連載コラム「邦画特撮大全」第62章
先日放送から10周年をむかえた『仮面ライダーW』(2009~2010)。仮面ライダーシリーズの中でもいまだに高い人気を誇る作品で、現在は続編である漫画『風都探偵』が連載中です。
今回の邦画特撮大全は『仮面ライダーW』を紹介します。
『仮面ライダーW』の作品情報
【放送期間】
2009年9月6日~2010年8月29日
【原作】
石ノ森章太郎
【プロデューサー】
本井健吾(テレビ朝日)、塚田英明、高橋一浩
【監督】
田崎竜太、諸田敏、黒沢直輔、柴﨑貴行、石田秀範、坂本浩一
【特撮監督】
佛田洋(特撮研究所)
【アクション監督】
宮崎剛(ジャパンアクションエンタープライズ)
【脚本】
三条陸、長谷川圭一、荒川稔久、中島かずき
【キャスト】
桐山漣、菅田将暉、山本ひかる、木ノ本嶺浩、飛鳥凛、生井亜実、君沢ユウキ、壇臣幸、中川真吾、腹筋善之介、なすび、板野友美、河西智美、幸田直子、なだぎ武、寺田農
【作品概要】
『仮面ライダーW』は「平成仮面ライダー10周年プロジェクト 秋の陣」として発表された平成仮面ライダーシリーズの第11弾で、いわゆる“平成二期”と呼ばれる作品の第1作目です。
パイロット(1話・2話)や劇場作品を担当した田﨑竜太をはじめ、石田秀範、諸田敏とこれまでの仮面ライダーシリーズを支えてきた監督陣が参加している一方、黒沢直輔や坂本浩一といったシリーズ初参加となる監督たちも参加。
脚本家陣も『仮面ライダークウガ』(2000)のシリーズ構成・荒川稔久を除くと、全員が仮面ライダーシリーズ初参加の面々です。このようにシリーズ初参加のスタッフを多く起用している点からも、本作が仮面ライダーシリーズへ新風を吹きこもうとしていたことがわかります。
『仮面ライダーW』はこれまでの平成仮面ライダーシリーズ同様に連続性のある物語展開を維持してはいるものの、基本的に2話でひとつの事件を解決するというフォーマットでした。『W』以降の作品のほとんどは2話で1つのエピソードが完結するというフォーマットになります。
仮面ライダーWに変身する2人の主人公が左翔太郎とフィリップ。翔太郎役には桐山漣、フィリップ役には本作が俳優デビューとなった菅田将暉が起用されました。2人の個性的な主人公も作品の人気に大きく影響しました。
溢れる石ノ森スピリッツ
『仮面ライダーW』の“その後”を描く漫画『風都探偵』
突飛なデザインが多い平成仮面ライダーたちですが、その中でも仮面ライダーWはシンプルなデザインで従来の仮面ライダーを思わせるシルエットをしています。『仮面ライダー』から『仮面ライダーZX』までの作品で、共通のデザインに取り入られていたマフラーも本作で復活しました。
フィリップが変身に用いるガイアメモリ(USB型のアイテム)が“サイクロンメモリ”。これは仮面ライダー1号がベルトに風力を得て変身するという設定や、仮面ライダー1号が駆るバイクの名前が“サイクロン”だったことに由来しているでしょう。
前述したように仮面ライダーWは翔太郎とフィリップの2人で変身します。そのため左右で色が違うデザインをしているのです。例えば基本フォームであるサイクロンジョーカーであれば、左半身が黒(ジョーカー)、右半身が緑色(サイクロン)という色味になります。左右で色が違うというデザインは石ノ森章太郎原作の『人造人間キカイダー』を思わせます。
ちなみに仮面ライダーWヒートトリガーに変身した場合、左右反転はしますが赤と青のカラーリングでキカイダーと同じ色味となります。
また本作のメインライターの三条陸は、本作に登場する敵組織ミュージアムとドーパントの設定についても、『ロボット刑事』に登場した犯罪組織バドーとバドーロボットを意識したものだと言います。ミュージアムは怪人“ドーパント”への変身を可能にするガイアメモリを人々に密売する組織で、『ロボット刑事』のバドーは犯罪者へロボットを貸し出す組織。自らが前線には出ず、ビジネスとして犯罪者に力を貸すというこの2つの組織の設定は非常に似ています。
このように『仮面ライダーW』には、『仮面ライダー』や『人造人間キカイダー』、『ロボット刑事』など、石ノ森章太郎作品へのオマージュが多数登場します。
『仮面ライダーW』が受け継ぐ東映のDNA
参考映像:『昭和残俠伝』(1965)予告編
『仮面ライダーW』には石ノ森作品以外の東映製作作品の影響もいくつか見られます。『W』に一番大きな影響を与えたのがTVドラマ『探偵物語』(1979)です。
主人公のひとり・左翔太郎はハードボイルドに憧れる探偵で、ソフト帽にスーツ姿。『探偵物語』で松田優作が演じた主人公の探偵・工藤俊作を思わせる服装をしています。翔太郎が事務所内で座るデスクは、実際に『探偵物語』で使用されたものです。
また主人公たちと関わる2人の刑事・刃野幹夫と真倉は、『探偵物語』に登場する服部刑事と松本刑事を意識したもの。当時AKB48のメンバーだった板野友美と河西智美が演じたクイーンとエリザベスも、同じく『探偵物語』に登場したかほりとナンシーを意識したものでしょう。
また本作には高倉健主演の映画『昭和残侠伝』シリーズを意識した演出も見られます。それが見られるのが第31話「風が呼ぶB/野獣追うべし」第32話「風が呼ぶB/今、輝きの中で」というエピソード。翔太郎が今は亡き師匠・鳴海荘吉(吉川晃司)が遺した仕事を受け継ぐ回で、仮面ライダーWエクストリームフォームの初登場回。
この回で翔太郎とフィリップの間に大きな溝が出来てしまい、それぞれ別行動を取ります。しかし最終的にはお互いを相棒と再認識に同じ道へ戻ります。ここで吉川晃司が“鳴海荘吉”名義で発表した挿入歌「Nobody’s Perfect」が流れます。
別々の道を歩んでいた2人の男が同じ道を歩くことになり、そこに主題歌が流れるという演出はまさに『昭和残侠伝』。このエピソードを演出した諸田敏は『昭和残侠伝』を意識したと言っています。
まとめ
このように『仮面ライダーW』には過去の仮面ライダーシリーズのみならず、他の石ノ森章太郎作品や、ドラマ『探偵物語』に『昭和残侠伝』など過去の東映作品のエッセンスが多分に含まれています。
本記事に書ききれなかった他作品へのオマージュやパロディもありますので、探しながら鑑賞するのも一興でしょう。
次回の『邦画特撮大全』は…
次回の邦画特撮大全は、今年2019年10月11日に逝去された美術監督・西岡善信を追悼して『大魔神』シリーズを紹介します。
お楽しみに。