最期まで自分らしく生きたい。
最期には、大切な人に「ありがとう、さよなら」を伝えたい。
認知症。それは誰もがかかりうる病気です。進行は、ほとんど止められません。
今したことを忘れてしまう。愛する家族の名前も忘れてしまう。とても難しい病気です。
この映画は、アメリカ・オハイオ州の高齢者介護施設に入居している認知症のおじいちゃん、おばあちゃんが、あるトレーニングにより自分を取り戻していくドキュメンタリーです。
ますます高齢化が進む現代社会で、認知症との向き合い方のヒントが見つかるかもしれません。
映画『僕がジョンと呼ばれるまで』のあらすじと感想を紹介します。
映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の作品情報
【日本公開】
2014年(日本・アメリカ合作映画)
【監督】
風間直美、太田茂
【作品概要】
アメリカ・オハイオ州の高齢者介護施設を舞台に、認知症の改善を試みる「学習療法」に取り組む入居者たちの姿と成果を追ったドキュメンタリー映画です。
この「学習療法」とは、「脳トレ」ブームの立役者である東北大学・川島隆太教授と公文教育研究所、介護現場の協力で開発された認知症改善プログラムです。
認知症が進むのを見守るしかなかったこれまで。実施後の入居者の変化、そして周りのスタッフ、家族の変化にも注目です。
映画『僕がジョンと呼ばれるまで』のあらすじとネタバレ
アメリカ・オハイオ州の高齢者介護施設。ここに暮らす、おじいちゃん、おばあちゃんの多くが認知症を患っています。
ビデオの録音画面です。施設のスタッフ・ジョンは、ある成果の過程を記録しています。
ある成果とは。日本で開発された脳のエクササイズ「学習療法」を実施し、認知症の改善を目指すというものです。
「学習療法」は、東北大学の川島隆太教授が中心となり開発された認知症改善プログラムです。スタッフと高齢者が対面でコミュニケーションを取りながら、簡単な「読み」「書き」「計算」を毎日行います。
ジョンは、今日もおばあちゃん達に聞きます。「僕の名前を知っていますか」、答えはいつも「知らないわ」。
エブリンは93歳です。認知症と診断されて2年。アルツハイマー型認知症です。自分の名前も書けず、じっとしていられません。彼女の症状は悪くなるばかりでした。
エブリンには2人の子どもがいます。「身だしなみに気を使い、外出の時は化粧を欠かさない人だった。観察力があって、時に毒舌に話す会話はユニークだったわ」と、娘は話します。
「孫の誕生日には得意の編み物でブランケットを編んでくれた」と懐かしむ息子。
以前の母に戻って欲しい。頭ではわかっていても、母の変化に心がついてきません。
認知症の親を持つ子どもは皆、かつての元気だった頃の親の姿を思い出さずにはいられません。本人の苦しみ、それは家族全員の苦しみになっていました。
「学習療法」を実施して1カ月。認知症のおばあちゃん達に変化が現れます。
始めた時は、数字が書かれたブロックを同じ数字の所に置くことが出来なかったエブリンが、すべて置くことが出来ました。
大事なのは、達成感です。今日、自分は脳に良いことをしたという認識を持つ。スタッフとのコミュニケーションも大事な療法のひとつです。
他の入居者たちも楽しそうにスタッフとコミュニケーションを取っています。引きこもり気味だった、おばあちゃんも積極的に参加するようになりました。トイレも着替えも自分でするようになりました。
ジョンは今日も聞きます。「僕の名前を知っていますか」。やはり、エブリンの答えは「知らないわ」のままです。
それでも、ジョンとの会話を楽しんでいるかのように、笑顔が見れました。社交的だったエブリンまでは、あと一歩でしょうか。
メイは88歳です。彼女の特技は、聞こえないフリ。気分が乗らないと誰が訪ねてきても無視。「学習療法」の誘いも無視。無気力、無表情です。
女性タクシードライバーだったメイは、人生を切り開いて来た強い女性です。
メイには可愛がっていた姪っ子がいました。「彼女はいつもワクワクして行動的だった。口癖は、人生を楽しんで生きるべきよ」と姪っ子は涙ぐみます。
そんなメイも「学習療法」へ参加するうちに変化が起こります。少しずつ心を開いていくメイ。自分のことをしゃべるようになりました。タクシードライバーだった時のことです。
ジョークを交えながら話すメイは、表情も豊かになりました。しかし、まだ毎日の浮き沈みが激しいようです。
映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の感想と評価
老いは誰にでもやってきます。認知症は、誰もがかかりうる病気です。いまだに根本的な治療法はなく、ほとんどが悪化していく様子を見守るしかありません。
この映画では、「学習療法」という認知症改善プログラムで、劇的に変化していくおばあちゃん達の姿が記録されています。
この「学習療法」は、現在日本国内で1万人以上が実施しているとのことです。
認知症に、明るい可能性の未来が見えたような気がします。
そしてこの映画は、認知症改善の記録だけではなく、認知症の親を持つ家族の苦しみにも向き合っています。
ビーというおばあちゃんは、音楽好きで「学習療法」にも意欲的でした。娘のフランと二人三脚で頑張っています。
自分の病を知った時のビーの気持ちが手紙で残っていました。そこには、この先の不安と最悪で死んだも同然だと書かれていました。
ビーの言葉は、これからの認知症になりうる私たちの代弁にすぎません。
「学習療法」の目指すところは、認知症の完全なる改善ではなく、自分らしさを取り戻すことにあります。
「自分の年を取った時、人生をどう振り返るのか。自分らしい人生を生きなくては」と、記録係のジョンは言います。
自分の歩んで来た人生を振り返り、楽しい人生だったと語り、最期に大切な人たちに「ありがとう」と直接言えたなら、どんなに素敵な人生でしょう。
まとめ
アメリカ・オハイオ州の高齢者介護施設を舞台に、「学習療法」による認知症の改善を試みるドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』を紹介しました。
「脳トレ」ブームの立役者である東北大学・川島隆太教授を中心に開発された、認知症改善プログラム「学習療法」。
「学習療法」を続けるうちに、目に見えて認知症が改善していくおばあちゃん達の姿に、驚きです。
自分らしさを取り戻していくおばあちゃんの変化が、まわりのスタッフや家族に与える喜び、幸せの奇跡にも注目です。