連載コラム「邦画特撮大全」第43章
2019年4月19日の全国公開から大ヒットを打ち出した映画『キングダム』。
紀元前の中国・春秋時代を舞台にした原泰久の漫画の実写映画化で、メインロケーションは中国で行われました。
中国が舞台の本作ですが、登場人物たちを山崎賢人や吉沢亮、橋本環奈、本郷奏多といった日本人俳優たちが演じています。
今回の邦画特撮大全は『釈迦』(1961)と『敦煌』(1988)を紹介します。
この2作は『キングダム』同様、舞台がそれぞれインドと中国ですが日本人キャストによって製作されました。
CONTENTS
日本映画初の70ミリ映画『釈迦』
映画『釈迦』の作品情報
【公開】
1961年(日本映画)
【監督】
三隅研二
【脚本】
八尋不二
【音楽】
伊福部昭
【キャスト】
本郷功次郎、勝新太郎、市川雷蔵、チエリスト・ソリス、山本富士子、川口浩、京マチ子、中村玉緒、月岡夢路、山田五十鈴、東野英治郎、杉村春子、市川壽海、千田是也
映画『釈迦』の内容解説
大ヒットしたアメリカ映画『ベン・ハー』(1960)に触発された大映が、莫大な製作費をかけた一大スペクタクル映画が本作『釈迦』(1961)です。
本郷功次郎や勝新太郎、市川雷蔵といった大映のスター俳優が顔を揃えている点からも、本作が超大作であることがわかります。
本作は日本初の70ミリ映画。カラー化を松竹に、シネスコープを東映に先を越された大映にとって“初の70ミリ映画”は悲願だったのです。ビスタビジョンの撮影機に特殊なレンズを着けた“スーパーテクニラマ”という方式で撮影されました。
上映プリントはイギリス・ロンドンにあるテクニカラー現像所で作られ、ミキシングもロンドンRCAで行われました。
また本作はインドが舞台ですが、海外でのロケーションは行われませんでした。
当初は大々的なインドロケを行う予定だったのですが、インドのほかスリランカ、ミャンマー、タイ、ラオス、パキスタンといった仏教国から内容に抗議を受けたため、ロケは中止となったのです
映画『釈迦』の特撮
参考映像:大映創立70周年記念特集上映「映画は大映」予告編
本作はシッダ=仏陀の生涯を誕生から入滅まで描いた作品です。
主人公のシッダ太子は映画の前半で悟りを開き、後半からは主に釈迦が起こす奇跡を描いていきます。この数々の奇跡の描写には特撮が用いられています。
まず「天上天下唯我独尊」の言葉で有名なシッダ誕生の場面です。シッダの誕生を祝うように一斉に城中の植物に花が咲く様子を作画合成によって表現しています。
マット画の作画を渡辺善夫、合成用の作画素材を鷺巣富雄が担当しました。
鷺巣富雄は“うしおそうじ”の名で活躍した漫画家でもあり、ピー・プロダクションを興し『マグマ大使』や『スペクトルマン』『快傑ライオン丸』といった数多くの特撮ドラマの名作を生み出しました。
次にシッダが悟りを開くため森で修業をする場面。ここでは煩悩の化身である魔物・マーラがシッダの修行を邪魔します。最初は女の姿で誘惑するのですが、これが効かないと判ると本来の魔物の姿に戻ります。
このマーラたちの正体は被り物やメイクによって表現されています。
マーラが放った矢をシッダが目には見えない法力で防ぐ描写があります。ここでも鷺巣富雄らによる作画合成が効果的に用いられています。
本作一番の見所はやはりクライマックスの大神殿崩壊でしょう。
この場面には28メートルの大魔神像をはじめとする大規模なオープンセットが建造され、1万5000人のエキストラが動員されました。
本物にこだわったため、今日観ても迫力ある映像に仕上がっています。
敦煌文書を巡る歴史ロマン映画『敦煌』
映画『敦煌』の作品情報
【公開】
1988年(日本映画)
【監督】
佐藤純彌
【原作】
井上靖
【製作総指揮】
徳間康快
【脚本】
吉田剛、佐藤純彌
【キャスト】
佐藤浩市、西田敏行、中川安奈、柄本明、原田大二郎、綿引勝彦、蜷川幸雄、鈴木瑞穂、田村高廣、三田佳子、渡瀬恒彦、大滝秀治(ナレーション)
映画『敦煌』の内容解説
井上靖の原作を映像化した日中合作の歴史ロマン大作『敦煌』。北宋の頃(11世紀頃)の中国を舞台に、敦煌文書を守ろうとした青年・趙行徳の活躍を描きます。
45億円という巨額の製作費が投じられたほか、人民解放軍の協力のもと舞台となった中国での大々的なロケーション撮影が敢行されました。
配給収入45億円(興行収入は82億円)という大ヒットを記録し、その年の日本アカデミー賞で複数の賞を受賞しました。
本作の監督を務めたのは先日亡くなられた佐藤純彌(1932~2019)。
本作は元々、名匠・小林正樹の念願の企画で、徳間康快と組み製作に乗り出しますが降板。その後、監督は深作欣二に交代しましたが深作も降板してしまいます。
佐藤純彌は中国国内で大ヒットを記録した『君よ憤怒の川を渉れ』(1976)のほか、戦後初の日中合作映画『未完の対局』(1982)を手掛けていたこともあり、日中合作映画である本作には適任といえます。
ウィグル族の王女ツルピアを演じた中川安奈(1965~2014)は本作がデビュー作となりました。
名優・千田是也を祖父に、テレビ演出家の中川晴之助(『ウルトラQ』「カネゴンの繭」などが有名)を父に持つサラブレッドの女優です。
本作から3年後、『ゴジラVSキングギドラ』にも主演しました。残念ながら中川は早くに亡くなられてしまいましたが、その美貌と凛々しい演技には忘れがたいものがあります。
中国で大々的なロケーションが行われたこともあり、本作には『釈迦』のようなダイナミックな特撮映像は用いられていません。
しかし、やはり一部の場面には視覚効果が用いられています。
その視覚効果を担当したのがデン・フィルムエフェクトの中野稔。彼は円谷英二の愛弟子で『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などの作品で光学合成を担当していました。
まとめ
実写映画化された『キングダム』のヒットを手掛かりに、邦画『釈迦』と『敦煌』の2作の超大作映画を紹介いたしました。
まだCGがなかった時代にも、果敢にスペクタクル映画の創造に挑む映画人たちがいたのです。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、Vシネクスト『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』を特集します。
お楽しみに。