『お名前はアドルフ?』が2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開中
映画『お名前はアドルフ?』は、ヨーロッパに痛快な旋風を巻き起こした舞台を映画化した、90分の会話劇です。
ドイツのボンに住む夫妻が、ある日弟とその恋人、幼なじみをディナーに招待しました。弟がもうすぐ生まれる子どもの名前はアドルフと発言したことをきっかけに、舌戦の火ぶたが切って落とされます。
監督は『ベルンの奇蹟』のゼーンケ・ヴォルトマン、会話劇を繰り広げる5人はクリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ヤニーナ・ウーゼ、主に電話での会話となるのがイリス・ベルベンです。
CONTENTS
映画『お名前はアドルフ?』の作品情報
【公開】
2020年公開(ドイツ映画)
【原題】
Der Vorname
【脚本】
クラウディウス・プレーギング
【監督】
ゼーンケ・ヴォルトマン
【キャスト】
クリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ヤニーナ・ウーゼ、イリス・ベルベン
【作品概要】
ライン川のほとりに佇むエレガントな一軒家で、ディナーパーティーが始まろうとしていました。この家の主は、哲学者で文学教授のシュテファンと国語教師のエリザベト夫妻。2人からディナーに招かれたのは、エリザベトの弟トーマスと出産間近の恋人アンナ、幼なじみで音楽家のレネです。楽しい時間になるはずが、トーマスが生まれてくる子どもの名前を「アドルフ」にすると発表したことから、激しい討論が始まります。世界史・政治・宗教・芸術など、あらゆる角度から語られる「名前」に関する激論。一応決着はつくのですが、それは、その場にいた全員がさらに大きな秘密を知ることになるきっかけにすぎませんでした。
映画『お名前はアドルフ?』のあらすじとネタバレ
ドイツ・ボンに住むシュテファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)とエリザベト(カロリーネ・ペータース)夫妻。シュテファンはドイツ現代文学が専門のボン大学の教授、エリザベトは国語教師を務めるインテリ夫婦で、2人は小学校からの幼なじみです。
ある日二人は、エリザベトの親友のレネ(ユストゥス・フォン・ドホナーニ)、彼女の弟のトーマス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)とその恋人のアンナ(ヤニーナ・ウーゼ)をディナーに招待しました。
クラリネット奏者のレネは、幼い頃に両親を亡くしてエリザベトの家に引き取られ、エリザベトとはすべてを打ち明け合う間柄です。
トーマスは勉強が苦手でしたが、不動産業で大成功をおさめて、この日の手土産も高級ワイン。恋人のアンナとの間にもうすぐ子どもが生まれ、まさに順風満帆、とても優雅な暮らしをしています。
生まれてくる子どもが男の子だと報告するトーマスを囲んで、どんな名前をつけるのかと話が盛り上がります。
「名前を当ててほしい」というトーマスに対し、ドイツでポピュラー名前、男らしい名前など、ありとあらゆる名前があげられますが、当たりません。
エリザベトの「ヒントが欲しい」というリクエストに対し、トーマスは「Aで始まって、歴史に関する名前」と答えます。
インテリぶりをひけらかすシュテファンは、絶対に名前を当てようと躍起になりますが、いずれもはずれてしまいます。最終的に全員がギブアップして、トーマスから明かされた名前は、なんと「アドルフ」でした。
映画『お名前はアドルフ?』の感想と評価
知的好奇心がくすぐられる90分の会話劇
本作品は2010年にパリで初上演され、イギリス、ドイツでも大成功を収めた舞台の映画化です。
生まれてくる子どもにアドルフと名付けるという爆弾発言に対し、実にさまざまな意見が交わされます。「アドルフ・ヒトラー」にまつわる歴史に関することは、すべてのドイツ人の心の中にあるであろう、第二次世界大戦の苦い記憶。
時が流れても、そこは変わらないのだということを思い知ります。日本人として、そうしたところに深い共感を覚える人も多いでしょう。
そしてアドルフの代わりに挙げられる名前に対して、ことごとく反論するトーマスの言い分も興味深いです。
イタリアの独裁者・ムッソリーニだけでなく「どこかの国の独裁者と同じ名前だ」「連続殺人鬼と同じ名前だ。何人殺せば名前が使えなくなるのか」と語る姿は、幼い頃に勉強が苦手だった人とは思えません。
名前とは一体何なのか、人はどんな思いで名前をつけるのかということを、とことん話し合う5人。
歴史や宗教、文化など、あらゆる角度から「名前」について語る5人の会話に耳を傾けていると、知的好奇心が思い切りくすぐられます。
個性際立つ魅力的なキャスティング
会話劇を繰り広げる5人は個性豊かな面々ですが、中でも特に癖が強いのが、シュテファンです。
物語の冒頭、ピザ屋が間違えてシュテファン宅へ配達に来てしまうのですが、「うちは注文していないよ」と言えば済むものの、「ピザの値段が高い」などと、難癖をつけてピザ屋に食ってかかります。
あっけに取られているピザ屋を徹底的に論破するシュテファン。身近にこのような人がいたら、ちょっとゲンナリしてしまうかもしれません。
そんなシュテファンと劇中で「アドルフ」という名前について激論を繰り広げるトーマスは、シュテファンを「エセインテリ」と言い放ちますが、どこか人を見下したように話すところに、トーマスは「エセ」っぽさを感じたのかもしれません。
そんなトーマスもお調子者で、ちょっと自分勝手なところがある人物です。恋人のアンナとの間に子どもが生まれるものの、アンナは生まれる前から子育てに非協力的な発言をするトーマスに不満を持っています。
そしてインテリぶりをひけらかすシュテファンを皮肉ったり、レネを意地悪なあだ名で呼んだりするところもあり、そうかと思えば、レネの秘密を知った時に喚き散らす姿は、まるで駄々っ子です。
こんな癖の強い2人とともにいるエリザベトとアンナは大変だろうな…と思うのですが、彼女たちも黙ってはいません。
誤解はあったものの、生まれてくる息子の名前をけなされた時に「許せない!」とばかりに自分の想いを爆発させるアンナ。
そしてなんといっても物語の終盤、言いたい放題、やりたい放題のシュテファンとトーマスに向けて大爆発するエリザベトの「演説」は物語最大の見せ場といっていいでしょう。
最終的に衝撃の事実を打ち明けるレネは、終始5人の中でも控えめで平和主義を貫いていたため、その破壊力は抜群でした。
エリザベトと電話で会話するシーンでしか登場しないドロテアとともに、この物語のおいしいところをすべて持っていったような気がします。
まとめ
物語は、シュテファンとエリザベト宅のダイニングルームとキッチンを中心に展開していきます。せっせとディナーの準備をするエリザベトとは対照的に、電話がかかってきたり、来客があっても対応しようとしないシュテファン。
日本の女性は「日本の男性は家事に協力的ではない」と嘆くことが多いですが、ドイツでも同じなのか……と感じる人もいるのではないでしょうか。
途中「料理を作っていてごめんなさい」とエリザベトがシュテファンに対して皮肉るシーンもありますし、日々の不満を爆発させたエリザベトの大演説を聞いて「よく言った!」と拍手をおくる女性もいることでしょう。
ドイツと日本の共通点を見つけながら楽しめる作品でもあるのです。
『お名前はアドルフ?』は、2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開中