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Entry 2020/02/06
Update

映画『前田建設ファンタジー営業部』ネタバレ感想とレビュー評価。実在するアニメの格納庫を積算したプロジェクトとは

  • Writer :
  • もりのちこ

日本の建設技術の底力。
日本のサラリーマンの本気を観よ!

これまで日本のダム、トンネルなど数々の大プロジェクト建設に携わってきた前田建設工業株式会社。

この映画は、そんな前田建設の広報グループが立ち上げたWEB企画「ファンタジー営業部」が、「うちの技術で、マジンガーZの格納庫は作れるのか」という難題に、本気で取り組んだ実話を基に描かれています。

2003年に取り組んだこの無謀なプロジェクトはWEB上で話題となり、その後も様々なアニメ・ゲームなど架空世界に登場する建造物の、設計図作成と積算(工事などの費用を見積もること)を行ってきました。

マジンガーZの格納庫は本当に作れるのか?情熱を燃やしたサラリーマンたちの感動の積算エンターメイト『前田建設ファンタジー営業部』を紹介します。

映画『前田建設ファンタジー営業部』の作品情報


(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

【日本公開】
2020年(日本映画)

【原作】
前田建設工業株式会社『前田建設ファンタジー営業部1「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬舎文庫)
永井豪『マジンガーZ』

【監督】
英勉

【キャスト】
高杉真宙、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、町田啓太、山田純大、鈴木拓、水上剣星、高橋努、濱田マリ、鶴見辰吾、六角精児、小木博明、永井豪

【作品概要】
実在する前田建設株式会社で、「アニメ世界の建造物は造れるか?」という無謀なプロジェクトに取り組むファンタジー営業部の実話を基に製作された映画『前田建設ファンタジー営業部』。

夢が広がるこのプロジェクトはWEBで連載されると、業界外からも注目され、大きな反響を呼びました。

その後は、書籍化され、2013年には舞台化もされました。映画化に伴い、脚本は舞台も手掛けた上田誠が担当。

監督は、『賭けグルイ』『あさひなぐ』など、人気漫画の実写映画化から、ホラー、コメディーとスピード感あふれる演出が得意な英勉監督。

主演は、映画にドラマにと今最も勢いに乗る若手俳優の高杉真宙が務めます。その他共演者には、小木博明(おぎやはぎ)、六角精児、上地雄介などバラエティーに富んだキャスティングとなっています。

映画『前田建設ファンタジー営業部』のあらすじとネタバレ


(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

高度成長期の日本において、ダム、トンネル、発電所など数々の大プロジェクトに携わってきた前田建設工業株式会社。

そんな前田建設も昨今は、新規事業は縮小し、民間営業は厳しいコスト合戦を強いられていました。

前田建設の広報グループに入社した新人社員ドイは、「遊びは学生の時だけ。社会人になったら粛々と生きていこう」と思っていました。

熱血上司のアサガワが上機嫌でやってきます。

「ドイ君、マジンガーZって知ってる?」。「スパロボっすよね」。「あぁスパロボね?それより、作れると思う?格納庫!」。「ロボじゃなくて格納庫の方ですか?」。

いまいち噛み合わない会話が一変。

「マジンガーZじゃないですか!息子と一緒に見てますよ。前田のダムの技術を持ってしたら作れますよ、格納庫」。話に混ざってきたのはドイの先輩ベッショです。

「ベッショさん、前田の技術を持ってしても無理ですよ」。アニオタのチカダも加わります。思いのほか激論となっています。

「よーし、うちの技術でマジンガーの格納庫作っちゃおう!広報としてWebで設計図と見積もりだすんだよ。空想世界こそが前田のブルーオーシャン。ニューフロンティアに踏み込もう!」。

アサガワの熱弁に、その場のいた社員たちは、目を輝かせ感動しているように見えました。

前田建設ファンタジー営業部の始動です。ファンタジー営業部は、空想世界通信装置なるもので、マンガやアニメの空想世界から発注を受けるというのです。

しかし、冷静に考えると無謀としか言いようがありません。「巻き込まれ事故ですよ」。ドイとベッショ、そしてやる気なし女子社員エモトは、落ち込み気味です。

追い打ちをかけるように、他部署から「うちの品格を落としかねない」と牽制攻撃が続きます。

そんな攻撃も気にしないのが熱血アサガワです。今日も今日とてアサガワのテンションに巻き込まれ、話はどんどん進んでいきます。今更やめようと言えなくなってしまったドイ達。

アニオタのチカダ持参のマジンガーZのDVDで、格納庫の検討に入ります。立坑、ゲートの開閉、ジャッキアップ、格納庫内設備と汚染処理場、そして積算まで。

まず初めに落ちたのは、ベッショでした。家で子供と一緒に「マジンガーZ」を見ているうちに、湧き上がるものがありました。

「待ってる人がいるんだよ」。元々、技術部で設計に携わっていたベッショは、図面を広げます。

「ベッショさん、話が違うじゃないですか」。いちをWEBサイトを開設したドイでしたが、ベッショの変わり様に引いています。

「ようし、掘削は、エモトちゃん行って調べてきてよ」。アサガワの一言で、しぶしぶ土質担当のヤマダを訪ねるエモト。

採掘オタクのヤマダは、それはもうノリノリで迎えてくれました。富士周辺に格納庫を建設するにあたり、土質はどうこう、重機はどうこうと、話は止まりません。

エモトは、しばし意識が宇宙に飛びそうになりながらも、一生懸命現場を案内してくれるヤマダの人柄に惹かれていきます。

「掘削、嫌いじゃないみたいです」。そんなエモトに「心までハート型に掘削されたなー」とからかう面々。

「WEBの反応はどうかな?ドイ。」「立ち上げた時から横ばいです。129アクセス」。ドイだけ、取り残された気分です。

出会いはトイレでやってきました。ドイに声をかけてきたのは、ダムのレジェンドと言われる機械グループのフワでした。

フワは、格納庫の止水と摩擦、そして開閉について、あらゆる質問を出します。ドイが自ら調べ学び考え、答えを出せるように導くのでした。

フワは、ドイをダムに連れていきます。「建設業はまだまだ人をワクワクさせられるんだ」。ドイの心にも熱い火が灯ったようです。

以下、『前田建設ファンタジー営業部』ネタバレ・結末の記載がございます。『前田建設ファンタジー営業部』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

前田建設ファンタジー営業部、アサガワ、ベッショ、エモト、そしてドイは、マジンガーZの格納庫に本気で挑んでいました。

そこへ、メンバーのひとり、アニオタのチカダが駆け込んできます。「マジンガーがぁー!」。

それは、69話「ホパーワイルドの回」でした。マジンガーZが格納庫の中で横移動をしたのです。横移動分の計算はされていませんでした。

「なんで横移動なんかしたんだよ」。「マジンガーを責めるな!」。皆の怒りが諦めに変わろうとした頃、「やってやりましょうよ。格納庫の前田って言わせてやりましょうよ!」声を上げたのは、ドイでした。

ドイの熱意にメンバーも気を取り直します。しかし、ジャッキアップには他にも、速さの問題がありました。

マジンガーZは出動の際、格納庫から10秒以内で地上へ出るのです。今の日本の技術では、到底無理でした。

「こうなったら、プロに聞いちゃう?」。なんとアサガワは、他社の技術のプロにも協力してもらおうと言うのです。

確かに、土質担当のヤマダ、機械グループのフワのように、外部であっても本気で向き合ってくれる人たちがいる。さっそく他社に要請の手紙を出します。

思いのほか、奇特な会社があるものです。何社かの建設のプロが本気で案を出してくれました。皆、口々に言います。「地球の危機なんだよな。頼んだぞ」と。

新人社員ドイは、「遊びは学生の時だけ。社会人になったら粛々と生きていこう」と思っていました。「今はそう思わない」。くだらないことでも本気で熱くなる人でありたい。

シュミレーションの日です。メンバーは一瞬にして空想の世界に入り込みます。

マジンガーZは格納庫の中で横移動もスムーズです。「マジンゴー!」アサガワの掛け声で開く天上。マジンガーZがせり上がっていきます。

プロの知恵が詰まった油圧ポンプとジャッキアップは、出動まで10秒を切る数字をたたきだしました。ベッショの子供も喜んでいます。皆の笑顔も輝いていました。

さて、最後の工程、積算です。「掘削の費用は、トータルで11憶です」。エモトの見積もりに、「たけーよ!でも、ヤマダとの出会いはプライスレス」、アサガワは嬉しそうです。

「機械設備は、61憶です」。ドイの表情も晴れ晴れとしています。「建設期間は6年ですね」。

「機械獣に対抗するため、72憶は出してくれるだろ、弓教官は」。前田建設ファンタジー営業部に笑い声が響きます。

ドイは夢をみていました。空想世界通信装置に弓教授から連絡が入ります。鳴り響く警報。ミレーネ帝国が復活したとのことです。

「マジンガーZの格納庫を正式に発注するよ」弓教官からの正式な発注が入りました。

「実際には作らないんですよね」。ドイは目を覚まします。

前田建設ファンタジー営業部のWEBサイトにはアクセスが集中。サーバーがダウンしてしまいました。やり切ったメンバーの顔は輝いていました。

アサガワは、会社の廊下である人物に遭遇していました。その人物は、宇宙戦艦ヤマトのデスラー総統でした。「発注を頼むよ」。

映画『前田建設ファンタジー営業部』の感想と評価


(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

この映画に登場する「前田建設ファンタジー営業部」とは、日本の高度成長期においてダムやトンネル、発電所など大プロジェクトに関わってきた実在する会社、前田建設工業株式会社の広報グループによるWEB企画です。

アニメやゲームの空想世界の建造物を、前田の技術を持って現実社会に作れるのかを検証。設計図の作成、工期や積算の過程をWEBの記事で公表しています。

一見、突拍子もない企画に、建設のプロが本気で挑戦する姿は、WEBで話題になり、このプロジェクトに協力する仲間がどんどん増えているようです。前田建設工業って、なんて素敵な会社なんだ。

映画では、主人公の新入社員ドイ(高杉真宙)は、プロジェクト始動時、全然やる気がありませんでした。遊びに本気になるのは学生時代だけで、社会人になったら粛々と過ごすものと思っていたからです。

ノリで話が盛り上がることはあっても、仕事となると話は別です。ましてや会社勤めでは、課せられた仕事をこなすだけで精一杯という方も多いのではないでしょうか。

仕事こそ楽しく本気で取り組みたいものです。前田建設ファンタジー営業部の皆さんは、まさに遊び心を仕事に、そして仕事の可能性を広げています。

この映画の面白さのひとつに、主人公のドイだけではなく、始めは乗る気じゃなかった先輩社員たちが、次々と深みにハマっていく過程があります。

優柔不断な先輩ベッショ(上地雄輔)が、子どもに夢を与えたいと態度が一変。マジンガーZの格納庫の寸法について熱くプレゼンする姿にグッときます。

同僚のエモト(岸井ゆきの)は、専門用語を並べられると思考が停止し、宇宙に行ってしまうという、やる気ない女子。

しかし、土質のヤマダ(町田啓太)との出会いで、掘削の魅力にハマっていきます。時に、恋するパワーは仕事のパワーにも繋がるものです。

そして、ヤマダの止まらない土質トークがすごい。演じた劇団EXILEメンバー町田啓太のほんわかオタク演技に癒されます。

実際の掘削(土砂や岩石を掘り取ること)シーンは、重機が岩盤を砕きトンネルを掘り進んでいく迫力の映像となっています。重機マニアならずとも、おぉーと唸ってしまうことでしょう。

また、ドイにダムの面白さを教えてくれた機械グループ担当部長のフワ(六角精児)が、ただ者ならぬ雰囲気で職人の技を見せつけます。

「マジンガーZの格納庫、作るんだよね」と、ドイにせまるフワの本気が垣間見えます。

実際に登場する静岡県の「長島ダム」のシーンは、ダム内部の様子や、ダムから見下ろす絶景が楽しめます。ドイと一緒にダムの見学ツアーを体験できます。

個性豊かな登場人物の中で、このプロジェクトの言い出しっぺ、熱血上司のアサガワ(小木博明)を忘れてはいけません。

口が上手いアサガワに、まんまと乗せられるメンバーたち。周りの反対意見はもろともせず、スタンドプレーで突き進みます。

演じた小木博明のキャラとも見事にハマり、強引だけどどこか憎めない魅力ある人物となっています。

そして物語はクライマックスを迎え、マジンガーZの格納庫の設計図と積算が終了した時は、観ている方も心の底から湧き上がる喜びを感じました。

実際には作らないものの、常識ではありえない問題に頭を抱え、試行錯誤を繰り返し、設計図を出し、工期をたて、見積書を作り上げた「前田建設ファンタジー営業部」の皆さんに拍手を送りたい。

仕事を本気で楽しむということを、今一度考えさせてくれた映画でした。

まとめ


(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

「うちの技術で、マジンガーZの格納庫を作っちゃおう!」。実在する前田建設工業株式会社で始まったプロジェクトを基に映画化した『前田建設ファンタジー営業部』。

マンガやアニメの架空世界の建造物を、現代の技術を持って作り上げようとする熱きサラリーマンたちの挑戦を描いています。

一見くだらない物事にでも、本気で取り組む大人の姿はカッコイイ。映画館では、家族連れも多く見られました。子どもたちの目にはどう映ったのでしょうか。

仕方なく、何となく、生活のためにと、日々疲れ切って働くサラリーマンのみなさん。発想の展開で、思いもよらなかったブルーオーシャンが目の前に広がっているかもしれません。

ニューフロンティアに飛び込むかどうかはあなた次第です。

映画『前田建設ファンタジー営業部』は2020年1月31日(金)より新宿バルト9・イオンシネマほか全国公開。


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