「協同労働の協同組合」とは?
働く人や市民がみんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かち合い、人と地域に役立つ仕事をおこす協同組合「ワーカーズコープ」。
本作は、東日本大震災後、ワーカーズコープが東北の被災地で実践し続けてきた取り組みの様子を記録したドキュメンタリー作品です。
自分らしく働くということは、自分らしく生きるということ。広がる貧困や格差社会で、今後どう働いていけばいいのか。
支えられる立場から、気付けば支える立場に。人に必要とされることは心の健康に繋がります。健康な心の持ち主は、周りを明るく、地域を盛り上げる担い手となることでしょう。
一人ひとりの願いがカタチになる新しい働き方が見つかるかもしれません。映画『Workers被災地に起つ』を紹介します。
CONTENTS
映画『Workers被災地に起つ』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督】
森康行
【作品概要】
労働者、使用者といった立場を失くし、働きたい人が出資をし平等な立場で経営をし合う協同組合「ワーカーズコープ」の、被災地での取り組みをまとめたドキュメンタリー映画です。
監督は、同じくワーカーズコープを題材にした映画『Workersワーカーズ』を手がけた森康行監督。
東日本大震災後、実際に東北で立ち上がった「ワーカーズコープ東北事業所」の様子を、2016年2月から22カ月間にわたり記録しています。
映画『Workers被災地に起つ』のあらすじ
日本社会は、高齢化社会、急激な人口減少、広がる貧困や格差社会と、誰もが不安を抱える時代となりました。
そして2011年3月に起こった東日本大震災は、私たちに改めて「これから、どう生きていくのか」という問いかけを与えました。
岩手県大槌町、大槌地域福祉事業所「ねまれや(地域共生ホーム)」は、2016年2月に開所しました。通所介護や学童保育、日中一時支援、お茶っこサロン、菓子工房を展開しています。
大槌町は、東日本大震災で多くの町民の命を失い、町は半分以上が壊滅、行政の機能も停止しました。
内陸に避難し復興へと歩む人もいれば、町にはお年寄りや子供たち、障害を持った人たちが生活しずらい環境が続いていました。
困りごとは増えるのに、町役場からの運営の許可はなかなか下りない。そんな苦しい状態の中、協同労働という働き方があることを知ったという、東梅麻奈美さん。
働く者同士がお互いを理解し、その人に合わせた仕事の仕方が出来る環境が「ねまれや」にはありました。
しかしサポート事業の多さに比例して、スタッフ同志のコミュニケーションが難しくなっていきます。生きづらさ、居づらさ、それをもぶつけ合い話し合うことで解決していきます。
誰もが気兼ねなく集まれる拠点がある。その場所は地域の人々の拠り所でもあります。
宮城県亘理町、亘理事業所「ともにはま道(多機能型福祉施設)」は、2013年から直売所を開所、地域の生産者さんが作った農産物や加工品の販売、弁当製造を展開しています。
仙台空港で飛行機の整備士をしていた池田道明さん。被災した池田さんは、生かされた命の使い道を模索します。働きたいのに働く場所がない、社会からの疎外感を感じていました。
「仕事がなければ自分たちで地域のためになる仕事を起こせばいい」協同労働に興味を抱きます。
しかし、集まったスタッフは経営のノウハウがまったくない所からのスタートでした。働く者だけじゃなく、地域の人々も巻き込み、支援する姿勢ではなく伴走して成長していくスタイルを目指しました。
スタッフのひとりは、「以前の与えられた仕事をこなすだけだった頃より今は働くことが楽しい。苦労もやりがいに変わる」と言っています。
宮城県登米市、登米地域福祉事業所では、3期にわたる緊急雇用の起業型人材育成事業を活用し、「高齢者デイサービス」「訪問介護」「障がい者就労継続支援」「林業」「生活支援」などの事業を生み出してきました。
登米市鱒淵地区では、それぞれの事業が連携し、村おこしの一環を担っています。
始めは、よそ者の地域おこしに不満を現わしていた村人たちも、顔を合わせていくうちに一緒になって「地域の発展」について話し合うようになって行きます。
自分の持っている知識を地域のために惜しみなく出すことで、自分が地域のために出来ることが増えていく。それは村人たちにとっても生きがいとなりました。
限界集落だからと諦めていた高齢者たちも、具体的な取り組みと数字の知識を知ることで、集落の維持へとやる気が出てきます。それは、地域の良さをこれからの若い世代に残していく作業となりました。
今私たちは、働き方を考える時代にいるのかもしれません。
働き方を変えて行く。収入の在り方を考える。そこに根を下ろす覚悟。働くとは、人を命に繋ぐこと。これからどう生きるのか。それは、ひとりひとりに委ねられています。
「ワーカーズコープ」とは
ワーカーズコープとは、働く人々や市民が出資し、経営にみんなで参加し民主的に事業を運営。責任を分かち合い、人と地域に役立つ仕事を自分たちでつくる協同組合です。
1971年、兵庫県から全国各地で「失業者・中高年者」の仕事づくりを目指す「事業団」の立ち上げがきっかけとなります。
1987年には東京事業団も統合。モデル労働として「センター事業団」が設立となります。
1995年、阪神大震災の際には、被災地に入りNPO・市民活動との連携、復興支援活動を実施します。
その後は、ワーカーズコープ式の地域福祉事業所づくりを通じ、訪問介護やデイサービス事業、生活困窮者自立支援事業を展開。東日本大震災を機に、食とエネルギー、ケア活動が自給循環するコミュニティづくりを方針化し、市民参加のフードバンクや子ども食堂など、全国に広がりを見せています。
「ワーカーズコープ」の東北復興事業所
映画で紹介されたほかにも、ワーカーズコープでは東日本大震災後、東北へ復興事業所を展開しています。
岩手県陸前高田市の「林農海直売所ワーカーズ」。
宮城県気仙沼市の「すろーらいふ(共生型施設)」「ひありんく気仙沼(生活困窮者相談支援)」。
宮城県石巻市の「地域若者サポートステーション」「多機能施設YUTTARI」「GAGAの力プロジェクト」などがあります。
どの事業所も、地域に暮らす人々が自分たちで困ったことを解決し、暮らしやすい地域にしたいと立ち上げた施設です。
「ワーカーズコープ」が目指すもの
公式HPを拝見すると、ワーカーズコープが目指すものとして「誰一人取り残されない社会、持続可能な地域づくり」とあります。
失業、病気、家族のこと、障がい、高齢など様々な理由で困難にある人たちと、地域で出会い、「働くこと」を通して、安心した暮らしができる地域になるような取り組みを広げたい。
困難にあっても協同労働の仕組みで働くことが出来る。それは、収入の面からも心の健康の面からも、新しい働き方のひとつになるのではないでしょうか。
また、福祉事業の他にも、子どもたちの未来に目を向けている仕組みもあります。
格差と貧困、社会的孤独の広がりは、子どもたちの暮らしに影響を与えています。不登校や引きこもり、学校中退など社会的自立が難しい子どもたちが増えています。
子どもの成長を地域で見守り、みんなで育てていく、子どもが過ごしやすい地域づくりとして、学童保育や児童館、一時保育、放課後子ども教室、子育て見守り訪問派遣、子ども食堂など事業所を増やしています。
「協同労働の協同組合」ワーカーズコープの取り組みを知り、新しい働き方を考えるきっかけにして欲しいです。
映画『Workers被災地に起つ』の感想と評価
働く人や市民がみんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かち合い、人と地域に役立つ仕事をおこす協同組合「ワーカーズコープ」。
発祥の地ヨーロッパでは、働き方のひとつとして定着しているとのことです。
「子供の預かり場所がない」「障がいのある人も働く場所がほしい」「お年寄りが安全に暮らせる街を」「地域の魅力を生かした街づくりをしたい」ひとり一人の願いや悩みが、みんなの力で現実になる仕組みがここにはありました。
映画では成功例だけではなく、同等の立場ゆえに起こる問題や、仲間のコミュニケーションの難しさ、地域との連携の大変さも紹介されています。良い面だけではない「協同労働」の実態が浮き彫りになっています。
それでも、自分に合った働き方を模索し、人に必要とされる仕事のやりがいを得て、仲間と共に働く姿は輝いて見えました。困難から立ち上がる人間の強さを感じました。
まとめ
協同労働の協同組合「ワーカーズコープ」の、被災地での取り組みをまとめたドキュメンタリー映画『Workers被災地に起つ』を紹介しました。
子どもや障がい児を預かる場所、福祉施設、高齢者の介護問題、地域復興、それぞれの思いで実行された活動の記録は、これからの日本に大切な「ともに生きる社会」の原点がありました。
「働く所がなかったら、仲間を募って自分で仕事を作ればいい」。
支えられる立場から支える立場へ。自分の存在意義はどこにあるのか。自分はどう生きていくのか。どう働いていくのか。自分にとって喜びとは何か。
誰もが不安を抱えて生きる今だからこそ見て欲しい映画です。