連載コラム『心を揺さぶるtrue story』第2回
日本ですっかりメジャーな存在となった韓国映画。特に時代物はテレビドラマも数多く放送されていることもあり、ファンだという方も多いことでしょう。
今回ご紹介する映画『世宗大王 星を追う者たち』は、明の支配下にあった朝鮮を自立した国にしたいと願った朝鮮王朝第4代王・世宗と、王を支えた科学者チャン・ヨンシルとの友情物語です。
映画『世宗大王 星を追う者たち』は、2020年9月4日(金)よりシネマート新宿他全国順次ロードショーされます。
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CONTENTS
映画『世宗大王 星を追う者たち』の作品情報
【日本公開】
2020年(韓国映画)
【監督】
ホ・ジノ
【脚本】
チョン・ボムシク、イ・ジミン
【キャスト】
ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、シン・グ、キム・ホンパ、ホ・ジュノ、キム・テウ、
【作品概要】
朝鮮王朝第4代王・世宗と科学者チャン・ヨンシル。王と奴婢という普通であれば出会うはずのない2人が、「朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢と信念を共にした、君臣の固い絆を描いています。『八月のクリスマス』(1999)『四月の雪』(2005)のホ・ジノが監督を務め、第4代王・世宗(セジョン)にはハン・ソッキュ、天才科学者・チャン・ヨンシルをチェ・ミンシクが演じ、韓国映画の名作『シュリ』(2000)以来20年ぶりの共演が実現しました。
映画『世宗大王 星を追う者たち』のあらすじ
朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。
第4代王・世宗(ハン・ソッキュ)は、奴婢の身分だったチャン・ヨンシル(チェ・ミンシク)の優れた才能を認め、武官に任命します。
豊富な科学知識と高い技術を持つヨンシルは「水時計」や「天体観測機器」を次々に発明。それらは庶民の生活に大いに役立てられました。
一方で、「明の従属国という立場から脱し、朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢をもつ世宗は、朝鮮独自の文字である“ハングル”を創ろうとしていました。
天と地ほどの身分の差を超え、特別な絆を結んでいく2人。しかし朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、密かに2人を引き離そうとします。
そしてある日、世宗を乗せた輿(コシ)が大破する大事故が発生。輿の製作責任者であるヨンシルに疑いの目が向けられてしまいます。
映画『世宗大王 星を追う者たち』の感想と評価
身分を超えた友情物語
日本でも朝鮮王朝を題材にしたドラマを多く見ることができるようになり、私たちにとって身近な存在となってきました。
壮大な歴史ドラマは、過去に思いを馳せることができるところに大きな魅力があります。そして朝鮮王朝ものの特徴として、必ずといっていいほど美しく聡明なヒロインが登場し、男女の恋物語を描くことが主流となっています。
しかし本作では、朝鮮王朝を独立した国に変えようとした一人の王と、奴婢から武官に出世し科学者として王を支えた男との、いわば「男の友情」を描いています。
そのため、美しく艶やかな女性はほとんど姿を見せず、時には男同士が火花を散らし合う、硬派な政治ドラマになっているのです。
第4代王・世宗は、ハングル文字を生み出した王として知られています。偉大な王として語り継がれ、韓国の紙幣に描かれていますし、ソウル市内には銅像も建っています。
彼の心の中に常にあったのは、朝鮮の民が安寧な生活を送れるように願うこと、そして明国の支配下にある朝鮮を自立した国にしたいという夢でした。
当時の朝鮮は、時間の流れでさえも明の暦法に従わされていたため、米の不作が大きな悩みとなっていました。王は、民が困らないように朝鮮独自の暦を作り、太陽が沈んでも時刻を正確に知ることができる「水時計」の構造に注目します。
そんな時に出会ったのが、奴婢のチャン・ヨンシルでした。あるきっかけで雑用係をしていたヨンシルに目を止めた世宗は、奴婢という低い身分でありながら、彼の並外れた科学の知識に驚きます。
そしてヨンシルは水時計を作り、さらには朝鮮独自の天体観測機器「簡儀(カニ)」を生み出すことに成功します。
これにより正確な暦を知ることができるようになった朝鮮は、米不足を解消することができたのでした。
こうした出来事をきっかけにして、ヨンシルへ全幅の信頼を寄せるようになった世宗。次第に2人の間に友情と深い絆が生まれていきます。
星を見ることが好きな世宗とヨンシルは、満点の星を仰ぎ見ながら、それぞれの夢を語り合います。世宗に促され、恐れ多くも王の隣で横になるヨンシル。
権力争いや陰謀が渦巻く王宮で、常に厳しい決断に迫られ、孤独と戦わなければいけない世宗にとって、ヨンシルと一緒にいる時こそが、唯一安らげる時間なのでした。そんな二人が星を見上げて語り合うシーンは、とても印象に残ります。
恐ろしきは男の嫉妬
どの世でも特定の部下が上司にかわいがられることを快く思わない人たちがいます。明の顔色をうかがう臣下たちの中には、世宗とヨンシルが身分を超えた友情を育んでいくことを危惧する者もいました。
そんな中、朝鮮が独自の道を歩もうとしている姿に危機感を覚えた臣下たちが、朝鮮国内で行われていることを明の皇帝に密告します。
これをきっかけにして、ヨンシルは王宮へ入ることを禁じられ、天文学とは無縁の王が乗る輿の製作部署に配属されてしまいます。そればかりか、ヨンシルが作り上げた天文儀器がすべて焼却されるという事態にみまわれてしまいます。
ここから、朝鮮王朝ものの定番ともいえる世宗とヨンシルをめぐる陰謀が渦巻いていきます。当時力のある明に逆らうと恐ろしいことになる……という気持ちからこうした動きが出てくるのですが、個人的にはただそれだけではないような印象を受けます。
つまり、王から全幅の信頼を受け、奴婢から武官に登用されたばかりか、寵愛されるヨンシルへの嫉妬が少なからず背景にあるのではないでしょうか。
日本では、時代劇において大奥を例に挙げ、女の嫉妬を描くことが多いのですが、本作では「女の嫉妬よりも怖い男の嫉妬」を目の当たりにします。
ヨンシルが貫きとおす世宗への友情
ヨンシルが作り上げた天文儀器を焼き払うことを断腸の思いで指示した世宗は、ヨンシルを捕らえる臣下たちの動きを止めることができなかったことで、失意の底に落とされます。
もはや自分には威厳がないと悟った世宗は、息子へ王位を譲ろうとし、療養と称して王宮を離れる決意をします。大雨の中、輿で移動する世宗の身に大事故が起きます。
世宗は、この事故が起きたことでヨンシルが罪を問われる可能性を考え、背景に大きな陰謀があると踏みます。そこで密かに調査を命じヨンシルを守ろうとします。
しかしヨンシルは、自分が矢面に立つことで世宗を守ることができること、そして世宗の夢である朝鮮が独立した国になることができると考え、世宗の思いを拒否します。
物語のラストで、世宗が捕らえられたヨンシルと言葉を交わすシーンがあります。表立ってヨンシルを擁護する発言ができない世宗でしたが、ヨンシルを救うために力を尽くします。
この場面では、2人が目と目で語り合い、互いの心の中で言葉を発する無言の芝居を繰り広げます。身分を超えて夢を語り合ってきた2人にしか分からないやり取りに、思わず息をのんで見守ってしまうことでしょう。
「男の友情、ここにあり」というのを体現している感動的なシーンに仕上がっています。
まとめ
韓国を代表するベテラン俳優ハン・ソッキュが、朝鮮王朝の歴史に名を残す偉大な王に挑んだ本作。いつの時代も何か新しいことを生み出そうとするときは、苦しみや悲しみが伴うものなのだと感じました。
先人たちの苦悩があったからこそ、今がある。これからどんな未来にしていきたいのかと思い悩んだ時は、歴史を振り返るということが一つの指針になるのでは……と思います。実話を描いた映画を観ることは、そんな気付きがあることも魅力かもしれません。
次回の連載コラム『心を揺さぶるtrue story』もお楽しみに。
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