連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第18回
様々な事情で日本劇場公開が危ぶまれた、埋もれかけた貴重な映画を紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第18回で紹介するのは『KILLERMAN キラーマン』。
ギャング、マフィア、汚職警官…裏社会を舞台にした映画は数多くあります。今回の登場人物は、裏社会の資金洗浄屋。確かな仕事で組織からの信用を得ていました。
しかし彼は危険な取引に巻き込まれ、その際の事故で記憶を失いました。果たして彼は、犯罪組織と警察を敵に回した状況から逃れることができるのか。
本格的なハードボイルド・クライムアクション映画の登場です。
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CONTENTS
映画『KILLERMAN キラーマン』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Killerman
【監督・脚本・出演】
マリク・ベイダー
【キャスト】
リアム・ヘムズワース、エモリー・コーエン、ズラッコ・ブリッチ、スラージ・シャルマ、ダイアン・ゲレーロ、ニコラ・シュレリ
【作品概要】
クリス・ヘムズワースの弟で、『ハンガー・ゲーム』(2012)シリーズや『インデペンデンスデイ:リサージェンス』(2016)、『ある決闘 セントヘレナの掟』(2016)に出演した、リアム・ヘムズワースが主演の犯罪バイオレンスアクション映画。
監督・脚本は、本作に出演しているニコラ・シュレリと共に製作した映画、『ブラッディ・ホステージ』(2015)で高い評価を得たマリク・ベイダーです。
共演は『ある決闘 セントヘレナの掟』や「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」上映作品『ウルフ・アワー』のエモリー・コーエン。ニコラス・ウィンディング・レフン監督とマッツ・ミケルセンの名を高めた『プッシャー』(1996)シリーズの、ズラッコ・ブリッチが貫禄ある姿を見せています。
映画『KILLERMAN キラーマン』のあらすじとネタバレ
麻薬ディーラーたちは取引で得た多額の現金、それは重量に換算しても厖大な量になります。それを司法機関に追跡されないよう、どう取り扱うか苦労していました。
かつて、アメリカのディック・ソーンバーグ司法長官は語っていました。
ニューヨークの繁華街で、小さな宝石店を構えるモー・ダイヤモンド(リアム・ヘムズワース)の前に、車で乗りつけた男が現れます。男は箱を持って来ました。
モーはその箱を受け取ります。箱の中には大量の札束が入っていました。モーと男はこの取引に慣れている様子です。
男が帰ると、モーは貴金属の取引所に行き、現金を金の延べ棒に変えました。それを別の店で現金に換え、また異なる店で金塊に換えるモー。
モーはNYの貴金属や宝石を扱う店が集まる、通称「ダイヤモンド街」でこの行為を繰り返します。彼は裏社会の資金洗浄屋でした。
最終的に何枚かの小切手に換えた金を手に、モーは車に乗り込みます。そこには相棒のボビー・サントス、通称スカンク(エモリー・コーエン)が待っていました。
モーは彼に小切手を渡しますが、スカンクは自分たちの行為に、何の意味があるのだと疑問を口にします。組織に任された仕事であり、果たすのが唯一の道だと告げるモー。
モーとスカンクは、とあるビルの屋上に現れます。そこにはスカンクの叔父で、マフィアのボスのペリコ(ズラッコ・ブリッチ)がいます。
叔父と抱き合って挨拶を交わすスカンク。ペリコはこのビルを、フリード議員に裏で手を回し、合法的に手に入れようと動いていました。
スカンクは叔父に小切手を渡しました。それを受け取り、モーに1日の洗浄できる額は200万ドルだな、と確認するペリコ。
依頼通り2週間の内に、2000万ドルを洗浄すると告げるモー。これは俺の能力と信用を試すテストですね、と確認するモーの落ち着いた態度に、ペリコは満足気な表情を見せます。
モーはスカンクに受け渡しの手順を説明させますが、資金の洗浄など使い走りの仕事に過ぎないと、軽んじた態度を見せるスカンク。
そんな甥をペリコは叱りつけました。その場から立ち去ると、スカンクは叔父への不満をモーにぶつけました。モーはそんな相棒をなだめます。
後日。ペリコの元にFBIの内通者、マニング捜査官から、捜査機関が動いているので、全ての取引を中止しろと告げる連絡が入りました。
今日も資金洗浄していたモーとスカンクの元に、ペリコから電話が入ります。叔父と隠語で会話したスカンクは、今日の寄り引きは中止だとモーに告げます。
スカンクはモーに明日まで作業を中止し、金は一時的に保管するよう命じられたと伝えます。理由も言わず仕事の邪魔だけすると、ボスへの不満を口にするスカンク。
結局叔父は自分を信用していない、とぼやく相棒をモーはなだめます。
2人の手元には明日まで多額の現金が残ります。するとスカンクが、この金で麻薬の取引を行い、利益を得ようと提案しました。
ボスの金に許可なく手を付ければ、自分まで大変なことになるとモーは止めます。しかし安全な取引で、相場の半値でコカインが手に入ると、スカンクは熱心に説得します。
リスクに見合う価値は無い、パートナーは互いに意見して、忠告に耳を傾けるべきだと意見するモー。お前こそオフの時は連絡がとれず、相棒にプライベートを隠していると指摘するスカンク。
お前には他のビジネスもあるんだろう、自分も1人で動きたいとスカンクは強く主張しました。
スカンクは自分はボスの甥という理由で、重要でない仕事を与えられたと考え、引け目と不満を持っていました。彼は叔父や仲間を見返す取引がしたいのです。
言い出したら聞かない相棒の性格を知るモーは、最後は渋々取引を承知しました。
スカンクが取引相手に電話すると、モーも電話をかけました。相手の女に今日は行けなくなったと告げます。こんな生活がいつまで続くの、と不満をもらす相手に謝ったモー。
モーとスカンクが乗った車は、とある酒屋に現れます。その姿を停めた車の中から見守る男の姿がありました。酒屋の男がスカンクに声をかけてきます。
その男フェデックス(スラージ・シャルマ)が、ドラックの取引を計画していた人物でした。相手はナイジェリア系ギャングのディボだと教えるフェデックス。
フェデックスは自分で取引するつもりですが、スカンクとモーはそれを諦めさせ、自分たちが取引すると告げました。ギャング相手の取引は彼の父と店を、危険に晒すと警告します。
利益の10%を渡すので、後は自分たちに任せろと告げる2人。フェデックスは不満を言いますが、スカンクは取引が終われば、何があっても今夜午前2時にクラブで会おうと取り決めます。
渋々承知し、取引相手を示すメモを書いた、紙マッチをモーに渡すフェデックス。
取引場所には多くのギャングがいました。相手の数が多いと心配するモーに、仲介したフェデックスも取引相手のディボも、知る仲だと告げ安心させるスカンク。
ディボの姿を確認すると、取引を開始する2人。カバンに詰めたコカインと現金が出された時、1台の車が現れます。
車から銃を持った刑事が現れました。それはフェデックスの店の前にいた男です。モーとスカンクは身を隠し、ナイジェリア系のギャングたちは手を上げました。
ギャングたちを立ち去らせる刑事。麻薬と金は置かれたままです。レオン刑事(ニコラ・シュレリ)とマルティネス刑事(マリク・ベイダー)は、2人に出てこいと叫びます。
ギャングたちを捕えず、応援の警官も現れません。これは汚職警官の罠だと見抜くモー。さらに隠れていた2人の刑事が現れますが、彼らに突然銃弾が浴びせられました。
それは2人が援護を頼んだ、仲間のスズキによる狙撃でした。慌てて身を隠す汚職警官たち。その隙にコカインと金のカバンを回収し、車に乗り込むモーとスカンク。
車を出すと2人はカバンをスズキの車に詰め替え、逃走を続けます。車の中でフェデックスに電話し罠だと告げ、後は2時に例の場所で話すと叫ぶスカンク。
刑事の車が追ってきます。細い路地を走り追手を撒きましたが、モーは現れた車を避けようとして事故を起こします。
傷付きながらも、何とか車を抜け出したスカンクは、重傷のモーを車から出し共に逃げます。彼らを4人の汚職刑事が追ってきました。
スズキの車が現れ2人を乗せました。モーの容態は悪く、車を病院に向かわせるスカンク。
警察署に戻ったレオン刑事は、不正行為を知る上司に得るはずの金どころか、コカインまで失ったと報告します。
彼らは押収した麻薬を使い、息のかかったギャングに取引をさせ、相手が用意した金を検挙を装い、奪い盗る計画を立てていました。しかし相手に金どころか麻薬まで奪われました。
不正に持ち出した押収品の麻薬を回収しないと、我々は破滅だと言い、月曜までに探しだせとレオンに告げた上司。
治療を受けたモーの前で、スカンクは相棒の容態を訊ねます。重い脳震盪を起し、MRIで異常は無いが、より精密な検査が必要だと聞かされます。
事情を聞きに警官が現れると知り、スカンクはもうろうとした状態のモーを強引に抱えると、病院から逃げました。
車に乗せられたモーは混乱状態で、激しい頭の痛みを訴えます。やむなく息のかかった中絶専門医の元に連れて行くスカンク。
医師はモーが事故の前の、多くの記憶を失ったと告げます。専門外だが親しい人物や見知った場所を見せれば、記憶が甦る可能性があると教えます。
ホテルの一室でモーに金と奪ったドラッグを見せ、これで俺たちは殺されかけ、事故になったと説明するスカンク。しかし記憶は戻らず、自分は麻薬ディーラーかと聞くモー。
記憶は回復せず、信じがたい事実を告げられ混乱するモーに、スカンクは自分は友人で、お前の助けを必要としていると訴えました。
まもなく午前2時になるので、待ち合わせのクラブに行くと言うスカンクに、自分の家に戻りたいと告げるモー。スカンクは敵が張り込んでいると拒否します。
フェデックスに会わねばならない、自分を信用してくれと告げ、彼に銃を渡すスカンク。銃をスカンクに突きつけ、お前は誰だと叫んだモー。
スカンクは俺は、お前の親友だと叫びます。モーは銃で窓ガラスを撃ちました。警官を呼ばれるぞと言われ、モーは落ち着きを取り戻します。
自分たちはギャングのボスである俺の叔父と、汚職警官から逃げてるとモーに告げるスカンク。お前は狂っていない、お前の不安感は間違いなく本物だと語ります。
レオン刑事たちは、本来の取引相手であったフェデックスの酒屋に現れます。現れた父親に、今日息子さんは麻薬の取引現場におらず、殺されず運が良かったと告げるレオン。
現れたフェデックスの目前で、父親を射殺するレオン。彼はコカインを奪った相手を聞き出そうと、フェデックスを殴りつけました。
モーとスカンクは、フェデックスと約束したクラブに入ります。そこはまだ後遺症が残るモーには、激しい音と光が渦巻く悪夢のような場所でした。
仲間のスズキも待っていましたが、モーは彼も覚えていません。スカンクから彼が記憶を失ったと聞かされ、驚くスズキ。
モーは自分のポケットの中身を広げます。自分のIDや、取引相手を記したマッチを目にしても記憶は戻りません。
周囲の人間が、どういう人間なのか彼には全く判りません。モーに興味を持った女に声をかけられ、何者か判らないまま関係を持ちます。
フェデックスは現れず、彼らは酒を飲みます。こちらを伺う男に気付き、その後を追うモー。
男をトイレで捕まえ殴り倒すモー。刑事だと明かした男を、彼は殴って気絶させました。
その男は尾行がバレたとレオンに報告します。構わない、追うべき相手の正体が判ったと告げ、まずスズキの身元を確認するレオン。
次の日、スカンクはモーをペリコのアジトに連れていきます。そこにいるギャング仲間をモーに紹介しますが、彼の記憶は戻りません。
記憶の無いモーはギャングたちにからかわれ、争いになりかけます。そこにペリコが現れます。2人は彼の部屋に行きました。
スカンクは叔父であるボスに経緯を説明します。金は動かすなと命じたはずだと、ペリコは激怒し、どう処理するつもりだとスカンクを責めます。
彼がマニング捜査官に確認すると、スカンクとモーに対する令状も指名手配も出ていません。しかしFBIがペリコとフリード議員の関係を、何者かの依頼で調査し始めていると告げました。
お前は私の大きな事業を、軽率な行為で危険の晒した、とスカンクに告げるペリコ。
これは自分の失敗なので、責任を持って処理し迷惑はかけないという甥に、ベリコは金を返してNYから立ち去れ、と言いました。
お前は甥だから面倒を見てきた、と言う組織のボスに、命令に従うと約束するスカンク。彼は車を1台用意してもらうと、モーと共に立ち去ります。
しかしモーの願いで、彼のアパートに向かうことになりました。スカンクの案内で彼のアパートの前に来ますが、何も思い出せないモー。
2人は念のため、銃を用意してアパートに入ります。そこにはモーの恋人、ローラ(ダイアン・ゲレーロ)がいました。
彼女の存在と妊娠を知らなったスカンクは驚きます。何事かと説明を求める彼女に、モーは事故で記憶を失ったと告げるスカンク。事情の呑み込めないローラと言い争いになります。
モーはあなたの生き方を嫌い、私とNYを離れやり直そうとしている、と告げるローラ。そんな話を聞いていなかったスカンクは動揺し、そのやり取りにさらに混乱を深めるモー。
2人に黙ってくれと言うモーに、この仕打ちは酷いと言い、スズキと会って戻るから、それまでに準備しておけと告げて、モーはアパートを後にします。
ローラもモーが記憶を失ったと理解しました。なぜ付き合っているのをスカンクは知らない、と聞くモーに、あなたが私との関係をスカンクに隠したと教えるローラ。
彼らが私を傷つけると思ったから、とローラは言いますが、スカンクは自分を助けてくれたと教えるモー。その彼に、本当に危険なのはペリコだと彼女は告げます。
ペリコはジミーを殺し、次はスカンクを殺すだろう。断片的でよく理解出来なかったが、あなたはそう言ったと教えたローラ。
それを聞いても何も思い出せません。ここに来れば何か判ると思った、それでも思い出せないとモーは呟きます。
モーに自分のお腹を触らせ思い出せないなら、この赤ちゃんを感じて欲しいと言うローラ。モーは泣き出し、2人は抱き合いました。
スズキの前に現れたスカンクの姿を、張り込んだレオン刑事が見ていました。
スカンクがモーのアパートに戻ると、追って来たレオンが彼を殴り倒します。マルティネス刑事がモーの部屋に来ると、逃げるモーとローラに発砲します。
レオンもスカンクを覆面パトカーに押し込め、後を追いました。レストランの調理場に2人は逃げ込み、モーはマルティネスを殴り倒しました。
しかしその際、マルティネスが発砲した銃弾が、ローラに命中します。
映画『KILLERMAN キラーマン』の感想と評価
参考映像:『ブラッディ・ホステージ』(2015)
潜入捜査官は犯罪映画の人気テーマです。古くはスパイ映画に登場する「二重スパイ」の方がお馴染みでしたが、クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(1992)が、改めてこのテーマの面白さを世に認識させました。
ジョニー・デップとアル・パチーノ出演の、実話を元にした映画『フェイク』(1997)も生まれますが、香港映画『インファナル・アフェア』(2002)は人気に火を付けた感があります。
『インファナル・アフェア』はシリーズ3部作化され、マーティン・スコセッシ監督の『ディパーテッド』(2006)としてハリウッドリメイクを果たし、世界的ブームを起こします。
その一方で、冷戦時代のスパイ物や荒唐無稽な忍者物でも、こんな大がかりな手段で潜入しないだろう、と言いたくなるようなトンデモ設定の作品も数々生まれました。
さて、新たに登場した映画『KILLERMAN キラーマン』の潜入捜査の描写はリアルですが、巻き起こる人間ドラマの方では、フィクションの面白さを追求した犯罪アクションです。
本作の監督・脚本、そして出演のマリク・ベイダー。彼と汚職警官コンビを組んだニコラ・シュレリは、監督の前作『ブラッディ・ホステージ』の脚本を書き、主演を務めました。
『ブラッディ・ホステージ』の印象的なシーンが、幾つか本作で再現されていますから、両作品に強い関連性があるのは明白です。
マリク・ベイダーとニコラ・シュレリは、クエンティン・タランティーノ的な映画作りを試みました。そう考えると本作の『レザボア・ドッグス』的な部分に、納得がいくでしょう。
映画が生んだ2人の協力関係
マリク・ベイダーは2006年、ドキュメンタリー風の犯罪映画『Street Thief』を監督し、様々な映画祭で受賞した高い評価を得ました。
そして『Street Thief』を見て感銘を受けたニコラ・シュレリが、自ら執筆した脚本を彼に送ります。それまで面識の無かった2人の関係は、この時から始まります。
その後1年に渡り、脚本を送りあい練り直した末に、監督は「予算は4千万ドルでも、2ドルと酒1本でもいいから、これを映画化しよう」と思わず口を滑らせます。
するとニコラ・シュレリは、「だったら自分は2ドルと酒1本を持っているから、撮影を始めよう」と提案します。こうして『ブラッディ・ホステージ』の製作が始まりました。
監督のリアルなタッチと、アルバニア系移民のニコラ・シュレリの実体験を反映した脚本が生んだ作品が『ブラッディ・ホステージ』になります。
この作品が『KILLERMAN キラーマン』を生むきっかけとなり、2人は汚職刑事コンビで出演を遂げました。何とも熱い、映画に賭ける男たちの物語です。
任侠映画的な男のドラマ
ハードボイルトな映画である本作は、映像も硬質なタッチで描かれました。
撮影監督は『デッドプール』(2016)、『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019)のケン・セング。彼は本作に製作にも参加していますから、相当意気込んで作り上げた映像でしょう。
映像の力でも盛り上げてくれる『KILLERMAN キラーマン』ですが、物語もまたノワール映画ファンをツボを、大いに刺激してくれます。
日本の任侠映画に限らず、世界のノワール映画は男同士の友情を描きます。それは潜入捜査物では多くの場合、友情や恩をとるか、任務に従って裏切るかの、葛藤として描かれます。
『レザボア・ドッグス』は将にそれを描いた映画で、騙す側と騙される側の歳が離れた『フェィク』では、それが疑似的な親子関係となり、葛藤を深めました。
さて、本作ではその関係が、デキる男前な人物リアム・ヘムズワースと、容姿も性格も情けないエモリー・コーエンの間に築かれます。
これが何とも、プラトニックなホモセクシャルの香りを漂わせています。こういった人間関係は、日本の任侠映画にも数多く見られた特徴です。
任侠映画や犯罪映画は、男たちの濃厚な愛憎劇である。だから面白いんです。本作のドラマ部分は、その性格を前面に出した言えるでしょう。
まとめ
ハードボイルドなタッチでリアルに描いた、男の愛憎劇を見せる『KILLERMAN キラーマン』。クライムアクション映画好きは無論、任侠映画やVシネマのファンのハートにも響く作品です。
主人公はリアム・ヘムズワースですが、物語が進むにつれ、ヘタレながらも裏社会で粋がっていた、エモリー・コーエンの描写に重きが増していきます。
ヘタレキャラ、と聞くとアニメの専売特許のようですが、東映任侠映画にも川谷拓三のような、その役柄を演じ愛された名脇役がいました。
多くの場合アニメのヘタレキャラは、本気を出す、覚醒するといったチャンスを与えられますが、映画の中のヘタレキャラは現実同様、最後までその姿のまま消えていきます。
そんなヘタレな男が見せる美学に、ロマンを感じる方は必見です。カッコ良くない姿だからこそ、カッコいい。それを描いた映画が『KILLERMAN キラーマン』です。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第19回は、保守的なキリスト教系高校に通う女子高生が、エッチに目覚める!青春コメディ『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』を紹介いたします。お楽しみに。
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