Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

『リキッドスカイ』ネタバレあらすじ結末と感想評価の解説。カルトムービーおすすめ!80年代パンクカルチャーのぶっ飛び映画|増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!11

  • Writer :
  • 20231113

連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第11回

変わった映画や掘り出し物の映画を見たいあなたに、独断と偏見で様々な映画を紹介する『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』。

第11回で紹介するのは、究極のカルト映画の1つと呼ばれる『リキッド・スカイ』

ストーリーはシンプルですが理解不能な映像の数々、しかし1度見たら何かが脳裏に焼き付けられます。製作当時の時代の空気を今に伝える、サイケな魅力にあふれた映画を紹介します。

【連載コラム】『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』記事一覧はこちら

映画『リキッド・スカイ』の作品情報


(C)Slava Tsukerman

【製作】
1982年(アメリカ映画)

【監督・脚本・音楽・製作】
スラヴァー・ツッカーマン

【キャスト】
アン・カーライル、ポーラ・E・シェパード、ボブ・ブラディ

【作品概要】
小さなUFOがニューヨークに現れました。エイリアンの狙いは人間が麻薬による陶酔時や、性の快楽の絶頂時に分泌する脳内快楽物質を得ることでした。その欲望を満たそうと、エイリアンはバイセクシャルのファッションモデルに目を付けます…。

奇抜な設定に加え、ナイトクラブを舞台に当時のニューヨーク最先端のアート・シーン、パンク・カルチャーを描いた本作はカルト的な人気を獲得し、世界で最も成功したインディペンデント映画・アングラ映画と称される存在になります。

監督はソビエト連邦の出身のユダヤ系ロシア人スラヴァー・ツッカーマン。ドキュメンタリー映画を製作していた彼は、やがてイスラエルを経てニューヨークに移り住み、この地の若者文化に魅了されます。

そして、本作の主人公の女性モデル・マーガレットとそのライバルの男性モデル・ジミーを演じ、脚本にも参加しているアン・カーライルと出会います。他の出演者も彼らの友人や知人で当時のニューヨークアングラ文化の住人たちでした。

こうして80年代初頭の、「サイケでイカれた、そして今見てもファッショナブルな世界」を描いた、ブっ飛んだ映画が完成したのです。

映画『リキッド・スカイ』のあらすじとネタバレ


(C)Slava Tsukerman

BGMにテクノサウンドを流し、ニューヨークにある奇抜なアイテムで飾られた部屋を見せて、この奇妙な映画は始まります。

その夜ナイトクラブで踊り狂う若者たちは、空に小型のUEOが現れた事に気付きもしません。ペントハウスの屋根に着陸したUFOの中から、周囲の様子を観察するエイリアンの視線が描かれます。

クラブにいたモデルのジミー(アン・カーライル)は、歌手でドラッグの売人でもある女・エイドリアン(ポーラ・E・シェパード)に薬を無心していました。

しかし金の無いジミーに、間もなく演奏が控えたエイドリアンの態度は素っ気ないものでした。そこに同じくモデルの女性・マーガレット(アン・カーライル、二役)が現れます。

バイセクシャルのマーガレットにとって、エイドリアンは同居人の恋人でもありました。マーガレットにエイドリアンはどこにドラックを隠しているのか尋ねるジミー。

彼は無関心な様子でベットに横たわるマーガレットの前で、ドラックを求め部屋を探して回ります。その姿をUFOのエイリアンは観察していました。

クラブに集った人々がエイドリアンのパフォーマンスに注目する中、部屋を荒らし回るジミーの態度にマーガレットは怒り、彼を追い出しました。それでも共に舞台に立つ、ファッションショーのステージへと向かう2人。

ショーの準備中の2人は、明日は撮影モデルにならないかと持ち掛けられ同意します。特にドラッグの入手に苦労しているジミーには願ってもない話でした。

「リキッド・スカイ(液体の空)」は彼ら若者たちを夢中にさせるドラッグがもたらす感覚であり、快感でした。マーガレットとジミーは他のモデルと共に、奇抜な姿でショーの舞台に立ちます。

その頃エイドリアンの客の1人である映像作家のポールは、ドラッグの使用を友人のキャサリンから注意されていました。

そして西ドイツの科学者ホフマン博士が乗る旅客機がニューヨークに到着します。そしてショーを終えたマーガレットにポールが近づいてきました。

彼は自分に従えば仕事を与えると告げ、彼女に無理やりドラッグを服用させ強引に関係を持とうとします。その光景をUFOの中から見つめるエイリアン。

ポールから逃れ切れずマーガレットは体を奪われてしまいます。翌朝、傷心の彼女がエイドリアンと共に住む家で過ごしていた時、ホフマン博士はエンパイアステートビルから、望遠鏡と観測装置を使って何かを探していました。

マーガレットの愛するエイドリアンは、ドラッグを買いに現れる男たちとも関係を結んでいる様子です。そんな男の1人に対して、自分はバイセクシャルで愛する相手の性別に関心は無い、と告げるマーガレット。

彼女がエイドリアンと、ジミーが母でテレビプロデューサーのシルビアと食事を共にしていた時、ホフマン博士は米国の知人オーウェン(ボブ・ブラディ)と会っていました。

西ベルリンでは薬物中毒の”パンク”や”モッズ”と言われる若者たちが、セックスの最中に殺される事件が起きていまいした。それがエイリアンの仕業と悟ったホフマン博士は独自に研究を続け、UFOの追ってニューヨークに現れたのです。

エンパイアステートビルからUFOを発見した、観測と調査を続けたいと語るホフマンはオーウェンに協力を求めます。しかし博士の理解者であっても、自分は大学で演技を教える講師に過ぎないと告げ戸惑うオーウェン。

オーウェンはモデルをしながら女優を目指すマーガレットの師であり、彼女が良くない仲間と付き合っていると心配していました。同時に彼は、この教え子に惹かれてもいるようです。

UFOが着陸した、マーガレットが住むペントハウスを訪れるオーウェン。彼女の才能を高く評価しているオーウェンは無軌道な生活を改めるよう忠告しますが、マーガレットは聞く耳を持ちません。

気ままなファッションとライフスタイルを貫き、自由に生きたいと語るマーガレットにオーウェンは、君は見世物小屋のような偽りの舞台に立っているのだと告げます。その彼女の姿をエイリアンはUFOから監視していました。

同じ頃ホフマン博士は、UFOの着陸したペントハウスに面したアパートを訪れていました。そこで住人のシルビアと会った博士が事情を説明すると、彼を気に入ったシルビアは協力を申し出ます。

オーウェンはマーガレットの肉体にも魅かれていました。指導者の立場を忘れた師に求められ、やんわりと断っていたマーガレットはやがて彼を受け入れました。

しかし2人の交わりこそ、エイリアンが求める人間の脳内に快楽物質を発生させるものです。絶頂に達したオーウェンの脳内に分泌された快楽物質を奪い盗るエイリアン。

マーガレットは自分の上で果てたオーウェンが死んでいると気付きます。その後頭部には、尖ったガラス状の物体が突き刺さっていました。彼女がその物体を抜き取るとそれは忽然と姿を消しました。

テレビプロデューサーのプロデューサーであるシルビアは、UFOに関心を持ちホフマン博士に様々な質問をします。博士は彼女に望遠鏡を覗くよう勧めます。

マーガレットの前に現れたエイドリアンは、オーウェンの死体を見て狂喜します。そんな彼女の態度に反発するマーガレットを、誰にでも体を許す女だと蔑むエイドリアン。

怒りを露わにしたマーガレットに、エイドリアンはナイフを突き付けました。2人の女はナイフを奪い合い激しく争います。

望遠鏡で2人の住むペントハウスを見たシルビアは、オーウェンの死体を見て驚きました。彼女が何を目撃したか理解せぬまま、ホフマン博士は彼女に屋上に着陸したUFOの姿を見せました。

UFOは小さく本物とは信じられないシルビア。それよりも彼女の関心は争っていた2人の女が、殺したと思われる男の死体を隠そうとする姿に移ります。

マーガレットにベルリンに逃げよう、私はベルリンのナイトクラブで歌えば成功すると提案するエイドリアン。落ち着きを取り戻した2人はオーウェンの死体の隠蔽を図りました。

それを目撃したシルビアは殺人事件でないのなら、2人は警察に通報するはずだと指摘します。おそらく2人はヘロインのような薬物を所持しており、警察が来るのを望まないのだと説明するホフマン博士。

屋上に置いた死体を入れた箱の上に座り語り合うマーガレットとエイドリアン。意気投合したホフマン博士とシルビアも、彼女たちの今後の成り行きに興味を抱いていました…。

以下、『リキッド・スカイ』ネタバレ・結末の記載がございます。『リキッド・スカイ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)Slava Tsukerman

同じ頃、実のところ成功には程遠い映像作家に過ぎないポールは、裕福な身である妻からパーティに顔を出すよう責められていました。

シルビアに向かい側のペントハウスに住む2人の女性に、エイリアンの脅威を警告すると告げたホフマン博士。彼は酒を買いに出たエイドリアンに声をかけますが、彼女は博士を全く相手にしません。

マーガレットは、同居人のエイドリアンからドラッグを手に入れようと現れたポールに強引に迫られていました。自暴自棄になり彼に体を許すマーガレット。

しかしポールが絶頂に達すると、またしてもエイリアンは彼の脳内に発生した快楽物質を奪い去ります。マーガレットは彼の後頭部に尖ったガラス状の物質が刺さり、絶命していることに気付きました。

その一部始終を目撃していたシルビア。彼女のアパートに帰って来たホフマン博士は、エイドリアンに警告したものの信じてもらえなかったと打ち明けます。

窓の外に向かって、自分を襲った男に突き刺さる尖った物質の正体は何かと問うマーガレット。これ以上死体を増やすのは止めてくれ、と人知を超えた存在に願いました。

すると忽然と死体は姿を消します。超自然的な何者かが自分の体を奪った男を殺し、死体を処分し守ってくれたのだと受け取るマーガレット。

ニューヨークでは特に若者の間にドラッグが流行っていると語ったシルビアに、人間がオーガズムに達した時に脳内にあふれる快楽物質は、麻薬と同じ成分だとホフマン博士は教えます。

この快楽物質がエイリアンを宇宙から地球に引き寄せたのかもしれない、と語る博士。オーガズムは危険なのかと尋ねたシルビアは、自分の口にした言葉に呆れたのか博士と共に笑い出しました。

マーガレットとエイドリアンのコンドミニアムに撮影クルーが現れます。すっかり撮影を忘れていたマーガレットは動揺し、クルーの傍若無人な態度を見たエイドリアンは彼らに抗議します。

モデルのジミーも現れ、マーガレットは撮影クルーに同行した雑誌記者から取材を受けます。記者にマーガレットはコネチカットで育ち、毎週教会に通う生活をしていたと語るエイドリアン。

誰もがドラッグが使用する撮影現場で、マーガレットとジミーをモデルにした撮影は進んで行きました。クルーから保守的な地で育てられたのに、今のあなたはファンタジーのような存在だと告げられるマーガレット。

撮影クルーたちはアメリカ各地から集まった人たちでした。我々こそアメリカそのものの姿だ、マーガレットいやジミーこそ現代のアメリカを代表する存在だ、新たなミス・アメリカだと語り合うクルーたち。

その言葉が引き金になったのか、マーガレットを古びたニワトリと呼んで絡み挑発するジミー。2人のモデルの争いを、撮影クルーたちははやし立て煽りました。

ジミーはマーガレットの頬を叩きました。すると彼女はジミーの股間に顔を埋めます。クルーたちが騒ぐ中で行為を始めるマーガレット。

彼女はジミーの殺害を企てたのでしょうか。絶頂に達した彼はエイリアンに脳内の快楽物質を奪われ、肉体は消滅しました。それを目撃した人々は言葉を失います。

自分がジミーを殺した、とマーガレットが告白してもエイドリアンは信じません。自分に近寄ってはいけない、という彼女を挑発するように体を求め始めたエイドリアンも、オーガズムに達すると同時に消滅しました。

理解しがたい光景を続けざまに目撃し動揺するクルーたちに私は殺し屋だ、私は新たなセンセーションを引き起こす存在になると叫ぶマーガレット。

あっけに取られた彼らを前に、マーガレットは私はコネチカット州のメイフラワーストック出身で、子供の頃は王子様のような存在の弁護士と結婚し、幸せな家庭を築いて子供をもうけ、バーベキューパーティーを開くつまらぬ人生を送ると教えられたと語りました。

だから私はニューヨークにやって来て自立した女性になり、現れた王子様=エージェントから仕事を与えられ、彼に言われるままに女優になり、ファッショナブルな存在になった。

ファッショナブルであることは両性具有であり、私はデヴィッド・ボウイになりました…。マーガレットは自身の顔を妖しくメイクしつつ、自分について語り続けます。

私が女性になるには?本当の自由と平等を得るにはどうすればいいの?…次はだれが私に成すべき事を教えてくれるの?マーガレットは彼女の胸の内を語り続けました。

マーガレットは現実から逃避するように、クラブに行き踊り狂おうと言ってペントハウスを後にします。後に残され呆然とする撮影クルーたち。

奇抜なメイク姿のマーガレットはクラブに現れ、目についた男と関係を持ちます。絶頂に達した男はたちまち消滅しました。

マーガレットが危険にさらされていると感じたホフマン博士は、誘惑するシルビアを振り切りコンドミニアムに向かいます。

自分を性的欲望の対象とした男女を死なせ続けたマーガレットは、これはネイティブアメリカンの精霊の仕業だと考え、ドレスに身を包んで自分を守ってくれる”彼”に呼びかけました。

その彼女の前に現れると全てを目撃した、ここは危険だ。君は立ち去るべきだとマーガレットに告げるホフマン博士。

博士はエイリアンが人間が絶頂に達した時に発する脳内麻薬物質を求め飛来した、そして君と関係を持った者はエイリアンに殺されたと説明します。

マーガレットはオーガズムに達しなかったので、脳内物質を奪われず死ぬことが無かったのでしょうか。それでも精霊の仕業と信じ込んで呼びかけ続ける彼女に、ホフマン博士は屋根の上に着陸しているUFOを指し示しました。

事実を受け入れたくなかったのか、彼女はナイフで博士を刺しました。その光景を望遠鏡で目撃するシルビア。

UFOに向かってインディアンの精霊と呼びかけ、私たちは一緒にいることができる。私はあなたに恋したとマーガレットは呼びかけます。

しかしUFOは飛び去ろうと宙に浮きました。私はあなたと離れたくないと叫ぶマーガレット。

“彼”と離れたくないと考えたマーガレットは、博士の言葉を思い出したのか自らの体にドラックを注射し、脳内を快楽物質で満たします。

急いで駆け付けようとしたシルビアは、エイドリアンを訪ねて現れたキャサリンと共にペントハウスに向かいます。

空に浮かんだUFOは輝き始めます。たどり着いたシルビアとキャサリンが目撃したのは、UFOの発する光の中で舞うマーガレットの姿でした。

エイリアンは脳内を快楽物質で満たした彼女を捕食したのでしょうか。それとも彼女を仲間として受け入れたのでしょうか。

マーガレットの姿は忽然と消え去りました。シルビアたちは去って行くUFOを、ただ黙って見つめるしかありません…。

映画『リキッド・スカイ』の感想と評価


(C)Slava Tsukerman

「カルト映画」と呼ばれる作品は無数に存在します。しかし歴史を重ねたカルト映画は、ある物は古典的名作の一つに、ある物は誰もが認める芸術作品に、そしてある物は皆が楽しみを共有するエンターテインメントに変貌しています。

しかし今回紹介した『リキッド・スカイ』は、今鑑賞しても新鮮な驚きと衝撃を感じさせる、多くの観客に「未知の体験」を提供する映画ではないでしょうか。

と言っても実はストーリーはシンプル。難解要素はありません。田舎から来たカントリーガールが都会の華やかな世界に染まり、堕落して転落していく。もっとも本作ではブっ飛んだ展開の結果「昇天」を遂げますが…

このような物語を、同じようにネオンカラーや蛍光色にあふれた映像で描いた作品と言えば、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)を挙げることができるかもしれません。

ですが『ラストナイト・イン・ソーホー』の観客は、見たことが無くとも郷愁を感じる「1960年代のロンドン・ソーホー地区」の姿に酔いしれますが、『リキッド・スカイ』の観客の大多数は想像もつかない「1980年初期のニューヨークのパンクカルチャー」に遭遇し、唖然とするのです。

この「未知との遭遇」の衝撃は今も健在です。本作はこれからも衝撃に満ちた「カルト映画」として君臨し続けるでしょう。本作と『未知との遭遇』(1977)はUFOつながりですが、今も真の「未知との遭遇」を体験させてくれる映画は『リキッド・スカイ』の方でしょう。

80年代ニューヨークのアングラ文化を描いた作品


(C)Slava Tsukerman

本作を監督し、全ての分野に関わりながら製作したスラヴァー・ツッカーマン。ユダヤ系ロシア人でソビエト連邦に生まれた人物です。彼はソ連時代に短編映画を製作し高く評価され、ドキュメンタリー映画の分野で活躍します。

1973年、彼は妻のニーナ・V・ケローバ(本作のプロデューサーを務めています)と共にイスラエルに移住、そこでもドキュメンタリー作品を手がけますが、ソ連時代より数多くのハリウッド映画に触れる機会を得ます。

それらに魅了された彼は、1976年ニューヨークに移住します。ベトナム戦争直後のまだ荒廃したニューヨークで、SF映画を作ろうとしていた彼が出会った人物の一人が、本作に出演している本職の演劇指導者ボブ・ブラディでした。

劇中で西ドイツのUFO研究家が、どうしてニューヨークで演劇指導者と会うの?それにはこんな理由がありました。このボブ・ブラディという人物は、あのアンディ・ウォーホルの仲間だったのです。

こうしてツッカーマンは彼らを通じアンダーグラウンド文化である「ニューウェーヴ」、パンク・ムーブメントやシンセサイザーなど電子音楽の影響を受けたロック音楽の新ジャンル…70年代半ばにロンドンで誕生し、当時ニューヨークのクラブで盛んに演奏されていました…の世界を知り衝撃を受けました。

そして彼はボブ・ブラディの教え子であり、本作に主演し脚本にも参加したアン・カーライルとも知り合います。こうしてメンバーはそろいました。ツッカーマンとボブ・ブラディ、そしてアン・カーライルの周囲の人々が『リキッド・スカイ』を誕生させたのです。

当時の”神話”、セックス、ドラッグ、ロックンロール、宇宙人…これらを全て盛り込んだ寓話的プロットを作ろうと考えました」ツッカーマンはインタビューでこう語っていました。

映像へのこだわりが不朽のカルト映画を生んだ


(C)Slava Tsukerman

「本作の登場人物は、社会のさまざまな部分を表現しているはずです」、とも語っているツッカーマン。

一方で、私は「境界線を超えてみたかった」のだ、とアン・カーライルは別のインタビューで話しています。

「当時のニューヨークは、生きるのにさほど金がかかりません。私たちは皆、行動やスタイルの限界に挑戦していたんです。しばらくそうしていると、やがて周囲で人が死に始めました」

「私達の周囲はコカインだらけでした。それは全く無害なものという考え方もありましたが、大きな間違いでした。私はお金が全く無かったのに、よく誰かからドラックを差し出される多くの人物の1人でした」

「夜はクラブを回るのが常で、一晩で5軒くらい回ったでしょうか…。でも、ドラッグは目的ではなかったんです。創作意欲を表現するためのもので、ドラッグはその一環に過ぎなかったのです」。彼女は当時の生活をこう語っていました。

低予算映画ゆえに、映画の舞台になるアパート=ペントハウスは許可を取らずに撮影が進められます。「手伝ってくれた学生スタッフの仕事の1つは、階段に立ち何者かが撮影現場を確認に現れれば、直ちに報告することでした」と監督は振り返っています。

様々な困難…映画の出資者とも軋轢があったようです…が製作現場にはありました。そして誰もがツっこむ「蛍光灯照明器具にしか見えないUFO」…にも関わらず、映画監督として実績を持つツッカーマンは完成度の高い作品を完成させました。

「マジックアワー (日没後と日の出前の薄明の時間帯を指す撮影用語)を利用するのを、私は当初からから計画していましたがニューヨークにその時間は3分間しか無く苦労させられました」

「アン・カーライルが一人二役を演じるシーンは、本物のフィルムカメラで撮影しました。左側を撮影した後、3時間かけてメイクアップを変え全てのテイクを撮影しました。1日に何度も分割して撮影することはできません」と監督は舞台裏を語っています。

男性と女性を1人で演じて話題となり、今も本作に魅力を与えるカーライル。「当初はジミーを演じる俳優がいましたが、”あまりにも本物になった”結果、起用することが出来なくなりました」

そこで私が1人2役で演じることになりました。監督か私のアイデアか覚えていませんが、男装してクラブに行き女の子をナンパできるか。それが私のオーディションであり、私はそれをやり遂げました」

必然と偶然の才能と努力が結集して、伝説にして今も刺激的な魅力を持つカルト映画『リキッド・スカイ』が誕生した背景をご理解いただけたでしょうか?

まとめ


(C)Slava Tsukerman

その衝撃は今も変わらない、80年代初頭のパンクカルチャーが堪能できる『リキッド・スカイ』。カルト映画として世界中で鑑賞され、様々なクリエイターに大きな影響を与えました。

本作は1990年代後半~2000年代前半に起きた音楽のムーブメント、「エレクトロクラッシュ」に大きな影響を与えたと言われています。この時期、この分野で活躍した日本のアーティストの代表と言えば”電気グルーヴ”でしょうか。

“奇想天外映画祭2022″で4Kリマスター版が上映された本作には、ゲームクリエイターの小島秀夫など魅了された多くの著名人が、賞賛のコメントを贈っています。

音楽・ゲーム・コミック・アートシーンと、後のポップカルチャーに多大なる影響を与えた本作、その衝撃は観なければ体感できません。ぜひ最後まで鑑賞して、口をあんぐりと開けて下さい。

最後に紹介したいのはポーラ・E・シェパード。彼女の出演映画は本作と、これまたカルト的人気を持つ伝説のスラッシャー映画『アリス・スウィート・アリス』(1976)しかありません。

しかしこの2本で、彼女は全世界のカルト映画ファンから不朽の女優として記憶されました。彼女にも注目して本作をご鑑賞下さい。

何と言っても『リキッド・スカイ』冒頭に登場する、ポーラ・E・シェパードの謎のパフォーマンス…その意味不明なインパクトに立ちくらみすら覚えるでしょう。恐るべしは、1980年ニューヨークのパンクカルチャーです。

【連載コラム】『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』記事一覧はこちら





増田健(映画屋のジョン)プロフィール

1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。

今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn

関連記事

連載コラム

『ペットセメタリー』と映画化したスティーヴン・キング作品を紹介|SF恐怖映画という名の観覧車84

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile084 新年も2週目となり、学生から会社員の方まで多くの人が新たな年の平日を過ごし始めていると思います。 2020年の新作映画の公開が続々と始ま …

連載コラム

『ロングショット』あらすじ感想と評価解説。最優秀芸術貢献賞の中国映画でガオ・ポン監督が描く“人の業(わざ)”の時代への逆襲|TIFF東京国際映画祭2023-12

映画『ロングショット』は第36回東京国際映画祭・コンペティション部門にて最優秀芸術貢献賞を受賞! 2023年10月23日〜11月1日に開催された第36回東京国際映画祭・コンペティション部門に正式出品さ …

連載コラム

『仮面ライダードライブ』感想と内容解説。竹内涼真の刑事ドラマとしての物語と魅力的な悪役たち|邦画特撮大全41

連載コラム「邦画特撮大全」第41章 2019年4月28日より、東映特撮ファンクラブにて『仮面ライダーブレン』の配信が開始されます。Vシネマ『仮面ライダーチェイサー』(2016)、『仮面ライダーマッハ/ …

連載コラム

映画『仮面ライダージオウ(2019)』ネタバレあらすじと感想。Over Quartzerは平成ライダーシリーズに終止符と祝福を|邦画特撮大全55

連載コラム「邦画特撮大全」第55章 平成最後の仮面ライダーとなった『仮面ライダージオウ』。平成も終わり令和という新時代を迎えた2019年7月26日から、『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quar …

連載コラム

映画『マックイーン :モードの反逆児』感想と評価。コムデギャルソン・川久保玲の反骨精神との比較から|映画道シカミミ見聞録39

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第39回 こんにちは、森田です。 今回は、英国の天才的ファッションデザイナーと謳われたアレキサンダー・マックイーンの生涯をたどるドキュメンタリー映画『マックイーン:モ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学