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韓国映画『おひとりさま族』あらすじ感想と評価解説。大阪アジアン映画祭2022グランプリ受賞のホン・ソンウン監督が描いた‟孤独と戦う人”|大阪アジアン映画祭2022見聞録4

  • Writer :
  • 西川ちょり

2022年開催、第17回大阪アジアン映画祭上映作品『おひとりさま族』

第17回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、2022年3月20日(日)に閉幕しました。

グランプリに韓国映画『おひとりさま族』が選ばれたのを始め、香港映画『アニタ』が観客賞とコンペティション部門スペシャル・メンションの二冠を制するなど、2022年もアジア各国の素晴らしい作品の数々に出逢うことができました。

映画祭は終了しましたが本連載はまだまだ続きます。

今回ご紹介するのは、見事グランプリを受賞した韓国映画『おひとりさま族』(2021)です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2022見聞録』記事一覧はこちら

映画『おひとりさま族』の作品情報

【日本公開】
2022年(韓国映画)

【原題】
혼자 사는 사람들 (英題:Aloners)

【監督・脚本】
ホン・ソンウン(홍성은)

【キャスト】
コン・スンヨン(공승연)、チョン・ダウン(정다은)、ソ・ヒョヌ(서현우)、キム・モボム(김모범)、キム・ヘナ(김해나)

【作品概要】
韓国国立映画アカデミーの卒業制作作品として制作された短編映画『The Father』(2018)で知られるホン・ソンウン監督の長編デビュー作。

テレビドラマを中心に活動するコン・スンヨンを主演に、誰とも親しく交わろうとしない一人暮らしの女性を描き、第22回全州国際映画祭の韓国コンペティション部門で最優秀俳優賞と配給支援賞を受賞。

映画『おひとりさま族』のあらすじ

カード会社のコールセンターに勤めるジナは、どんなクレームにも沈着冷静に対応するチームのエース的存在。

しかし、上司と事務的な会話をする以外は誰とも話さず、昼食も一人で食べ、外出時はスマートフォンでひたすら動画を見続けるなど、他者との交流を完全にシャットアウトした暮らしをしていました。

そんなジナは、最近、母を亡くしたばかり。唯一の肉親となった父にもそっけない態度を取り続けます。

ある日仕事から帰ってくると、いつものように廊下でタバコを吸っている隣人の男の姿がありました。ジナは黙って通りすぎますが、その際、男が「挨拶してほしい」とつぶやくのが聞こえました。

翌日、外が騒がしいので何事かとドアを開けると、隣人が孤独死していたことを聞かされます。亡くなってから一週間もたっていたらしいと知り、ジナは驚きます。昨日会ったのは確かに隣人だったのですが……。

職場では研修生の教育係を言い渡され、憮然とするジナ。研修生のスジンにも事務的に接するジナでしたが、スジンは仕事に戸惑うばかりで、いつしかジナの心も揺らぎ始めます。

映画『おひとりさま族』の感想と評価

親元を離れ、一人暮らしをしているジナは、他者とコミュニケーションをとることを極力避ける毎日を送っており、全身から「私にかまわないで」オーラを放っています。

それでも、彼女は完全に一人になることはできません。マンションの自室にたどりつくには廊下を歩く必要がありますが、大概、隣の部屋に住む男性がタバコを吸いに出ていて、その横を通らなければいけませんし、職場では新人研修の教育係を無理やり押し付けられる始末です。

父との確執もあり、一人の世界に入り込むことは容易なことではありません。そんな生活の中で、迷い、揺らぎ、徐々に変化していくジナの姿が、てらいのない描写で映し出されていきます。

人を傷つけたり、人から傷つけられることを避けて、一人閉じこもっていた人物が、「やはり人は一人では生きられない」ことに気付き、受け入れ、新たなる一歩を踏み出すという作品はこれまで数え切れぬほど生み出されてきました。

本作もその一つであることは間違いありませんが、ただ、そこから少しばかりはみ出ている面白さがあります。

なにしろ、このヒロインは、新しい世界に挑戦しようと舵を切るわけでもなく、出会いやロマンスの予兆もなく、家族と和解するわけでもありません。彼女は同じように一人で暮らし続けるだけです。ここにこの作品の明快なテーマがあります。

本作には様々なキーワードが散りばめられていますが、なかでもジナが昼休みに食べる日本風のラーメン(麺)に注目してみましょう。

出来上がったラーメンが何度も映し出され、美味しそうだな、上映が終わったらラーメン食べて帰ろうかなんて、呑気に画面を見つめていると、ある場面ではっと気付かされます。

なぜ、彼女はわざわざ職場から遠いこの店を選んで毎日のように通っているのか……。

一暮らしをしている人の割合が激的に増加している今の韓国社会においては、一人で食事できる店もかなり増えてきていると聞きますが、少し前までは一人での外食は一般的なものではありませんでした。

そもそも2人前からしか注文ができないなど、一人で食事をする文化自体、存在しなかったのです。

そのため、「一人ご飯」は「孤独」の象徴のようなものであるという価値観が未だ拭いきれないのかもしれません。そう思ってしまう根底には孤独や阻害への恐怖心があるのでしょう。

「どうしていつも怒っているんですか?」という言葉を引っ越してきた隣人からかけられてしまうジナですが、彼女の常に怒りをにじませているような表情や身振りは、まさにこの孤独と阻害への恐れをシャットアウトするために自身も気づかないところで身についてしまった鎧のようなものと言えるでしょう。

社会のあり方が変わり、価値観も多様になっていく中で、従来の家族主義に囚われず、一人で生活することを選ぶ人も増えてきました。ジナもそのひとりです。

しかし自ら選んだはずの生活に、自ら苦しみを与えていては本末転倒です。自分の中の恐れを認め、よりよく一人で生きていくために、鎧を脱ぐ一人の女性の心の変遷が、緻密に、丹念に綴られていきます。

こうした感情は韓国だけにとどまらない普遍的なものでもあり、大いに共感させられます。

一見、ストレートなテーマを持った生真面目な物語にも見えますが、幽霊と遭遇したかもしれないという少しファンタスティックで、ミステリアスなエピソードや、実家に設置した監視カメラに映った不気味にも見える映像の面白さもあり、豊穣な映画の世界を見せてくれます

まとめ

ジナに扮したコン・スンヨンは、TWICEのジョンヨンの姉として知られていますが、俳優として十年のキャリアを持っています。

本作で初めての主演を果たしました。ほとんど無表情で過ごす女性を演じながら、心の奥底にある感情の機微を見事に表現しています。

コールセンターの研修生スジンを演じるのは、OAFF2017で上映された短編映画『夏の夜』(2016)で貧困家庭の女子高校生を演じていたチョン・ダウンです。

彼女も若くして8年というキャリアを持っている俳優で、本作では初めて社会に出て翻弄される健気な少女を演じ、強い印象を残します。

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』(2019)や『南山の部長たち』(2020)などに出演しているソ・ヒョヌが新しく引っ越してきた隣人を演じ、コールセンターにタイムマシンを作っていると電話してくる男性の声をクァク・ミンギュが担当しています。

この男性が語るタイムマシンの行き先に纏わる感情も、韓国を知る上で非常に重要なもので、メインテーマの他にも、様々な問題を盛りみ物語を成立させるホン・ソンウン監督の手腕にすっかり関心させられます。

本作は、第22回全州国際映画祭の韓国コンペティション部門で最優秀俳優賞とCGVアートハウス賞(配給支援賞)を受賞したほか、国内外で映画賞を多数受賞。この度、大阪アジアン映画祭グランプリが加わりました。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2022見聞録』記事一覧はこちら





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