連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第29回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回は、2021年10月10日(日)に初回放送を迎えたテレビアニメ版『無限列車編』において、完全新作となる第1話をピックアップ。さらに第1話で登場したオリジナルキャラクターの考察も進めていきます。
今明かされる、“炎柱”煉獄杏寿郎の知られざる物語と熱い戦いが繰り広げられます。
CONTENTS
テレビアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」のあらすじネタバレ
ある夜、走行する列車を巡回する若い車掌は暗がりに写った人陰に驚きます。恐怖のあまり逃げ出す車掌ですが、瞬く間に殺害されてしまいます。
翌日。一人の鬼殺隊隊士(声:山下誠一郎)が鎹鴉に誘われ、一軒の蕎麦屋に入ります。店内に響く「うまい!」という大きな声の先には、蕎麦をすする“炎柱”こと煉獄杏寿郎(声:日野聡)の姿がありました。
煉獄に勧められ蕎麦を食べる隊士は、前夜に煉獄が助けた女性の容態を告げます。
鬼に襲われたらしいその女性は傷だらけで発見されましたが、その後の迅速な処置の甲斐あって傷は残らないだろうという報告に安堵する煉獄。その一方で、女性を襲った鬼が未だ見つかっていないことに気をかけます。
追加で注文した蕎麦をすする煉獄に、店主(声:二又一成)がかき揚げを持ってきます。「気持ちのいい食いっぷり」と褒める店主が奢ってくれたかき揚げを食べながら、煉獄は最近の景気を尋ねます。
店主は、最近起きた無限列車での乗客40人の失踪事件のせいで客足が減っていること、さらに「切り裂き魔」による猟奇的殺人事件が発生していることを話します。
隊士は失踪事件により運行停止になった無限列車がある機関庫へ送られた情報を掴み、それを煉獄へ伝えます。
煉獄は機関庫へ向かう前に、何者かに殺害された車掌の遺体が発見された駅に向かいました。
テレビアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」の感想と評価
多くのファン放送を予想だにしていなかった、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の再編集によるテレビアニメ版『無限列車編』。その第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」は、原作コミックならび映画でも描かれていない、炎柱・煉獄杏寿郎が無限列車へ乗るまでの知られざる物語を描いた完全新作エピソードであり、多くのファンの期待に声に応える良作となっています。
『鬼滅の刃』において、その生き様や熱い名言の数々で圧倒的人気を誇る煉獄ですが、惜しからざるは出番の少なさにありました。
それを補完するような背景もあり、この第1話が制作されたことが予想されますが、そんな裏事情はさておき、煉獄の新たな魅力が存分に詰め込まれたエピソードでした。
映画版『無限列車編』でも語られていましたが、第1話では煉獄の「弱き者を守る」という信念を深堀するエピソードとなっていたように感じられます。
劇中、煉獄とかかわったため鬼に襲われることになってしまうふくとトミを全力で守る姿はもちろん、鬼との会話で鬼が襲った女性を全力で支えると言った主旨のセリフや、ふくとトミが日々、弁当を売り懸命に生活していることを慮り、二人の行いを「実にありがたい」と評するセリフ。それに続けて「そのような人々が傷つけられることはあってはならない」と力強く語るセリフは、情熱的でありながら慈愛に溢れる煉獄らしい演出に感じられます。
また、面倒見の良い一面を見せていた煉獄がこの第1話においても、山下誠一郎演じる隊士に蕎麦を奢ったり、ふくとトミから買い上げた弁当を他の隊士に振る舞うよう気遣ったりと、人の好さが伺える演出も見られました。
そして、バトルシーンにおいても圧巻の一言でした。
少年を人質にとる鬼の両手を切断する一瞬の早業はもちろん、駅にて瞬く間に鬼の頸を斬った「炎の呼吸・壱の型 不知火」は、敢えて煉獄が刀を振るう場面を描かず鬼の切断される腕や頸をクローズアップ。飛び散る血や炎の呼吸で生じる火の粉などをスローで描き、瞬時の出来事であることを強調した演出は見事でした。
その他にも様々な場面で製作スタッフの細かなこだわりが感じられました。この第1話で登場した新規キャラクターにもベテラン声優を起用。おそらく今後出番がないであろうキャラクターたちに思い切った豪華声優を起用し、煉獄の物語を鮮やかに彩っていました。
さらには、煉獄の父・槇寿郎の息を吐くところと結核を患った少年が咳をする、ほんのわずかなシーンのために、槇寿郎役の小山力也、少年役の江口拓也の声を収録したという徹底ぶりに、SNS等でも驚く声が多くあがりました。
制作陣のこだわりや妥協しない姿勢が見受けられ、転じてこのテレビアニメ版『無限列車編』が多くのファンから期待されていることが感じられます。
登場キャラクター考察
今回のテレビアニメ『無限列車編』第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」では、原作漫画でも描かれていなかったオリジナルストーリーということで、このエピソードを彩る多彩なオリジナルキャラクターが登場しました。
これらのキャラクターをその行動やセリフから紐解いていきたいと思います。
隊士
第1話では、煉獄と行動を共にする鬼殺隊隊士が登場。特に名前が公表されていないキャラクターでしたが、『ワルキューレロマンツェ』(2013)の水野貴弘や『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(2015)で昌弘・オルトランドを演じた山下誠一郎が演じ、生真面目さがうかがえる青年を好演しています。
前回の鬼滅の刃全集中の考察でも触れましたが、『アニメ「鬼滅の刃」プロモーションリール 2021』内で登場した際、ほぼ主要人物しか着用していない羽織を羽織っていたため様々な考察がSNSやネット上で飛び交っていました。
第1話では直接戦闘に加わることはありませんでしたが、煉獄へ情報を伝えたり、鬼が出現した駅へ“隠”を伴い現れたりと煉獄の補佐を務めています。他にも、実直ながらもややズレた発言をする煉獄のツッコミ役のような役回りを演じ、視聴者の声を代弁していた点も印象に残ります。
また第1話放送後、山下誠一郎はTwitterでこの隊士を演じた報告と共に「あの山を生き延びた大した男なのだと尊敬を持って演じました」と発言しています。おそらく「あの山」とは、炭治郎らが“下弦の伍”累と激戦を繰り広げた那田蜘蛛山ではないかと思われ、一般の隊士はほぼ全滅していたことから、この隊士がかなりの実力者であることが予想されます。
上記の通り、劇中で煉獄の補佐役のような立ち回りだったこの隊士は煉獄の事を「炎柱」と呼称しており、原作漫画でも柱たちと一般隊士のやり取りが描かれていなかったため、鬼殺隊の中での煉獄ら柱の様子が垣間見ることができました。
蕎麦屋の店主
煉獄と隊士が落ち合う蕎麦屋の店主は「めぞん一刻」シリーズの五代裕作、「機動警察パトレイバー」シリーズの進士幹泰、『サザエさん』においては1985年から三河屋の三郎でおなじみの二又一成が演じています。
多くの作品でやや高音での声域の演技が目立つ二又一成ですが、今回の蕎麦屋の店主は低音が心地よく響き、頑固な店主が想像に難くない演技で物語に花を添えています。
自身の蕎麦を食べ、快活に「うまい!」と叫ぶ煉獄を「気持ちのいい食べっぷり」と称し、かき揚げをごちそうするあたり、まさに江戸っ子といった気質の持ち主でもありました。
今回の物語においては、煉獄と店主の会話から無限列車での失踪事件の影響、切り裂き魔事件についてストーリーが展開していくため、二人の会話が物語の導入部として重要な役割を果たしています。
視聴者目線としては煉獄の言動に注目しがちですが、この会話の中で「切り裂き魔」を印象付けるにあたり、二又一成のベテラン声優ならではの、素朴ながらも耳に残る確かな演技が一役買っていました。
また、物語終盤で常連客から無限列車運行再開の知らせを聞き、「物騒なことにならなきゃいいが」と独りごちる店主の言葉はこれから起こる波乱を感じさせるものとなっており、テレビアニメ版『無限列車編』の始まりを告げています。
ふく
今回の物語で煉獄と出会うことになる弁当屋の娘、ふくを演じたのは「ご注文はうさぎですか?」シリーズのチノ役や「Re:ゼロから始める異世界生活」シリーズでレム役を担当した水瀬いのりが演じました。
女性声優としてはややハスキーな声で様々なキャラクターを演じてきた水瀬いのりですが、今回演じたふくは初めは得体のしれない煉獄や未知の存在の鬼に対し恐怖する様子をにじませながらも、強い意志を感じさせる年頃の少女の複雑な心境を見事に表現していました。
ふくは祖母、トミと共に鬼により命や間接的に生活が脅かされる一般人として描かれていますが、そんな中でも懸命に生きる姿が煉獄に感銘を与え、自身の信条である「弱き者を守る」という想いを改めて強くさせる存在として描かれているように感じます。
また、映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』で話題となった「うまい!」お弁当を煉獄へ提供する人物であり、ともすればこれまでネタのように扱われていたお弁当の裏に健気に生きる人々の様子が描かれており、それを象徴するキャラクターのように感じられます。
トミ
ふくの祖母であるトミは「ああっ女神さま」シリーズでベルダンディー、『ふしぎの海のナディア』でのメディナ・ラ・ルゲンシウス・エレクトラ、「CLANNAD」シリーズの古河早苗などで知られる井上喜久子が演じました。
変幻自在の演技で様々な役を見事に演じる井上喜久子の面目躍如とばかりに、穏やかで優しい老婆を演じています。
今回の物語においてトミは20年前、煉獄の父である槇寿郎に助けられており、再び鬼から救ってくれた煉獄に槇寿郎の姿を重ね合わせます。
煉獄はトミの言葉で槇寿郎のかつての姿を知ることとなり、その胸中で何事かを想っていたことが察せられる描写が描かれます。この時のトミとの会話によって、煉獄の少なからず確執を抱いていた槇寿郎への想いが変化したのは明白でしょう。
「切り裂き魔」の鬼
第1話で煉獄と対峙した鬼ですが、その名前は特に公表されていません。しかしこの鬼のCVは、『BLEACH』(2018)の阿散井恋次や『キングダム』(2019)で将軍・桓騎などを演じたことで知られる伊藤健太郎が担当しており、持ち前の深い低音を活かし、卑屈ながら非道な鬼を見事に演じていました。
この鬼は第一話にて「切り裂き魔」と称される猟奇殺人を行っていた犯人であり、魘夢との因果関係は明確に描かれていませんでしたが、劇中では鬼殺隊をかく乱する目的があったのではないかとされていました。
禿頭と体に刻まれた刺青のような模様が特徴的で、高速で移動する血鬼術を披露。また刺青のような模様が十二鬼月の“上弦の参”猗窩座と似ていることから、猗窩座と同様に鬼となる前は罪人であった可能性が考えられます。
また高速で移動する血鬼術は、人であった頃、罪人として逃亡を繰り返していたことに由来しているのではないでしょうか。これまで登場した鬼の血鬼術は、人であった頃の名残が強く見られることが多々あるためです。
たとえば「鼓屋敷編」の響凱は、人であった頃には鼓を演奏しており、それなりの腕前であったにもかかわらず心ない言葉に傷つけられた過去があり、鬼となった際にも鼓を用いた血鬼術を発動しています。また劇中、煉獄からの「逃げ足は速いようだな」という言葉をきっかけに、煉獄に対し激しい憎悪を向けていることからも、「逃げる」という行為に強いコンプレックスをもっていると想像することができます。
そしてこの煉獄に向ける憎悪についても、直接煉獄を倒そうとするのではなく、煉獄に関わったふくとトミを狙おうとしたなど、人間であった頃も弱者を傷つけ、功名に逃げ回っていた卑屈な人物であったことが伺えます。弱き者を守ろうとする煉獄とは正反対のキャラクターとして描かれ、鬼の卑屈さに対し一切容赦しない煉獄の姿が、煉獄の生き様をより強調しているように感じられました。
まとめ
テレビアニメ版「無限列車編」第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」のネタバレ考察、そしてキャラクター考察、いかがだったでしょうか。
テレビアニメで新たに描かれる『無限列車編』、煉獄の活躍を完全新作として描いた第1話は僅かテレビアニメ1話分の内容としてはかなり濃い内容となっており、知られざる煉獄の物語に誰もが胸を熱くしたのではないでしょうか。
続く『無限列車編』の物語も改めて楽しみになると共に、どのような形で新たな姿を見せてくれるのか、次回、第2話「深い眠り」の放送が待ち遠しくあります。