連載コラム『おすすめ新作・名作見比べてみた』第3回
公開中の新作映画から過去の名作まで、様々な映画を2本取り上げ見比べて行く連載コラム“おすすめ新作・名作を見比べてみた”。
第3回のテーマは前回に引き続き「スター・ウォーズ」です。2019年12月20日(金)に「スター・ウォーズ」シリーズ・新三部作の最終作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開され、スカイウォーカー家をめぐる物語も幕を閉じました。
今回はスター・ウォーズ第1作目『スター・ウォーズ/新たなる希望』の日本公開を控えていた1978年に東映が製作した『宇宙からのメッセージ』(1978)と、同じく深作欣二監督によるファンタジー時代劇『里見八犬伝』(1983)を見比べます。
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CONTENTS
映画『宇宙からのメッセージ』の作品情報
【公開】
1978年4月29日(日本映画)
【原案】
石ノ森章太郎、野田昌宏、深作欣二、松田寛夫
【監督】
深作欣二
【脚本】
松田寛夫
【特技監督】
矢島信男
【キャスト】
ビック・モロー、真田広之、志穂美悦子、フィリップ・カズノフ、岡部正純、ペギー・リー・ブレナン、佐藤允、小林稔侍、天本英世、三谷昇、織本順吉、成田三樹夫、千葉真一、丹波哲郎、芥川隆行
映画『宇宙からのメッセージ』の作品概要
スター・ウォーズサーガの幕開けとなった第1作目『スター・ウォーズ/新たなる希望』(1977)の日本上陸前に、東映が製作したスペース・オペラが本作『宇宙からのメッセージ』です。
原案には漫画家の石ノ森章太郎、SF作家の野田昌宏が参加し、監督には『仁義なき戦い』で知られる深作欣二が抜擢されました。
キャストは千葉真一、志穂美悦子、真田広之と当時のジャパン・アクション・クラブの精鋭メンバー。またTVドラマ『コンバット!』の主演で日本での知名度も高かった海外スターのビック・モローもキャスティングされました。
しかし本作で特筆すべきキャストは敵であるロクセイア12世を演じた名優・成田三樹夫。深作監督の前作『柳生一族の陰謀』(1978・1月)では公家役を白塗りで演じていましたが、本作では独特なデザインの甲冑に身を包み顔を銀色に塗って登場します。
物語のベースは『里見八犬伝』
参考映像:『宇宙からのメッセージ』(1978)
本作は惑星ジルーシアの民が侵略者・ガバナス帝国の圧政に立ち向かうため、太陽系へ放った“リアベの実”に選ばれた8人の勇者を集めるという物語。この物語から本作のベースが滝沢馬琴(曲亭馬琴)の読本『南総里見八犬伝』であることがわかります。ヒキロクやカメササなど『南総里見八犬伝』の登場人物から名前を取られたキャラクターも登場します。
ガバナス帝国の惑星大要塞や戦艦グラン・ガバナスなど本作に登場する兵器は『スター・ウォーズ』から翻案したものですが、物語面ではそこまで『スター・ウォーズ』を参考にしていないように感じます。また「スター・ウォーズ」シリーズのアイコンであるライトセーバーですが、本作にはそれを模した武器が登場しないのも特徴です。
リアベの勇者に選ばれたのは、退役軍人のガルダ、宇宙暴走族のシローとアロン、富豪の娘であるメイア、チンピラのジャック。本篇の序盤で明かされるリアベの勇者は彼ら5人で、残りの3人に誰が選ばれるのかという点が物語を牽引する謎となっています。
上記のメンバーの内、戦争経験があるのはガルダのみで、シローたち他のメンバーは最後の惑星間戦争終結後に生まれたという設定です。ジルーシア人に協力してガバナス帝国と戦うのかガルダとシローたちが揉める場面は、さながら戦中派と“戦争を知らない子供たち”の意見対立のようにも思えます。また本作の「圧政に立ち向かう市民たち」という物語の骨格は、他の深作欣二監督作品にも共通するテーマでもありました。
映画『里見八犬伝』の作品情報
【公開】
1983年12月10日(日本映画)
【原作】
鎌田敏夫
【監督】
深作欣二
【脚本】
鎌田敏夫、深作欣二
【特技監督】
矢島信男
【キャスト】
薬師丸ひろ子、真田広之、志穂美悦子、京本政樹、寺田農、苅谷俊介、福原拓也、大葉健二、萩原流行、汐路章、遠藤太津朗、岡田奈々、ヨネヤマ・ママコ、成田三樹夫、目黒祐樹、夏木マリ、千葉真一、松坂慶子(声の出演)
映画『里見八犬伝』の作品概要
『南総里見八犬伝』を鎌田敏夫が翻案した小説『新・里見八犬伝』の映像化。『南総里見八犬伝』を題材にした映画作品は、当時の角川書店社長であり本作の製作総指揮をとった角川春樹の念願の企画でした。
監督は『宇宙からのメッセージ』と同じく深作欣二、特撮監督も同じく矢島信男が担当しています。八犬士たちの配役も真田広之、千葉真一、志穂美悦子と『宇宙からのメッセージ』のメインキャスト陣が出演。またヒロイン・静姫は当時のトップアイドルであった薬師丸ひろ子が演じています。
娯楽時代劇映画に欠かせないのはやはり敵役。本作の敵である玉梓は夏木マリが演じました。本作で玉梓が裸身で血の行水を浴びる場面は、“血の伯爵夫人”こと実在の殺人犯バートリ・エルジェーベトを彷彿とさせます。残忍さと妖艶さを併せ持った魅力的な敵役となっています。
新感覚なSFX時代劇
参考映像:『里見八犬伝』(1983)
特殊メイクをはじめとしたSFX技術を積極的に導入し、NOBODYが音楽を担当し開巻早々ロックナンバーが流れるなど、新感覚の時代劇として作られた本作『里見八犬伝』。
前述したように本作の原作は滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』ではなく、鎌田敏夫の小説『新・里見八犬伝』です。また馬琴の書いた『南総里見八犬伝』は長大なため、本作は原典を基に大胆かつ自由に翻案しています。『南総里見八犬伝』を題材にした映画化は角川春樹の念願の企画で、本作の原作である鎌田敏夫の小説は一旦中止となった本作の企画をノベライズしたものだったのです。
本作と『宇宙からのメッセージ』との一番の共通点は、『南総里見八犬伝』をベースにしている点、『宇宙からのメッセージ』を手掛けた深作欣二監督と矢島信男特撮監督がメインスタッフである点でしょう。
『宇宙からのメッセージ』で初めて映像作品に用いられた合成技術“東通ecgシステム”は本作にも利用され、クライマックスのアクションシーンで迫力ある映像を作り上げるのに貢献しています。
また角川春樹は本作に『レイダース/失われた聖櫃《アーク》』(1981)や『スター・ウォーズ』、『アメリカン・グラフィティ』(1973)の要素を取り入れて欲しいと、脚本の鎌田敏夫に発注しました。主人公の親兵衛が百姓の身分にコンプレックスを抱いている点は『アメリカン・グラフィティ』、クライマックスには『レイダース』を意識した場面が登場します。
本作に登場する『スター・ウォーズ』の要素ですが、3つ挙げられます。主人公・親兵衛とヒロイン・静姫の関係性はルークとレイア姫をイメージしたものでしょう。親兵衛が玉梓から「私の子供」と告げられる場面は、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の名シーンであるダース・ベイダーがルークに父親だと告げる場面を基にしたものです。そしてラストに登場する“光の矢”は、ライトセーバーを基にしたものだと考えられます。
こう見ると本作『里見八犬伝』には『宇宙からのメッセージ』よりもわかりやすい『スター・ウォーズ』の要素が導入されているのです。
まとめ
深作欣二監督が手掛けたスペース・オペラ『宇宙からのメッセージ』とSFX時代劇『里見八犬伝』。
この2作品を見比べるとベースとなった『南総里見八犬伝』のほかに、『スター・ウォーズ』が両作ともに影響していることがわかります。
次回の『映画おすすめ新作・名作見比べてみた』は…
次回の『おすすめ新作・名作を見比べてみた』は岩井俊二監督の代表作『Love Letter』(1995)と、森田芳光監督の『(ハル)』(1996)を見比べます。お楽しみに。
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