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Entry 2019/08/06
Update

『ゴーストランドの惨劇』感想と評価【トラウマ映画・どんでん返し】の鬼才パスカル・ロジェが描く新たなホラーの恐怖|SF恐怖映画という名の観覧車61

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile061

『マーターズ』(2009)で世界にトラウマを植え付けたホラー界の鬼才パスカル・ロジェ

理不尽な暴力を描く作品が評価を集める一方で、前回のコラムでご紹介させていただいた『トールマン』(2012)では丁寧な描写から「ホラー」が「ヒューマンドラマ」へと変貌する見事などんでん返しも見せてくれました。

そんな彼が手掛けたホラー映画最新作『ゴーストランドの惨劇』(2019)。

今回は、パスカル・ロジェの「ホラー映画監督」としての技巧がさえわたる本作の魅力をたっぷりとご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『ゴーストランドの惨劇』の作品情報


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

【日本公開】
2019年(フランス・カナダ合作映画)

【原題】
Incident in a Ghostland

【監督】
パスカル・ロジェ

【キャスト】
クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、ミレーヌ・ファルメール、エミリア・ジョーンズ、テイラー・ヒックソン

映画『ゴーストランドの惨劇』のあらすじ


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

田舎町の亡き叔母の家に移り住むことになったポリーン(ミレーヌ・ファルメール)と娘のベスとヴェラ。

しかし、引っ越しの日に2人の暴漢が家に押し入り3人に暴行を加えますが、娘を守るためポリーンは必死の抵抗をし暴漢を殺害します。

事件から長い歳月がたち、実体験を基にしたホラー小説で成功を収めるベスに「あの日」から精神を病んだヴェラからの助けを求める電話がかかり…。

物語を盛り上げる舞台設定


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

ホラー映画にとって舞台設定は重要な要素の1つと言えます。

カンカンに照り付けた真昼の屋外で「ワッ」と驚かされても、それは単なる「驚き」であり心の底からくる「恐怖」とは違うものです。

本作では、パスカル・ロジェ監督作品の中でも特に舞台設定にこだわっており、何も事が起きなくてもそこに「恐怖」を感じてしまうほどでした。

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

主人公のベスは1900年代の初頭に様々な怪奇小説を執筆したラヴクラフトを尊敬し、自身も怪奇小説を執筆。

劇中ではこのラヴクラフトの存在が特に重要となり、物語内に深い影響を与えることになります。

絶対的強者による社会への侵攻をベースとした「クトゥルフ神話」で有名なラヴクラフトですが、世界的人気となったのは彼の死後であり、生前は執筆業や私生活においても「孤独」や「苦痛」の連続であったとされています。

本作では事件の後、「ゴーストランドの惨劇」と言う小説を執筆し成功を収めることになるベスは一見ラヴクラフトとの繋がりが希薄ですが、物語が進行するうちに「絶対的強者による社会への侵攻」が意味するところが明らかになります。

ロブ・ゾンビのような住居


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

本作の物語のメインとなる舞台は田舎町の寂れた住居。

亡き叔母の趣味によって家の中には様々な装飾や人形が置かれ、作中でも指摘があるようにまるで「ロブ・ゾンビ」のような住居。

ロブ・ゾンビと言えば、ミュージシャン件映画監督としても有名で、『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(2005)はカルト映画の中でも高い評価を受ける人物。

何よりロブ・ゾンビの世界観は独特で、舞台となる舞台は古びた住居と相反するように過剰とも言える装飾がなされ一種独特な雰囲気を醸し出しています。

本作も仕掛けのあるびっくり鏡を始めとして、古びた住居ながら過剰とも言える装飾が目立つまさに「ロブ・ゾンビ」のような住居が舞台となり、舞台設定だけでも「恐怖」感を増しているとさえ言えます。

心霊ホラーとサイコホラーの合わせ技


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

物語の序盤で3人を襲う暴漢は普通の子悪党と違い、狂気を前面に押し出しています。

見た目だけで「恐怖」を感じかねない恐ろしさと行動の異常性は尾を引き、サイコホラーとして物語の全体を支配することになります。

物語中盤では事件から数年が経ち、平和に暮らしているベスでしたが「あの日」に囚われた姉の様子を見るため再び実家を訪れることに。

実家では心を病んだ姉が常に居ないはずの暴漢に怯え生きていましたが、徐々にベス自身も「何か」の存在を感じ始めます。

姉1人では出来ないような自傷行為、突然鏡に映る「HELP ME」の文字、サイコホラーのあとに待ち構える心霊ホラー部分ではおどろおどろしい雰囲気が場に立ち込めます。

2つのホラーのジャンルを混ぜた全く新しい本作は、中盤を越えると意外などんでん返しが待ち構え、更に新感覚の「ホラー体験」が出来ること間違いなしの1作でした。

まとめ


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

ラヴクラフトの精神を根底に秘め、ロブ・ゾンビのような住居で進展する心霊&サイコホラー。

1つの要素だけでもきっと満足できること間違いなしの詰め合わせホラー映画最新作『ゴーストランドの惨劇』は8月9日より新宿武蔵野館を始め全国で順次ロードショー。

暑い日が続く8月だからこそ、ぜひこの「恐怖」を劇場でご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…


(C)2017 ACE IN THE HOLE PRODUCTIONS, L.P.

いかがでしたか。

次回のprofile062では、新宿シネマカリテで行われた「カリコレ2019/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2019」のおさらいとして上映作の1つ『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019)をご紹介させていただきます。

8月14日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


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