連載コラム「おすすめ新作・名作見比べてみた」第5回
公開中の新作映画から過去の名作まで、様々な映画を2本取り上げ見比べて行く連載コラム“おすすめ新作・名作を見比べてみた”。
第5回のテーマは小松左京・原作の『日本沈没』です。
Netflixにて湯浅政明監督によるアニメーション作品『日本沈没2020』が配信されます。そこで今回は森谷司郎監督版と樋口真嗣監督版の2つの『日本沈没』を見比べます。
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CONTENTS
映画『日本沈没』の作品情報
【公開】
1973年(日本映画)
【原作】
小松左京
【監督】
森谷司郎
【特技監督】
中野昭慶
【脚本】
橋本忍
【音楽】
佐藤勝
【キャスト】
小林桂樹、丹波哲郎、藤岡弘、いしだあゆみ、夏八木勲、二谷英明、角ゆり子、滝田裕介、中丸忠雄、村井国夫、加藤和夫、鈴木瑞穂、高橋昌也、神山繁、中村伸郎、地井武男、名古屋章、垂水悟郎、島田正吾
映画『日本沈没』の作品概要
小松左京のベストセラー小説『日本沈没』の映画化作品。過去に東宝で『日本アパッチ族』や『エスパイ』(後に1974年に映画化)などの映画化が企画されていましたが、実現しなかったため、本作『日本沈没』が小松左京の小説の初の映画化となります。
監督は『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)の森谷司郎、脚本は『私は貝になりたい』(1959)『砂の器』(1974)の橋本忍。2人は本作以前に『首』(1968)でコンビを組んだほか、本作の後に大ヒット作『八甲田山』(1977)を世に送り出しました。
『ゴジラ対ヘドラ』(1971)の特殊技術でデビューしてから『竹取物語』(1987)まで、東宝特撮映画の特技監督を務めた中野昭慶監督による渾身の特撮映像も本作の見所です。
当時はオイルショック、さらに関東大震災からちょうど50年目であり、『日本沈没』は小説映画ともに大ヒット。原作小説は上下巻あわせ累計400万部、映画は配給収入約16億4000万円(興行収入に直すと約40億円)。
五島勉の著書『ノストラダムスの大予言』とともに、当時の「終末ブーム」を牽引しました。
未曾有の災害を主役に描いた超大作『日本沈没』
本作『日本沈没』は群像劇のスタイルをとっており、日本沈没を予見する田所教授、山本総理、潜水艦の操縦士・小野寺の三者の視点を織り交ぜた構成となっています。
そのため本作の主役は、タイトルにあるように、「日本沈没」という未曾有の大災害といえるでしょう。
特に東京を襲う大震災の描写はまさに地獄絵図の様相です。コンビナートの炎上から始まり、首都高速道路が橋げたから落下、ガソリンスタンドに突っ込む自動車、ビルのガラスが落下し市民に突き刺さるなど、文字に起こすだけでも悲惨な災害が描かれました。
映画産業が斜陽へ傾いていき1971年4月、東宝は映像事業部門を発展解消し東宝映像株式会社を設立。同年11月には株式会社東宝映画を設立しました。
そのため『ゴジラ対ヘドラ』以降、東宝特撮映画は東宝映像単独の製作となり、それまでの潤沢な予算による製作を望めなくなっていました。
しかし本作『日本沈没』は扱うテーマからも相当な製作費が必要となります。そのため本作は東宝映画と東宝映像の共同製作となり、迫力ある特撮描写が可能となりました。
20万分の1スケールの日本列島の俯瞰や、1200分の1スケールで作られた富士山のセットなど巨大なセットが建造され、スケールの大きな映像が展開されます。
本作の後半は日本国民を海外へ避難させるD2計画と、日本各地を襲う災害が中心となります。人々を退避させるD2計画の描写は、『シン・ゴジラ』の後半の展開に引用されています。
『日本沈没』は当時、本作を鑑賞した多くのクリエイターにも多大な影響を与えたのです。
映画『日本沈没』の作品情報
【公開】
2006年(日本映画)
【原作】
小松左京
【監督】
樋口真嗣
【特殊技術統括・監督補】
尾上克郎
【特撮監督】
神谷誠
【脚本】
成島出、加藤正人
【音楽】
岩代太郎
【キャスト】
草彅剛、柴咲コウ、豊川悦司、大地真央、及川光博、福田麻由子、吉田日出子、大倉孝二、手塚とおる、六平直政、花原照子、遠藤憲一、津田寛治、北村和夫、石田太郎、和久井映見、長山藍子、柄本明、國村隼、丹波哲郎、加藤武、石坂浩二
映画『日本沈没』の作品概要
平成ガメラ三部作の特技監督や『ローレライ』(2005)などで知られる樋口真嗣監督の手による『日本沈没』の再映画化。
本作以前にも1990年代後半に『日本沈没』の再映画化が企画検討され、松竹製作・大森一樹監督による『日本沈没1999』はポスターも印刷されていましたが、残念ながら実現しませんでした。
また監督補は実写版『進撃の巨人』の特撮監督、『シン・ゴジラ』の准監督の尾上克郎、特撮監督は平成ガメラ三部作で特撮助監督を務めていた神谷誠と、樋口監督と特撮スタッフは旧知の面々で固められています。
オマージュを織り交ぜながら再構成した樋口版『日本沈没』
旧作の『日本沈没』は群像劇の構成でしたが、本作は小野寺と阿部玲子の2人を主軸に物語が進みます。
また原作・前作では富豪の令嬢だった阿部玲子をハイパーレスキュー隊員へ変更する、大地真央演じる危機管理担当大臣の鷹森の登場など女性の活躍を導入したり、市井の人々の視点を導入したりと時代の変化に伴う脚色が多いのが本作の特徴です。
また樋口真嗣監督は旧作『日本沈没』のファンであるため、本作は旧作のオマージュを織り交ぜながら『日本沈没』を再構成して映像化しています。
まずOPクレジットです。「原作 小松左京」のクレジットが、富士山をバックに走る新幹線のショットに重なります。これは前作のクレジットタイトルを踏襲したものです。
旧作に登場した渡老人の「何もせん方がええ……」や、山本総理の「千人、百人、1人だけでもいい」などの名セリフは、発言者とシチュエーションを変えて登場。
田所博士が日本を沈没から救う策を鷹森大臣に説明する際に新聞紙を使用しますが、これは旧作で田所教授が渡老人へ新聞紙を使って大陸移動説の説明したシーンの引用です。
小野寺が実家の会津へ帰省した際に「この地方にまだ被害はない」という字幕が出ますが、これは旧作では丹後半島での場面に挿入されたものです。
またこの後の実家のシーンで小野寺の母がツバメの帰ってこない巣のことを話しますが、これは旧作で渡老人が日本を襲う災害の予兆をツバメの姿が見えない事から感じたことに由来します。
まとめ
2つの『日本沈没』で決定的に違うのは結末です。そのため旧作のファンによる樋口監督版の評価は、否定的なものが多いです。
しかし樋口監督による『日本沈没』は、映像技術の進化と、関わったスタッフたちのオリジナル版『日本沈没』への愛を感じるものとなっています。
次回の『映画おすすめ新作・名作見比べてみた』は…
次回のおすすめ新作・名作を見比べてみたは『マルサの女』(1987)と、続編『マルサの女2』(1988)を見比べます。お楽しみに。