連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第22回
毎年恒例の劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第22回で紹介するのは、超能力者一家を描いたSF映画『FREAKS フリークス 能力者たち』。
超能力を持つ人々が誕生し国家権力や人類と対決する、という設定はSF物のコミックやアニメ、映画でお馴染みです。近年一番メジャーな作品に「X-メン」シリーズでしょうか。
この定番ジャンルを将来を期待される、若手クリエイターコンビが映画化しました。どの様なアイデア、斬新な表現がこの作品に登場したかをご期待下さい。
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CONTENTS
映画『FREAKS フリークス 能力者たち』の作品情報
【日本公開】
2020年(カナダ・アメリカ合作映画)
【原題】
Freaks
【監督・製作・脚本】
ザック・リポフスキー、アダム・B・スタイン
【キャスト】
エミール・ハーシュ、ブルース・ダーン、レクシー・コルカー、グレイス・パーク、アマンダ・クルー
【作品概要】
特殊能力者を弾圧する未来社会で、少女の能力の覚醒とその家族の戦いを描く、デストピアSFアクション映画。2007年に放送されたスティーブン・スピルバーグらが主催の、若手映像クリエイター発掘リアリティショー番組「On the Lot」の、ファイナリストに勝ち抜いたザック・リポフスキー、アダム・B・スタイン監督コンビの作品です。
出演はジョディ・フォスター製作・出演の『イノセント・ボーイズ』映画デビュー、『ジェーン・ドウの解剖』に主演のエミール・ハーシュ、大ベテラン俳優で近年は、クエンティン・タランティーノ作品で存在感を見せるブルース・ダーン、SFドラマシリーズ『GALACTICA/ギャラクティカ』のブーマ役、グレイス・パークが共演しています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『FREAKS フリークス 能力者たち』のあらすじとネタバレ
一軒家の窓のカーテンの隙間から外を眺める少女クロエ(レクシー・コルカー)は、停車しているアイスクリームの移動販売車を見つめていました。見つかるぞ、”悪い人”から隠れないと、とその娘を叱る父親のヘンリー(エミール・ハーシュ)。
私はエレノア・リード、7歳。誕生日は3月9…10日。母の名はナンシー・リード…。ヘンリーはクロエに異なる経歴を覚えさせていました。自分の身に何かあれば、隣人のリード家に行って、大金を渡すから娘にして、と告げろとクロエに教えます。
父娘は互いを相棒と呼び、信頼して暮らしていました。絵を描く娘の隣で拳銃を手入れし、外から家の中が見られないよう慎重にカーテンを直すなど、何者かに追われているように振る舞うヘンリーでした。
家に閉じ込めた娘に外界のことを教え、”悪い人”と会話した時怪しまれないよう、誤魔化し方を指導するヘンリー。クロエとポーカーをする時は、大金を賭けて遊びます。
ポーカーのプレイ中、ヘンリーの瞳から血が流れ彼はタオルでふき取ります。娘にも目から血が流れ出したら、必ず教えろと告げてるヘンリー。見事に手を偽り通し、ゲームに勝利したクロエを彼は褒めます。
クロエを寝かせる前に、突然お前は人間じゃない、と怒鳴るヘンリー。しかし彼女は笑って対処します。これは大事な練習だ、と父はクロエに言い聞かせます。
練習しないと”山”行きだね、と答えたクロエに、父は誰に聞いたのだ、自分宛ての郵便物を勝手に読んだのか、と追求します。改めて家の窓を目張りし、郵便物を焼き処分するヘンリー。
暗い部屋…しかし隙間から昼の光が差しています…で眠りにつこうとするクロエは、寂しさを紛らわす為か、ペンで枕に母親の顔を書きます。すると物音が聞こえます。彼女の描いた不気味な絵を貼った壁の先にある扉の、その中から音がしていました。
扉を開けると、そこには鎖につながれた女性(アマンダ・クルー)がいます。その女性もクロエも悲鳴を上げ、パニックになったクロエはその部屋を飛び出し、一心に不気味な女の絵を描き始めます。部屋には同様の絵が無数にありました。
幽霊を見たとクロエが訴え、父はその部屋を探しても誰もいません。一緒にいてと訴える娘にいいと答えたものの、俺は眠れない、眠ったらお前を守れないと言うヘンリー。
クロエが目を覚ますと、外の販売車から流れるメロディが聞こえます。その音色に誘われ彼女が玄関に向かうと、何者かが扉の投函口から本を入れました。クロエが手に取ると、それは「スノーコーンさんと王女」と題された絵本でした。
その飛び出す絵本には、城に閉じ込められたお姫様がお金を手に、移動販売車にアイスを買いに行く姿を描いていました。彼女が窓の目張りを破って外をのぞくと、アイスクリームの販売車が停まっていました。
販売車の前に少女がいます。その子に私にアイスクリームを届けて、と強く念じるクロエ。
すると玄関のドアが叩かれます。その少女ハーパーがアイスを手に立っていました。願いが叶い自分に届けてくれた、と喜びクロエは扉を開けます。
クロエが外に出るのを止めるヘンリー。彼は現れたハーパーに、どうしてこの家に来たのかと尋ねますが、彼女は理由を答えられません。そこに少女の母が現れます。それは臨家のナンシー・リード夫人でした。
ナンシーは自分の名を知るクロエに驚きますが、ヘンリーは誤魔化して扉を閉ざします。今の振る舞いで2人とも死んでいたかもと、娘が外に出ようとした行為を強くとがめます。
罰として娘を、幽霊がいた部屋に閉じ込めるヘンリー。1人遊ぶクロエの前で、臨家の少女エレノアが寝ていました。寝ぼけている少女にママになってとせがみ、エレノアと抱き合い眠るクロエ。
ヘンリーが起こしにきた時、彼女は1人でした。ママは外に出て良いと言ったと告げ反抗するクロエ。娘をなだめる為に彼は、今日買い出しに出た際にアイスを買うと約束します。
ところが戻って来た父は血にまみれ、拳銃を持ち脇腹に傷を負っていました。自ら傷を手当てするヘンリーですが、クロエはアイスを買ってこなかったと怒ります。娘になじられながらも、意識を失ったヘンリー。すると何故か、空中で静止していた鳥が動き始めます。
電灯がつき蛇口から水滴が落ち、映像を映し出したTVは、シアトルの住宅がドローンで爆撃されたニュースを報じていました。外からはアイス販売車の音楽が流れてきます。
クロエは金庫を開けると、山積みの札束から100ドル札を抜き取り、鍵を開け外に出ます。家から出たことの無い彼女に、外の世界は輝きに満ちていました。音楽に誘われるように、アイスクリームを売る販売車へと向かうクロエ。
車では老人(ブルース・ダーン)がアイスを売っていました。クロエに優しく声をかける老人は、彼女が子供に不釣り合いな100ドル札を持っていても驚きません。老人は彼女に、もうパパの言う通りにする必要はないと語り、自分を手伝って欲しいと頼みます。
老人の言葉とアイスに誘われ車に乗ったクロエ。公園に行くと言うと、老人は販売車を走らせます。彼女には車窓から見る全ての風景が新鮮でした。しかし道路沿いには、目から血を流す者を見たら通報しろと訴える、巨大な看板が立っていました。
老人は君は目から血が出るのかと訊ねます。クロエが否定すると、彼はそれは残念だと答えます。車は都市に入り、ビル街の中にある公園に到着します。
クロエと共に公園に入った老人は、彼女をブランコに乗せ遊ばせます。楽しんでいたクロエですが、老人はブランコを勢いよく押し、早く高く振り上げます。怖がるクロエに、勇気を出して飛び降りろと言う老人。
クロエの叫び声と老人の態度に、周囲の人々は不審の目を向けます。ようやくブランコから降りたクロエに、老人はお前のママには特別な力があった、と告げます。そこに警官が近寄り、2人の関係を尋ねました。
クロエに警官を殺し屋だ、と叫ぶ老人。その態度に不審を抱いた警官は銃を向けます。警官に対しあっちに行けと、クロエが繰り返し叫びます。すると警官は銃を収めて立ち去り、クロエは驚きますが彼女の”力”を知った老人は、一緒に大きな仕事をしようと告げます。
2人はアイス移動販売車に戻り、公園から立ち去ります。老人が車で警察無線を傍受すると、”アブノーマル”な子供が公園に現れたと伝えていました。
クロエは車内にある、若い女性の写真に気付きます。誰かと聞かれた老人は、お前のママで私の娘だと告げます。”山”に連れて行かれた娘を、必ず取り戻すと老人は呟きます。その写真を欲しいと言うクロエに、渋りながらも貸してやる言って渡す老人。
車はクロエの家の前に着きます。老人は自分と再会するには、パパが眠っていなければダメだと告げ、アイス販売車の音楽が聞こえたら、この薬をパパの飲み物に入れろと言い、小袋に入った粉末を渡します。
ヘンリーが目を覚ますと何かの波動が発生し、電気が消えます。娘の名を呼びさがすヘンリー。クロエは絵を描いていました。外の世界を知ったクロエは父に不信感を抱いたのか、約束のアイスを買わなかった件を怒り、嘘つきと叫びます。
お前を守りたいという父に、出ていけと叫ぶクロエ。ヘンリーは黙って出て行きます。独り寝床に就いたクロエは、母の写真を眺めていました。するとあの幽霊の出た部屋に、何か気配を感じます。扉は別のものに変わっていました。
部屋の中にかつて幽霊と思った女がいました。クロエはそれが写真の女と気付き、ママと声をかけます。クロエが笑顔を見せると彼女も笑いますが、突然これは現実ではないと、女が叫び出します。部屋から逃げ出すクロエ。もう一度部屋を覗くと、そこには誰もいません。
戸惑ったクロエが父の元を尋ねると、ヘンリーはTVとつないだヘッドホンを付けたまま眠っていました。そのヘッドホンを外し、自分に付けたクロエ。
TVのニュースはダラスが攻撃されて10年だと告げていました。能力者の反乱による攻撃で、多くの犠牲者が出たと告げるキャスターは、能力者は一般に”フリーク”と呼ばれると解説します。
番組に出演したセシリア・レイ特別捜査官(グレイス・パーク)は解説者と語り合い、拘束・隔離された能力者は、マドック山の居住区で暮らしていると説明します。レイは”フリーク”ではなく”アブノーマル”と呼ぶべき者の能力を、恐れず活用すべきと訴えます。
部屋に戻ったクロエは、物音に気付きあの部屋の扉を開きます。すると中から子供たちが飛び出してきました。風景の変わった部屋の中には幾人かの女の子と、クロエが見知った隣のリード家の娘・ハーパーがいました。
ハーパーから見ると、パジャマパーティーをしていた自分の部屋に、突如クロエが現れたと見えるようです。気味悪がる子供たちは、クロエを”フリーク”とはやし立てます。
逃げ出したクロエがもう一度部屋に入ると、光景が変わりそこに監禁された女がいました。クロエはその女にママと呼びかけます。認めようとしなかった女も、クロエが現実の存在で我が子だと信じます。
信じられない、会いたかったと告げる母に、死んだのはママの方だよ、と告げるクロエ。そして彼女はママにどうやって来たのか尋ねます。母は別れてから大きく成長した娘クロエの姿と、現在の状況や会話から、徐々に何かを悟りました。
母はヘンリーの事を訊ね、クロエにはこの部屋に来て欲しくないと告げます。すると母の監禁された部屋の扉の前に、何者かが現れた音がします。気付くと母の姿は消え、1人元の部屋にいたクロエ。
傷の手当てをしていたヘンリーの前に現れたクロエは、死んだと教えられていたママに会ったと叫びます。アイス売りの老人と出会い、今までの父の言動が嘘だと信じた彼女は、隣のリード家に行って普通の子供になると主張します。
思わず父に死ねばいいのに、と言うクロエ。今の言葉を後悔するぞ、と言い返すヘンリー。老人から貰った小袋を手にして考えた結果、その薬を混ぜたジュースを父に渡すクロエ。
しかしヘンリーは臭いとグラスに付着した粉末から、何かが混入されたと気付きます。それを察し逃げようとしたクロエ。彼女の落した袋を拾い、父は何者かが娘にこれを渡したと気付きます。娘を捕えたヘンリーですが、家から出たい一心のクロエは眠れと父に叫びます。
突然、倒れてしまったヘンリー。何かの波動が彼の体に戻っていきます。そしてクロエの目からは一筋の血が流れていました。
金庫を開け札束を掴み家を出たクロエ。そこにアイスクリームの移動販売車が現れ、中から老人が出て彼女の顔の血をふき取ります。彼女の持つ大金を見た老人は、どうするのか訊ねました。
隣のナンシー・リードの家に行き、彼女に新しいママになってもらうと話すクロエ。すると老人は、彼女より良い人に会わせたいと言い、クロエを車に乗せました。
到着すると老人はこれから入る店では、口を聞かないようクロエに言い聞かせます。そして隠れて生き延びようと試み、結局絶滅したユニコーンのたとえ話をして、お前のパパのやり方は間違っていると告げる老人。
老人は神父の格好をすると、クロエを連れ食堂に入ります。そこには警官と共に、”フリーク”を捜索するレイ特別捜査官の姿がありました。
老人は偽名を名乗り、警官を去らせると自分は7年前、教会に捨てられたこの”アブノーマル”の子を、違法と知りながら神の愛で育てたとレイに語ります。”アブノーマル”の抹殺に異を唱えるを発言をした、彼女にこの子を託したいと言います。
レイ捜査官が検査を行うと、確かにクロエは能力者だと判明しますが、老人はその検査から逃れます。老人は如何なる狙いで、孫娘のクロエをレイに差し出すのでしょうか…。
映画『FREAKS フリークス 能力者たち』の感想と評価
リアリティ番組が生んだ監督コンビの実体験が反映されたSF映画
2007年に放送の若手映像クリエイター発掘番組「On the Lot」。毎週放送される番組のレギュラー審査員は、恋愛映画の名手ゲイリー・マーシャル監督に、「スター・ウォーズ」でレイア姫を演じた女優、脚本監修で映画製作の裏方でもあったキャリー・フィッシャーが務めていました。
各週のゲスト審査員にはマイケル・ベイ、ウェス・クレイヴン監督らが登場、世界中から応募された12000件の応募された作品の中から選ばれた、18名のクリエイターが番組内で課題作を作り、競う内容でした。
その番組のファイナリスト5名に残ったのがザック・リポフスキー、当時番組ではカナダ出身・23歳の特殊効果映像の編集者と、3名にまで残ったのがアダム・B・スタイン、同じく当時フロリダ生まれの29歳の映画編集者と紹介された人物です。
番組でライバルとして出会った2人は良き友人になりました。数年間は別々に働いていましたが、2人でコラボすれば面白い作品が製作できると気付き、共に仕事をするようになります。
その2人が初めて共同で作りあげた映画が『FREAKS フリークス 能力者たち』。当然2人が得意とするSF物ですが映画のアイデアの原点は、誕生したスタイン監督の息子の成長する姿だと、リポフスキー監督は語っています。
一方スタイン監督はその経験を、準備不足のままダメな父親になったと感じた、と話しています。この2人の監督の言葉を踏まえて、映画に登場したヘンリー・クロエ父娘の姿を振り返ると、実感できるものがないでしょうか。
全米のSF映画ファンが納得!?の骨太超能力者ドラマ
超能力者映画としてありがちな設定、登場する超能力も何かのキャラと同じだ、と過去作との類似点ばかりに目が向いていませんか。
理由はともかくある日突然超能力に目覚める、というのがこの手の映画のお手軽パターン。しかし本作ではクロエの成長を通じ、彼女が新たな世界を発見し、自分に可能なこと試しながら覚え、時に周囲の人間と衝突し関係を結んでいく中で、力を身に付ける形で描いています。
2人の監督は実子の成長という経験を踏まえ、映画がリアルに感じられるように、家族の小さなエピソードを積み重ね、感情を掘り下げることに気を配りました。
そしてクロエが恐怖を覚えた時はホラー、感動を覚えた時はファンタジー、怒りを覚えた時はアクション・サスペンスを描く、見事なジャンルミックス映画を完成させました。
無論ミックスしたジャンルには、新たな形で超能力を表現し、ミクロの視点から仰ぎ見たデストピアを描くSF要素も含まれます。この丁寧な作りがB級映画ファン、特にSF映画ファンから高い評価を得ています。
まとめ
子供を主人公にし、子供目線にこだわる事で、ジャンル映画が大好きな大人たちを満足させた映画『FREAKS フリークス 能力者たち』。
ところでブルース・ダーンが乗って現れるアイス販売車、アメリカではアイスクリーム・トラックと呼ばれ、派手な色彩と流れる音楽で子供を魅了する存在です。
それゆえにピエロの様に、何故か恐怖を秘めた禍々しい存在として語られる事があります。劇中ではヘンリーが酷い言い草でアイスクリーム・トラックを語り、『ファンタズム』など多くのホラー映画にアイテムとして登場、そのものズバリのタイトルを持つ作品まであります。
クロエの前に現れたアイス販売車が、様々な意味で少女の憧れと恐怖を秘めた対象であり、ブルース・ダーンが如何なる人物かを、謎めいて描く材料にしている事に注目して下さい。
それにしてもこの超能力家族、クロエは例えるならプロフェッサーX級、その母は下手をするとキャプテン・マーベルかダークフェニックス級…。こんなの敵にしたら人類、ガチでヤバイです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第23回はニコラス・ケイジがリベンジに燃えるアクション映画『ラスト・パニッシャー』を紹介いたします。
お楽しみに。
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