなフィリップの長男ユースタスと、クレメンス家の人々を常日頃から観察してはその記録をノートに書き記し、探偵小説の愛読者にして「自身が屋敷の中で最も賢い」と自称するフィリップの末娘ジョセフィンとその乳母ナニー。
ブレンダと愛人関係にありつつも、レオニデス氏の回想録の管理を任されていた家庭教師のローレンス。
そして、フィリップの長女、ユースタスとジョセフィンの姉にして、クレメンス氏の孫娘であり、彼とは「特別な絆」があるというソフィア。
捜査を始めたものの、ソフィアを含めた一族全員にレオニデス氏殺害の動機があることを知るチャールズ。それは、一族がレオニデス氏本人から「私の殺し方」を聞かされており、注射に用いる薬物は誰にでもすり替えることが可能だったためでもあります。
その後、チャールズはレオニデス氏の遺言状を管理している弁護士と面会します。
彼はそこで、レオニデス氏は遺言状を作成していたが署名をすることはなく、結局法的には有効な遺言状を遺していなかったこと、そして「遺言状がない」という結果によって、巨額の遺産は法的には「レオニデス氏の妻」にあたるブレンダが大半を相続することになってしまったこと、それを知ったためにレオニデス氏の息子たちとその妻たちは彼女がレオニデス氏を殺したと疑っていることを聞かされます。
捜査を進めれば進める程、レオニデス家の人々が抱える亡きレオニデス氏への憎悪や葛藤を思い知らされるチャールズ。
その中で、彼はソフィアが回想録の原本を焼却している場面に出くわし、証拠隠滅ではないかと彼女を問い詰めます。
それに対しソフィアは、事件に関することは一切書かれておらず、あくまでレオニデス氏の「悪行」をこれから押し寄せて来るであろうマスコミに知られたくなかったからだと答えました。
反共主義(共産主義を否定・排斥しようとする思想)を信じ続けていたレオニデス氏は、故郷で起きたギリシャ内戦(1946〜1949、共産主義勢力と英・米から支援を受けていた右派勢力による内戦)の際にもCIAに資金を提供し、その報酬としてアメリカでの事業成功と非合法活動の黙認を約束されていました。
また先の大戦によって世界全体が変化してゆくのを見抜いた彼は、表の事業と裏の事業を巧みに進めることで莫大なる資産を得ていったのです。
そして、外交官時代のチャールズがエジプト・カイロでソフィアに接触した本来の理由も、CIAの資金協力者であるレオニデス氏の孫娘でありながらそのことを周囲にひた隠しにしていた彼女の動向を探るよう、上司に依頼されたためでした。
しかし本気でソフィアのことを愛してしまった彼は、彼女が別れを告げることなくカイロを去ったのを機に外交官の職を離れたのです。
その事情を知らないタヴァナーは、チャールズのカイロにおけるソフィアとの関係に疑問を抱いていました。そして捜査を始めて以来チャールズを尾行するようになった男の正体とは、その彼の動向を探るように命じられたタヴァナーの部下でした。
やがてレオニデス氏の殺害疑惑がマスコミに知れ渡り、屋敷の前には記者たちが群がります。
またそのニュースが報道されたことで、レオニデス氏から正式な遺言状を預かっていたという男がチャールズとレオニデス家の人々の前に現れました。
そしてその遺言状の内容とは、遺産のほんの一部を後妻ブレンダに与え、それ以外の全ての遺産は孫娘ソフィアに相続させるというものでした。さらに、ソフィアがこの遺言状の内容をすでに知っていたことをチャールズは知ります。
その後、屋敷内である事件が発生します。ジョセフィンが敷地内にあるツリーハウスから転落したのです。
幸い軽傷だったものの、ツリーハウスを行き来するための縄梯子に刃物で切れ目が入っていたことから、ジョセフィンの事故は殺人未遂事件だった可能性が浮かび上がりました。
タヴァナー率いるロンドン警視庁が屋敷内を捜索したところ、イーディスが普段使っていた剪定鋏がローレンスの部屋で発見されます。
さらにジョセフィンが転落以前に出入りしていた屋敷の屋上をチャールズが調べると、そこでブレンダとブラウンの愛人関係を示す数篇のラブレターを発見しました。
ブレンダとローレンスが共謀してレオニデス氏を殺害し、その証拠となり得るラブレターを保管していたジョセフィンをも口封じに殺害しようとしたと睨んだタヴァナーは、二人を逮捕します。
ブレンダの末路を嘲笑うレオニデス家の人々の中で、唯一イーディスだけが彼女らに同情しました。
事件解決に貢献したとタヴァナーに讃えられるも、発見した証拠は全て状況証拠でしかないこと、ラブレターも何者かによって偽造された可能性があることが引っかかるチャールズ。
そして、彼が予感した通り、事件が解決されたはずのレオニデス家で第二の殺人が発生しました。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』の感想と評価
多くの実力派俳優をキャストに迎えることで、アガサ・クリスティー自身が「最高傑作」と認めた推理小説『ねじれた家』の初の映画化に挑んだブレネール監督。
その成果が最も強く現れているのが、レオニデス家の人々が一堂に会した夕食シーンです。
卓上で蔑み・罵り・嫌味のぶつけ合いを繰り広げる人々の姿は、その映像のテンポ感も相まって非常に見応えがあり、緊迫感溢れるこの場面を撮ることができただけでも映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』の成功は明らかでしょう。
また上述のシーンでも触れたように、説明的になりがちなありがちなミステリードラマに陥ることのない、徹底した映像作りにも注目しなくてはなりません。
特に、亡きレオニデス氏の巨大な肖像画が飾られている夜の大広間で、トゥシューズを履いたジョセフィンが好きなバレエを一人踊るシーンは、本作を鑑賞した多くの人々の目に焼き付いたでしょう。
そしてその光景は、のちに明かされる真実を知ることで、ただの美しく幻想的な場面などではなく、ジョセフィンという少女の無垢ゆえの狂気に満ち満ちたシークエンスへと変貌します。
それはまさに、原作小説『ねじれた家』の読了、或いは映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』の1回目の鑑賞によって、その光景が“ねじれ”、全く異なる光景が出現したということを示しているのです。
まとめ
実力あるキャスト陣の名演、徹底した映像作りによって、“伝説の推理小説家が自身で認めた最高傑作の初の映画”という余りにも高いハードルに挑み、それを越えることに成功した映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』。
小説『ねじれた家』のみならずクリスティー作品を愛読する方にも、小説『ねじれた家』どころかクリスティー作品を一冊も読んだことのない方にもオススメできる作品です。
映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』、ぜひご鑑賞ください。