連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile148
過去に戻り現在の自分の人生を変えることは、誰もが一度は望むタイムトラベルの形の一つではないでしょうか。
その一方で、自分自身に訪れる未来の運命を知ることや、破滅の将来を知る「未来へのタイムトラベル」は、それなりの覚悟が必要とされるため、過去へのタイムトラベルほど人気ではありません。
今回は自身の生きていない未来のために、命懸けで戦うことを強要される様子を描いた最新映画『トゥモロー・ウォー』(2021)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『トゥモロー・ウォー』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
The Tomorrow War
【監督】
クリス・マッケイ
【キャスト】
クリス・プラット、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ベティ・ギルピン、エドウィン・ホッジ、キース・パワーズ、マイク・ミッチェル、サム・リチャードソン、J・K・シモンズ
【作品概要】
映画配給会社「パラマウント映画」によって劇場公開予定だった作品が、新型コロナウイルスの拡大によって「Amazonプライムビデオ」での配信公開に変更となったSF映画。
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのクリス・プラットが主演を務めたことで話題となりました。
映画『トゥモロー・ウォー』のあらすじとネタバレ
2022年、イラク戦争に従軍後、学問の道に目覚め高校で化学教師を務めるダンは、研究所で働く夢を持ちながら、妻のエミーと娘のミューリと共に過ごしていました。
ある日、テレビでサッカーの試合を観戦中、サッカースタジアムに突如兵士たちが現れます。
兵士のリーダーが自分たちは30年後の未来から来たと言い、未来では宇宙生物との戦いで破滅の一路を辿っており、過去の人間の力を借りたいと話しました。
12ヶ月後、アメリカ政府は未来での宇宙生物「ホワイトスパイク」との戦いに参加するために未来の兵士たちと共に転送装置を作り、未来に兵士を送り込みますが多くの死傷者を出します。
兵士の中には転送装置に適合しない人間もいるため一般人からも強制的な徴兵を始め、一般人の生存率が2割という惨状に各地で批難の声が高まっていました。
軍に強制招集されたダンは検査の結果、7年後の未来に死亡しているという理由で7日間の未来での兵役を命じられ、腕に追跡装置兼未来への転送装置となる転送パッドを装着され、24時間の身辺整理の時間を与えられます。
エミーの懇願で、ダンはベトナム戦争の従軍から帰還後に家族を捨てた陰謀論者の父ジェームズを頼りました。
反体制派の人間で専門知識を持つジェームズに転送パッドを外して貰おうとしますが、自分や母を捨てた行為を正当化するジェームズと相成れず、ダンはまたも喧嘩別れしてしまいます。
わずか7日間ということもあり未来への従軍を決めたダンは、エミーとミューリに一時の別れを告げると基地へと出向。
集められた多くの一般人たちは戦闘経験のない40代以上がほとんどであり、その場で知り合った科学者のチャーリーは「存在の矛盾」を解決するために、30年後には既に死亡している人間たちが兵士として送られていることを推理します。
逆に現代へと来ている未来の兵士たちの多くが若者であり、これもまた同じ時間軸に同一人物が2人存在してはいけない「存在の矛盾」を解決するためなのだろうと考えていました。
時間転送は場所と場所を繋ぐものであり、転送装置の出来た2051年にしか飛ぶことが出来ず、また飛ぶことの出来る2051年の時間軸も常に経過していると話されます。
時間の無さゆえに戦闘訓練すらほとんど行われない中、最初の従軍から複数回に渡り生き延びているドリアンもダンと同じチームに配属されます。
ある日の夜、訓練期間中のダンたちのチームは未来の研究ラボが襲われているという警報によって、突如未来へと送られることになります。
機械の故障によって空中に投げ出された兵士たちは、ビルの屋上に落下したダンやドリアンたちを除き、大怪我や落下死してしまいます。
ホワイトスパイクが闊歩する街中にある研究ビルへとたどり着いたダンたちは、研究員が全員惨殺され吊るされている様子を目撃。
未来の作戦本部のフォレスター大佐からの指令で「研究者の救助」から「研究データとアンプルの持ち帰り」へと任務を変えたダンたちでしたが、研究ビルをホワイトスパイクに包囲され、非常階段で戦闘となります。
複数の隊員が死亡しますが、戦闘に手慣れたドリアンの援護を得ながらビルから脱出します。
しかし、その場には多くのホワイトスパイクが集結しており、フォレスターは爆撃を要請。
ダンたちに爆撃場所からの避難を命じますが、ダンが怪我をした隊員を救助しようとしたことから遅れてしまいます。
街に爆撃が始まり、ダンは軍のキャンプのベッドで目を覚まします。
ドリアンとチャーリー以外の隊員は死亡しており、ドリアンは他の隊員を救おうとする行為は危険だとダンに言うと癌で死亡する自身の未来を告白し、最後まで戦い抜くと言いました。
フォレスターと対面したダンは、彼女が自身の娘であるミューリの未来の姿であることを知りますが、ミューリはダンによそよそしく接します。
大佐としてだけでなく研究者としてホワイトスパイクの研究を進めるミューリは、既にオスに対して高い致死性を発揮する毒物を完成させていましたが、繁殖の肝となるメスには効果が無くメスの捕獲を急いでいました。
ミューリは捕獲作戦の進む基地にダンと共に向かうと作戦に自らも参加しますが、メスに引き寄せられた大量のオスが押し寄せ、ミューリの危機を感じたダンも、作戦に勝手に参加し彼女を救い出します。
メスの捕獲は成功しましたが、ダンの無謀な行為に憤るミューリは、エミーとミューリを捨て交通事故で死んだとダンの未来を話します。
しかし、ミューリはダンのことを恨んでいるわけではなく、ただ側に居て欲しかったと語りました。
映画『トゥモロー・ウォー』の感想と評価
「戦争の理不尽さ」を描く前半
未来の窮地が分かり、人類の希望のために未来へと戦いに赴く主人公を描いた映画『トゥモロー・ウォー』。
本作では「政府の横暴さ」の表現によって、「未来への従軍」が美しいものではなく恐怖感の高いものとして描かれています。
兵士として強制的に徴兵されるのは、主人公を含め「30年後の世界」で死亡している人間たちであり、そのため彼らは自身の生きていない未来のために、生存率2割の戦場へと駆り出されます。
拒否も許されず、訓練もろくにしない状態で未来へと送られ、機械の故障によって戦わずして多くの犠牲者が出てしまう前半部分は「デスゲーム映画」のような理不尽な恐怖を覚えます。
上層部の判断によって発生する「戦争」も市民にとっては同じ「理不尽」があり、「戦う意味」の分からないまま戦場に送られる本作の前半部分は、戦争映画であり恐怖映画でもありました。
「戦う意味」が分かる後半
自分自身で見つけた意味は意志によって固められており、強制されようとも簡単には覆すことは出来ません。
主人公のダンは戦地で命懸けで戦う内に、自身にとっての「戦う意味」を見つけます。
それはダンにとって自身の命よりも大事であり、前半で描かれていた「理不尽」は消え、物語は本格的に宇宙生物との戦争へとシフトしていきます。
宇宙生物が「どこから来たのか」を突き止める「SFミステリー」的展開が理知的に描かれており、前半と後半で大きく魅力要素が切り替わる飽きの来ない物語となっていました。
まとめ
既にAmazonプライムビデオで最高規模の再生数を記録し、続編企画も立ち上がったとされる最新映画『トゥモロー・ウォー』。
SFやパニック要素だけでなく、ミリタリーやヒューマンドラマとしての面白さも持ち合わせる本作は、娯楽映画を求めている時に最適の作品。
主人公のダンを演じるクリス・プラットや『セッション』(2015)などで知られる名優J・K・シモンズの格好良さにも痺れる本作をぜひご家庭で楽しんでみてください。
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