連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第29回
第77回ヴェネツィア国際映画祭を魅了したパク・フンジョン監督の映画『楽園の夜』が2021年4月9日(金)からNetflixで配信されています。
これまでも濃厚なノワール作品を描いてきたパク・フンジョン監督。本作では、オム・テグ、チョン・ヨビン、チャ・スンウォンらを起用し、済州島の美しい景色とは対照的な暗黒の世界を描きます。
大切な家族を殺された挙句、追われる身となったヤクザ組織の構成員・テグ。逃亡先の済州島で、心に傷を抱えた女性・ジェヨンと心を通わせますが、敵対する組織のボスをはじめとした追手につかの間の平穏な日々を奪われてしまいます。
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映画『楽園の夜』の作品情報
【配信】
2021年配信(韓国映画)
【原題】
Night in Paradise
【監督・脚本】
パク・フンジョン
【キャスト】
オム・テグ、チョン・ヨビン、チャ・スンウォン、イ・ギヨン、パク・ホサン
【作品概要】
『新しき世界』(2014)『V.I.P. 修羅の獣たち』『The Witch/魔女』(2018)など、ノワール作品を手掛けてきたパク・フンジョン監督が、裏社会を生きる男の運命を描く人間ドラマ。主演にオム・テグ、チョン・ヨビン。チャ・スンウォンらが脇を固めます。
映画『楽園の夜』のあらすじとネタバレ
ヤクザ組織の構成員・テグ(オム・テグ)は、クールで腕っぷしの強い男。義理と人情に厚く部下にも慕われています。
敵対する組織・プクソン派からスカウトされますが、仕えているヤン社長(パク・ホサン)に義理立てをし、断ります。
そうしたテグの態度を不快に思う敵対組織のボスから「命を狙われるから気をつけろ」と忠告を受けていました。
裏社会に生きるテグですが、入院生活を送り、余命宣告を受けた姉とその娘で姪のジオンの前では優しい笑顔を見せます。
特にジオンに対してはメロメロで、誕生日にタブレットを買い与えるほど。ジオンが生意気な口をきいても、ニコニコ笑って愛おしそうに見つめるテグでした。
姉が退院した日、主治医に話を聞くためテグだけが病院に残り、先に自宅へ帰した姉とジオンが事故に遭い、2人は亡くなってしまいます。
ボスのヤン社長から、その事故は敵対組織・プクソン派のト会長の仕業だと知らされます。自分の命ではなく、家族の命を奪われたテグは放心状態となりますが、ト会長をサウナへ呼び出し、めった刺しにして復讐を果たします。
ヤン会長は、復讐を果たしたテグを知り合いのいる済州島へ逃がし、その後ロシアへ渡るように手配をします。
済州島へ到着したテグは、「叔父の代わりに迎えに来た」とぶっきらぼうに言う女性ジェヨン(チョン・ヨビン)と出会います。
どう見ても年下なのにタメ口で話してくるジェヨンに最初は不快感を覚えるテグ。しかしどことなく影を感じる彼女が気になります。
ある日、射撃をしているジェヨンを見かけ、その見事な腕前に舌を巻くテグ。おもむろに銃を頭に向けるジェヨンに「やめろ!」と焦って止めに入るのですが、すでに弾はなく、からかうようにジェヨンは笑います。
憮然とするテグですが、気を取り直して「射撃の腕前がすごいな」とジェヨンに言うと「殺したいヤツがたくさんいるから」とつぶやきます。
ジェヨンの両親は、黒社会に生きてきた叔父の代わりに殺されてしまった過去があったのでした。
無鉄砲で突拍子もない行動を取るジェヨンは、暗い過去に加え、余命わずかな自身の運命に懸命に抗っているようにも見えます。
ある日、病院へ運びこまれたジェヨンが帰宅する時、一緒にいたテグが「大丈夫か?」と聞くと「大丈夫に見えない人に大丈夫かと聞く人が何より嫌い」と言い放つジェヨン。
一筋縄ではいかないジェヨンですが、なぜかテグは次第に心を通わせるようになります。
映画『楽園の夜』の感想と評価
オム・テグが演じる人情味あふれるヤクザ
この作品の大きな魅力は、オム・テグが演じるヤクザ像です。腕っぷしが強くて敵には容赦ないのですが、決して粗暴なキャラクターではありません。
姉や姪に見せる笑顔はとても爽やかで魅力的。ハスキーな声が、不器用な男を際立たせています。そして姪のジオンと語り合う場面では、裏社会に生きる男とは思えない優しさとお茶目さに満ちています。
済州島で知り合うジェヨンに対しても似たような表情を見せます。
「どうせ死ぬのだから」と人生に投げやりになっているジェヨンに振り回されるテグ。「一緒に寝よう」とジェヨンから誘われた時の驚いた表情が妙にかわいらしく、「俺にも好みがある」と去っていくところにテグの純粋さが見え隠れします。
最後、人質として捉えられたジェヨンの身を案じながら絶命していく姿は胸がえぐられる辛さがあります。純粋すぎたテグにとって、裏社会は居るべき場所ではなかったのかもしれません。
済州島とテグとジェヨンのやりとりから得るやすらぎ
テグと敵たちの激しい戦いの合間に、済州島の美しい景色が堪能できるのも魅力です。
「ここまでやるか」「ここまで見せるか」と身体が硬直してしまう衝撃的なシーンが多い本作で、テグとジェヨンが済州島をドライブするシーンは、やすらぎのひとときとなります。
辛い人生を送ってきたテグとジェヨンですが、「年下のくせにタメ口で話すな」と言うテグに対し、「確かに年下だけれど、死ぬのは私のほうが先」と妙な屁理屈で対抗するジェヨンのやり取りは、クスッと笑えるものがあります。
2人の間に、恋愛感情といった甘いものはありません。そこにあるのは、互いに肉親を殺されてしまった「同士」としての絆です。
2人が浜辺でタバコを吸うシーン、それぞれの部屋で空を見上げながら物思いにふけるシーンなど、恋愛でもない、友情とも少し違うテグとジェヨンの姿を見ていると、男性と女性をこうした視点で描くのも新鮮だなと改めて思いました。
まとめ
本作では、観ているのが辛くなるほど血が流れ、人が痛めつけられます。
「ここでテグが一発逆転をしてくれ!」という願いも空しく、悲しいラストを迎えるのですが、とことん人間のズルさやあざとさを見せつけられます。
そうしたハードなシーンとは対極に、済州島の美しい景色、テグとジェヨンの何気ないやりとりを描くことで、絶妙なバランスをとっています。刺激的かつ心に刺さる名作が誕生しました。
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