2017年12月16日より、下北沢トリウッドにて「歳末青春大セール!ティーンムービー傑作選」という特集上映が行われます!
日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営するGucchi’s Free Schoolによる選りすぐりの傑作ティーンムービー8本が勢揃い!
今回ご紹介する映画は『ティーンエイジ』(2013)。激動の20世紀前半における「ティーン誕生」の歴史と、その実像に迫るドキュメンタリー映画です。
ティーン映画ファン必見の作品となっています!!
1.映画『ティーンエイジ』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ、ドイツ合作映画)
【原題】
Teenage
【監督】
マット・ウルフ
【キャスト】
(ナレーション)ベン・ウィショー、ジェナ・マローン、ジュリア・ハマー、
【作品概要】
イギリスの作家ジョン・サヴェージの著作を基に、ティーンエイジャーの歴史を当時の映像と再現映像とを織り交ぜて綴ったドキュメンタリー。
2.映画『ティーンエイジ』のあらすじ
1950年代前後のハイスクールと思われる映像から映画は始まります。
将来のことを聞かれて、「歴史的なことをしたい」「有名になりたい」「自分たちのする行いは次の世代にも必ず影響を与える」などと答えるティーンたち。
「未来は想像できない」と言うティーンもいれば、彼らを支配しようとする親への不満を口にするティーンもいます。
そんなティーンエイジという年代区分は、今ではあたりまえのように考えていますが、かつてティーンエイジという概念は存在していませんでした。
最初はただの子どもでした。ある日突然大人になるのです。
幼少期が終わった子どもには労働が待っていました。12歳で働きに出され、産業革命後、子どもたちは奴隷のように働かされました。
あまりにも過酷な状況を憂いた大人たちは子どもの労働を禁じ、彼らを学校へ通わせます。
これが人生の第二段階、青年期です。
彼らは仲間と共に行動し、中にはフーリガンと呼ばれる暴力的な行為を行うものも。
ベーデン=パウエルが1900年代初頭に軍隊を真似て作った「ボーイスカウト」は彼らに愛国心、勇気、自立を学ばせることに成功しますが、時は第一次大戦直前でした。多くの青年が国のためにと入隊を志願します。
しかし、戦争は多くの若者を傷つけます。戦争により、神経が麻痺する者も。捨て駒にされたと彼らは大人を嫌いました。
アメリカ軍が参加すると、ヨーロッパにはアメリカのジャズやダンス、映画が身近にもたらされました。若者たちは新たな独自の文化を手に入れ熱狂します。
戦争が終わり、彼らは新しい生活を求めました。これまでにない開放感を得た若者たちを大人はフラッパーと呼ぶのでした。
1926年、イット・ガールと呼ばれたイギリスの19歳、ブレンダ・ディーン・ポールは、有名になりたがっていました。
彼女は様々なパーティーの中心的人物でした。少年は少女のように、少女は少年のように仮装したパーティーはフリーク・パーティーと称され、物議を醸しました。
彼女は交通事故を起こし、ロンドン史上初のジャンキーとなってしまいます。新聞に掻き立てられ、彼女が期待したいたのとは違った意味で有名になってしまうのでした。
1929年には世界恐慌が起こり、失業者が溢れます。16~24歳の若者の失業率が一番高く、彼らは未来に希望が持てなくなっていました。
家を出た子どもは浮浪者となり、ホーボーなどと呼ばれます。
ドイツでは国難と闘うための革命思想が生まれていました。共産主義とナチスの時代です。同じ頃、イギリスでは5000人のファシストが市街を行進しました。
ドイツの少女、メリタはナチス青年団に加入。週末に試験や競技会が行われ、社会に認められるという喜びを味わいます。ドイツの若者は当時、非常に輝いていたと彼女は語ります。
アメリカではルーズベルトの「市民保全部隊」の取り組みのおかげで、若者は仕事を手に入れました。職業訓練をしつつ、給料が手に入るのです。
デューク・エリントンら黒人バンドのスゥイングが大流行。1939年のニューヨーク万国博覧会のテーマは「未来」でした。
しかし、アメリカの黒人の若者は語ります。「ヨーロッパでは平等に扱われた。でもアメリカでは僕らも敵だ」
ハーレムでは暴動が起き、ロサンゼルスでも騒動が起こっていました。大人たちの締め付けに若者たちの堪忍袋の緒が切れたのです。
自由を与えれば羽目は外さないと大人たちは気づきはじめます。若者のクラブが生まれ、彼らは社会統制などを学びました。
1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻により第2次大戦が始まります。ドイツでは青少年団への参加は強制となり、人格は否定され若者は画一化されていきます。
メリタは次々と昇進。広報係として働き、ナチの選民思想を信じていました。全てがナチに飲み込まれていました。
アメリカの参戦、ナチスに抵抗した若者たち、ドイツの劣勢。そして終戦へ。
二度の対戦を経て、生まれた「青年期=ティーンエイジ」という概念の変容を様々な歴史フィルムと一部再現フィルムで振り返ったエキサイティングなドキュメンタリーです。
3.映画『ティーンエイジ』の感想と評価
冒頭に描かれるのは、下校するティーンエイジャーたちのなんでもない風景ですが、かつては、ティーンエイジという概念がなかったという事実に驚かされます。
映画が始まってまもなく、「ティーンエイジは戦争の発明だ」というナレーションが入ります。
その言葉通り、第一次世界対戦と第二次世界対戦の二つの対戦の1904年~1945年までの間に、当時を生きた若者たちがどのような状況に置かれ、どのようにティーンエイジの文化と概念が確立されていったかを本作は描いています。
戦争に翻弄されたのは、全ての人々ですが、とりわけ、若者は戦場に出て闘うという役割を担ったわけです。
産業革命の際には、労働者として酷使され、戦争では戦場へかり出され大きな傷を追う。大人の捨て駒として扱われた犠牲者の側面がクローズアップされます。
ティーンエイジの歴史というのは、権利の獲得の歴史でもあるのです。この視点が筆者には非常に目新しく感じられました。
とはいえ、映画自体はお硬い記録映画ではなく、それぞれの時代の若者が人生を楽しもうしてきた華やかな姿も追っています。
ジャズ、ダンス、映画など、アメリカ文化がもたらしたものが大きな役割を担ったことがよくわかります。当時のフィルムがその熱狂を伝えてくれます。
そして、それらがヨーロッパに伝わったのが、アメリカの参戦であったという点からも、ティーンエイジを作ったのは戦争であるという説が真実味を帯びるわけです。
ブレンダ・ディーン・ポールやハンブルグのナチスに抵抗した若者たちのエピソードは、その悲劇性も相まって、非常に興味深いです。
彼らは好きなことを楽しみたかっただけなのに…。
彼らがどのような運命をたどったのかも含め、是非作品をご覧になってください。
4.まとめ
『ティーンエイジ』の監督マット・ウルフ
監督、脚本のマット・ウルフは、実験音楽からディスコシーンまで幅広く活躍した音楽家アーサー ・ラッセルのドキュメンタリー『Wild Combination:アーサー ラッセルの肖像』(2008)や、詩人ジョー・ブレイナードのドキュメンタリー『I Remember』(2012)などで知られています。
最新作は、短編ドキュメンタリー映画『Bayard&Me』(2017)。サンダンスを始め、多くの映画祭で上映され話題を呼びました。
共同脚本のジョン・ザヴェージはなにやら聞き覚えのある名前だと思ったら、モッズ、ロッカーズ、パンクなど、イギリスのユースカルチャーについて書かれた『イギリス「族」物語』の著者で、日本人にも馴染みが深い作家です。
本作『ティーンエイジ(TEENAGE)』は、サヴェージの2007年の著書『Teenage: The Creation of Youth Culture』を下敷きにしています。
また、ナレーターには学園映画の出演も多いジョナ・マローンや、ベン・ウィショーらが担当しており、そのあたりにも注目してみてください。
本作は12月16日より、下北沢トリウッドにて「歳末青春大セール! ティーンムービー傑作選」の1本として公開されます。
貴重な上映機会を是非お見逃しなく。