Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/02/24
Update

【短編映画無料配信】ミッドナイトチャレンジャー|あらすじ感想評価レビュー。我が子が巣立ちのときを迎えた“父親の静かな決心”を温かく見つめる《松田彰監督WEB映画12選 2023年3月》

  • Writer :
  • 谷川裕美子

「月イチ」企画の短編WEB映画第3弾『ミッドナイトチャレンジャー』が無料配信中

『つどうものたち』(2019)、『異し日にて』(2014)、『お散歩』(2006)などの作品で数々の国内外の映画賞を受賞してきた松田彰による「月イチ」企画の短編WEB映画第3弾『ミッドナイトチャレンジャー』が無料配信中です。

「月に1度のペースで映画を完成させて公開する」という大きなチャレンジに挑む意欲作です。ハンバーガーをひとつ食べ終われる程度の尺で、生活の隙間でクスリと笑ってもらえる作品を届けたいという松田監督の思いから生み出されました。

誰もが迎える巣立ちのとき。子どもが成長し親を離れるのと同時に、親もまた子離れのときを迎えます。

さまざまな楽しいことや忙しい毎日のなか、子どもはごく自然に新しい世界に飛び立っていけるのかもしれませんが、親は取り残されるように感じることが多いのではないでしょうか。

巣立つ子どもを目の前にした父親が、自身の生き方を見つめ直す姿を温かく描いた本作の魅力をご紹介します。

【連載コラム】「松田彰監督WEB映画12選」記事一覧はこちら

松田彰監督のコメント

いろんな理由から、 出来たはずなのにやらなかった事のいろいろを思ったとき、 何とも言えないやりきれなさに襲われました。 出来たはずのいろいろは自分の頭の中だけで朽ちていくだけなのか ─。 そんな感情に襲われたとき、 人はその感情とどのように向き合うべきなのでしょうか。
いま思うことは、 今回の企画である 「月イチ」 とは、 まさに、 そのような自分への私なりの回答であったのではないかということ。

決めたことは、 月に1度のペースで映画を完成させて公開すること。 そのために、 すこしだけ無理をすること。
ただ、 それだけのことですが、 続けることの難しさは早々に分かるものです。
ですが、 そのような状況であるからこそ、 視聴者様からの反響が得られれば、 喜びもひとしおで、 やりきることの原動力をいただけるのではないかと期待もしています。

シリーズ全9本を予定し、 尺はハンバーガーをひとつ⾷べ終われる程度に押さえることで、 人を待つ間や通勤中の電⾞内など、 生活の隙間でクスリと笑っていただける作品を作ってお届けしたい。

どなた様でも無料でご視聴いただけますので、 お気軽にお楽しみいただければ幸いです。 また、 作品を気に入っていただけた方には、 口コミやSNS等で周囲に広めていただけると有り難いです。

映画『ミッドナイトチャレンジャー』の作品情報

下記のWeb映画は無料にて配信中!

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
松田彰

【出演】
江連健司、堀岡愛、安倍香

【作品概要】
数々の国内外の映画賞を受賞してきた松田彰監督による、月に一本製作する「月イチ」企画の短編WEB映画第3弾です。

子どもが高校生となって親から離れていくことに気づいた父親が、自分の新たな生き方を模索する姿を静かな感動とともに映し出します。

出演は江連健司、堀岡愛、安倍香。

映画『ミッドナイトチャレンジャー』のあらすじ

高校生の息子は部活が忙しく、恒例の家族旅行に行けなくなりました。

今年からはふたりきりで行くことになるのかと寂しがる達夫とみさこ夫婦。

ある日、公園で青年たちがバスケをしているのを見かけた達夫は、ある挑戦を思い立ち…。

映画『ミッドナイトチャレンジャー』の感想と評価

新たな人生のステージを迎えた父親の物語

子どもが成長し、親離れ・子離れの時期を迎えた夫婦の物語です。松田彰監督いわく「ストレートすぎる話」ですが、主人公の達夫の気持ちが痛いほど伝わってきて胸にグッときます

達夫とみさこの息子は高校生になり、部活が忙しく毎年一緒に行っていた家族旅行に行けなくなりました。これからは夫婦だけで過ごすようになるのかと、ふたりは寂しさをかみしめます。

変わらないように見えた日々が、いつの間にか突然姿を変えていることに気づく寂しさ。その日がもうすぐ来るとわかっていたのに、実は覚悟などできていなかったことにふたりは気づかされます。

穏やかな性格の達夫は、静かにひとつの挑戦を始めます。50歳を越えた彼が、まるで若い青年のように瞳を輝かせる姿に驚かされるに違いありません。

達夫は自分の人生が新たなステージに上がったことに気づいたのでしょう。「お父さん」として生きることを第一に考えてきた時代は過ぎ去ったのです。手探りで子離れを試みる夫を見て、妻のみさこも強い感銘を受けます。

松田監督はほんの10分ほどの小品に情報を詰めこむことをせず、行間を感じさせる一作に仕上げました。寡黙な主人公の達夫は多くを語りませんが、穏やかな表情と行動だけでさまざまな思いが伝わってきます

達夫が挑戦そのものに熱くなり、自分の未来に希望を見出していくラストシーンに、心揺さぶられることでしょう。

まとめ

親と子の巣立ちのときを描く静かな物語『ミッドナイトチャレンジャー』。

卒業式や入学式などわかりやすい区切りもたくさんありますが、実際に本当に巣立ちの実感を抱くのは、本作で描かれるように日常が少し形を変えるときなのかもしれません。

もしそのときを迎えても、寂しがったり悲しんだりするだけではなく、主人公の達夫のように自身の新たな夢を追う生き方をしてみたいと思わされます。

大それた夢でなくてもいいのです。やってみたいこと、できるようになりたいことにすっと手を伸ばし、今までと違う自分に出会えることを楽しみにできたら幸せですね。

日常に浮かんでは消える、リアルな感情を掬い取る松田彰監督の魅力にはまり始めた方も多いのではないでしょうか。どうぞ次月作にもご期待ください。

「月イチ」企画の短編WEB映画第3弾『ミッドナイトチャレンジャー』は無料配信中です。

【連載コラム】「松田彰監督WEB映画12選」記事一覧はこちら

松田彰監督の短編映画WEB配信中

関連記事

連載コラム

映画『TAR/ター』あらすじ感想と評価解説。ケイト・ブランシェットは主演作で“天才指揮者リディアター”を怪演|映画という星空を知るひとよ147

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第147回 トッド・フィールド監督とケイト・ブランシェットの最強タッグが放つ驚愕のサイコスリラー『TAR/ター』。 ⾳楽界の頂点に上りつめたと言えるベルリンフィ …

連載コラム

映画『きこえなかったあの日』感想評価と内容解説レビュー。ろう者たちを通して見つめる311以降のコミュニケーションの在り方|だからドキュメンタリー映画は面白い58

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第58回 今回取り上げるのは、2021年2月27日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次劇場公開、オンライン配信も同時スタートされる ドキュメン …

連載コラム

【ネタバレ】ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語|結末あらすじ感想の評価解説。実在の殺人鬼を描く危険性とメッセージ【SF恐怖映画という名の観覧車165】

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile165 独占配信やオリジナルコンテンツに注力し、世界の動画配信サービスの中でも圧倒的な人気を誇る「Netflix」。 「Netflix」が制作し …

連載コラム

映画『ビューティフル・カップル 』ネタバレ感想とレビュー評価。復讐の心理に潜む被害者の尽きない苦しみ|未体験ゾーンの映画たち2020見破録27

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第27回 世界各国の様々なジャンルの映画を集めた、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブ …

連載コラム

映画『妖怪の孫』あらすじ感想と評価考察。“パンケーキを毒見する”に続き安倍政権が遺した“日本のカオスな闇”に迫る【だからドキュメンタリー映画は面白い76】

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第76回 今回取り上げるのは、2023年3月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開の『妖怪の孫』。 歴代最長在任総理大臣となった故・安倍晋三とは一体 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学