連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第101回
今回紹介する映画『トスカーナ』は、Netflixで2022年5月18日(水)から配信開始された作品です。
デンマークでシェフとして働く男に、絶縁中だった父の訃報が届きます。父の遺産の確認をしに、イタリアのトスカーナに渡った男が、そこで働く女性との交流の中で自分を見つめなおす物語です。
デンマーク映画である本作ですが、本作はイタリアのトスカーナを舞台にしており美しい風景が多く見られる一作となっています。
それでは、あらすじや見どころを解説していきます。
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映画『トスカーナ』の作品情報
【公開】
2022年(デンマーク映画)
【原題】
Toscana
【監督・脚本】
メヒディ・アヴァス
【キャスト】
アナス・マテセン、クリスティーナ・デランテ、アンドレア・ボスカ、ギタ・ナービュ、セバスチャン・イェセン、アリ・アレクサンダー、クリストファー・ニッセン、カロリーネ・ブリグマン、ラーケ・ウィンザー、クリストファ・ジンディル、チュー・エルステッド・ラスムッセン
【作品概要】
監督のメヒディ・アヴァスは、『Mens vi lever』(2019)や、北欧映画の「特捜部Q」シリーズなどで知られるニコライ・リー・コス主演の『Kollision』(2019)等デンマーク映画を製作している監督です。
主演のアナス・マテセンは、『リトル・ニンジャ 市松模様の逆襲』(2018)の共同監督・脚本を務め、『特捜部Q 知りすぎたマルコ』(2021)に出演しています。
映画『トスカーナ』のあらすじとネタバレ
デンマークでシェフをしているテオ・ダールは、3週間前に父親が亡くなったという知らせを受け取ります。リストンテ(レストラン)を含む遺産が残されているという内容のピノ・コンティという人物からの手紙でした。
そこへ、ヨナス・ツォイテンが投資の話でやって来ます。父の死の知らせを聞いたばかりで動揺していたテオは、調理場で話しかけるヨナスに怒鳴りつけてしまいました。
実家で母と話すテオ。新しい店を成功させようと必死なテオに対し、怒りを抑えていると指摘されます。
仕事のパートナーであるメルルから、ヨナスとの交渉が破談になったせいで900万クローネの損失になったこともあり、イタリアに行って父親の遺産の話をするよう言われます。
トスカーナにやってきたテオ。リストランテでボトルの水を頼むと、店員の女性ソフィアが、氷が入ったグラスにボトルの水を注いだので、テオは慌てて止めます。
テオは、氷入りのグラスに入れるとボトルの水と混ざってしまうと言うと、ソフィアは文句を言われたと怒り、揉めてしまいました。
テオが支払いでカードを出すと、テオの名前を見たソフィアは、お代は結構だと言います。
テオは、ピノ・コンティに会いに、彼がいるオリーブ畑にやって来ました。畑を売る予定だと話しますが、時間を要するのでその間のんびり過ごすように言われます。
宿のベッドで横になっていたテオでしたが寝付くことができず、キッチンを片づけ、掃除をし、料理を始めます。サンドイッチを作って食べました。
テオが外で景色を眺めながら座っているとソフィアがワインを持ってやって来ます。そこでテオの父は毎晩ワインを飲んでいたと言います。
ソフィアは少しだけデンマーク語を話すことができました。ソフィアはその畑一帯に木を植えたり、リストランテの経営をしてきました。
この土地の価値はなく、ゴミ同然だと言うテオに、父親のつぎ込んできた魂や歴史があると言います。テオはソフィアの話を聞き入れません。
テオの父親の石像の土台部分に「みんなと同じく特別」と書かれた文章を見て、テオはソフィアに偽善だと言い放ちます。
テオがリストランテのキッチンへ行くと、結婚式の料理の準備中でした。味見をしたテオはとても結婚式には出せないと言います。
庭にあるオレンジなどを使うと良いのにというテオに対して、費用の制約があり、50人分の料理を準備できないと答えるソフィア。テオは愕然とします。
ソフィアはピノとの結婚式の準備のためにピノを探していましたが、姿が見えません。テオは暇だから何か手伝うと申し出ます。
ソフィアをバイクの後ろに乗せて牧場にやってきたテオ。絶品のチーズを食べ、そのチーズを土産に持たされました。2人は打ち解け始めていました。
ソフィアの家にやってきたテオ。彼女の部屋には写真がたくさん貼ってありました。その中の1枚に見覚えがあるテオが尋ねると、昔のテオとソフィアがつないだ手が映っていました。
2人は幼いころに仲が良かったのですが、テオはそのことを忘れていました。覚えていないだろうと思って、ソフィアは黙っていたのでした。
ピノはテオに多くの土地を所有しているルカを紹介します。リストランキの売買の交渉をしますが、ルカは400~500ユーロだろうと言います。設備が管理されていないからと。
テオは自分がこの場所の可能性を示すために、結婚式の料理を出すと言います。ここで利益が出ることを証明できたら、900ユーロで買うよう提示しました。結婚式の後も利益が出ず、農家のままだったら500ユーロで売ると約束しました。
ソフィアはテオに、父親のレシピ本を渡します。その本には、テオが料理の賞を獲ったときや、ミシュランで星を獲得したときの新聞記事が挟んでありました。
その中からテオはリゾットを選んで作ることにします。ソフィアが料理を手伝います。
テオは5、6歳のころ父親に卵料理を1年かけて習得させられた話をソフィアに話します。2人で楽しく料理をして出来上がったリゾットを食べました。
そして、テオはソフィアの結婚式で料理を作らせてほしいと頼みます。今までリストンキに尽くしてくれたお礼にプレゼントすると言います。ソフィアは快諾しました。
翌日から、テオのレストランのシェフたちもトスカーナにやってきて料理の準備を始めます。彼らの作る料理の味にソフィアは満足していました。
映画『トスカーナ』の感想と評価
本作は、イタリアのトスカーナを舞台に、父との思い出と自身の生き方を見つめなおす男の姿を描いたヒューマンドラマ映画です。
トスカーナのレストランで、父亡き後に経営を行っていたソフィアとの交流で少しずつ主人公(テオ)の心に変化が表れます。
本作は、舞台がトスカーナでテオがシェフであるという設定が活かされた内容となっています。
デンマークで必死に仕事をするテオは、トスカーナの自然に癒され、知らずと父が日課としていた場所で美しい景色を眺めるようになります。
はじめは、母と自分を捨てた父のことを恨んでいたテオでしたが、トスカーナの自然や食べ物、そこに住む人々に癒され、次第に心に余裕を取り戻していきました。
また、料理は世界共通のコミュニケーションツールです。トスカーナの美味しい食材との出会いや、料理を作ること、食べることで人と人とのつながりが形成されていきます。
また、登場する料理が、芸術作品のように美しいのも見どころです。ナスやオリーブ、チーズなど食材が繊細に盛り付けられていく様子は、観ていてワクワクします。
デンマークで作っていた料理とトスカーナで作った料理の見た目の変化にも、テオの心境が反映されているのが面白さです。
周りの目を気にして自信を持てなかったテオが、他者からの評価や見た目は関係なく、本来の自分そのものを受け入れるようになったことが表されています。
ただ、気になったのは、テオとソフィアの恋愛の要素が浮いているように感じたことでした。
初めての出会いで悪い印象を抱き、その後互いに惹かれていくというのは、恋愛映画の定番かもしれませんが、惹かれていく部分にそれほど説得力がなかったように感じたからです。
人生の再出発に恋愛の要素があるのは違和感を抱きませんが、その分亡き父の面影をたどる部分が少なかったように感じました。
とはいえ、自分の殻に閉じこもりがちだったテオが素直になれたのは恋愛のおかげかもしれません。
まとめ
トスカーナの風景がとても美しく、生命力あふれる緑や壮大な眺めを楽しむことができる本作。
スクリーンで観ることができないのが残念ですが、家にいながらトスカーナを訪れているような感覚が味わえるのは魅力だといえます。
登場する料理や景色に注目して、観てみてはいかがでしょうか。