連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第21回
毎年恒例の劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第21回で紹介するのは、ロシアの特殊部隊の活躍を描くアクション映画『バルカン・クライシス』。
冷戦終了後の20世紀末、泥沼の民族紛争の舞台となった旧ユーゴスラビア。ソビエト崩壊後のロシアも紛争の調停に乗り出すものの、事態はNATO諸国主導で推移します。そんな時代背景をベースにした、知られざるロシア特殊部隊の活躍を描くアクション映画です。
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CONTENTS
映画『バルカン・クライシス』の作品情報
【日本公開】
2020年(ロシア・セルビア合作映画)
【原題】
Balkanskiy rubezh / The Balkan Line
【監督】
アンドレイ・ヴォールギン
【キャスト】
アントン・パンプーシュニー、ユーリ・クツェンコ、ミレーナ・ラドゥロヴィッチ、ゴイコ・ミティック、エミール・クストリッツァ
【作品概要】
旧ユーゴスラビアのセルビアを舞台に、コソボ解放軍と激突するロシア特殊部隊を描いた軍事アクション映画。
監督は『ゲーム・オブ・ウォー 最終戦争』『バトルロイヤル』と、ロシア製SFアクション映画を手がけてきたアンドレイ・ヴォールギン。主演はロシア版「X-メン」と呼ばれた映画『ガーディアンズ』で、主人公の超人ヒーロー、アルススを演じたアントン・パンプーシュニー。
ロシアの格闘術サンボと、ガンアクションで見せるSFアクション映画、『バイオソルジャー』に主演したユーリ・クツェンコ、セルビアの女優ミレーナ・ラドゥロヴィッチ、同じくセルビア出身で旧東ドイツの映画製作機関、DEFAが60~70年代に製作した西部劇映画でインディアン役を演じ、東欧で大人気スターとなったゴイコ・ミティックが出演しています。
さらに『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』で、カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール(最高賞)を受賞に輝く映画監督、エミール・クストリッツァも出演するなど、セルビアを代表する映画人が登場している作品です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『バルカン・クライシス』のあらすじとネタバレ
1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナの山中。ロシアの特殊部隊の1チームが、隊長のシャタロフ(アントン・パンプーシュニー)の指揮で展開していました。
目的は紛争に介入したNATOが戦犯として追う、武装組織のリーダー、カーラーンの身柄の確保でした。女狙撃兵のヴェラが皆を援護する計画でしたが、敵が多く彼女も攻撃され負傷し、部隊は苦戦を強いられます。
それでもスラッシュは格闘の末、カーラーンを捕えます。思わずターゲットを殺そうとした彼を、彼の弟キリヤが止めますが、その隙をつかれカーラーンに致命傷を負わされます。妻子を持つ弟が負傷し、激怒するスラッシュ。
駆け付けたギレイがスラッシュを止め、カーラーンを縛り上げられます。爆破のプロ、バーリャの破壊工作で追撃を防ぎ、シャタロフのチームはヘリに乗り込みます。
ヘリで部隊を迎えに来た上官ベック(ユーリ・クツェンコ)に、キリヤの負傷を報告するシャタロフ。しかし機内でキリヤは命を落します。それを見たカーラーンのふてぶてしい態度に、激怒したスラッシュは掴みかかります。
NATOに協力し、戦犯に手を出すなと指示するベック。しかし同乗しているNATOの将校の、横柄な態度に耐え兼ねたシャタロフは、カーラーンをヘリから突き落とします。
シャタロフのチームは軍法会議にかけられました。NATOとの関係を重んじるロシア軍上層部の逆鱗に触れ、彼らは除隊処分にされます。同僚から国に帰さない方が良いと忠告されるベック。
1995年。ようやく和平合意が結ばれボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は終結します。しかし平和は長く続きませんでした。
1998年セルビア統治下のコソボで、アルバニア人勢力はコソボ解放軍を組織し、セルビア人勢力への攻撃を開始します。1999年和平交渉が決裂すると、国連安全保障理事会の承認無しに、NATO軍はセルビア人勢力への空爆を開始します…。
1999年3月、旧ユーゴスラビア、そして現セルビア共和国の首都ベオグラードに、NATO軍の空爆が行われます。女医アスナ(ミレーナ・ラドゥロヴィッチ)が務める病院も破壊され、彼女には産まれたばかりの1つの命しか救えませんでした。
今も特殊任務を行っているベック。彼の前に現れた上官は1999年6月に、コソボ治安維持部隊(KFOR)が派遣されることになったと伝えます。
そのために輸送機の着陸可能な、コソボにあるプリシュティナ空港を部隊到着に先んじて確保する必要があります。極秘裏に空港を占拠し、後続部隊の到着まで空港を守ることが、今回ベックに与えられた任務でした。
現在介入が許さる場所ではなく、正規のロシア軍部隊は使用できません。ベックは例の事件以降軍を離れ、旧ユーゴで暮らしているシャタロフの元部下たちに目をつけます。
その頃病院を移った女医のアスナは、上司から医師を必要とするコソボの病院への推薦状を受け取っていました。辛い経験を重ね、もう医者を辞めようと考えていたものの、戦禍に苦しむ人々を見て思い悩むアスナ。
ベオグラードに到着したベックは、反戦運動に沸く若者たちの中にギレイを見つけ、声をかけます。ここで諜報活動を行っていたギレイは、早速ベックの下で働き始めます。
平和安定化部隊(SFOR)の一員として、ボスニアに駐留するロシア軍部隊。部隊は兵士を装甲兵員輸送車でレースをさせ、士気と練度を維持していました。指揮官のプラトフ大佐に、命令が下ればNATO軍より先に、セルビア領内のプリシュティナ空港を確保せよとの連絡が入ります。
セルビア人の村で暮らすシャタロフは、パスポートが手に入ればこの地を離れようと考えていましたが、地元警察のミリチ署長(ゴイコ・ミティック)と共に、コソボ解放軍に襲撃された集落を訪ねます。住人は1人の子を残して皆殺しにされていました。
シャタロフの経歴と人柄を知る署長は、彼に協力と部下の指導を仰ぎ、住民たちを守ろうとしていました。コソボ解放軍はプリシュティナ空港を拠点に、セルビア人を襲撃していたのです。
一方ベックは残るシャタロフの元部下を探します。今はこの地でNATO軍機の投下した、不発爆弾の処理に当たっていたバーリャ、娼館の用心棒をしていたヴェラ、弟を失ったショックからまだ立ち直れないスラッシュを見つけ、声をかけるベック。
ミリチ署長はシャタロフに通行する車を検問し、野盗のように乱暴狼藉を働く、コソボ解放軍を捕えるチャンスが来たと告げます。署長は元軍人の部下、まだ若いヴィクとファデリと共に現場に向かいます。
山間の道で車を停止させ検問していたコソボ解放軍は、抵抗する者を殺し人々を調べていました。シャタロフが敵の狙撃兵をナイフで倒すと、ヴィクとファデリが銃撃を開始します。狙撃銃を奪ったシャタロフが抵抗する者を射殺すると、残る敵は逃亡しました。
負傷したコソボ解放軍兵士に銃を向けるヴィク。しかし署長に説得され、彼は銃を収めます。シャタロフに礼を言うと、パスポートが出来たと渡し、彼を送り出すミリチ署長。
指定の場所に集まったギレイ、バーリャ、ヴェラとスラッシュ。現れたベックは、君たちは任務を果たせば、軍に復帰が許され英雄として国に帰還できると伝えます。しかし軍から睨まれたシャタロフは加えず、代わって自分が指揮すると告げるベック。
旅立ったシャタロフは、偶然アスナと同じバスに乗り合わせます。ところが銃撃を受け停車するバス。コソボ共和国領に入ったと告げて、コソボ解放軍が乗客を調べます。
彼らはシャタロフをロシア人と知ると、銃の台尻で殴り気を失わせます。老婦人も同様に殴り、病院に向かうアスナの通行許可証は破り捨てます。正教会の司祭にアラー以外に神は無いと言えと強要し、従わないと射殺します。
司祭の幼い息子も殴り倒し、アスナと共に連れ去ろうとする兵士たち。気を失ったふりをしていたシャタロフは、密かに目を見開きます。兵士らの指揮官スムクに飛びかかるとその銃を乱射し、アスナに乱暴しようとした兵士らを射殺します。
スムクに部下に抵抗させないよう命じさせ、シャタロフは乗客にバスに乗り込ませます。アスナは少年を助け出し、皆が乗るとドライバーに出発させたシャタロフ。
バスが病院に到着すると、シャタロフとアスナは少年ら負傷者を、スターン医師引き渡します。返り血を洗い落とし、初めて恐怖を実感したアスナ。シャタロフとアスナは車で教会に向かい、司祭の亡骸と聖具を引き渡します。
シャタロフの去ったセルビア人の村には、コソボ解放軍が乗り込んでいました。彼らはバスで抵抗したシャタロフの行方を聞き出そうと、村人の前でミリチ署長を痛めつけます。アルバニアの名において、占領者セルビア人の警察署長の処刑を宣言するスムク指揮官。
ミリチは最後の力でナイフを奪い、逆襲して兵士を殺害しますが、スムクの手で射殺されます。抵抗を断念したミリチの部下ヴィクとファデリですが、シャタロフに事態を告げる事は出来ました。
病院で負傷した少年に付き添っていたアスナは、スターン医師に呼ばれます。その部屋には、コソボ解放軍のスムク指揮官がいました。彼女はプリシュティナ空港に連行されます。
病院は運営を続けるため、コソボ解放軍への協力を強要されていました。アスナを引き渡したスターン医師は、警察署長を殺すスムクのやり口を非難しますが射殺されます。
捕えたアスナから、シャタロフの居場所を聞き出そうとするスムク。そこには人質にされたロシア・アメリカ・セルビアの人々がいました。アスナが喋らないと見ると、人質の女性の喉を切り裂くスムク。
今度は幼い女の子を引き出したスムクに、ついにアスナは屈服します。勝ち誇るスムクの目を逃れて、女の子の父は密かに身を隠すよう指示します。
部下と共にシャタロフを襲撃しようと出発するスムク。彼は部下にアスナ以外の人質を殺すよう命じます。彼らが虐殺される光景を女の子は見ていました。
スムク指揮官らの車列が空港から出る様子を、ベックのチームは監視していました。彼らは空港が手薄になった隙をついて襲撃を開始します。歴戦のロシア特殊部隊員の彼らは、計画通り敵を排除し空港を確保します。
プラトフ大佐のロシア軍平和安定化部隊は、コソボ治安維持部隊の一員として空輸の拠点となる、600㎞先のプリシュティナ空港に向け出発します。ついに彼らに命令が下されました。
制圧した空港をチェックしていたギレイとスラッシュは、倉庫で大量の武器弾薬、高級車に麻薬と大金を発見します。ここは事前の情報と異なり、コソボ解放軍の重要拠点だと悟ります。一方空港と連絡が取れなくなったスムクは、1台の車を確認に向かわせます。
シャタロフもヴィクとファデリと共に、ミリチ署長の仇をとるべくコソボ解放軍の基地、プリシュティナ空港に潜入します。ヴィクとファデリはスラッシュと格闘になりますが、自分を襲った相手がかつての部下、ヴェラと気付き、同士討ちを止めさせたシャタロフ。
現れたベックに、なぜ自分のチームがここにいるのか尋ねるシャタロフ。ベックは彼に、もうお前のチームではないと告げます。シャタロフは共にいる2人は地元の警官だと紹介し、ここは100人以上が駐留する、アルバニア人過激派の基地だと伝えます。
シャタロフたちとベックのチームに緊張が走る中、スムクが向かわせた車が接近してきたとの報告が、ヴェラから入ります。ヴェラへの指示の遅れから敵に気付かれ、車は損害を受けながらも引き返しました。
空港が占拠されたと知ったコソボ解放軍は、全力でこの重要拠点に攻め寄せるでしょう。ベックはシャタロフらも仲間に入れ、共に戦うことを決意します。
空港の格納庫をチェックに入ったシャタロフとギレイとスラッシュは、そこで虐殺された人々の遺体と、隠れていたアスナを発見します。
アスナを管制塔に連れていったシャタロフに、彼女はあなたの家を喋ったと侘びます。その家をスムク指揮官たちは襲撃しますが、そこに誰の姿もありません。奴らは空港に行ったと告げ、部下に兵の動員を命じるスムク。
ベックは状況を上官に報告します。それでもロシア地上軍部隊の到着まで空港を確保し、部隊到着と共に、本来存在してはならない彼らは姿を消す、それが与えられた命令でした。
部隊が到着する明朝まで、今いる8名で空港を守るしかありません。武器は豊富にあります。ベックとシャタロフは全員の配置を決め、罠をしかけ圧倒的な敵を迎え撃とうと決意します。
映画『バルカン・クライシス』の感想と評価
これは間違いなくロシア・セルビア合作映画です…
あらすじ紹介は、映画に描かれた「内容そのまま」に紹介しています。ボスニア紛争当時の報道をご存じの方は、何が言いたいか…お判りですね。
この映画はロシアと、セルビア文化省が製作した映画です。無論戦争アクション映画として楽しめる作品ですが、ロシアの国営メディアや政府寄りのメディアは、コソボ紛争について「真実」を描いた作品だと賞賛しています。
「真実」を描いたとされる本作は、当時ロシア軍がNATO軍に出し抜く形で行った、プリシュティナ空港への進出行動がモデルです。映画に登場するベックは、この際活躍し、後の功績と併せてロシア連邦英雄を受賞し、政治家に転身後はイングーシ共和国の首長となった、ユヌス=ベク・エフクロフを元に作られた人物です。
当然この映画の内容を批判するメディアもあります。実際は空港を掌握していた旧ユーゴスラビア軍から、ロシア軍に支障なく引き渡され、アルバニア人勢力との戦闘は発生していません。
平和維持活動の名の元に活動し、コソボでの既成事実を積み重ねるNATO軍に対抗し、セルビア側を支援したいロシアが、コソボ治安維持部隊(KFOR)に関する交渉の合意を待たず、空港に部隊を送った事実が、映画で描かれた先陣争いの正体です。その後ロシアに押し切られる形で合意は成立し、ロシア軍のコソボ展開は認められました。
NATO軍の空爆の影響は過大に描かれ、セルビアの警察機関によるアルバニア人虐殺と、その結果大量に発生した難民といった背景に、一切触れずじまいの内容を疑問視する声があります。
当時をロシア・セルビア側の視点で振り返ると…
当時日本で流れるコソボ紛争に関する報道は、欧米の立場を紹介するものが主流でした。さらにこの頃、冷戦終結直後の世界は、「世界の警察」アメリカが一極支配するとも思われていた時代でもありました。
一方のロシアはエリツィン政権の時代。ソ連崩壊後の市場経済への移行期で経済はドン底。国際的な影響力は低下し、旧ユーゴスラビアで92年から始まったボスニア紛争は、終始NATO諸国の主導で介入が行われました。
ボスニア紛争では様々な悲劇が起きたものの、欧米メディアはセルビア人勢力を悪役にしたストーリーの報道を展開、それが世界を動かす潮流となります。
そしてボスニア紛争終結後、コソボ紛争が起きます。コソボ解放軍には欧米からの義勇兵参加だけでなく、その訓練や組織育成に、欧米の機関が関わっていたとも言われています。
セルビア側はコソボ解放軍のセルビア人に対する残虐行為を報告。1998年に米国務省はコソボ解放軍をテロ組織に指定しながらも、実質的に米国は同盟関係の態度で紛争調停に乗り出し、ボスニア紛争の図式そのままに、NATOはセルビアへの空爆を開始しました。
映画に描かれた空爆は過大に描かれていますが、セルビア人から見ると誤爆だけでなく、なぜ目標にされたのか納得できない攻撃も多数ありました。セルビア側と、彼らと歴史的につながりの強いロシアは怒りを募らせます…。
重苦しい政治・歴史の話が続きましたが、『バルカン・クライシス』のラストには、カメオ出演的にセルビア出身の映画監督、エミール・クストリッツァが登場しています。
彼が第2次大戦からボスニア紛争までの悲劇的なユーゴスラビアの歴史を、ユーモアと寓話性を交え描いた映画『アンダーグラウンド』は、1995年カンヌ映画祭パルムドールを受賞します。
ところが各共和国が独立した現状より、皆が共存できたユーゴを理想郷として描いた作品は、「大セルビア主義」=セルビア主導の国家樹立=である、と欧米の識者は当時のマスコミの報道そのままの態度で、エミール・クストリッツァを批判します。
その余りの激しさに監督は引退宣言を行います。後に取り消し活動を再開したものの、彼は自作での、政治的メッセージの発信を避けるようになりました。
ちなみに異なる民族の両親を持ち、自らをセルビア人でなく「ユーゴスラビア人」と語るエミール・クストリッツァ。彼を批判した欧米の識者の態度には、偏見に基づいた正義感と思い上がりがあったと言わざるを得ません。
そのエミール・クストリッツァが、『バルカン・クライシス』に出演しています。彼の態度に失望を思えますか?それとも本作でも、民族を越えた愛を後押しする態度に、流石だと思いますか?
彼は新たな作品、『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』で、ドキュメンタリーという形で政治的題材を世に問いかけています。
東ドイツ製西部劇映画(!?)のヒーローも出演
この映画にはもう1人セルビアを代表する映画人、ゴイコ・ミティックが出演しています。彼は60~70年代に作られた、マカロニウエスタンならぬ、東ドイツウエスタンのインディアン役を演じ、東欧で大人気となったセルビア出身のアクションスターです。
西側で西部劇が流行っているなら、こっちも作ってやる。ただし主人公は虐げられた人民そのものであるインディアン。白人入植者は資本主義や、アメリカ帝国主義そのものだ!というノリで、東ドイツウエスタンは製作されます。
参考映像:東ドイツ製西部劇映画『Apachen』予告編(1973年製作)
するとインディアンとして半裸姿で登場、馬を駆り颯爽とアクションを披露するゴイコ・ミティックは、一躍東欧映画界の人気者となります。彼がアパッチ族の英雄”Ulzana”を演じた『Apachen』の予告を紹介しましたが、翌年には続編『Ulzana』も制作されています。
ちなみに当時ハリウッドでは、著名な映画人が西部劇でのインディアンの扱いを抗議する動きが盛んでした。そんな彼らなら、東ドイツウエスタンを見れば大満足…しませんよね。
冗談はさておき、本作のゴイコ・ミティックがまるで、西部劇に登場する信頼厚い老保安官のような役柄で登場するのは、当然であり必然の姿です。
まとめ
紹介した通り、将にロシア・セルビア視点の映画である『バルカン・クライシス』。それを意識すると興味深い作品です。その背景の解説と、セルビア映画界が本気を出して登場させた重鎮の紹介に文字を費やさせて頂きました。
そんな事をすっかり忘れて、アクション映画として見れば『七人の侍』や『アラモ』、はたまた『要塞警察』といった、少人数が守りを固め、大人数と戦うアクション映画の定番劇。実にスカッとする展開です。…民族紛争描写にヘコむでしょうが。
東側装備を駆使したリアルな戦いは、ガンアクション映画ファンにおススす。劇中で躍動するBTR8輪装甲兵員輸送車の姿は、戦車・装甲車映画ファンには見逃せません。
こうして楽しく終わらせたい『バルカン・クライシス』の紹介ですが、現在のセルビア共和国とコソボ共和国の関係と、両国を取り巻く環境を考えると…問題の根深さに気付かされます。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第22回は超能力者一家の孤独な戦いを描く異色SFアクション映画『FREAKS フリークス 能力者たち』を紹介いたします。
お楽しみに。
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