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Entry 2024/01/18
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『12日の殺人』あらすじ感想と評価解説。実話小説を基にドミニク・モル監督がシリアスに社会の闇を描く|山田あゆみのあしたも映画日和13

  • Writer :
  • 山田あゆみ

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第13回

今回ご紹介するのは、未解決事件をテーマに捜査官の心の闇と、社会の不条理を描くヒューマンスリラー映画『12日の殺人』です。

本作は2024年3月15日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国ロードショーされます。

監督は、第32回東京国際映画祭にて観客賞を受賞した『悪なき殺人』のドミニク・モル。

鑑賞前後で社会における犯罪について、考え方が変化するような見応えある社会派映画『12日の殺人』のあらすじと作品の魅力を解説していきます。

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映画『12日の殺人』の作品情報


(C)2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

【日本公開】
2024年(フランス映画)

【原題】
La nuit du 12

【原案】
ポリーヌ・ゲナ『18.3. Une année passée à la PJ』

【監督】
ドミニク・モル 

【脚本】
ジル・マルシャン

【キャスト】
バスティアン・ブイヨン、ブーリ・ランネール、テオ・チョルビ 、ヨハン・ディオネ、ティヴー・エヴェラー、ポーリーヌ・セリエ、ルーラ・コットン・フラピエ、ピエール・ロタン

【作品概要】
悪なき殺人』のドミニク・モル監督によるヒューマンスリラー映画。第75回カンヌ国際映画祭・プレミア部門に出品されたほか、第48回セザール賞では作品賞・監督賞・助演男優賞・有望若手男優賞・脚色賞・音響賞の最多受賞を記録しました。

脚本のジル・マルシャンは、フランスで有名な未解決事件を描いたNetflixドラマ『グレゴリー事件:迷宮入りの謎に迫る』(2019)を監督。モル監督とは『ハリー、見知らぬ友人』(2000)からコンビを組んでおり、本作で見事セザール賞の最優秀脚本賞を受賞した。

映画『12日の殺人』のあらすじ


(C)2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhône-Alpes CinémaFanny de Gouville

10月12日の夜、ある女子大生が何者かに殺された──だが刑事はまだ知らなかった。この“未解決事件”が、自分自身を蝕んでいくことを。

フランス南東の地方都市グルノーブルで、10月12日の夜、帰宅途中の21歳の女性が何者かに火をつけられ、翌朝焼死体という無惨な姿で発見される。

地元警察ではヨアンを班長とする捜査班が結成され、地道な聞き込みから次々と容疑者が捜査線上に浮かぶも、事件はいつしか迷宮入りとなってしまう……。

浮かび上がる容疑者、そして掴めない証拠。

あなたも気がつくだろう、いつの間にかこの事件に蝕まれていることを──。

映画『12日の殺人』の感想と評価


(C)2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

本作は、こんな前置きからはじまります。

「仏警察が捜査する殺人事件は年間800件以上。そのうち未解決事件は約20%。これはそのうちの1件だ」

夜道で、突然ガソリンをかけられて殺害された女性クララ。本作はその事件を担当することになった捜査官ヨアンが、真相を追う中で闇を抱え、苦悩する物語となっています。

あまりにむごい犯行と、犯人を追う形で進む物語の展開上、犯人の逮捕を期待してしまいます。しかし、次第に深まっていくヨアンの葛藤と男社会への問いは、犯人の逮捕劇以上に見応えがあるものでした

絶えることのない、男性から女性への暴力事件。その事件を追う捜査官たちのほとんどが男性であり、警察内部でも女性差別が存在しているということ……。誰もが気づきながらも、常態化している男性社会の実情を描いています。

なかでも捜査中のヨアンのみならず、観客にも気づきを与えるシーンが中盤にあります。
それは「なぜ、クララが死んだと思う?」とクララの親友がヨアンへ問いかける場面です。

犯人逮捕のために動いていたはずのヨアンに対しても、わたしたちの心の中にあるかもしれない偏見にも、ある意味で真理を突きつける言葉でした。この印象的な場面をきっかけに、ヨアンが捜査に向き合う姿勢や、捜査官の使命と宿命についてのドラマが後半に展開されます。

捜査官たちの使命とは「事件の解決」です。そして、時に救えなかった死者たちが脳裏から離れないという宿命も抱えているのです。

ヨアンは、同僚から仕事ができて完全無欠だと評価されていました。そんな彼が、遺族や容疑者に接する中で捜査官の宿命に苦しむようになっていきます。

映画の後半には、女性の裁判官と新人捜査官が登場します。彼女らの発言や行いは、ヨアンに大きな影響を与えることになります。

自分を呪うかのように自問自答し続けたヨアンは、どのようにして導かれたのか……本作の見どころです。

まとめ


(C)2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

ドミニク・モル監督は本作のインタビューにおいて、未解決事件をテーマに映画を制作した理由について以下のように話しています。

謎である方が、事件の解決で明らかになるものよりはるかに多くの、組織的で人間的なメカニズムを解き明かせるのです。

事件解決のために、さまざまな可能性を検証するとともに見えてくる社会の現状があり、たしかにこの言葉にはうなずけます。

事件には「ゴール」など存在しません。犯人が逮捕されたとしても、遺族の心の傷は決して癒えることはなく、死んでしまった被害者は戻ってこないのだから……。

ひとつの事件をきっかけに、社会の大きな暗部を照らす重厚なヒューマンスリラー作品です。ぜひ、お見逃しなく。

映画『12日の殺人』は2024年3月15日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!

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山田あゆみプロフィール

1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計13回開催中。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。

好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。


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