連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第16回
日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第16回は、1990年公開のシルヴェスター・スタローン主演の人気シリーズ第5弾『ロッキー5/最後のドラマ』。
前作『ロッキー4/炎の友情』(1986)での死闘を経て、現役を引退した主人公ロッキー・バルボアのその後を描きます。
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CONTENTS
映画『ロッキー5/最後のドラマ』の作品情報
【日本公開】
1990年(アメリカ映画)
【原題】
Rocky V
【脚本】
シルヴェスター・スタローン
【監督・共同編集】
ジョン・G・アビルドセン
【製作】
アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ
【撮影】
スティーブン・ポスター
【編集】
ロバート・A・フェレッティ、マイケル・N・ヌー
【キャスト】
シルベスター・スタローン、タリア・シャイア、バージェス・メレディス、バート・ヤング、トミー・モリソン、リチャード・ガント、セイジ・スタローン、トニー・バートン
【作品概要】
ボクサーのロッキー・バルボアを主人公にした、1990年公開の「ロッキー」シリーズ第5作。
前作『ロッキー4/炎の友情』での激闘により引退を表明したロッキーが、マネージャーとして若手ボクサーのトミー・ガンを育てようとします。
第1作のジョン・G・アビルドセンが監督に復帰し、脚本はこれまで同様にシルヴェスター・スタローンが担当。
前シリーズから主要キャストも変わらず続投する中、ロッキーの息子ジュニア役をスタローンの実子であるセイジ・スタローンが演じます。
そして、新鋭ボクサーのトミーを演じたトミー・モリソンは現役プロボクサーでもあり、本作出演の後にWBO・IBCのヘビー級チャンピオンとなりました。
邦題のサブタイトル「最後のドラマ」とあるように、当初は本作がシリーズ完結編となる予定でした。
映画『ロッキー5/最後のドラマ』のあらすじとネタバレ
参考映像:『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)
モスクワでイワン・ドラゴとの死闘に勝利したロッキー・バルボアですが、試合後、体の異変を訴えます。
アメリカに帰国した直後の記者会見の場で、悪名高いプロモーターのデュークからタイトルマッチ戦のオファーを受けたロッキーでしたが、それを拒否。
その帰り際、妻エイドリアンが雇っていた経理士が、ロッキーの財産を秘密裏に不動産投資に使い込んでいたことが発覚。
破産宣告を受け、さらに脳に障害を負っていると医師に診断されたロッキーは、エイドリアンの勧めもあり引退を決意し、邸宅と所有物を抵当に入れ、生まれ育ったフィラデルフィアに居を移すことに。
義兄ポーリーが持っていたアパートに家族で住むことになったロッキーは、今は亡きトレーナーのミッキーから受け継いだボクシングジムをやり直すことにします。
そんなロッキーの前に、トミー・ガンというボクサー志望の青年が現れ、マネージャーになってほしいと頼み込みます。
最初こそ「自分はマネージャーの器ではない」と断ったロッキーでしたが、粗削りながらも優れたパンチを持つトミーの素質を見込み、つきっきりで指導するように。
一方、ロッキーの息子ジュニアは激変した生活環境に慣れない上に、転校した学校でいじめに遭い、次第に反抗し始めます。
マネージャーとなったロッキーの知名度も手伝い、トミーの快進撃は続きます。そんな中、デュークがロッキーに再度現役復帰を打診するも、改めて拒否されます。
するとデュークは、「お前はロッキーの操り人形に過ぎない」と言葉巧みにトミーに近づきます。
マスコミの中傷や、世界タイトルに挑戦したいという欲を制止するロッキーに苛立ち、ついにデュークの元へと行ってしまうトミー。
喪失感に苛まれるロッキーでしたが、息子ジュニアの悩みに気づなかったことを詫び、親子関係を修復するのでした。
映画『ロッキー5/最後のドラマ』の感想と評価
参考映像:『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)
原点回帰で有終の美を飾る予定だった第5作
「ロッキー」シリーズは、本来は第3作『ロッキー3』(1982)で完結する予定でした。ところが、この作品が予想以上のヒットとなり、次作『ロッキー4/炎の友情』も製作。
こちらもさらに大ヒットを記録したことで、終わりが見えない状態となっていきます。
主演のシルヴェスター・スタローンのキャリアは、この『ロッキー3』、『ロッキー4』に加えて、『ランボー/怒りの脱出』(1985)が立て続けに大ヒットした1980年代中期が最盛期とされます。
しかし88年、「ランボー」シリーズ第3作『ランボー3/怒りのアフガン』(1988)が、前作よりも興行成績を下回り、批評的にも酷評されたあたりから、徐々に下降線を下っています。
ここでスタローンは、「スタローンは『ロッキー』と『ランボー』頼り」という長らくの風評を断ち切る意味でも、ドル箱だった「ロッキー」シリーズに本当に終止符を打つべく、本作『ロッキー5/最後のドラマ』の脚本に着手します。
第3作と4作でのロッキーは、アメリカンドリームの絶大なる成功者として描かれています。しかし第5作となる本作では、成功の証だった富を一気に失い、生まれ育ったフィラデルフィアへと戻っていきます。
いうなればこれは、貧乏生活を送っていた頃のロッキーを描いた、第1作の焼き直しです。
トップスターではあったものの、キャリア的に陰りが見えつつあったスタローン自身もまた、原点に回帰しようとしたのは間違いないでしょう。
何よりも、第1作のジョン・G・アビルドセンを再び監督に起用していますし、最初の脚本ではロッキーを死なせる予定だったとスタローンが明かしていることからも、ここでキッパリと「ロッキー」を終わらせるつもりだったのは想像に難くありません。
物議を醸したクライマックス
参考映像:『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)
『ロッキー3』、『ロッキー4』で見せ場やエンタメ要素が上がったボクシングシーン。
それを変える狙いからか、本作のクライマックスでは、なんとストリートファイトを持ってきています。
アクションの振り付けに、スタローンの監督デビュー作『パラダイス・アレイ』(1978)で共演したプロレスラーのテリー・ファンクが協力していることもあってか、殴るだけでなく、トミーがベアハッグでロッキーを締め上げたり、お返しとばかりにロッキーが投げ技のジャーマンスープレックスまで披露します。
これに関しては、引退したロッキーと現役チャンプのトミーがボクシングで決着をつけるのは、いささか無理があると考えた結果と思われます。
そもそも、元ボクサーと現役ボクサーがグローブを交えるという図式自体、前作でのアポロvsドラゴ戦で行われているだけに、二番煎じを避ける狙いもあったのでしょう。
しかし、このストリートファイトは賛否、というか圧倒的な否の意見を呼びました。
人々が望んでいたのは、プロレス技を繰り出すロッキーではなく、苦しいトレーニングを経て強敵に立ち向かうロッキーだったのです。
シリーズの“黒歴史”扱いにされるも…
参考映像:『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)
シリーズ有終の美を飾るはずだった本作『ロッキー5/最後のドラマ』(DVDソフトでは「最後のドラマ」は外されている)でしたが、興行的にも批評的にも大惨敗。
無冠にはなったものの、最低映画に贈られるラジー賞では、作品賞、監督賞を含めた7部門にノミネート。
スタローン自身も失敗作と認め、2006年に仕切り直しの完結編『ロッキー・ザ・ファイナル』を発表したことで、シリーズでも“黒歴史”扱いされることに……。
確かに、あらすじも粗雑な点があるのは否めませんし、何よりもストリートファイトで決着を付けるという締めくくりは、シリーズ全体の核であったボクシングを著しく欠いています。
それでも、評価すべき点もあります。本作が第1作の原点回帰であると前述しましたが、本作のロッキーが持っていて、第1作のロッキーには無いものがあります。
それは「家族」。ロッキーは、当初こそボクシングの後継者を育てようと躍起になりますが、それと引き換えに家族を犠牲にしていることに気づきます。
富こそ失ったものの、ロッキーには家族という、絶対に失えないものがあります。
守るべきものが、ボクシング王座から家族へと代わる――ジュニアが父ロッキーに、「本当のチャンピオンはパパだ」と言うシーンが、すべてを表しています。
そんなロッキーは、後に本当の後継者となる、親友アポロの遺児アドニスと出会います。
結果論ではありますが、もし本作で綺麗にシリーズが完結していたら、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)は生まれなかったかもしれません。
家族の在り方や、ロッキーの飽くなきボクシング精神を描いている点でも、やはり本作『ロッキー5/最後のドラマ』はシリーズから外せない一本なのです。
次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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