連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第26回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第26回は、2021年5月7日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開の『プロジェクトV』です。
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映画『プロジェクトV』の作品情報
【日本公開】
2021年(中国映画)
【原題】
急先鋒(英題:Vanguard)
【監督・製作・共同脚本・アクション監督】
スタンリー・トン
【製作】
バービー・タン
【音楽】
ネイサン・ワン
【キャスト】
ジャッキー・チェン、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、シュ・ルオハン、ジュー・ジャンティン、ジャクソン・ルー、エヤド・ホーラーニ、ブラヒム・アチャバッケ
【作品概要】
VIP警護を目的とする特殊護衛部隊「ヴァンガード」の活躍を描く、ジャッキー・チェン主演のアクション。
ジャッキーがヴァンガードリーダーのトンを、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、ジュー・ジャンティンなど新進気鋭の俳優たちが、メンバー役をそれぞれ演じます。
『ポリス・ストーリー3』(1992)、『レッド・ブロンクス』(1996)などこれまでに8本のジャッキー作品を手がけてきたスタンリー・トンが、監督のほか製作、脚本、アクション監督を兼任。
北米では2020年11月に公開され、ロシア、中国、イギリス、インド、韓国、シンガポール、マレーシア、アラブ首長国連邦などでヒット。
2020年公開作品世界第13位(Box Office Mojo調べ、2020年12月31日時点)となり、ジャッキー作品としては『ベスト・キッド』(2011)以来10年ぶりに全世界TOP15入りを果たしています。
映画『プロジェクトV』のあらすじ
世界中のクライアントにセキュリティサービスを提供する、民間の国際特殊護衛部隊“ヴァンガード”は、ロンドンを拠点に、設立者にして最高司令官のトン・ウンテン指揮の下、日々要人の警護にあたっています。
そんななか、旧正月を迎えたロンドンのチャイナタウンで、クライアントである実業家のチョン夫妻が誘拐される事件が発生。
しかし、現場近くにいた非番中のヴァンガードメンバーのロイとホイシュンにより、夫妻の救助に成功します。
誘拐を企てたのは、チョンのビジネスパートナーだったマシムの息子オマル率いる傭兵組織「北極狼」。
チョンは、マシムが中東の過激派組織とつながっていると知り、ロンドン警察に通報。それを受けたアメリカ軍の空爆によりマシムが殺された報復として、オマルに命を狙われたのでした。
チョンは、オマルが人質として、彼の娘でアフリカで野生動物保護活動をしているファリダを狙うとして、トンに警護を依頼。
他に狙われる理由がチョンにあるのではとトンは訝しむも、ロイとホイシュン、そして現場チームで唯一の女性メンバーのミヤを伴い、アフリカへと向かいます。
チョンの予想通り、アフリカではオマルの部下で組織を率いるブロトが動物密猟者トンダと共に、ファリダの行方を追っていました。
トンたちがファリダと接触し、警護をしようとした矢先、ブロト一味の襲撃でホイシュンが負傷し、ロイもファリダが誤って撃った麻酔銃により眠ってしまいます。
ファリダはロイを連れて木の上の野鳥観察所に逃げ込み、逸れてしまったトンとミヤは、GPSを頼りに行方を捜します。
目覚めたロイがファリダと交流を深めますが、そこへ土地勘のあるトンダに導かれたブロト一味が。
トンとミヤも交えて、アフリカの激流で水上バイクやボートを駆使したチェイスの末、ロイとファリダがオマル一味に誘拐されてしまいます。
一旦ロンドン本部に戻ったトンへ、中東のドバイから、ロイたちの命と引き換えにチョンの身柄引き渡しを要求するオマルの声明が。
そこでチョンはようやく、自分が狙われている本当の理由を喋ります。
マシムから預かっていた資金が過激派組織の武器資金であると知ったチョンは、全資金を黄金に換えて、ドバイに隠していたのです。
トンはホイシュン、ミヤ、飛行ホバーボードを乗りこなすコンドルを中心としたヴァンガードメンバーを動員し、チョンを連れてドバイへと向かいます。
ドバイに着いたトンたちは、オマルが人質交渉に指定した場所を虫状の小型ドローンを使って、体に時限爆弾を仕掛けられたロイが囚われた部屋や、見張りがいるポイントなどをチェック。
また、ミヤは現地にいるヴァンガード協力者と接触して給仕に紛争し、救出作戦に臨みます。
トンはチョンと一緒に、オマルとの直接交渉に臨むことに。
チョンは、マシムの財産の在処を教える代わりに人質の解放を要求するも、オマルは拒否してロイに仕掛けた爆弾を起動させてしまいます。
ミヤやコンドルたちの加勢によりファリダを救出し、ロイもホイシュンの身を挺した爆弾解除で難を逃れます。
しかし、追ってきたオマル一味の激しい銃撃戦を受け、八方塞がり状態に。
ホイシュンは胸に銃弾を受け、かつ倒壊した建物の下敷きになり心肺停止状態に陥るも、ロンの心臓マッサージと、胸に入れていた息子から貰ったバッジが弾を防いでいたため、一命をとりとめます。
トンたちを逃がすため、チョンは自ら投降し、オマルに捕らわれるのでした。
継承されるジャッキーアクション
アクション映画界のレジェンド、ジャッキー・チェンの主演最新作となる本作『プロジェクトV』は、精鋭特殊護衛部隊「ヴァンガード」の活躍を描きます。
ジャッキーの役は、ロンドン、アフリカ、ドバイなど世界各国を舞台とするヴァンガードの創設者にして最高司令官のトン。といってもそこはジャッキー、指令室に座って命令だけするわけがなく、危険な現場の最前線にも率先して出ていくあたり、しっかりファンのニーズを抑えています。
2000年代に入ってからのジャッキーは、自分が主演を務めるのを前提として、新進気鋭の俳優との共演作が増えています。
『香港国際警察/NEW POLICE STORY』(2004)ではダニエル・ウーやニコラス・ツェー、『ライジング・ドラゴン』(2012)ではクォン・サンウ、ジャン・ランシン、『レイルロード・タイガー』(2016)ではファン・ズータオやワン・カイなど、アジアの人気スターを積極的に起用。
年齢的にも若手俳優の共演は自然の流れですが、重要なのはただ共演するだけでなく、これまで築き上げてきたアクションを“継承”していることです。
ナイフを持った敵に対し鍋やフライパンで応戦する、机やイスで敵の攻撃を妨げるなど、身近にあるものを使ったジャッキーの十八番アクションを、しっかりと次世代に継承。
本作での、アレン扮するヴァンガードメンバーのホイシュンが唐辛子を利用して敵と戦うアクションなどは、言わずもがな『プロジェクトA2 史上最大の標的』(1987)でのジャッキーであり、ドリアンフルーツを投げた後に手を痛がったり、熱い鍋を持った直後に熱がるコミカルなリアクションも、ジャッキーおなじみのムーブメントです。
このあたりは、ジャッキーとは長年にわたりコンビを組み、本作ではアクション指導も務めたスタンリー・トン監督の手腕が光ります。
アクションを継承する一方、これまでのジャッキー作品と比べて、本作では銃やミサイルでの発砲シーンの激しさも目立ちます。
真のクライマックスはNG集にあり
もっとも、出来としては残念な面もあります。
CG技術の使用は現代の映画制作に欠かせないとはいえ、本作ではそれがかなり顕著に。虫型ドローンやミサイル兵器といったハイテク機器の描写はまだしも、実景のカーチェイスシーンまでもが『カンフー・ヨガ』(2017)の時と同様、車体が明らかにCGと分かるため、興を削がれるのが辛いところ。
CGがなかったジャッキーアクション全盛の1980年代と比較する自体野暮ですが、『五福星』(1983)や『スパルタンX』(1984)での何台も実車をクラッシュさせるシーンに興奮したファンとしては、寂しく感じることでしょう。
そのカーチェイスがクライマックスで主軸となっている上に、バトルの決着のつけ方も物足りなさを感じます。この点は、派手なアクションシーン全般を若手スターに任せすぎた弊害かもしれません。
年齢が60代半ばとなったジャッキーに往年のアクションを求めるのは酷と承知するも、やっぱりラストはジャッキーのバトルで締めてほしかった……そう思いながら恒例のエンドクレジットのNG集を観ていると、本当のクライマックスが待っていました。
中盤の見どころとなる、アフリカの急流の川でのボートチェイスでは、ジャッキー扮するトンが水上バイクを乗りこなします。
このシーンこそ、背景をブルーバックにしたCGを使っているかと思っていたら、実際のヴィクトリアの滝付近で撮影していたことがNG集で明らかに。
しかもジャッキーが水上バイクを横転させてしまい、危うく溺死しかけるというNGショットまであり、再び驚愕。
全般的なアクションからは一歩引いたとはいえ、やっぱりジャッキーは今なお体を張っています。
もちろんロイ役のヤン・ヤン、ミヤ役のムチミヤら若手スターも、ケガを負いながらもアクションをこなす様子が映っており、本当に頭が下がります。
CG使用は、危険な生身のアクションをせずに見栄えする映像を生み出せるというプラス面がある一方で、リアリティさが失われるマイナス面もあります。
体技を主体とするアクション映画の醍醐味は、やっぱり生身のコレオグラフィや本格スタントにあると思います。
ジャッキー作品を観ていてNG集を観ない方は皆無でしょうが、本作のそれは必見です。
グローバルにして不変
ジャッキーがハリウッド資本映画から撤退した理由の一つに、契約に縛られすぎて撮りたい映画がなくなったことを挙げています。
ハリウッド映画に出演すれば高額のギャラを手に出来るが、契約的に激しいアクションシーンを自分で演じられないストレスが溜まってしまう。
ジャッキーといえば、スタッフやキャストの誰よりも一番偉い存在なのに、自ら進んで撮影現場の掃除をしたり、炊き出しを作って皆に振るまう性分の持ち主。
これは会社に例えれば、社長自らが社内清掃をして社員の食事を作るようなものですが、役割分担が契約で決められているハリウッドではそれもできません。
キャリアの原点に還るべく、彼が中国・香港資本映画に注力するようになったのは当然とも言えます。
本作も、撮影こそ世界9カ所で敢行していますが、ストーリーの根本には中国人としてのアイデンティティや中国文化へのプライドが込められています。
溺死しそうになるもすぐに無事をアピールしたり、スタッフに率先してお菓子を配るなど、常に周囲に気を配る彼の姿は、本作のNG集でもしっかり映っています。
いくらグローバルな存在になろうと、いくらCG技術を多用しようと、ジャッキー本人の映画作りへの姿勢は変わらないのです。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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