連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第14回
人は時に見えている部分だけで物事を判断し、関わった人間の善悪を決めつけてしまいます。
2022年、自分の願望を含んだ思い込みが他者への評価へと繋がり、やがてそれが真実として拡散されてしまう昨今にふさわしい「ヒーロー映画」が「Amazon Prime Video」から配信されました
今回は「思い込み」による人々の暴走を描いた映画『サマリタン』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『サマリタン』の作品情報
【配信】
2022年8月26日(アメリカ映画)
【原題】
Samaritan
【監督】
ジュリアス・エイヴァリー
【キャスト】
シルヴェスター・スタローン、ジャヴォン・“ワナ”・ウォルトン、マーティン・スター、モイセス・アリアス、ダーシャ・ポランコ、ナターシャ・カラム、ピルウ・アスベック、ジャレッド・オドリック
【作品概要】
ブラギ・F・シャットが執筆した脚本を『ガンズ&ゴールド』(2014)や『オーヴァーロード』(2019)を手掛けたジュリアス・エイヴァリーが映像化した作品。
「ロッキー」や「ランボー」などのシリーズで高い人気を得ただけでなく、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)での演技が絶賛されたジュリアス・エイヴァリーが主演を務め話題となりました。
映画『サマリタン』のあらすじとネタバレ
スーパーパワー持つ双子「サマリタン」と「ネメシス」はその異能ゆえに人に忌み嫌われ、両親を放火によって亡くします。
その後、サマリタンは善に目覚め弱き人々を救い、ネメシスは悪に染まり迫害した人々への復讐を開始。
2人は何度もぶつかり合い、ネメシスはサマリタンを殺害するためのハンマーを作り、発電所にサマリタンを誘い出し最終決戦に挑みました。
戦いはハンマーを持っているネメシスに有利に運びましたが、誰も意図しない発電所の爆発によって2人は生死不明のまま消息が途絶えます。
数十年後、グラニットシティでは格差社会が広がり、街には職を失った浮浪者が多く居ました。
世の中ではサマリタンが生きているとも死んでいるとも言われる中、シングルマザーの息子サムは貧困ゆえにネメシス信者のギャング、サイラスの裏仕事である銅線の窃盗に手を染めます。
サイラスの部下であるレザによって強盗に加担した夜、サムはサイラスに度胸を認められ、目を付けられます。
サイラスはサムがサマリタンのファンであることを知ると「ネメシスは権力者に対してだけ悪を働いていた」とネメシスのもう一つの顔を語りました。
翌日、サムはサイラスに気に入られたことを妬むレザからリンチを受けますが、その場に隣りのアパートに住むゴミの収集業者のジョーが現れ、驚異的な力でレザたちを一蹴しサムを救います。
サムはジョーこそがサマリタンであると確信し、長年サマリタンの足取りを追う記者のアーサーにジョーのことを話しますが、人より優れた人間を見る度にアーサーに報告しに行くサムの日頃の行いから冗談半分に話しを済まされてしまいます。
一方、サイラスは警察の保管庫を襲撃し、ネメシスのハンマーとマスクを盗み出すと「ネメシスの使命を果たす」ために行動を始めます。
ジョーの不在時に彼の部屋に忍び込んだサムはサマリタンの新聞記事を収集したスクラップブックを見つけ盗み出しますが、サムが自身を監視していることに気づいていたジョーはサムの部屋を訪ねスクラップブックを取り返しました。
ジョーは自身がサマリタンであることを否定し歩き去ろうとしますが、彼を恨むレザがジョーを車で跳ね飛ばします。
ジョーは起き上がるとサムを連れ自分の部屋に連れて行き、シャワーとアイスで身体に受けた損傷を凄まじい速度で修復したためにオーバーヒート仕掛けた体を冷やします。
サムの父親は悪事を働きながらもサマリタンに救われた過去があり、サムはジョーに感謝を述べますが彼はなおもサマリタンであることを否定。
その頃、ネメシスのマスクとハンマーを手に入れたサイラスは貧困に喘ぐ街の住民の暴動を扇動し、街を混乱に陥れていました。
しつこく付き纏うサムに気を許し始めたジョーは自身がパワーを持っていることを自白し、サムに身を守るためのコツを教えます。
しかし、サムがネメシスの悪性についてジョーに話を聞こうとすると、気分を害したジョーはサムを追い出しました。
EMPを使い街に停電を起こしながら銀行を襲うサイラスをニュースでは「ネメシス」の再来と言い、ジョーはそのニュースを見て憤慨しました。
映画『サマリタン』の感想と評価
「その後」を描いた異色のヒーロー映画
2022年に76歳となったシルヴェスター・スタローンがヒーローを演じた映画『サマリタン』。
生死不明のまま行方不明となった状態を利用し毎日をただ静かに暮らすジョーは、「サマリタン」の大ファンである少年サムを助けてしまったことで新たな戦いに巻き込まれることになってしまいます。
本作はさまざまなヒーロー映画の中でも、主題となるヒーローの「全盛期」や「誕生」が描かれた作品ではなく、活動から身を離し老体となったヒーローの「その後」を描いています。
スタローンによる年齢を感じさせないアクションは本作でも健在であり、何かを抱え孤独に生きる老人としての姿と圧倒的なパワーを持ち悪人を次々と倒していくヒーローとしての姿が混じり合うジョーが違和感なく映し出され、ヒーローの「その後」を描いた作品としての魅力が俳優によって引き出されていました。
ジョーは「正義」なのか「悪」なのか
物語の最終盤、ジョーが実は正義のヒーロー「サマリタン」ではなく、復讐に身を落とした「ネメシス」であることが判明します。
作中ではニュースや新聞記事によって「悪」と断定されているネメシスでしたが、本当にネメシスが「悪」だったかどうかは実は最後まで明らかになっていません。
ネメシスによる数々の破壊活動があった一方でネメシスの信奉者であるサイラスは彼のことを「不当な権力者しかターゲットにしない」と語っています。
最終決戦の日に落下しそうになるサマリタンを救おうとしていたと言うジョーのフラッシュバックのような回想シーンも挿入されており、サムが考えていたような純粋な「悪」ではなかったことが伺えました。
しかしその一方で、悪人と断定した相手は許しを請うていても容赦なく殺害している苛烈さも存在し、ネメシスと言う存在を善と悪で区別することの難しさを感じさせます。
「悪事を働くのは悪党だけではない」と言う言葉や壊れた物を直すことに執着しているジョーの現在から、彼が悪を裁くダークヒーローであったこと考察することも可能な異色なヒーロー映画でした。
まとめ
悪を打ち倒す力を持った大人と環境ゆえに悪に染まりかける子供と言う『レオン』(1994)を彷彿とさせる作品でもあり、舐めてかかった相手がとてつもなく強い相手だったと言う『イコライザー』(2014)のような作品も彷彿とさせる本作。
両親を失った悲しみから復讐に墜ちたネメシスと、彼の信奉者であり不遇な人間に居場所を与えていたサイラス。
世間から見れば「悪」と一括りにされてしまう彼等が純粋な「悪」であったのか。
画面を楽しむアクション映画としても、はっきりと善と悪のボーダーを引かずに鑑賞者に問いかけるヒューマンドラマとしても、映画『サマリタン』は一見の価値のヒーロー映画としてオススメできる作品です。
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