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Entry 2022/10/31
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『マンティコア』あらすじ感想と評価考察。“映画マジカルガール”のカルロス・ベルムト監督最新作は物議を呼ぶ衝撃サスペンス!|TIFF東京国際映画祭2022-3

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  • 20231113

第35回東京国際映画祭『マンティコア』

2022年にて35回目を迎える東京国際映画祭。コンペティション部門に日本趣味にあふれた設定で話題を呼んだサスペンス映画『マジカル・ガール』のカルロス・ベルムト監督最新作が登場しました

その映画が『マンティコア』。カルロス監督の今までの作品同様に、人の心に潜む闇がもたらす悲劇を描いた作品です。

本作は東京国際映画祭における上映が、”アジアン・プレミア上映”となりました。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2022』記事一覧はこちら

映画『マンティコア』の作品情報


(C)Aqui y Alli Films, Bteam Prods, Magnetica Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

【製作】
2022年(スペイン映画)

【原題】
Manticore

【監督・脚本】
カルロス・ベルムト

【キャスト】
ナチョ・サンチェス、ゾーイ・ステイン、アルバロ・サンス・ロドリゲス、アイツィベル・ガルメンディア

【概要】
心に闇や悩みを抱えた登場人物が悲劇的な状況に陥る姿を通して、現代を生きる人間の闇と悲哀を描くサスペンス映画。

監督は日本の”魔法少女アニメ”に憧れる少女を軸に起きる、絶望的な悲喜劇を描いた映画『マジカル・ガール』で話題となったカルロス・ベルムト。彼の『シークレット・ヴォイス』(2018)は「未体験ゾーンの映画たち2019」で公開されました。

主演は『El arte de volver(英題・The Art of Return)』 (2020) のナチョ・サンチェス。共演はNetflixで配信されたドラマ『Merlí. Sapere Aude』(2019~)など、スペインのドラマで活躍するゾーイ・ステインです。

映画『マンティコア』のあらすじ


(C)Aqui y Alli Films, Bteam Prods, Magnetica Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

ビデオゲームに登場するモンスターのデザイナーとして成功を収めたフリアン(ナチョ・サンチェス)。ある日自宅アパートで作業をしていた彼は、火事に巻き込まれた隣室の少年クリスチャン(アルバロ・サンス・ロドリゲス)を助け出しました。

その体験はフリアンにパニック発作を引き起こし、彼が隠していた秘密を強く刺激する結果をもたらします。ある日フリアンは、パーティーの会場でボーイッシュな容姿を持つ女性ディアナ(ゾーイ・ステイン)と出会いました。

家庭に問題を抱えた彼女の相談に乗るうちに、フリアンは彼女に魅かれていきました。ディアナも彼に心を開き、愛し合うようになった2人は幸せをつかむかに見えました。

しかし、思わぬ出来事がフリアンを襲います。そして希望を奪われた彼は、ある事を行動に移しますが…。

映画『マンティコア』の感想と評価


(C)Aqui y Alli Films, Bteam Prods, Magnetica Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

主人公に複雑な人物を選んだ、実に勇気ある映画です。それゆえ『マンティコア』を鑑賞した観客は物語の意味や、様々な状況に置かれる登場人物の感情に想像を巡らすことでしょう。

ポリティカル・コレクトネスという言葉が意識される現在。果たして本作の主人公は忌まわしい犯罪に手を染める人物でしょうか。それとも性的マイノリティーと呼ぶべき存在でしょうか。

本作を見て「マイノリティーを犯罪者予備軍のように描いた」と、短絡的に批判する意見が登場する可能性もあるはずです。

2022年9月に開催された第47回トロント国際映画祭で世界初公開され、その後複数の映画祭に招待された本作。鑑賞した評論家は本作を「残忍で冷酷、そして正確で繊細」「恐怖と魅惑が等しく存在する」物語と紹介しています。

他の評論家は「非道徳的、あるいはスキャンダラス」との声も上がると思うが、「誰もが抱く愛の必要性を描いた、見事な仕掛けを持つ恐るべきラブストーリー」だと語りました。

これらの意見は本作を的確に分析したものだと同意します。しかし本国スペインで11月に本作が劇場で一般公開された際、どのような反響が巻き起こるのでしょうか。

余命僅かな少女の、”(日本のアニメの)魔法少女になりたい”という願いを父親が叶えようとした結果、地獄のように救いがたい惨劇が引き起こされる『マジカル・ガール』。

国民的スター歌手には秘密があった。彼女の輝かしい姿はコピーに過ぎなかった。スター歌手の虚像を巡って、複数の女の人生が交差する『シークレット・ヴォイス』。

これらのカルロス・ベルムト監督作をご覧の方は、今回紹介した『マンティコア』も単なるミステリー映画ではない、と期待しているはずです。その期待は裏切られません。

では、なぜベルムト監督はこのように過激で危険なテーマを持つ作品を手がけるのでしょうか。

全ての作家は”モラルのジレンマ”を抱えている


(C)Aqui y Alli Films, Bteam Prods, Magnetica Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

「一般的なコメディ映画、ホラー映画と異なり、本作が終わった直後に観客は反応を示しません。彼らは映画を持ち帰ってじっくり味わう。そんな映画だと思います」と、トロント国際映画祭でのインタビューで語ったベルムト監督。

「言うなれば”呼吸する時間が必要な映画”です。私が好きな、作りたい映画はそんな作品です。観客と共にそのような反応が起きた事を実感しました」と言葉を続けました。

「数多くの映画が公開され忘れ去られる中、それは一部の観客かもしれません。映画が観客の心に残り特別な関係を結び、観客がその映画に触れたと意識してもらうこと。そんな反応を私は興味深く感じています」。

自作が観客の心を揺るがし作品への考えを巡らせ、意識され続ける存在になる事を望む監督は、常に際どい題材に大胆に挑み続けます。当初の脚本で主人公はCGでモンスターを描き、バーチャルリアリティを扱う人物では無かったと説明しました。

しかしこの要素が映画に加わった結果、仮想と現実…それは人間の欲望、それは暗くやましい物かもしれません…それを空想で満たす事は是か非か、聖書が説くように「心の中の姦淫」は許されないものなのか、というテーマが明確になりました。

本作の劇中に「ゲームの中の暴力描写」について議論するシーンが存在します。かつて物語や小説、絵画そして映画の中に存在していた空想上の暴力は、ゲームの形で仮想現実的に参加する事が可能になりました。

人は自らの心に潜む暗い欲望にどう向き合うべきでしょうか。それを空想や仮想現実として発散することは健全なのか、それとも空想や仮想現実は欲望を刺激するものなのか。作家たちはこの問題を、永遠に意識し続けるかもしれません。

主人公フリアンは、思わぬ形で「心の中の姦淫」…それ以上の行為だったかもしれません…、を周囲の人々に悟られました。その結果彼は…これ以上は語らぬようにしましょう。

「映画の歴史には、物議を呼ぶ人物や怪物を描いた作品が常に存在します。そして作家は面白い物語を作らねばならぬ立場です。私たちは面白い映画を作ろうとしてギャング映画を撮ります。ギャングは殺人を犯し人身売買に手を染めますが、映画はそんな連中をクールに見せるのです」。

「映画に存在する“モラルのジレンマ”を作家として意識したからこそ、一層映画を作りたいと願いました。劇中の登場人物の隠れた欲望がもたらす痛みにこそ、観客は共感を覚えるのです」と語った監督。

ゆえに「怪物的なキャラクターを映画にするのは魅力的だ」と監督は主張します。では本作に伝説の怪物、人を喰う”人面の野獣”『マンティコア』は、どのような形で登場するのでしょう?

まとめ


(C)Aqui y Alli Films, Bteam Prods, Magnetica Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

間違いなくあなたの心をざわつかせる映画『マンティコア』。鑑賞の機会を得たらお見逃しの無いように。監督の過去作をご覧の方であれば、決して過剰な暴力描写が存在する映画ではないと気付いているでしょう。

だからこそ本作で観客が感情移入していた主人公が、突如”人面の野獣”に変貌した時に戦慄を覚え、その振舞いに更なる衝撃を受けるのです

そして本作のラストは絶望的でしょうか。それとも希望を感じさせるものでしょうか。リスキーな題材に果敢に挑んだ作品の、フィクションの物語ならではのラストシーンが心に突き刺さります。

この映画を見た方は、絶対に映画の内容について誰かと語り合いたくなるはずです。しかし、この映画を他人に薦めるのを躊躇する方も多くいるでしょう。

それでもあなたが熱心な映画ファンなら、本作を絶対他人に薦めたくなるはずです。どうか友人と『マンティコア』を共有し、その意味を語り合って下さい

ここまで読んだ方の中には「何と深刻な映画だろう…」と受け取った方もいるかもしれません。ご安心を。本作にもカルロス・ベルムト監督の日本趣味は、従来の作品同様に健在です。そのシーンに心が休まることでしょう。

ちなみに私は、劇中に登場する懐かしい”脱衣アーケードゲーム”を見て大いにウケました。なぜそのゲーム知っているのだ?と問われると、そんな世代だからと答えるしかありません…。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2022』記事一覧はこちら





増田健(映画屋のジョン)プロフィール

1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。

今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn

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