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Entry 2023/05/31
Update

【ネタバレ】クリード3過去の逆襲|あらすじ感想評価と結末考察。“ロッキー(スタローン)”のサーガ有終の美を飾るシリーズ完結編【すべての映画はアクションから始まる39】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第39回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第39回は、2023年公開の『クリード 過去の逆襲』

ボクシング映画の金字塔「ロッキー」シリーズ(1977~2006)に登場したアポロ・クリードの息子アドニスを主人公に据えた「クリード」シリーズの第3作にして完結編を、ネタバレ有でレビューします。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『クリード 過去の逆襲』の作品情報


(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

【日本公開】
2023年(アメリカ映画)

【原題】
Creed III

【監督】
マイケル・B・ジョーダン

【製作】
アーウィン・ウィンクラー、チャールズ・ウィンクラー、ウィリアム・チャートフ、デビッド・ウィンクラー、ライアン・クーグラー、マイケル・B・ジョーダン、エリザベス・ラポーゾ、ジョナサン・グリックマン、シルヴェスター・スタローン

【脚本】
キーナン・クーグラー、ザック・ベイリン

【撮影】
クレイマー・モーゲンソー

【編集】
タイラー・ネルソン

【キャスト】
マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース、ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャド、ホセ・ベナビデス・ジュニア、カネロ・アルバレス、テレンス・クロフォード

【作品概要】
クリード チャンプを継ぐ男』(2015)、『クリード 炎の宿敵』(2018)に続く、「クリード」シリーズの3作目にして完結編。前2作に続き主人公アドニス・クリードをマイケル・B・ジョーダンが演じており、初監督も務めました。

アドニスの妻・ビアンカを同じく前2作に続きテッサ・トンプソンが演じ、『炎の宿敵』でヴィクター・ドラゴを演じたフロリアン・ムンテアヌも再登場。そして、アドニスの幼馴染みのデイムを『アントマン&ワスプ クアントマニア』(2023)のジョナサン・メジャースが演じます。

アメリカでは2023年3月に公開され週末3日間で興収5860万ドルを記録し、シリーズNo.1のオープニング興収となる大ヒットとなりました。

映画『クリード 過去の逆襲』のあらすじとネタバレ

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

2002年のアメリカ・ロサンゼルス。夜、15歳のアドニス・クリードは家を抜け出し、友人のデイミアン(デイム)と共に車で外出。2人が向かったのは賭博ボクシング場で、デイムは選手、アドニスはセコンドとして参加。

試合はデイムが圧倒的な力でKO勝ちを収め、かけ金を分けてもらったアドニスは、お礼として1974年の“キンシャサの奇跡”(ジョージ・フォアマンvsモハメド・アリ戦)の半券チケットをプレゼントします。

食事をしようと立ち寄ったダイナーの前で、1人の中年男を見かけたアドニスは、彼がレオンという名であることを確認すると、いきなり殴りかかります。レオンの仲間に止められ、暴行を受けるアドニス…。

それから18年後、キンシャサでヘビー級チャンピオンとしてリッキー・コンランとの引退タイトル戦に臨んでいたアドニスは、かつてデイムに教わった「肉を切らせて骨を断つ」戦法で見事KO勝ちし、有終の美を飾ります。

引退から3年経ち、アドニスは長年のセコンド・トニーとともにボクシングジム「デルファイ・アカデミー」を経営。ジム所属で現役ヘビー級チャンプのフェリックス・チャベスの次回タイトル戦のプロモート活動に勤しんでおり、妻ビアンカは音楽プロデューサーとして活躍し、娘アマーラも聴覚障がいを持ちながらも健やかに育っていました。

そんなある日、アドニスは18年ぶりにデイムと再会。刑務所から出たばかりで保護観察状態にあるという彼の出現に戸惑うも、食事を共にします。

デイムは刑務所で何通も手紙を書いたと言うも、心当たりがないアドニスは、ボクシングチャンピオンになりたいという彼の願いを聞き、ジムのスパーリングパートナーに迎え入れることにします。

アドニスに家に招かれたデイムは、共にグループホーム(少年保護施設)に入っていた思い出を語りますが、ビアンカは初耳でした。

後日、デルファイ・ジムでフェリックスとスパーリングしたデイムは、オヤジ扱いされたことにエキサイトして反則紛いのパンチを繰り出し、乱闘状態に。二度とデイムを上げないと激高するトニーを、アドニスはなだめることしかできません。

デイムが現われたと知り表情を曇らせる母メアリー・アンに、手紙のことを聞きだせないアドニスは、心臓に不安を抱える彼女に同居を勧めますが、やんわりと拒否されます。

フェリックスの次回タイトル戦の挑戦者が、かつてのライバルだったヴィクター・ドラゴに正式決定し、レセプションパーティーを開いたアドニス。ところがパーティー会場で、ドラゴが暴漢に襲われて腕を負傷してしまいます。

ドラゴの出場不能でタイトル戦開催が危ぶまれたアドニスは、トニーの反対を押し切りデイムを新たな挑戦者にすることにします。

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

かくして行われたフェリックスvsデイムのタイトル戦。デイムはフェリックスの腕関節を集中的に攻めて動きを鈍らせつつ、足で蹴ったり肘で目下をカッティングなどのラフファイトを駆使。ついに3ラウンド目でKO勝ちし、新チャンプとなります。

デイムの勝利を素直に喜べないまま帰路に就いていたアドニスに、メアリー・アンから連絡が。彼女は息子が誤った道を進まないようにと、デイムが書いた手紙を隠していたのです。

手紙の中にあった、かつてプレゼントした“キンシャサの奇跡”の半券を見て母をなじるアドニス。しかし別の手紙には、デイムとドラゴを襲った暴漢が一緒に写っていた写真を見つけます。

騙されたと知り怒ったアドニスはデイムが屯していたビーチへ向かうも、「あの時お前は俺を置いて逃げた。これからお前のすべてを奪ってやる」と殴られます。

目を腫らして帰宅したアドニスは、ビアンカにデイムとの過去について話すことに。

グループホームで兄弟同然に育ったアドニスとデイムは、そこでレオンという男の虐待を受けていました。18年前、アドニスは偶然見かけたレオンに殴りかかったところ、彼の仲間に襲われます。

アドニスを助けようと持っていた銃で脅したデイムは、やってきた警察に逮捕されますが、アドニスはスキを突いて1人逃げてしまったのです。

デイムを見捨てた負い目から面会にも行かなかったことを責めるアドニスに、ビアンカは自分を赦すよう諭します。

数日後、ビアンカからメアリー・アンが倒れたという連絡を受けて病院へ向かったアドニスは、数日前に非難を浴びせたことを涙ながらに詫びます。意識が朦朧としていくなか、傍らに寄り添う息子の姿に亡き夫アポロを重ねながら、メアリー・アンは息を引き取るのでした。

後日、スポーツ番組に生出演したアドニスはデイムに宣戦布告。デイムも応じ、タイトル戦が決定します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『クリード 過去の逆襲』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

引退から3年ぶりのカムバックとあって、下馬評ではアドニス不利の声が圧倒的。それでもアドニスはトニーと猛特訓を開始。

スパーリングパートナーを買って出たテレンス・クロフォードやドラゴに、勘を取り戻せずに殴られ続けるアドニス。それでも不屈の闘志で何度も立ち上がります。

そして迎えたタイトル戦。序盤にデイムに腕関節を責められ苦悶するアドニスですが、なんとか応戦。

ラウンドが進むにつれ、両者は次第に観客不在のリングで闘っていく感覚に。少年時代の姿を投影しながら拳を交えていきます。

最終第12ラウンド。デイムの強烈なみぞおちへのボディブローでダウンを喫するアドニス。

しかしビアンカの声援を受けて10カウント間際で立つと、ロープ際に押し込んで反撃。ガードのスキをついて渾身の右ストレートを放ちダウンを奪い返します。

デイムは立ち上がることができず、見事KO勝ちを収めるのでした。

控え室でのシャンパンショーの後、デイムの控室へ向かったアドニスは、「俺が教えていない戦法で勝ったな」と讃えたデイムに、あらためてあの事件を詫びます。

「お前は悪くない」と言うデイムに対し、「誰も悪くなかった」と返したアドニスは続けて、「いつでも家に来てくれ」と告げるのでした。

ビアンカやアマーラとリング上で勝利の喜びに浸るアドニスは、チャンピオンベルトを肩に抱えて、その場を去っていくのでした――。

俳優からフィルムメーカーへ


(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ボクシング映画の金字塔『ロッキー』(1976)の流れを汲み、新たなヒットとなった「クリード」シリーズ。本作『過去の逆襲』は、その3作目にして完結編となります。

大きな話題は、シリーズを通してアドニス・クリードを演じた主演のマイケル・B・ジョーダンが、初監督を務めたことでしょう。

俳優として名を成せば、自分が出演したい作品を自分で手がけたくなるもの。クリント・イーストウッド然り、ジャッキー・チェン然り、ベン・アフレック然り、監督業に進出した俳優は珍しいことではありませんし、監督はしなくてもコントロールフリーク(仕切り屋)として制作の全権限を握るトム・クルーズのようなケースもあります。

そもそも「ロッキー」サーガの生みの親であるシルヴェスター・スタローンも、下積み時代から脚本を書き溜めていたことからも、フィルムメーカーの素養を持っていました。

アドニスというキャラクター自体はシリーズ第1作『チャンプを継ぐ男』の監督・脚本を手がけたライアン・クーグラーによって生まれましたが、アドニス役のジョーダン自身も、フィルムメーカーとしてアドニスをもっと掘り下げたくなったのも当然と言えます。

あふれる日本アニメインスピレーション

(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

監督のジョーダンは、日本アニメ好きであることを公言しています。

まず、冒頭で映る少年時代のアドニスの部屋には、『ルパン三世』や『機動戦士ガンダムSEED ASTRAY』、『NARUTO ナルト』といったポスターが貼られ、棚にはガンプラも並んでいますが、これはジョーダンたっての希望でセッティングされたそう。

その後、プロボクサーとなって引退試合に臨んだ際のアドニスのリングコスチュームも、衣装担当のリズ・ウルフが、ジョーダンが好きだという『AKIRA』(1988)の主人公・金田のバイクスーツに寄せてデザインされました。

さらにシリーズの要といえるボクシングシーンで、前2作以上にスローモーションやクローズアップを多用しているのは、『はじめの一歩』、『メガロボクス』、『ドラゴンボールZ』などからインスピレーションを受けたとジョーダンも認めています。パンチを喰らってひしゃげるボディや飛び散る汗などは、バトルアニメ好きの方ならお馴染みの光景でしょう。

そもそもアドニスとデイムの関係が、『NARUTO ナルト』でのナルトとサスケとダブります。同じ環境で育った者同士が別の道を進み、ついには拳を交えて決着するシチュエーションなどは、まさにソックリです。

リズ・ウルフのツイッター

「ロッキー」シリーズへのオマージュ


(C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

日本公開時は、アニメとのシンクロ率の高さが突出して話題となった本作。しかしながら本編を観てみると、それよりも「ロッキー」シリーズとのシンクロが感じられます。

引退して後進を育てているアドニスは、『ロッキー5』(1990)でのロッキーのポジションですが、名誉も富も家族もすべて手にした彼の前に現れたハングリー精神たぎるデイムは、『ロッキー3』(1982)でのクラバー・ラングに他なりません。

アドニスが無名のデイムに挑戦権を与えるという流れは、『ロッキー』でアポロがロッキーを挑戦者に指名するのと同じですし、復帰を決意したアドニスのトレーニングパートナーを買って出るのが元宿敵のヴィクター・ドラゴという件は、『ロッキー3』でクラバーに敗北したロッキーに手を差し伸べるアポロのそれです。

「ロッキーが登場しないのが不満」、「アドニスとその家族に関する描写が希薄」などの不評も散見しますが、個人的には「ロッキー」シリーズにリスペクトを捧げた有終の美を飾る作品だったと思います。

もっともジョーダン本人はシリーズのユニバース化も考えているようですが(エンドクレジット後の短編アニメはその一環)、それならば「クリード」シリーズのロッキーのように、メンター(指導者)となったアドニスも観てみたい気がします。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219





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