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映画『音楽』あらすじ感想とレビュー評価。北野作品との共通点から“省略のリズム”を聴く|映画道シカミミ見聞録44

  • Writer :
  • 森田悠介

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第44回

こんにちは、森田です。

今回は1月11日より新宿武蔵野館ほかで劇場公開を迎えた長編アニメーション映画『音楽』を紹介いたします。

音楽の原点を映画で表現するために、本作ではどのような演出がされているのかをみていきましょう。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら

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『音楽』のあらすじ(岩井澤健治監督 日本 2020年)


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

原作は大橋裕之による『音楽と漫画』(太田出版)。

研二(声:坂本慎太郎)、太田(前野朋哉)、朝倉(芹澤興人)の3人の不良生徒が、楽器に触れたことがないにもかかわらず、思いつきでバンドを組むことからはじまるロックな物語です。

監督の岩井澤健治が、7年半の歳月と40,000枚超の作画枚数をかけて個人制作した長編アニメーション作品であり、オタワ国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門でグランプリを受賞しました。

数々のミュージシャンが共感をよせる原作の魅力と、その前例のない挑戦があいまって、声優陣にはシンガーソングライターの岡村靖幸が加わり、主題歌も「ドレスコーズ」の志磨遼平が手がけるなど、作品のもつ“音楽性”が十分に発揮された仕上がりになっています。

作品のロック性


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

しかし、本作を評価する際の“音楽性”というものを、音楽的な主題や劇伴だけに求めることはできません。

たしかに作中の美術を観察すると、背景に浮かぶ飛行船は『レッド・ツェッペリン Ⅱ』(レッド・ツェッペリン/1969)から、ギターを地面に叩きつける姿は『ロンドン・コーリング』(ザ・クラッシュ/1979)から、そして横断歩道を横切る図は『アビイ・ロード』(ビートルズ/1969)からと、ほかにも数多くのジャケットのパロディが確認できます。

そんなオマージュに捧げられた精神性とは別に、ここではあくまで映画演出の観点から、「ロックな音」の正体を探っていくことにします。

結論からいえば、それは描かれたイメージではなく、描きこまれていない隙間から聴こえてくるものです。

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北野武映画との比較:「音楽化」は「省略化」にあり

映画は“moving image”の名が示すとおり「運動」を映しだす一方で、直接視覚ではとらえられない「時間」を操る芸術です。

時間を延ばしたり、縮めたりすることで、観客の心、感情、そして気持ちをコントロールしていきます。

その重要な手法のひとつに「省略」があります。日本では北野武監督がそれを文体の面において極め、世界的な評価を得ました。

音楽はもちろん時間なくしては成立しません。それを映画で表現するために省略の手法がとられている。本作と北野武監督作との接点を見いだすことで、そのことがより明らかになります。

リズム1:「無口」


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

研二はまったくなにを考えているかわからず、相手が勘ぐって逃げだしてしまう場面が何度も描かれます。

北野監督が「ビートたけし」として演じる主人公も、いつも能面をつけたような顔をし、余計なことは語りません。

そうすることで、映画の焦点はおのずとその仕草や動作に当てられていきます。

リズム2:「歩く」


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

研二たちはよく歩きます。青春映画のアイコンとしてよく使われるバイクにも自転車にも乗りません。

オープニングは学校に行く研二の足取りを追うだけです。これは北野監督の初監督作『その男、凶暴につき』(1989)で、警察署に向かう主人公・我妻刑事の足をドリーでとらえ続ける冒頭を連想させます。

そして、その足に「道具」が加わることで、最小限のドラマが誕生します。

『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)では壊れたサーフボードを道端で拾ったことから、本作では夜道でたまたまベースを預けられたことから、単調な歩行に起伏が生まれてきます。

このように、歩くことで道具が加わり、道具を持ち運ぶことで仲間が加わりと、「反復」によってすこしずつ新しい要素が追加され響きが変わっていくのを、音楽の構成になぞらえることができるでしょう。

またこの反復はたえず、「自由」を連れ添っています。

バンドをはじめた研二らに、彼を見守ってきた亜矢(声:駒井蓮)は「がんばって」と声をかけます。それに対し研二は「なにをがんばるんだ?」と返します。

学校と家の往復に目的はありません。しかし、学校に行く“ため”の道、家に帰る“ため”の道といった手段を離れた空間には、それ自体が目的となった自由があります。

目的のない時間こそ、自由を謳うものである。北野映画では『ソナチネ』(1993)がそれをミニマルな旋律にのせて奏でています。

北野武監督『ソナチネ』(1993)


(C)1993 松竹

また歩く、叩くといった基本動作を繰りかえすことは、登場人物を紋切り型から遠ざける効果もあります。

ヤクザならドンパチ、ヤンキーならタイマンという記号を排除することで、つまりキャラクターが得意とする“武器の使用”を制限することで、かえって彼らの本質がふっと浮かびあがる瞬間が訪れます。

リズム3:「笑い」


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

その浮遊感が絶妙な間合いになり、随所で笑いに転じるのも、北野映画との共通点です。

なにをするでもない人物たちの、正面からのショットには、どこかおかしみがあります。

そして彼らになにもさせない代わりに、出来事はフレームの外で起こします。

たとえば研二が夜道を歩くシーン。窃盗事件が発生し、青年・警官・被害者などがつぎつぎにその後を追いかけます。

ここは、研二が青年からベースをいっとき預けられ「音楽」と出会う場面ですが、彼は突っ立っているだけで、犯人を取り押さえる瞬間や、犯行を疑われた青年が一緒に捕まえられる始末などは全部、画面の外から聞こえる話し声でしかわかりません。

『その男、凶暴につき』では、ホームレスを襲撃した少年の家に乗りこんだ我妻が、カメラに映らない部分で少年を引っぱたくシーンがありますが、北野監督はそれを乾いた音だけで表現しています。

このようにフレームの外に説明を託すことで、あるときは笑いを、またあるときは怖さをと、その人物の特徴が印象に残るようになっています。

さらなる省略を可能にするアニメ


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

ここまで省略がいかにリズム的かを見渡してきましたが、アニメーションにはそれをさらに押し進める形式があります。またここに、アニメ化がなぜ必要であったかの答えがあります。

実写映画では、作り手が意図しない情報もふくめて、あらゆる表象がカメラによって記録されます。ときにそれは、観る者によって過剰な意味づけがなされ、さきに述べた「自由」が奪われてしまうこともあります。

一方でマンガやアニメはもともと簡略化を指向する表現であり、作り手が描かないかぎり、余計な情報が入ることはありません。

とくに本作や原作の『音楽』は、そぎ落とされた線で構成され、省略のリズムをいっそう強く感じさせるものとなっています。

この映画は、実写で撮影した素材をトレースする「ロトスコープ」という手法で制作され、実際に野外フェスをおこなったことでも話題になりましたが、わざわざ実写をアニメに落としこむというのは、省略という観点からすれば必然であるとうかがえます。

そうでないと、「音楽」は生まれないのです。アニメで音をつけたから“音楽化”されるのではなく、アニメならではの省略化を施すことが、本質的に必要なことでした。

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2020年代の邦画の出発点として


(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

2019年の日本の興行収入トップ10のうち、アニメーションは6作品を占め、映画の未来を考える際にアニメーションはもう欠かせない表現であるといえます。

興収1位の『天気の子』(2019)は、これまでの新海誠監督作と同様に「写実的な絵」を称賛する声が多く聞かれました。

一方で、北野武監督の映画がその文体で世界中のファンを獲得したように、アニメーションも実写にはできない「省略」に立ちかえってこそ戦える。それを端的に示すのが、映画『音楽』です。

世界がかつて日本映画に見いだした無駄のない文体に、「ジャパニメーション」というかたちである程度成功をおさめているアニメが意識をむけると、どうなるのか。

日本映画の行く末を案じるのであれば、その化学変化にひとつ、期待を寄せてみてもいいかもしれません。

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