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Entry 2019/11/19
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【追悼】亡き西岡善信は日本映画監督らの美術を歴任。大魔神3作品を特撮から軸に内容解説|邦画特撮大全63

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第63章

2019年10月11日に、老衰のため97歳で逝去された美術監督の西岡善信

衣笠貞之助や伊藤大輔、市川崑や川島雄三といった名だたる巨匠監督たちの作品で美術監督を歴任してきた、日本を代表する美術監督の1人です。


衣笠貞之助監督の大映作品『地獄門』(1954年のカンヌ映画祭グランプリ受賞)

西岡善信は、1922年7月8日に奈良県明日香村で生まれ、法政大学在学中に徴兵され朝鮮半島で終戦を迎えます。その後、1947年までソビエト連邦(現・ロシア)に抑留され、帰国後の1948年、大映京都撮影所に入社し、美術部に配属されました。

特撮作品と縁遠く感じる西岡善信のキャリアですが、大映京都撮影所時代に『大魔神逆襲』や『妖怪百物語』など特撮作品の美術も手掛けています。

今回は西岡善信への追悼として『大魔神』3部作を特集します。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

西岡善信のプロフィール

『越前竹人形』(1963:毎日映画コンクール美術賞受賞)

数多くの名作時代劇を製作した大映京都でキャリアをスタートさせた西岡善信でしたが、大映倒産後は「映像京都」を設立。

『木枯し紋次郎』や『横溝正史シリーズ』などテレビドラマにも参入。美術監督業のみならずプロデューサーとしても活躍しました。

1980年代に入ると『鬼龍院花子の生涯』(1982)や『吉原炎上』(1987)といった五社英雄監督作品を手掛けていきます。

90年代以降は大島渚監督の遺作となった『御法度』(1999)や盟友・市川崑監督との時代劇映画、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(2002)と『隠し剣鬼の爪』(2004)の美術監修を担当。テレビ、映画ともに製作本数が減少していった時代劇を支えていた功労者なのです。

『大魔神』3部作の概要

大映東京の『大怪獣ガメラ』公開を受け、大映京都が製作した特撮映画が「大魔神」シリーズの3作です。

勝新太郎・主演の「座頭市」シリーズや市川雷蔵・主演の「眠狂四郎」シリーズなど、時代劇作品で知られる大映京都。『大魔神』は大映京都で培われた技術を応用した時代劇特撮映画なのです。

シリーズ3作品のメガホンを執ったのは安田公義、三隅研次、森一生と3人とも数多くの時代劇を監督した名匠たちです。

本シリーズは武神像が大魔神となって民衆を苦しめる領主を倒すというメインプロットが共通しているものの、3作品に物語上のつながりはありません。 

『大魔神』その圧巻の特撮

チェコ=フランス合作映画『巨人ゴーレム』(1935)をヒントに製作された『大魔神』。監督決定の前に脚本の吉田哲郎、美術の内藤昭、撮影の森田富士郎、特撮監督の黒田義之の4人が実作業に着手していました。

森田富士郎のアイディアで、大魔神の大きさは人間のおよそ2.5倍にあたる4.5メートルに設定されました。

『ゴジラ』などの東宝映画の怪獣は大体50メートル前後の大きさに設定されているため、その分ミニチュアもかなり小さくなってしまいます。しかし『大魔神』のミニチュアセットは2.5分の1のスケールのものが使用されました。

この縮尺は実寸のノウハウを活かせるサイズで、精巧に造られたそのミニチュアはリアリティと迫力のある映像を生み出しました。

また『大魔神』シリーズの特撮技術で特筆すべきなのがブルーバッキング・システムです。これは合成素材を撮影する際に、青いスクリーンを立てて裏側からライトで照らすという撮影方式。この方式を用いることで合成のムラが少なくなり、リアルな映像となるのです。

後に「ゴジラ」シリーズの特技監督を務めた川北紘一も、『大魔神』の精度の高い合成技術を目にして驚嘆したと言います。

『大魔神』の作品情報

【公開】
1966年4月17日

【監督】
安田公義

【特撮監督】
黒田義之

【美術】
内藤昭

【キャスト】
高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎、島田竜三、遠藤辰雄

神々しさが増した『大魔神怒る』

1作目のヒットを受け第2作目『大魔神怒る』が製作されました。監督が安田公義から三隅研次に変更になりましたが、森田富士郎や内藤昭らのメインスタッフは前作から継続して参加しています。

『座頭市』や『子連れ狼』など時代劇で知られる三隅研次ですが、本作以前にも特撮を用いたスペクタクル映画『釈迦』を監督しています。

本作は公開が夏季であったため、本作のテーマは「水」。前作では山の神だった大魔神は、本作では湖の神に変更されました。

本作一番の見所はやはり大魔神が出現する場面で、湖を二つに割って姿を現します。左右に割れた幅の広い滝のような湖の断面は、京都・鴨川上流の堰を撮影して合成しています。

モーゼの十戒を彷彿とせるスペクタクルな場面で、前作よりも神々しさを強く感じさせます。前述したブルーバッキング・システムを活用した見事な特撮場面でした。

また本作のラスト、怒りを鎮めた魔神が水へ帰す特撮も幻想的です。

『大魔神怒る』の作品情報

 
【公開】
1966年8月13日

【監督】
三隅研次

【特撮監督】
黒田義之

【美術】
内藤昭、加藤茂

【キャスト】
本郷功次郎、藤村志保、内田朝雄、北城寿太郎、藤山浩二、神田隆

 

西岡善信による迫真の美術『大魔神逆襲』

西岡善信が美術監督を担当したのはシリーズ最終作となった3作目『大魔神逆襲』のみで、加藤茂との共同作業です。

今回は冬季の公開でしたので、大魔神は「雪の神」として描かれます。前2作と変わって、本作の主人公は4人の子どもたち。隣国の領主にさらわれた父や兄を救うために、人が畏れ足を踏み入れない“魔神の御山”を旅するというもの。

前作『大魔神怒る』では縦22メートル横幅30メートルにも及ぶ巨大な武神像と神ノ島のセットを撮影所内に建造していました。前作に負けじと、本作でも巨大なセットを建造しています。

悪役である荒川飛騨守が建造した地獄谷の武器製造村がそれです。主人公の父ら村の木こりを拉致して重労働を強いている場所です。

武器製造村は京都市西京区沓掛に巨大なセットが建造されました。本編を見ると解りますが、そのセットは凄味を帯びているかのような巨大さなのです。

『大魔神逆襲』の作品情報

【公開】
1966年12月10日

【監督】
森一生

【特撮監督】
黒田義之

【美術】
西岡善信、加藤茂

【キャスト】
二宮秀樹、堀井晋次、飯塚真英、長友宗之、北林谷栄、名和宏、安部徹

まとめ

大映京都による特撮時代劇「大魔神」シリーズを、特撮と美術の2点に主眼を置いて紹介しました。

特撮作品に限らず映画の美術は、その作品の空気感を作る上で大切なものです。内藤昭と西岡善信、日本映画史上に名を残す2人の美術監督を語る上で本作は外せない作品でしょう。

次回の『邦画特撮大全』は…

次回の邦画特撮大全は『仮面ライダー 令和ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019)を紹介したいと思います。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら


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