連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第8回
世界中から古今東西の、様々な映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第8回で紹介するのは、剣劇ファンタジー・アクション映画『セブンソード 修羅王の覚醒』。
中国で長らく愛される「武侠小説」の世界。自らの信念に殉じた正義の剣士・武闘家の冒険と活躍を描く、伝奇色あふれる歴史娯楽小説です。
映画の題材としても数多く登場し、多くのカンフー映画もこの形式に従い製作されました。
あえて例えるなら国民的、いや世界的人気の漫画「ONE PIECE」も、武侠小説的な世界観を持つ作品の一つと呼んで良いでしょう。
その武侠小説を代表する作品が、最新のCG技術とワイヤーアクションを駆使して、華麗に映画化されました。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『セブンソード 修羅王の覚醒』の作品情報
【日本公開】
2021年(中国映画)
【原題】
七剣下天山之修羅眼 / The Seven Swords
【監督】
フランシス・ナム
【キャスト】
チャン・チゥオ・ウェン、チェン・ジエ、アンヅゥイー、チァン・ハオ
【作品概要】
17世紀の中国を舞台に、7本の聖剣を巡り争う正義の剣士と悪の争いを、壮大なスケールで描くファンタジー・アクション映画。
監督は香港で監督・プロデューサーとして活躍するフランシス・ナム。本作に続き続編『七剣下天山之封神骨』(2019)、『七剣下天山之七情花』(2020)を手掛けています。
主演は『封神英雄』(2015~)などドラマで活躍するチャン・チゥオ・ウェン。その他華流ドラマで人気を獲得した俳優たちが出演した作品です。
2019年3月オンライン映画として公開されると中国で4500万回以上の視聴を記録、大きな話題を呼んだ作品です。
映画『セブンソード 修羅王の覚醒』のあらすじとネタバレ
1644年、朝廷の秘密組織「神調門」は、天下を支配できる秘宝「秘修羅魔眼」を探し求め暗躍していました。
それを聞いた天山指導者の晦明大師は、弟子・楊雲驄(チァン・ハオ)に秘宝・天山七剣の1振り「青千剣」を与え、修羅墓に隠された「秘修羅魔眼」の奪還に向かわせます。
「秘修羅魔眼」が眠る秘密の洞窟・修羅墓に、それを我が物にしようと望む朝廷の長官が、手下を率いて乗り込んでいました。
仕掛けられた罠で次々部下が倒れますが、ついに「秘修羅魔眼」を発見した長官。そこに「神調門」の女剣士、幽冥魔姫が現れます。
妖術の使い手、幽冥魔姫と長官は「秘修羅魔眼」を巡り争います。そこに駆け付けた楊雲驄。
邪魔者の出現に幽冥魔姫と長官は争いを止め、手を組んで楊雲驄に挑みます。
楊雲驄は巧な「青千剣」の使い手ですが、産まれたばかりの娘・易蘭珠を抱えて闘っていました。
卑劣な技を使う幽冥魔姫は、楊雲驄に蠱毒を浴びせます。お前と娘はいずれ死ぬ運命だ、と言い放つ幽冥魔姫。
幼い娘のために退却する楊雲驄。しかし争いの間に、長官の部下・沈浪が「秘修羅魔眼」の魔力に魅入られます。
魔眼は沈浪の体に取り込まれ、裏切り者と叫ぶ長官の命を吸収をします。幽冥魔姫にも襲いかかりますが、不思議な力に阻まれました。
彼女は魔眼を制御する「神眼」を持っていました。「秘修羅魔眼」は常人に扱えるものではなかったのです。
しかし沈浪と一体化した魔眼は、もう手に入れることは出来ません。ならばお前を「神調門」の操り人形にしてやろう、と不敵に笑う幽冥魔姫。
修羅墓の外では魯の軍勢が、朝廷軍に襲われ敗北を喫していました。魯の若き武人・穆郎は、自分の過ちで多くの味方を死なせた責任を痛感していました。
最後の意地を見せようと、死を覚悟して奮戦する穆郎に、逃れて来た楊雲驄が加勢します。
私と娘は毒に犯され、このままでは死ぬ。しかし娘は天山に連れて行けば助かるだろう。
自分が敵を引き受けるので、娘と共に天山に向かって欲しい。あなたは天山の晦明大師に武術を学ぶと良い。
最後の頼みを聞いて欲しいと頼まれ、「神調門」の追手と闘う楊雲驄を残し、穆郎は「青千剣」を受け取り易蘭珠を抱え、天山を目指します。
16年後。武術を学び「青千剣」を操る剣士・凌未風(チャン・チゥオ・ウェン)となった穆郎。
彼は美しく育ち、天山七剣の1振り「游龍剣」を操る弟子の易蘭珠(アンヅゥイー)と、雪の降る天山で修業していました。
出性の秘密を知らず、師の凌未風を父以上の存在として愛し尊敬する蘭珠は、天山の外の世界を見たことがありません。
そこに晦明大師からの密書が届きます。朝廷は反乱を防ぐために禁武令(武術を使うことを禁ずる法令)を発布していました。
禁武令を利用し「神調門」は各地の武術家を弾圧、今は江南の武荘がその標的になっていると告げる晦明大師。
武荘の救出すべく、凌未風と易蘭珠は「青千剣」と「游龍剣」を携え江南の地を目指しました。
「神調門」の武術の使い手、春妖人・夏妖人・秋妖人・冬妖人の4人は朝廷軍を引き連れ、武荘を襲撃します。
劣勢の武荘の主は、娘の劉郁芳(チェン・ジエ)に天山の救援を求めろ告げ、魯王の密書を託し梅花荘の風起に渡せと命じました。
父は捕らえられ、郁芳は密書を携え逃亡します。しかし「神調門」の冬妖に追いつかれた劉郁芳。
そこに現れ彼女を救う凌未風と易蘭珠。手を差し伸べた凌未風の姿に、郁芳は穆郎の面影を見ていました。
晦明大師から武荘救援を指示されながら、間に合わなかったと詫びる凌未風は、劉郁芳を梅花荘まで送り届けることにします。
「秘修羅魔眼」と一体化した沈浪は、修羅王となって強大な魔力を得ます。しかし「神眼」を持つ幽冥魔姫に従わされ、「神調門」の配下となっていました。
「神眼」を破り魔眼の力を開放し、「神調門」を倒そうと望み、秘宝・天山七剣のうち5本を手に入れた修羅王。
残る2振りを手に入れようと執念を燃やします。彼は「神調門」のために心置きなく働けと、妻の若水を殺した幽冥魔姫を深く恨んでいました。
冬妖は密書を持つ劉郁芳を助けた2人の剣士が、天山七剣の残る2本を持っていたと報告します。
修羅王は任務に失敗した冬妖を始末させると、計略による宝剣と密書の奪取を企みます。
幽冥魔姫は修羅王の裏切りを警戒し秋妖に監視を命じますが、修羅王は秋妖を篭絡して味方に付けていました。
天山七剣がそろって力を得れば「神調門」を滅ぼし、天下を握る野心を抱いた修羅王。
人々の行き交う街を初めて見て喜ぶ易蘭珠。しかし凌未風と劉郁芳は、雑踏の中に「神調門」の手の者の気配を感じます。一行は襲撃をかわして姿を消します。
彼らは梅花荘に到着し、荘主の風起と面会します。風起は3日前から悪夢に悩まされ、体調を崩していました。
「神調門」は魯王の宝物の隠し場所を記した密書の中身を知り、宝物を我が物にしようとしていると風起は説明します。
凌未風は荘主の病や使用人の様子、梅花荘に漂う怪しい気配に気付きます。妖術使いが人を操る薬、移魂散を使用した可能性を疑う凌未風。
その夜、蘭珠は誕生日を迎えた凌未風のために、郁芳は亡き親しい人の誕生日に捧げるために、饅頭を作ります。
劉郁芳の親しい人とは、かつて心を寄せ魯のために共に戦った穆郎でした。彼女は今も穆郎から渡された書物を形見として持っていました。
今も穆郎に深い愛情を抱く、郁芳の心を知る凌未風。
饅頭を食べる凌未風を見て、姿の違う凌未風の振る舞いを、穆郎と同じだと感じる劉郁芳。
その夜も悪夢にうなされ暴れる風起。彼の弟子は祈祷師から、病には枕の下に宝剣を敷いて眠ると良いと聞かされていました。
翌朝、梅花荘には確実に異変が起きていると告げた凌未風。郁芳も昨晩、荘主の風起が利き手でない腕で剣を振る姿に疑問を抱いていました。
「神調門」の仕業なら、密書を渡された時に姿を消すはずが、まだ動きはありません。別に何か狙いがあると話す凌未風。
彼は使用人に夏妖の妖術、水性移魂傀儡の術がかけられていると見抜きました。
あえて風起に病が治るように、枕の下に敷くよう「青千剣」と「游龍剣」を預けた凌未風。
その夜、何が起きるか見極めようと図ったのです。
映画『セブンソード 修羅王の覚醒』の感想と評価
華麗で迫力満点、そしてあり得ない世界を描いた映画です。原作は梁羽生が1956年に発表した、歴史上の人物や事件を交えて創作した武侠小説「七剣下天山」。
しかし本作は原作小説とも、同じ原作を持つツイ・ハーク監督作、ドニー・イェンやレオン・ライが出演した映画『セブンソード』(2005)とも異なる内容です。
『セブンソード』も本作も、原作小説を大きく改変した映画です。特に本作はファンタジー要素が強く、もはや伝奇作品と呼んで良いレベルです。
トンデモ歴史映画と批判してはいけません。本作の舞台となった時代は日本の小説「魔界転生」や、劇画「子連れ狼」の基本設定とされた時代と、偶然とはいえ奇妙なほど一致します。
本作を捏造歴史映画と呼ぶのは、深作欣二監督の『魔界転生』(1981)や若山富三郎主演の『子連れ狼』シリーズ(1972~)を否定するようなヤボな行為です。
ファンタジー色と剣劇、ワイヤーアクションにあふれた伝奇映画としてお楽しみ下さい。
怒涛の展開に見る者のテンション爆上がり
本作を見た人はほぼ全員、聞いたことの無い武器や人名が連呼され、登場人物の秘めた人間関係が当然の様に語られる、それらを理解する前に物語がどんどん進む、怒涛の展開に圧倒されるでしょう。
まるで最初に例えた少年ジャンプの漫画、「ONE PIECE」の〇〇編と呼ばれる一連の物語を、90分に収めたような映画です。あまりに詰め込んだ情報に困惑する方もいるはず。
しかし面白くない訳ではありません。次々登場するアクション、愛憎渦巻く人間ドラマの連続に、飽きる暇などありません。
これは中国では良く知られた武侠小説の登場人物を、皆が知っている前提で描いた結果です。
同じ少年ジャンプの漫画で、同じくアニメ化・映画化された作品「銀魂」の登場人物が、幕末の歴史上の人物から名前と性格を頂いても、皆の共通認識として深く説明しないのと同じです。
そんな作品の中国版に出会った、そう覚悟してご覧下さい。少年ジャンプの人気漫画の基本テーマ、「友情・努力・勝利」にも忠実な本作、何かとジャンプ漫画に重なります。
自由奔放な二次創作の世界を楽しもう
小説「七剣下天山」は何度も映画・ドラマと映像化が繰り返されるうちに自由に改変され、よりユニークに発展した作品が生み出されました。
映画『セブンソード』も登場人物の性格などは忠実ですが、名前どころか性別まで改変、もはやオリジナル作品と呼んで良いレベルに到達しています。
そして本作では、物語はファンタジーレベルに到達。剣士や白髪になる美女の姿は、中国の伝統的剣劇映画の登場人物に忠実。このジャンルの世界を見事再現に成功。
日本の歴史上の人物や著名な作品を2次創作した、その際に人物を史実・元ネタより美形化・低年齢化・異性化した漫画やアニメは、数え切れないほど存在します。
これをファンの中には誇りと自嘲を込めて、日本のポップカルチャーの変態性と呼ぶ者もいますが、その原点は中国にあります。
有名なところでは三国志。歴史書「三国志」に登場するエピソードは様々な物語・演劇を生み、明王朝の時代には現在の形が確立しました。
もはや史実より二次創作された物語の方が、人々の文化的共通認識となった「三国志」の世界。おかげで歴史を学ぶ者には、大迷惑かもしれません。
物語を二次創作して新たな作品を作る、それを楽しむ文化は日本でも江戸時代に花開きました。
他国の生むポップカルチャーを味わうことで他国を知る。その楽しみを取り入れる。これが文化交流であり、外国映画の楽しみ方です。
そういった意味では本作、楽しみながら中国文化を知るには最適の映画と言えるでしょう。
まとめ
その情報量に圧倒されながらも、最後まで楽しい伝奇アクション剣劇映画『セブンソード 修羅王の覚醒』。
本作は比較的映画への出演歴が少ない俳優の出演で製作されました。それは中国で大スターを起用せず、ここまでスケールの大きい作品を作ったと、好意的に受け取られています。
また本作は中国での公開翌週に続編『七剣下天山之封神骨』が連続して公開。本作ラストはそれを踏まえて作られました。
中国の剣劇映画の中の白髪の美女は、本作の原作者・梁羽生の武侠小説「白髪魔女伝」(1957)に登場して以来、欠かせぬキャラクターになっています。
続編映画『七剣下天山之封神骨』は原作小説「七剣下天山」に、「白髪魔女伝」の要素を加えた作品です。
この映画も絶対に面白いはず。ただし本作同様の怒涛の展開に、ドッと疲れるのかもしれません。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回、第9回は『パラサイト 半地下の家族』よりも恐ろしい!韓国発の家族乗っ取りスリラー映画『食われる家族』を紹介します。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら