連載コラム「邦画特撮大全」第58章
2019年8月27日(火)の夜9時からBS-TBSにて『真田幸村の謀略』が放送されます。大阪の陣で徳川家康を追い詰めた戦国武将・真田幸村。真田幸村を題材とした作品では三谷幸喜・作のNHK大河ドラマ『真田丸』(2016)が記憶に新しいでしょう。
しかし題材は同じはずなのですが、『真田幸村の謀略』は『真田丸』とは全く趣を異にした作品となっています。
今回の邦画特撮大全はテレビ放映前に『真田幸村の謀略』(1979)の見所を紹介します。
さらに題材と作風が近い『真田風雲録』(1963)も併せて紹介します。
CONTENTS
映画『真田幸村の謀略』の作品情報
【公開】
1979年(日本映画)
【監督】
中島貞夫
【脚本】
笠原和夫、松本功、田中陽造、中島貞夫
【特撮監督】
矢島信男、佐川和夫
【キャスト】
松方弘樹、あおい輝彦、秋野暢子、寺田農、真田広之、火野正平、森田健作、岡本富士太、ガッツ石松、岩尾正隆、野口貴史、萩尾みどり、小倉一郎、戸浦六宏、小林昭二、曽根晴美、金子信雄、高峰三枝子、成田三樹夫、丹波哲郎、梅宮辰夫、片岡千恵蔵、萬屋錦之介
映画『真田幸村の謀略』の作品概要
本作『真田幸村の謀略』は『柳生一族の陰謀』(1978)、『赤穂城断絶』(1978)に続く東映の時代劇超大作でした。
監督は前2作を手掛けた深作欣二監督から、『893愚連隊』(1966)『多十郎殉愛記』(2019)の中島貞夫監督にバトンタッチしています。
脚本は『仁義なき戦い』シリーズや『二百三高地』(1980)の笠原和夫、『セーラー服と機関銃』(1980)の田中陽造、『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』(1975)の松本功、中島貞夫監督の共同によるものです。
時代劇超大作ということもあり本作は東映のオールスターが総出演しています。
主人公・真田幸村には松方弘樹、敵役・徳川家康には正に大御所・萬屋錦之助がキャスティングされました。
また、幸村の兄・信幸には梅宮辰夫、父・昌幸にはこちらも大御所・片岡千恵蔵が配役されています。
さらに丹波哲郎、成田三樹夫、金子信雄らが前2作から継続して出演しています。
猿飛佐助はエイリアン?怪作『真田幸村の謀略』
本作『真田幸村の謀略』は1970年代末に東映が復活させた超大作時代劇の路線の1本ですが、前2作とは全く雰囲気が違う作品となっています。
『柳生一族の陰謀』では『仁義なき戦い』を思わせる権力闘争を描いていましたし、『赤穂城断絶』では「権力への反抗」をテーマに脱落していった赤穂浪士にも光を当てています。
本作はタイトルに「謀略」という言葉があるように、幸村側と家康側との知略戦が柱となっています。
幸村側は家康が手に入れたフランキ砲を実用される前に破壊しようとしたり、家康の逃走経路の地下に爆薬を仕掛けたりと、ありとあらゆる手段を使って家康の首を狙います。
一方、家康側では忍者・服部半蔵が映画の前半で暗躍します。邪魔になりそうな存在を次々と暗殺していくのです。
まず幸村の父・昌幸を爪に毒を仕込んだ猫を放って暗殺。次に加藤清正を彼が飼っている虎に襲われたように細工して暗殺します。
さらに蛍光塗料を塗ったコウモリを豊臣方に放ち、人魂騒動を起こして不安を煽るなどの作戦を展開するのです。
謀略戦、知略戦を映画の柱に置いている以上に本作を特異なものにしている要素は、真田十勇士たちの設定です。
霧隠才蔵は登場当初から幸村の腹心という設定ですが、猿飛佐助はなんと隕石に乗って地球にやって来た宇宙人なのです。
また原典であれば巨漢の坊主であるはずの三好清海入道は女性に変更された上、その正体を安土桃山時代に実在した“ジュリアおたあ”に設定されました。
その他の十勇士も落人(おちうど)や傾奇者(かぶきもの)など、社会から外れたアナーキストに設定されています。
さら佐助の登場や彼が使う幻術の描写には特撮が駆使されています。
この映画のトップシーンはなんと佐助が乗って来た隕石が宇宙から飛来するシーンなのです。そのほか忍法大竜巻やミニチュア特撮を用いた真田丸での幻覚作戦など、特撮の見せ場が盛りだくさんです。
特撮シーンだけでなく、次から次へと突飛な展開やアイディアが繰り出される本作『真田幸村の謀略』。ひとまず何も考えず荒唐無稽さを楽しむのが、本作の正しい鑑賞の仕方なのかもしれません。
映画『真田風雲録』の作品情報
【公開】
1963年(日本映画)
【原作】
福田善之
【監督】
加藤泰
【脚本】
福田善之、神波史男、小野竜之助
【キャスト】
中村錦之助、渡辺美佐子、ジェリー藤尾、ミッキー・カーチス、米倉斉加年、常田富士男、大前均、春日俊二、岡村春彦、河原崎長一郎、千秋実、田中邦衛、佐藤慶
時代考証無視のミュージカル『真田風雲録』
『真田幸村の謀略』からさかのぼること13年、同じく東映が真田幸村と大阪の陣を自由な発想で映画化した作品がありました。それが『真田風雲録』です。
福田善之の戯曲を『瞼の母』(1962)『みな殺しの霊歌』(1968)の加藤泰が映像化。原作となった戯曲はその後も、劇団青年座や蜷川幸雄・演出によって上演されています。
こちらに登場する猿飛佐助はエイリアンではありませんが、やはり隕石の放射能の影響によって人の心を読む力などの超能力を手に入れたという設定になっています。
またこちら三好清海入道は従来のイメージ通り巨漢の坊主ですが、霧隠才蔵がお霧という女性に変更されています。
時代考証を無視した軽妙な作りが本作『真田風雲録』の一番の魅力です。
当時あるはずのないギターを片手に由利鎌之助(演じるはミッキー・カーチス)が登場し、登場人物たちが歌う場面は楽しいものとなっています。忍術や幻術を用いた戦闘シーンもポップで幻想的なものになっています。
その一方で人とは違う力を持ってしまった佐助の孤独感や、佐助が唯一心を読めない相手・大野修理との対立なども描かれます。
軽妙な雰囲気に目が行きがちな本作ですが、やはり撮影所時代の作品のため、しっかりとした骨格のドラマが描かれているのです。
まとめ
自由な発想で真田幸村と大阪の陣、真田十勇士を翻案した『真田幸村の謀略』と『真田風雲録』。
2作ともどちらかと言えばカルト映画の扱いをされる作品ですが、この機会に鑑賞してみていかがでしょうか。
『真田幸村の謀略』はBS-TBSにて2019年8月27日(火)夜9時からの放送です。
次回の『邦画特撮大全』は…
次回の邦画特撮大全は、2019年9月6日から期間限定上映されるVシネクスト『仮面ライダーグリス』(2019)を特集します。お楽しみに。