あの「カメ止め」がフレンチ風「キャメ止め」に!?
国境を越えた映画愛に感動。
映画製作費が低予算にも関わらず、一大ブームを巻き起こした上田慎一郎監督作品『カメラを止めるな!』(2018)が、『アーティスト』(2012)でアカデミー賞を獲得したミシェル・アザナビシウス監督により、この度リメイクされました。
「早い、安い、クオリティはそこそこ」。そんな監督レミーの元に、日本で大ヒットを記録した映画『ONE CUT OF THE DEAD』のリメイクの話が持ち込まれます。
ゾンビ映画の30分間ワンカット撮影で生放送という「無茶過ぎてずっこける」提案に、レミーは挑戦することに。
文句ばかりの俳優に、次々に問題を起こすスタッフ、全く話が噛み合わない日本人プロデューサー、終いには家族も巻き込み、撮影現場は大混乱。
オリジナルへの深いリスペクトも感じられ、国境を越えた映画愛に感動すら覚える映画『キャメラを止めるな!』を紹介します。
映画『キャメラを止めるな!』の作品情報
【日本公開】
2022年(フランス映画)
【原案】
和田亮一、上田慎一郎
【監督】
ミシェル・アザナビシウス
【キャスト】
ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、セバスティアン・シャッサーニェ、ラファエル・クナール、リエ・サレム、シモーヌ・アザナビシウス、アニエス・ユルステル、シャーリー・デュポン、ルアナ・バイラミ、ジャン=パスカル・ザディ、竹原芳子
【作品概要】
監督もキャストも無名、製作費低予算にも関わらず、熱狂的な口コミで観客動員220万人、興行収入32憶円を突破し、大ブームを起こした映画『カメラを止めるな!』(2018)のリメイク版がフランスで製作されました。
監督は『アーティスト』(2012)で、アカデミー賞作品賞を始め5部門を制した『グッバイ・ゴダール!』(2018)のミシェル・アザナビシウス監督。
出演者には、フランスで人気を誇る『パパは奮闘中!』(2018)のロマン・デュリス、『ある過去の行方』(2014)でカンヌ国際映画祭女優賞に輝いたベレニス・ベジョが夫婦役で登場。
また強引な日本人プロデューサー役に、オリジナル版でも強烈な印象を残した竹原芳子が出演し、これまた癖のある演技で笑いを誘います。
映画『キャメラを止めるな!』のあらすじとネタバレ
血だらけのチナツが、ゾンビ化したケンに追い詰められています。「止めて、こないで」。首筋に噛みつくゾンビ。「あぁ、愛してる」。
監督は、納得がいかない顔で女優に詰め寄ります。現場から「何テイク目?」「31テイク」と呆れた声が聞こえてきました。
「もっと怖がって!」。この映画にすべてをかけている監督は、演技指導にも力が入ります。チナツに対するダメ出しは次第にヒートアップ。
怒鳴り散らす監督を、ケンが止めに入りますが、「お前は文句ばっかりなんだよ」と反対に殴られてしまいました。
撮影は中断。この撮影現場に違和感を感じたケンはメイク係のナツミから、この現場にまつわる都市伝説を聞きます。
その昔、日本軍がこの場所で死人を生き返らせる実験を行っていたとか。「血の星により彼らは蘇る…」。詳しい話はカメラマンのホソダが知っているようです。時間を持て余す3人は、しょうもない雑談を繰り広げます。
そういえば先ほどからホソダの姿がありません。助監督のヤマコシが外の空気を吸いに出ると、顔色の悪いホソダが近づいてきます。
ゾンビに変異したホソダは、ヤマコシに襲い掛かり盛大にゲロを浴びせます。「ギャー」外の異変に気付いたチナツとケン、ナツミの前に切り落とされた片腕が飛んできました。
はじめは小道具だと思った3人。腕時計がヤマコシのものと知り慌てます。そこに片腕のないゲロまみれのヤマコシが襲いかかってきました。
「ウデ、ウデ」、腕を探し求めるヤマコシから逃げ惑う3人。そこに監督がカメラを回して乱入してきます。「いいよ!その表情だ」。
監督は、映画にリアリティを求めるあまり、この場所に伝わる「血の星」の儀式をし、死人を蘇らせたと言います。
その時、入り口でおとなしくしていたマイク担当のアキラが、外へ出ようとしていました。「外は危険だ」と止める監督を押し切り、外へと走り出るアキラ。
「ジョナサン!」見知らぬ名前を叫ぶ監督。「俺が連れ戻す!キャメラは止めるな!」そう叫び、外へと飛び出していきます。
残された3人は、ただただ呆然としていました。謎の沈黙が流れ、互いに無事か何度も確かめ合います。
しばらくすると、扉の外から監督の声が聞こえてきました。「開けてくれ!アキラもゾンビになってしまった」。
扉を開けると、ゾンビ化したアキラが皆に襲い掛かってきます。監督は相変わらず「その調子だ!」と興奮しながらカメラを回していました。呆れる3人。
護身術の使い手でもあるナツミが、斧を振り上げアキラの首をはねます。「車で逃げよう」。ケンの提案で皆は外に止めてある車に走りましたが、車の鍵はヤマコシが持っています。
そこに切り落とされた腕を抱えながら、ゾンビのヤマコシが襲ってきました。カメラが倒れたような変なアングルで、なんとか逃げ切ったチナツでしたが、足首の傷をナツミに見られ、今度は自分が追われる立場となってしまいます。
「噛まれたのね。あなたもゾンビになるわ」。チナツに斧を振り下ろそうとするナツミを、ケンが止めに入ります。
「キャーッ」チナツの長い悲鳴が繰り返されます。気付けば、ナツミの頭に斧が刺さり倒れていました。血しぶきを浴びたケンを避けるようにチナツは、離れの小屋に駆け込みます。
うめき声と共にゾンビが小屋に入ってきました。息を潜め危険をやり過ごしたチナツ。そこで偶然にも斧を手に入れたチナツは、ケンの元へ戻ります。
しかし、時すでに遅し。ゾンビとなってしまったケンが、チナツに襲いかかります。「止めて!ケン」。見計らったかのように監督がカメラを回し現れました。「いいぞ、最高だ!」。
「許して」。チナツは斧でケンの首をはねます。「おい!何してんだ。お前も噛まれるはずだろ!」。ここに来てエンディングにこだわる監督に、チナツがブチ切れます。
監督を階段へと追い込み、斧を振り下ろすチナツ。「カット!カット!」半狂乱で何度も斧を振り下ろします。
返り血で真っ赤に染まったチナツは、ふらふらと歩き出します。そして向かった先には、血で書かれた大きな五芒星がありました。「はい、カッートッ!」。
映画『キャメラを止めるな!』の感想と評価
2018年、製作費低予算、監督も俳優も無名だったにも関わらず、異例の大ヒットを記録した上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』が、4年の時を経てリメイク。なんと、フランス映画になって戻ってきました。
さらに、監督はアカデミー賞作品賞を受賞しているミシェル・アザナビシウス監督。出演者もフランスで人気の俳優たちが集結。
制作費も心配いらない、監督も俳優も有名という「カメ止め」とは正反対の「キャメ止め」。まったく別作品になるのではと予想するも、見事に裏切られました。
オリジナルの「カメ止め」に忠実でありながらも、フランス流のギャグが盛り込まれ、オチを知っていながらも、新鮮な気持ちで楽しめる作品となっていました。
あまり多くのことを語らずとも、独特の間で笑いが生まれる日本とは違い、早口でしゃべりたおすテンポの良さが特徴のフランス映画。
「キャメ止め」では、この文化の違いさえも上手く取り入れられ、世界中どこの国でも楽しめる映画になっています。
前章にあたる30分の生放送部分では、裏でトラブルが起こっている間、演者たちが時間を繋いだり、臨機応変に演じ続けなければなりません。まさに、キャメラを止めるな!の場面。
フランス版では、互いに「大丈夫か?」を繰り返す可笑しなシーンがあります。「エスク・サヴァ?」「サヴァ」。「サヴァ?」「サヴァー」。
フランス語のオシャレな響きと、日本の気まずい間の取り方が見事に融合されており、このサヴァの下りだけで30分いけそうなほどインパクトがありました。
物語の後半は、ゾンビ映画の生放送だったという種明かしの裏で起こっていたトラブル、登場人物の人となり、レミーの家族の物語も盛り込まれます。
酔っぱらったフィリップとお腹を壊したジョナサンの役たたずさに笑い、ナディアの暴走演技を止めに走るレミー監督に笑い、周りのスタッフの慌てっぷりに笑います。
しかし、ドタバタ劇を笑ってみているうちに、演者もスタッフも誰一人諦めず、困難を乗り越え共に最後まで完走しようとする姿に、これぞ「カメ止め」と感動を覚えます。
また、「早い安いクオリティはそこそこ」と評判だったレミー監督が、同じ監督志望の娘ローラの、仕事に対して妥協しない姿勢を見て、忘れていた映画への情熱を取り戻していく過程もみどころです。
何度も諦めそうになるレミーに、娘のローラの存在が力を与えてくれました。決して諦めないレミー監督の姿に、バラバラだったスタッフが次第にひとつになっていきます。
回収されて行く伏線の数々、トラブルを乗り越えるための強引なアイディア、ノンストップで駆けまわるスタッフたちの見事なフットワーク。
日本版でもそうでしたが、すべてやり切った後、映画を作る者たちの熱き情熱に拍手を送りたくなります。
まとめ
日本映画『カメラを止めるな!』(2018)のリメイク作品、フランス映画『キャメラを止めるな!』を紹介しました。
オリジナルに忠実でありながら、フランス流のエッセンスを利かせた、極上エンターテインメント映画になっています。
オリジナルの『カメラを止めるな!』(2018)を見て、フランス版『キャメラを止めるな!』を見て、「やっぱり映画っていいな」と、国境を越えた映画愛をご堪能ください。