連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第1回
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Cinemarcheのシネマダイバー・レイノルズ村上がご紹介する連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第1回は、ロシア連邦保安庁の報復行為によって妻子を失ったアメリカ海軍特殊部隊員、ジョン・ケリーの攻防を描いた映画『ウィズアウト・リモース』です。
CIA諜報員救出作戦のためにシリアに赴いたアメリカ海軍特殊部隊所属(Navy SEALDs)のジョン・ケリー。しかし、彼を待ち受けていたのはロシア国籍の傭兵だった……。
ドゥニ・ビルヌーヴ監督のヒット作『ボーダーライン』のスピンオフ、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』で監督を務めたステファノ・ソリマと、同作で脚本を担当したテイラー・シェリダンが再びタックを組んだことで注目を浴びた本作『ウィズアウト・リモース』。
図らずも政府の陰謀に巻き込まれていく主人公たちを、スリリングなアクションの渦中に置き、全体的に陰鬱なタッチでまとめあげた作品です。
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映画『ウィズアウト・リモース』の作品情報
【配信】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Tom Clancy’s Without Remorse
【脚本】
テイラー・シェリダン
【監督】
ステファノ・ソリマ
【キャスト】
マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・ビル、ジョディ・ターナ・スミス、ローレン・ロンドン、ブレット・ゲルマン、ガイ・ピアース
【作品概要】
1996年発行のベストセラー小説『レッド・オクトーバーを追え』を著したトム・クランシー原作の『ウィズアウト・リモース』。
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)や『ブラックパンサー』(2018)の人気俳優マイケル・B・ジョーダンが、主演に加えて制作も務めました。
その他にも、『リトル・ダンサー』(2000)のビリー・エリオット役を演じたジェイミー・ビル、ベテラン俳優のガイ・ピアースが脇を固めています。
新型コロナウイルスの影響から、パラマウント映画配給の劇場公開は見送られ、Amazonでの独占配信として公開されました。
映画『ウィズアウト・リモース』のあらすじとネタバレ
CIA諜報員がシリアに拘留されたとの通達を受け、救出チームの一員として現場に赴いたジョン・ケリー。
圧倒的な戦力で相手を殲滅し、目標を救出した彼らでしたが、骸を見渡すと、シリア人のほかにロシア国籍の傭兵が混じっていることがわかりました。
事前にロシア兵の存在を聞かされていなかったジョンたちは、作戦指揮官のCIA職員リターに作戦の全貌を教えるように詰問しますが、末端の兵士が知るものではないと、はぐらかされてしまいます。
ジョンには妻がおり、もうじき生まれる子供のために特殊部隊から籍を外し、民間の警備会社に勤めることを決めます。
彼の決断に妻や親戚一同は感心し、祝宴が開かれました。
しかし、その晩に悲劇が起こります。
宴の後でジョンがひとり、リビングでくつろいでいたところ、急に停電が起こります。
不審に思った彼は、妻のいる寝室に向かいますが、そこで彼が見たのはすでに事切れた妻の姿でした。
あっけにとられたジョンは、侵入者から狙撃を受け、決死の攻防の末に瀕死の状態に陥りますが、駆け付けた救命隊員によって病院に搬送されます。
そこで聞かされたのは、ジョンを含め先日のシリア潜入作戦に関与していた特殊部隊員の大勢が、ロシア国籍のヒットマンによって報復を受けたという事実でした。
ジョンの邸宅を襲撃したロシア人にパスポートを発行していたのは、元FSBのワシリエフということが判明。
ジョンはすぐにワシリエフのもとを襲撃し、妻を殺害した犯人についての情報を聞き出します。
犯人はヴィクトル・ルイコフだとわかったのはいいものの、ワシリエフを殺した罪でジョンは刑務所に入ることになります。
一方、一連の報復行為に危機を感じたクレイ国防長官は、秘密裏にロシアへ忍び込み、ヴィクトル・ルイコフを殺害する特殊チームを編成。
ジョンは作戦に参加する間だけ、刑務所から出られることになりました。
映画『ウィズアウト・リモース』の感想と評価
ヒロイックなアメリカ映画(主に国家、軍事もの)には、対立要素として様々な国や思想の存在が描かれてきました。
古くは大戦直後、トルーマン大統領のアメリカ政府内における共産党員やそのシンパを排除する姿勢が、ハリウッド内部にまで飛び火し、対共産主義という構図は国民に恐怖を植え付けるとともに、強いアメリカを誇示するための格好の題材として、以後ながらく取り扱われました。
60年代後半から、70年代なかばには、内省的でリベラルな映画が多く誕生しましたが、80年代になると保守政権が復活し、またしても共産主義やソ連の存在がアメリカのライバルとして描かれるようになりました。
そして本作『ウィズアウト・リモース』も、国防省高官がロシアとの戦争をでっち上げるという、いかにもオールドスクールな設定なために、「古くさい」とか「今どきありえない」といった声も多かったようです。
ただ、それだけで作品の評価をしてしまうのはあまりにもったいない。というより、それ以上に目を見張る点も多くあるのではないでしょうか。
ステファノ・ソリマ監督の演出には、アクション映画好きにはたまらないポイントがいくつもあります。
冒頭の水面下からのステルス攻撃は、いかにもグリーンベレーのゲリラ戦法的な趣があり、視界不良の中の銃撃戦も、暗視スコープを通した緊張感ある演出が施されていました。
中盤には、ジョンたちを乗せた旅客機が水面に墜落し大破する、思い切りのあるサバイバルシーンが用意され、そのあとの市街戦では道を隔てた2つのビルで、敵味方が互いの姿が見えない中、手探りの攻防が繰り広げられます。
このような大胆な演出や、細やかな空間使いの妙がアクションに緩急をつけているのですが、もう1つ興味深い点があります。
なんとステファノ・ソリマ監督の父親は、マカロニウェスタンの巨匠であり、社会派マカロニアクションを手掛けたセルジオ・ソリマなのです。
キャリア後期に公開されたチャールズ・ブロンソン主演『狼の挽歌』では、終始ドライな空気が横たわり、淡々と仕事をこなしていくヒットマンを描きました。
なるほど、そう考えれば『ウィズアウト・リモース』の復讐心に燃えるジョン・ケリーの応酬が、大味なアクションに引っ張られることなく、全体的に暗いトーンで描かれていたのも納得です。
事実、ステファノ・ソリマ監督は映画づくりにおいて、父セルジオの影響を受けたといいます。
政府高官が陰謀を企てるという、ある意味「無秩序」の組織は、西部開拓史の無法地帯にどことなく似ており、そのなかで信念を貫くジョン・ケリーは、孤高のガンマン然とした趣があるともいえます。
また、脚本のテイラー・シェリダンも、これまでの『ボーダーライン』(2015)や『ウィンド・リバー』(2017)といったヒット作につづき、今回もいわゆる「グレーゾーン」に言及しています。
ヴィジランテ映画には付き物ですが、混沌とした社会情勢の中、もはや司法も警察機能も通用しない、善と悪の境目がゆがんだ状態の場合、時として個人の自警主義は正当化されるのか、という問いです。
主人公ジョン・ケリーの行き過ぎた報復行為は超法的であり、社会通念の観点からは許されるものではありません。
当然ジョンは罰を受け、身分をはく奪されます。
報復行為による暴力は称賛されるべきではありませんが、しかし、自分の信念に基づいた確固たる姿勢は、様々な情報が錯綜する現代において、誰しもが持たなければいけないものではないでしょうか。
まとめ
これまでに幾度となく映画化されてきたトム・クランシーのシリーズ小説『ジャック・ライアン』。
その中で登場する特殊部隊レインボー創設に関わったジョン・クラーク誕生の前日譚的な位置づけの作品『容赦なく』が、映画『ウィズアウト・リモース』の原作です。
『容赦なく』の発行当時から、ジョン・ミリアス脚本での映画化が計画されていましたが、オリジナルの時代設定、登場人物の性別や人種に大幅な変更を加え、2021年に公開の運びとなりました。
もしジョン・ミリアスの担当で映画化されていたら、彼は筋金入りの保守作家なので、本作とはまったく毛色の違う作品に仕上がっていたでしょう。
本来であれば劇場の大きなスクリーンで鑑賞したかった本作ですが、Amazonでの独占配信となったことにより、ドラマ版『ジャック・ライアン』(こちらもAmazonオリジナル)とのコラボレーションが期待できそうです。
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