Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2025/11/26
Update

映画『蜘蛛女のキス』(2025)あらすじ感想と評価考察。リメイク作は名作ミュージカル&小説原作で投獄された男たちの奇妙な絆を映す|TIFF東京国際映画祭2025-14

  • Writer :
  • 松平光冬

映画『蜘蛛女のキス』は第38回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映!

『蜘蛛女のキス』が、第38回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映されました。

1985年に映画化されたアルゼンチンの文豪マヌエル・プイグの小説、そしてその小説をもとに翻案したブロードウェイ劇をベースに、『ドリームガールズ』(2006)のビル・コンドンが放った新たなミュージカルの傑作をレビューします。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

映画『蜘蛛女のキス』(2025)の作品情報

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本上映】
2025年(アメリカ映画)

【原題】
Kiss of the Spider Woman

【監督・脚本】
ビル・コンドン

【製作】
バリー・ジョセフソン、トム・キルダヒー、グレッグ・ヨーレン

【製作総指揮】
ベン・アフレック、マット・デイモン

【原作】
マヌエル・プイグ著「蜘蛛女のキス」(集英社文庫)

【撮影】
トビアス・シュリッスラー

【編集】
コリーン・アトウッド、クリスティーン・カンテラ

【振付】
セルジオ・トゥルヒーヨ

【キャスト】
ディエゴ・ルナ、トナティウ、ジェニファー・ロペス

【作品概要】
アルゼンチンの文豪マヌエル・プイグの同名小説、およびその原作小説をベースにテレンス・マクナリーが翻案したブロードウェイ・ミュージカルの双方を原作に映画化。

『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)、『シカゴ』(2002)、『ドリームガールズ』のビル・コンドンが監督を務めます。

出演は『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のディエゴ・ルナ、Nexlfix映画『セキュリティ・チェック』(2024)のトナティウ、『ハスラーズ』(2020)のジェニファー・ロペス。

製作を、ロペスの元夫ベン・アフレックとマット・デイモンが共同設立した会社アーティスト・エクイティが手がけます。

2025年のサンダンス映画祭のワールド・プレミア、第38回東京国際映画祭ではワールド・フォーカス部門として上映されました。

映画『蜘蛛女のキス』(2025)のあらすじ

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

軍事政権下のアルゼンチン。政治犯のヴァレンティンと、わいせつ罪で有罪となったモリーナの2人は、刑務所で同室に収監されます。

饒舌なモリーナに当初は辟易するヴァレンティンでしたが、次第に彼が語る憧れの銀幕スターの映画内容に興味を惹かれていきます。

いつしか2人は予期せぬ絆を深めていくも…。

映画『蜘蛛女のキス』(2025)の感想と評価

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

ラテンアメリカ文学の代表作の再映画化

1932年にアルゼンチンで生まれたマヌエル・プイグは、5歳のころから映画館通いをしていた程の映画ファンで、映画監督を目指していたものの挫折し、小説家となります。

1963年の長編デビュー作『リタ・ヘイワースの背信』で注目を浴び、その後『赤い唇』、『ブエノスアイレス事件』と続けてベストセラーとなるも、次第に同性愛者だった彼の思想が、マチズモ(男性至上主義)が深く浸透していた中南米で非難の声が高まり、やむなく亡命することに。

1976年にメキシコで上梓した『蜘蛛女のキス』はラテンアメリカ文学の代表作とされており、85年にはヘクトール・バベンコ監督により映画化され、主演のウィリアム・ハートがアカデミー主演男優賞を獲得しました。

二度目の映画化となる本作『蜘蛛女のキス』は、厳密には1985年版のリメイクではなく、原作小説を劇作家のテレンス・マクナリーが翻案したブロードウェイ・ミュージカルがベースとなっています。

監督・脚本(脚色)は、『シカゴ』で監督と脚本、『グレイテスト・ショーマン』(2017) で脚本を手がけたビル・コンドン。『美女と野獣』(2017)などを含む数々のミュージカル作品の巨匠です。

「愛」と「死」の象徴

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

軍政下のブエノスアイレスの刑務所で同室となった2人の受刑者、ヴァレンティンとモリーナ。未成年男性へのわいせつ容疑で捕まったモリーナは、刑務所長からヴァレンティンが属する反政府組織の情報を聞き出すよう命じられていました。

病身の母のためにも一日も早く出獄したいモリーナは、ヴァレンティンと打ち解けようと自身が好きな女優・オーロラが出演する映画の物語を聞かせます。それは一方で、現実の辛い獄中生活から華やかな映画の世界への逃避、という意味も含まれます。

方やヴァレンティンは、最初こそモリーナを疎ましく思うも、次第に彼が語る物語に興味を惹くように。傍目は両極端な2人ですが、映画という空想を生きたいモリーナと革命で国を変えたい夢を抱くヴァレンティンは、コインの表裏一体であることが示されます。

ここで本作の肝となるのが、モリーナが語る映画の物語をミュージカルで描いている点。ヴァレンティン、モリーナ、そしてオーロラが俳優として登場し、歌って踊る様は豪華。

ヴァレンティン役のディエゴ・ルナ、モリーナ役のトナティウ、そしてオーロラ役のジェニファー・ロペス。いずれも圧巻のパフォーマンスを披露しており、とりわけロペスはアカデミー助演女優賞候補に目されています。

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

互いを理解し合うようになり、「あんたは男を糸で絡め取る蜘蛛女のようだ」とヴァレンティンに言われたモリーナは驚喜し、唇を交わした相手を死に至らしめる「蜘蛛女」の物語を語ります。

憧れのオーロラが「愛」の象徴なら、蜘蛛女は「死」の象徴。どちらの象徴になるか揺れ動くモリーナは、自分がすべきことを決断するのです。

まとめ

(C)2025 Roadside Attractions. ALL RIGHTS RESERVED.

サンダンス映画祭でのプレミア上映にてコンドン監督は、「人間の性別は男性と女性の2つだけ」との多様性を否定するトランプ米大統領の発言を受け、「人間は性別ではなく一個人として見ることが大切。親和と愛情を持って分断が無くなればいい」とコメント。

プイグ同様に、同性愛者であることをカミングアウトしていたマクナリー(2020年に新型コロナで死去)とコンドン。

LGBTQ+への理解が今よりも乏しかった1970年代に書かれた『蜘蛛女のキス』を、2025年に再び映画化したのは大きな意味があるのです。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219



Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/demachi2026/cinemarche.net/public_html/wp-content/themes/stinger8-child/single.php on line 150

関連記事

連載コラム

映画『ドリームプラン』あらすじ感想と評価解説。ウィル・スミスがテニス世界チャンピオン姉妹の父を演じる感動のヒューマン作品|映画という星空を知るひとよ87

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第87回 映画『ドリームプラン』は、2022年2月23日(水・祝)より全国ロードショー。 『ドリームプラン』は、最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリー …

連載コラム

【ネタバレ】シンウルトラマン|ゼットンのデザイン設定を変更した意味は?“シン・シリーズ最大のテーマ”へとつながる出現の意義【光の国からシンは来る?12】

連載コラム『光の国からシンは来る?』第12回 1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)をリブートした「空想 …

連載コラム

『仮面ライダーBLACK SUN』内容解説考察。白石和彌監督が手掛けるアウトロー的ヒーロー誕生!【邦画特撮大全96】

連載コラム「邦画特撮大全」第96章 今回の邦画特撮大全は、『仮面ライダーBLACK SUN』を紹介します。 石森プロ・ADK EM・東映 2021年4月の「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見にて、 …

連載コラム

映画『バニシング』ネタバレ感想と考察レビュー。実際の失踪事件をサスペンスを2重構造へ!|サスペンスの神様の鼓動28

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回ご紹介する作品は、孤島を舞台に、3人の灯台守が狂気に …

連載コラム

映画『ロッキー2』あらすじネタバレと感想評価。愛する者のために男は再びリングに上がる|すべての映画はアクションから始まる15

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第15回 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はア …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学