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映画『マッド・ハウス』ネタバレ感想と考察評価。ホラーなガチヤバイ物件に隠された恐怖の真相とは|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録21

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第21回

日本劇場公開が危ぶまれた、名作から珍作・怪作映画まで紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第21回で紹介するのは『マッド・ハウス』。

あこがれのロサンゼルス、ハリウッドで新生活を始めた1人の女性。幸運なことに、親切な住人たちが住むアパートに選ばれて入居できました。

しかしこの物件、何かが奇妙です。彼女の疑念は恐るべき形で現実となりました。これから1人暮らしを始める人にはお勧めできない、恐怖の体験が描かれます。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

映画『マッド・ハウス』の作品情報


(C)2019 1BR Movie, LLC All Rights Reserved.

【公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
1BR

【監督・脚本・編集・製作総指揮】
デビッド・マルモール

【キャスト】
ニコール・ブライドン・ブルーム、ジャイルズ・マッシー、テイラー・ニコルズ、ナオミ・グロスマン

【作品概要】
あこがれの新居で起きた恐怖を描く、サイコスリラー映画。本作が長編映画デビュー作となる、デビッド・マルモールが監督したインディーズホラー映画です。主演は本作が初の長編映画主演作ながら、その演技が評価されスリラー映画『Here On Out』(2019)にも主演した、ニコール・ブライドン・ブルームが務めます。

『ジュラシック・パークⅢ』(2001)など多くの映画に出演するテイラー・ニコルズ、ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー 精神科病棟』(2012~)『~怪奇劇場』(2014~)で強烈な印象を残すナオミ・グロスマンら、個性的な俳優が共演しています。

ナイトメアー・フィルム・フェスティバル2019で最優秀女優賞、フラクチャード・ビジョンズ・フィルム・フェスティバル2019で最優秀長編映画賞を獲得した作品です。

映画『マッド・ハウス』のあらすじとネタバレ


(C)2019 1BR Movie, LLC All Rights Reserved.

LAのハリウッドに、住人たちが交流し助け合って暮らす、美しいアパートがありました。

そのCDE不動産の所有するアパートに、空き室がありました。その内覧会にサラ(ニコール・ブライドン・ブルーム)がやって来ます。

玄関の防犯システムは、以前侵入者があった際に取り付けられたと、住人のブライアン(ジャイルズ・マッシー)から教えられるサラ。今は安全だと彼は言葉を添えました。

少し古めのアパートですが、中庭はプールや広場があり、家族連れや様々な世代の住民が暮らしています。そこで足元のふらついた年配の婦人に手を差し伸べるサラ。

椅子に座ったスタンホープ婦人に、同じアパートの住人ブライアンやジャニス(ナオミ・グロスマン)も寄り添いました。住人は互いに支え合って暮らしているようです。

空き部屋の見学に訪れたサラ。既に多数の入居希望者がいました。

諦めて帰ろうとしたサラに、管理人のジェリー(テイラー・ニコルズ)は先着順ではないよ、と声をかけました。その言葉を聞き彼女は部屋を見て回ります。

部屋は申し分ないものですが、壁に2箇所、不自然に補修した痕があると気付いたサラ。

ジェリーからペットは禁止、施設内は禁煙と教えられます。連絡先を聞かれたサラは、最近1人で越して来て、LAには知り合いはいないと告げます。

LAに来た理由を訊ねられ、新しい人生を始めようと思った、とサラは答えます。彼女の決断を良い事だと語り、ペットを飼っていないか確認するジェリー。

モーテルに戻ったサラは、ジャイルズと名付けた猫を飼っていました。すると父親から電話がかかって来ました。

いつ家に戻ってくる、と聞く父に忙しいと答えるサラ。服飾デザインを学んでいた彼女は、今は一時的に法律事務所で働き、生計を立てていると告げます。

私と後妻のダイアンを苦しめたいのか、と父は言います。父とサラの実母の間に何かあったようで、それが理由で彼女は家を出ていました。

父は娘とよりを戻したい様子ですが、それを拒絶して電話を切るサラ。

勤め先の法律事務所で、臨時雇用で働いているサラ。同僚のリサは映画女優を目指しながら働き、職場では上司に言い返せる人物でした。2人は挨拶を交わします。

そこに例のアパートから、入居者はサラに決まったと連絡が入ります。

早速引っ越しを開始するサラ。新たな入居者である彼女を、片目の住人が見つめていました。

彼女は荷物に猫のジャイルズを隠して運び込みます。すると以前顔をあわせた、住人のブライアンが声をかけてきます。

彼は今日行われる住民たちのバーベキューに、サラを招待しました。そして彼を含め住民たちで、荷物運びを手伝おうと提案します。猫の存在を知られたくなく断ったサラ。

サラはバーベキューに参加しました。内覧の日に会ったスタンホープ婦人が、政治家のオリバーと医者のエステルの夫婦など、他の住人を紹介します。

管理人のジェリーとジャニスは夫婦で、住人は皆家族同然に付き合っていると話します。彼らの娘も、他の住人と仲良く接していました。

すっかりくつろいだ彼女に、あの片目の男がこれを読んでくれ、と「the power of community(共同体の力)」と題された本を差し出します。

この本で自分の人生が変わった、と言う男。彼女が戸惑っていると、男は去って行きました。

話しかけてきたサラに、内覧の日にスタンホープ婦人を手助けした姿を、管理人のジェリーに話したと告げるブライアン。それで彼女が入居者に選ばれたのかもしれません。

疲れた様子のスタンホープ婦人を、サラは部屋まで送り届けます。彼女は今後エディと呼んで欲しいと言い、自分は元女優だと話しました。

今は1人暮らしだが、アパートの住人に支えられて暮らしている。女優として活躍した若い時より、今の方が幸せだと彼女に告げるスタンホープ婦人。

その夜、自室に戻ったサラはスケッチブックを開き、衣服のデザインを書いていました。それを終え眠ろうとしますが、天井から何やら物音が聞こえてきます。

何か工事しているような物音で、彼女はよく眠れませんでした。次の日荷物を運んでいたサラに、ブライアンが手助けしようと声をかけてきました。

サラは彼に昨夜工事があったか尋ねますが、彼は知らない様子です。ブライアンに惹かれ始めたものの、猫の存在を隠すため、彼と部屋の外で別れるサラ。

その夜は耳栓をして眠りにつこうとするサラ。すると部屋の扉が開いていると気付きます。外の様子を伺うと、廊下をスタンホープ婦人がフラフラと歩いていました。

婦人に声をかけ、彼女の部屋まで送ったサラ。エディことスタンホープ婦人は、薬を飲み忘れていました。サラは彼女のために、日々飲む薬をピルケースに入れ整理します。

自分は母のために同じ事をしていた、と話すサラは、スタンホープ婦人の部屋に本があると気付きます。それはチャールズ・D・エラビー博士の著した「共同体の力」でした。

バーベキューの時に、気味の悪い片目の男がこの本を渡そうとした、と告げたサラにそれはレスターだと教えるスタンホープ婦人。

彼女はレスターは、最近妻をガンで失った、気の毒な住人だと教えます。サラは夜聞こえる騒音について尋ねますが、彼女も知らない様子です。

しかしその夜も、サラは騒音に悩まされました。

翌朝、彼女が連絡を求める父からのメッセージを聞いていると、玄関の扉の下から紙が差し入れられたと気付きます。

それは彼女がアパートの規則を破って、猫を飼っていることを非難する、口汚い言葉で書かれたメッセージでした。

部屋から出たサラには、どの住民が自分にメッセージを送ったのか、見当も付きません。レスターに出会いましたが、彼は逃げるように去って行きます。

そこにブライアンが現れ、今夜7時に住人たちでパーティーを開くので、参加しないかと声をかけます。急な話に戸惑いつつも、参加を約束するサラ。

職場でサラは、上司からサービス残業を要求されます。彼女はそれを拒否できませんでした。

そんな彼女に、同僚のリサは上司の悪口を言い、親身に声をかけてきます。新居のアパートに問題があり、毎晩眠れないと打ち明けたサラは彼女と意気投合します。

その夜サラは、リサとアパートの自室で飲むことになります。帰ってきたサラにブライアンが声をかけます。彼女はパーティのことをすっかり忘れていました。

ブライアンはかまわない、良ければ後でデザートでも食べに来てくれと言います。リサは彼を魅力的だと褒め、その言葉を嬉しく思うサラ。

リサはアパートは良い環境だと褒めました。しかしサラは睡眠不足や仕事に追われ、服飾デザイナーを目指しているのに、課題を提出できなかったと打ち明けます。

弱気になり夢を諦め、父の元に帰るべきかもと言い出すサラ。母が闘病中に浮気をした父は、母の死後その相手と再婚し、サラは家を飛び出しました。

サラに対し、それが自分のクソみたいな人生と覚悟して、立ち向かうようアドバイスするリサ。

その夜サラは、火災報知器の音で目覚めます。原因を突き止めようと台所に向かった彼女は、オーブンの中で何かが燃えていると気付きます。

それは猫のジャイルズだと知ったサラ。彼女の背後で何者かが動きました。

その人物は彼女を捕まえ、イスに縛り付けました。相手をレスターだと思い、必死に止めるよう訴えるサラ。

男が電気を付け正体が判明します。それはブライアンでした。彼はカバンの中から注射器を取りだすと、サラに注射しようとします。

サラは倒れてイスを壊し、拘束を解き部屋から逃げ出しました。廊下に逃れた彼女は、出会った住人のエステルに助けを求めました。

しかし、エスエルもブライアンの仲間でした。捕まったサラはスタンガンを当てられます。

ブライアンに運ばれる自分を、アパートの住民は助けもせず見ていると気付くサラ。

とある一室に連れ込まれたサラ。そこには多くの住人の姿がありました。管理人のジェリーと、妻のジャニスも現れます。

どうして助けてくれないのと訴えるサラに、私たちはあなたを助けると告げるジェリー。彼女は首に注射を打たれ、意識を失いました。

彼女が目覚めると、窓を塞がれた部屋に監禁されていました。天井に監視カメラがあり、壁には赤いランプが付いています。

ジェリーとブライアンが現れます。サラに対し、昨日あなたは仕事を辞め、銀行口座も解約し、クレジットカードも使えなくなったと伝えるジェリー。

そして彼はサラのスマホに残るメッセージを再生します。それはサラが上司に告げ口した結果、クビになったと怒り、絶縁を宣言するリサの言葉が入っていました。

仕事を失い社会と切り離され、誰も助けに来ないとジェリーは告げます。困惑するサラに、ブライアンは壁に手をつくよう要求します。

内覧で見た壁の疵を思い出すサラ。彼女が拒否すると、このプログラムはシンプルで、あなたは従えば報われると告げるジェリー。

従わなければ罰を受けるだけだ、と話し彼はレスターを呼びます。大抵の者はすぐ従うが、レスターは抵抗したとジェリーは教えます。レスターの片目はえぐられていました。

改めてブライアンが、サラに壁に両手をつくよう命じます。その姿勢で体を後ろに引かせました。この姿勢は体に負荷を与え、やがて痛みを感じると言うブライアン。

壁のランプが点灯してる間は、何があってもこの姿勢を維持しろと命令します。ランプが消えれば休んで良い、彼女の姿は常にカメラで監視されていると説明します。

このプログラムはあなた自身のためになる、やがてそれを理解し、感謝するようになると告げて去るジェリー。

1人残されたサラは、指示された姿勢を続けていました。必ず脱出する、これが私のクソみたいな人生だ、と呟きます。

するとスピーカーから大音量で音楽が流れてきます。彼女は耐えるしかありません。やがて壁のランプが消え、彼女は床に倒れこみました。

扉の下の差し出し口から、飲み物が入れられました。それを口にしたサラ。

壁のランプが点灯します。彼女はまた同じ姿勢をとります。ランプが消え床に横たわると、スタンホープ婦人が現れます。

ジュリーが友人が必要だと言ったと告げ、彼女は話し始めました。このプログラムは楽しくないが、誰でも乗り越えられると語るスタンホープ婦人。

自分も乗り越えたという婦人に、これは狂気の沙汰だと告げるサラ。

彼女はサラに狂気とは、孤独を忘れるために薬と酒に頼り、自分の身勝手な夢のために家族を捨てた、あなた自身だと説明します。

そしてこのプログラムは狂気ではなく科学だと説明し、ジェリーは正確にあなたを矯正していると語りかけました。

ランプが点灯する間、同じ姿勢を保つサラの脳裏に、何度もスタンホープ婦人の言葉が甦ります。そして大音量の音楽だけでなく、激しい光の点滅が彼女を襲います。

プログラムは何度も繰り返されます。抵抗を止め、諦めれば苦痛から早く解放されると言う、婦人の言葉を思い浮かべたサラ。

もうろうとした彼女は、ランプが点いているのに壁から手を離し倒れました。するとジェリーとブライアンが入って来ます。

ランプは消えていないと言うジェリーに、もう無理だと懇願するサラ。すると終わりにしようかと、ジェリーは銃を抜きました。

必死に壁に向かい、手を付いたサラ。ブライアンは手伝うと言ってハンマーと釘を持ち出します。

止めてと懇願するサラ。しかし彼女に手を壁に戻させると悲鳴に構わず、釘で両手を壁に打ち付けたブライアン。

彼女は壁の疵痕が、どのようにして生まれたか思い知らされました。

痛みに耐え、必死に苦しい姿勢を続けるサラ。アパートの住人の言葉が脳裏に浮かびます。

すると助けに来たと言う、父親の言葉が聞こえます。壁を破った、今すぐ逃げろと叫ぶ父。

彼女はその声に従い、手を釘から引き抜きました。しかし彼女の前にあるのは塞がれた窓だけです。全ては幻聴に過ぎませんでした。

両方の手のひらから血を流すサラは、意識を失い床に崩れ落ちます。

どのくらい時間がたったのでしょうか。部屋の隅に座り込んでいたサラは、ランプが点灯すると同じ姿勢を取ろうと動きます。

そこにジェリーとブライアンが現れます。ジェリーはサラによく頑張った、誇りに思うと声をかけ、優しく抱きしめました。

サラもまた何も言わず、ジェリーの体を抱きしめます。

以下、『マッド・ハウス』のネタバレ・結末の記載がございます。『マッド・ハウス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 1BR Movie, LLC All Rights Reserved.

プログラムを終えたサラの両手を、住人で医師のエステルが治療し、彼女の髪をスタンホープ婦人がとかします。エステルの両手にも同じ傷痕があります。

彼女はジャニスに部屋へ案内されます。そこには管理人のジェリーとブライアンが座り、彼女の性的嗜好や初体験など、答えにくい質問を浴びせました。

2人はサラの反応を嘘発見器で確認します。隠し事を持たないのが、コミュニティの基本だと告げ、チャールズ・D・エラビー博士の著作「共同体の力」を示すジェリー。

彼女が1人でその本を読んでいる姿は、カメラで監視されていました。そしてジャニスと共に外に出て、助け合って暮らすアパートの住人の姿を確認します。

今の世の中の人々は、自分自身に夢中になる余り、バラバラに生きていると告げるジェリー。私たちは強い共同体を作り、支えあって生きていると説明しました。

共同体が力を持ち準備が整えば、世界を変えることも可能だとジェリーは告げます。やがてアパートの住民たちに、溶け込むように振る舞い始めるサラ。

住民が外に出るには、管理人のジェリーが玄関ドアを操作し、開けてもらうしかありません。彼女は本を読み進めます。

共同体の4つの基本を問われ、無私無欲、開放性、受容そして監視と彼女は告げます。その答えに満足するジェリー。

ジェリーに父との関係を聞かれ、サラは母が死に至る闘病中に、父が母の看護婦と浮気をしていたと告白します。

この共同体に入りたいかと聞かれ、イエスと答えるサラ。しかしウソ発見器の反応を見た結果、まだ無理だと告げるジェリーとブライアン。

今や共同体に入ることを望むサラは、必死に「共同体の力」を読み学習します。

そんな彼女をジャニスがアパートの一室に案内します。そこには住人の子供たちが集められ、レスターが共同体の理念を教えていました。

サラとジャニスが食事を用意している間、子供たちは「共同体の力」の著者、エラビー博士がインタビューに答えるビデオを見ています。

現代社会は病んでおり、貪欲や嫉妬、不正直や欲望といった感情が世界を腐敗させていると主張する博士。しかし人間を改善することは可能だと語ります。

そして4つの基本を説きます。「無私無欲」が共同体への奉仕を生み、「開放性」を重んじ秘密こそが不和を生むと説明します。

「受容の精神」で誤った行動をとった者も、ふるまいを正せば許し、「監視」され他人の目を意識することで、最高の自分でいられると語るエラビー博士。

アパートの住人は博士の主張通り行動し、サラもそれに参加します。

しかし手元にある包丁を見て、サラの心に抵抗して逃げるべきか、迷いが生じます。しかし抵抗の結果片目を失ったレスターは首を振り、それを諫めました。

ビデオの中の博士は、4つの基本に従うコミュニティが大きくなれば、世界から孤独も貧困も争いも無くなる、と説きます。

ジェリーとブライアンに嘘発見器にかけられたサラは、なぜ自分が選ばれたのか尋ねます。すると共同体が必要としたからだ、と答えるジュリー。

君には役割があると告げた後、ジュリーは共同体の一員となるか尋ねます。判らない、と答えたサラの反応を見て、彼はもう少し責任ある仕事を与える言いました。

彼女は監視室で、アパートの住人を見守る仕事を与えられます。各部屋にはカメラが仕掛けられ、住人は常に監視されていたのです。

監視室のサラもまた、カメラが向けられていました。誰が見ているのか尋ねられ、それは自分たちの気にすることではない、と答えたブライアン。

サラは自室で具合が悪くなった、スタンホープ婦人に気付きます。ブライアンはただちに医師のエステルに連絡します。

婦人はエステルの介抱を受けます。サラが見事共同体の務めを果たしたと、ジェリーは彼女を褒めました。

スタンホープ婦人の前に、アパートの住人が集まります。自分が9年前ここに来た時、共同体に導いてくれたのは、彼女だったと皆に語るブライアン。

彼は婦人を讃え、あなたがいなくて寂しいと告げました。エステルが安楽死の準備をしていると気付き、サラは動揺します。

ブライアンはサラに、スタンホープ婦人はもう共同体に貢献できず、我々も面倒をみる余力は無いと説明します。そして婦人も死を受け入れていました。

サラの手を握り、皆に別れを告げた婦人の顔に袋が被せられ、エステルがガスを放出します。スタンホープ婦人の死を確認するサラ。

ブライアンはサラに、自分はイラクの戦場から帰国した後、荒れた生活をしていたと話します。しかし共同体に入ったおかげで、彼らに命を救われたと告白します。

ついにサラも正式な、共同体の1人になる日が来ました。心からそれを望む彼女は、ジェリーによりアパートの住民の前に連れていかれました。

共同体のシンボルの焼き印が、サラの耳の下に押されると皆が拍手します。自分の同じ焼き印を見せたブライアン。

共同体の仲間となったサラを、歓迎するパーティーが開かれます。

その席で我々は6ヶ月前に、ガンで仲間のジェシカを失った、と話すジェリー。そしてサラとレスターを呼び寄せました。

ジェシカはレスターの妻でした。彼はレスターを無私の人だと讃え、サラは亡きスタンホープ婦人を、献身的に支えたと褒めるジェリー。

この2人は似合いだと言い、カップルとして暮らすよう告げます。これが共同体がサラに与えた役割だったのです。

レスターはサラにキスをすると、自室に招きました。

サラの部屋は、新たに共同体に加える候補者のものになる、と告げるレスター。彼がこちらに来るよう言った時、部屋にジェリーが現れ、問題が起きたと告げます。

アパートの玄関にサラの父が訪ねていました。ジェリーから共同体を守るため、父には2度と現れないよう言い聞かせ、立ち去らせる必要があると言われたサラ。

彼女は元の部屋に戻らされました。そこにはサラが、衣装デザイナーとして、自分自身の未来を掴もうとした品々が残っていました。そこに父が現れます。

必死に謝り家に戻ってくれ、と訴える父に、彼女は冷たい言葉を浴びせます。父は諦めませんが、サラは自分たちが監視されていると気付きます。

謝罪する父と思わず抱き合うと、ブライアンが父に危害を加えようと現れます。それを見て、死の直前の母に、父の浮気を教えたと告げるサラ。

ショックを受け彼女を叩いた父に、サラは次に会うのは葬式の日だと言います。父はアパートから去りました。泣き崩れるサラを慰めるブライアン。

彼女がレスターの部屋に戻ると、彼はサラの部屋から彼女が大切にしていた、ミシンを持ち込んでいました。彼女はレスターに礼を告げます。

彼は自分の心境を打ち明けます。共同体に加わった最初の5年は、逃げるか自殺することばかり考えていた、と話しました。

そして先妻のジェシカと出会い、、彼女の存在で自分は救われたと告白します。そして彼は共同体で生きることを受け入れたのです。

これが私たちの人生で、逃れることは出来ない。しかしこれは良い人生かもしれない。その言葉をサラに、そして自分にも言い聞かせるように呟くレスター。

彼らが住むCDE不動産のアパートは、新規入居者募集の内覧を行います。その監視任務に現れたサラは、どうやって共同体に入れる人物を選ぶのか尋ねます。

ブライアンは彼女に、ジェリーが入居者を選ぶシステムを持っていて、何百という候補者から選んだと告げます。いずれ皆を共同体に加え、救いたいと語るブライアン。

サラは内覧者の中に、かつての同僚リサがいると気付きます。

1度訪れたアパートを、彼女は気に入ったのでしょうか。管理人のジェリーは、彼女を新たな住人に選びました。

引っ越してきたリサに、ブライアンが接触します。彼女はサラが精神的におかしくなり、実家に戻ったと信じているようです。

サラになぜリサを選んだか聞かれ、彼女のプロフィールが亡くなった、スタンホープ婦人に一致すると答えるジェリー。

共同体はリサに、その代わりの役割を求めていました。ジェリーは彼女を中身の無い利己的な生活から救い出すと告げ、プログラムを開始しました。

それはサラの体験と同じです。レスターが夜、彼女の部屋に騒音を響かせリサを睡眠不足に追い込み、ジャニスは彼女のカードや銀行口座を解約します。

サラは彼女に成りすましSNSで交友関係を断ち切り、社会的に孤立させました。

それでもリサは私と違い精神的に強く、きっと抵抗すると言うサラに、それでも彼女を従わせると告げるジェリー。

やがてリサも監禁され、サラと同じ扱いを受けます。しかし彼女は抵抗し、ブライアンの耳を噛みました。

ジェリーはサラの意見を認め、リサに友人として面会し、抵抗を止めるよう説得しろと指示します。彼女の顔を見たリサは驚きます。

自分が経験したように、あなたの人生を変える手伝いをすると言うサラに、あなたは洗脳されていると叫ぶリサ。

サラは洗脳を否定し、あなたはもう歳なのに映画スターを目指しているが、現実はオフィス務めだと指摘し、無意味な夢に支配されていると説得します。

彼らに身を委ね救われなさい、私が助けると諭すサラに、あなたは幸せそうに見えない、むしろ怯えているように見えると言い、リサは隙を突き逃げました。

しかしジェリーに阻止されます。彼はリサの矯正プログラムを諦め、サラに手伝わせ彼女の耳の穴に、ハンマーでアイスピックを打ち込もうとします。

助けを求め、これが自分のクソみたいな人生と、かつてサラに告げた言葉を呟くリサ。

その言葉で我に還ったサラは、ジェリーの首にアイスピックを刺しました。

サラはリサと共に逃げますが、全ては監視され警報が鳴り響きます。そして立ち上がったジェリーに、リサは射殺されました。

サラはジェリーに飛びかかり、返り血を浴びながらめった刺しにして殺し、彼から銃とアパートの玄関を開けるスイッチを奪います。

ジェリーの手のひらにある釘の傷痕と、耳の裏の共同体の焼き印に気付いたサラ。

逃げようとする彼女に住人が迫ってきますが、銃を見て怯みます。包丁を持って向かってきたジャニスを、彼女は銃で撃ちました。

彼女が住民に皆を支配していたジェリーが死に、これで自由になれると訴えても、誰1人動きません。

そこにブライアンが現れ、共同体を始めたのはジェリーでは無い、チャールズ・D・エラビー博士だと告げます。

博士は30年前に死んだ、とサラが指摘すると、彼の4つの基本を信じた人々が自立した共同体を作り上げ、もうリーダーは関係ないと言うブライアン。

まだ手遅れではない、あなたは共同体の1員だと告げるブライアンを、サラは銃で撃ち倒し逃げ出します。

アパートの玄関に到着したサラは、リモコンで玄関を開け逃げようとしますが、男に捕まります。サラの銃はレスターが奪いました。

このまま捕まるなら、自分を撃ってくれとレスターに頼むサラ。

レスターは発砲しました。男が撃たれサラは自由の身になります。レスターはサラを、アパートの外に突き飛ばします。

あなたも逃げると言うサラの前で、レスターは扉を閉め、自分の頭を撃ち抜きます。玄関はロックされ、サラが住人に追われる心配はありません。

逃げ出したサラは近所のアパートも、CDE不動産の物件だと気付きます。その社標が共同体のマークと同じだと気付きます。

彼女の前のアパートにも監視カメラがありました。かつて住人を監視していたサラもまた、誰かに監視されていたと思い出します。

CDEとは、共同体を提唱した、チャールズ・D・エラビー博士の略称と気付くサラ。

サラの前で、そのアパートから警報音が響きます。周囲のいくつもの建物が、同じ警報音を鳴らし始めます。

共同体は無数のアパートに存在する、より大きな組織だったのです。彼女は絶望的な笑いに襲われました。

それでも彼女は意を決し、警報が響き渡る道を駆けて行きます。

映画『マッド・ハウス』の感想と評価

参考映像:『スキャナー・ダークリー』(2006)

カルト集団が登場する映画と言えば、『ウィッカーマン』(1973)や『ミッドサマー』(2019)に登場する古代宗教の儀式や、チャールズ・マンソンに倣った悪魔を信奉する集団を描く、様々なホラー映画が思い浮かびます。

世が進むにつれ洗脳の手法が科学的に解明され、薬物の効果の研究が進むと、それらを悪用する集団も現れます。そんな団体が起こした凶悪事件には、ここでは触れずにおきましょう。

さて、『マッド・ハウス』は宗教絡みのカルト集団とは、ちょっと異なる団体が登場します。デビッド・マルモール監督は実在したカルト組織、「シナノン」をモデルにしたと語っています。

1913年生まれのチャールズE.デデリッチが、1958年に創設したシナノンは、当初はアルコール中毒患者、その後薬物中毒患者のリハビリを行う活動を開始します。

1960年頃には拡大する薬物依存問題に、グループセラピーで対処する団体として、メディアや政治家から注目と称賛を集めました。

ところがシナノンのプログラムを受けた者の多くは、社会に復帰せず団体の作り上げたコミュニティに留まることを選びます。これを社会復帰と呼べるか、議論が起きました。

やがてカルト集団を形成したシナノンは、1970年代に宗教団体化されます。そして脱退しようとした者への暴力行為などが表沙汰となり、社会問題化していきます。

様々な問題を経て、1991年にアメリカでは消滅したシナノン教団。科学的なアプローチによる更生プログラムは、洗脳であったと非難されつつも、治癒した人もいると議論の対象になりました。

そしてシナノンはフィリップ・K・ディックの小説、「暗闇のスキャナー」や「ヴァリス」に影響を与えています。

「暗闇のスキャナー」はリチャード・リンクレイター監督作、『スキャナー・ダークリー』として映画化されました。

身近な恐怖をカルトに描く


(C)2019 1BR Movie, LLC All Rights Reserved.

シナノンに付いて調べた監督は本当に恐ろしいのは、矯正を望まない人にも、団体側が矯正を望んでいることだと語っています。

カルト集団は、自分をカルトだと語って接近しない、常に別の顔を装って接近する。それは全てのカルト集団の常套手段であり、繰り返し描かれるテーマだと言う監督。

同時に映画は監督自身が、20代前半で誰1人知る者のいないLAに移り住み、孤独感に襲われた体験が元になっています。

その中で見たアパートの光景、美しく快適で隣人に手を振ると振り返してくれる、しかし彼らの顔を見知っても、実はどんな人物かは知らない。そんな経験が映画に生かされました。

本作の撮影期間は、15日しかありませんでした。映画がシンプルな構成になっているのも製作環境が要求する、必要性の結果だと説明しています。

監督・脚本・製作だけでなく、編集も務めた監督は、セミナーで聞いたリドリー・スコット監督の言葉を紹介してくれました。

監督を料理人に例えるなら、撮影は食材を買いに市場に出ることだ。そして編集作業こそ、料理という行為である。

なるほど、色々と納得させられるお言葉です。

名匠ロマン・ポランスキーを意識する


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本作に登場人物が監禁され、拷問され、洗脳される姿を描いた、いわゆるハードな”拷問ポルノ”描写を期待した人は、少々期待外れに映るでしょう。

もっとヘビーな支配と隷属関係を望んだ人にも、物足りないかもしれません。映画は密室ホラーではなく、様々な意志や不満を持つ人々を内包した、カルト集団を描いています。

マルモール監督は今何が起きているか、つまり拷問的シーンを見せる事よりも、次に何が起きるかを想像させる、ロマン・ポランスキー監督作の様なスタイルを選びました。

ポランスキーの『反撥』(1965)や『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)、『テナント 恐怖を借りた男』(1976)といった、アパートを舞台にしたパラノイア的作品を意識したと語る監督。

『マッド・ハウス』の撮影では、これらの映画を意識し、全編に70年代の映画のような、控え目なトーンを維持するよう試みた、と監督は解説しています。

本作を地味な作品と感じた人もいるでしょうが、それにはこのような狙いがありました。

まとめ


(C)2019 1BR Movie, LLC All Rights Reserved.

カルト集団の恐怖を描いた『マッド・ハウス』、同時に都会の孤独と不安を描いた映画です。拷問ホラーではなく、心理ホラーとして楽しむべき作品です。

都会のアパートで1人暮らしを始めたら、他の住人が全て○○だった…。という体験談が無数に語られています。真偽はともかく都会人の不安をかき立てるからこそ、噂は広まるのでしょう。

突飛な設定ではなく、都市型の身近な恐怖に根ざした作品で、身近に感じる方もいるでしょう。

無論カルト集団や、そのマインドコントロールの手法にも焦点を当てています。そういったテーマに関心のある方も必見です。

B級ホラー映画に度々登場するカルト集団。その姿は映画の中で存分に楽しんでいますから、現実に関わるのは遠慮したいものです。

ともかく猫を焼き殺すような連中には、関わってはいけません。これが本作の教訓です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…


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次回の第22回は、仲間の罪を被り1人服役していた男が、南国の楽園を血で染める!ノワールアクション映画『リベンジ・アイランド』を紹介いたします。お楽しみに。

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