連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile054
海外には「ブラックリスト」という脚本公開サイトが存在します。
『エクスティンクション 地球奪還』(2018)の記事でもご紹介させていただいたように、未映画化の脚本が集まるこのサイトでは高品質でありながらも映像化されない作品が数多く存在し、特にSF作品に関しては、壮大すぎる世界観を題材にしているがゆえに、予算の問題上製作に至らないケースがあるとされています。
しかし、『エクスティンクション 地球奪還』のように莫大な資金源を持つNETFLIXがバックとなり、実現不可能とされていた脚本たちが次々と映像化され始めました。
そこで、今回は「ブラックリスト」に登録された脚本から映像化された映画『アイ・アム・マザー』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介していこうと思います。
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映画『アイ・アム・マザー』の作品情報
【日本公開】
2019年(NETFLIX独占配信)
【原題】
I Am Mother
【監督】
グラント・スピュートリ
【キャスト】
クララ・ルガアード、ローズ・バーン、ヒラリー・スワンク
【作品概要】
ドラマシリーズ「ザ・ロッジ」などに出演するクララ・ルガアード主演で描かれる近未来SF映画。
『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(2011)以降、同シリーズでモイラ・マクタガートを演じるローズ・バーンと、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)でアカデミー主演女優賞を受賞したヒラリー・スワンクなど豪華な共演陣も話題となりました。
映画『アイ・アム・マザー』のあらすじとネタバレ
人類が絶滅した日、再増殖施設で1体のロボットが稼働します。
ロボットは胎児を冷凍培養した装置から女性の胎児を取り出し球体型の装置に入れると、たちまちその胎児は産まれたような状態まで成長しました。ロボットは子供を装置から取り上げると、まるで母親のように腕に抱きます。
月日が経過し、幼児となった少女に「母」の役割を務めるロボットは胎児の培養装置を見せ、少女1人しか育てない理由として「母親にも訓練が必要だから」と言います。
大家族が欲しいと言う少女でしたが、今はまだその時期じゃないと「母」が言い、2人には親子としての絆があることが分かりました。
絶滅から13867日後、少女は誕生日を間近にしていました。「母」の動作にやや違和感があるものの、母と娘としての絆は依然として固いままです。
4人の犠牲か1人の犠牲かの選択から「最大多数の最大幸福」を学ぶ少女は、何かに気を取られそれを「母」に叱責されます。
「母」が謝罪をしすぐに仲直りする2人でしたが、夜、施設内のブレーカーが落ち、エアダクトのファンが停止すると少女は外から入ってきたネズミを捕まえます。
ブレーカーを復旧し、ネズミの事を「母」に伝えると、外の世界は汚染されていると言い「母」はネズミを焼却処分してしまいました。
外の世界が未知の病原菌によって生存不可能だと言い聞かされていた少女は、ネズミの出現により「母」の言い分や菌を検知するセンサーに対し疑念を抱き始めます。
年に1度の試験の日、ネズミの一件によって外の世界への好奇心が強くなった少女は、「母」が見ていない間に外の世界へと繋がる二重のエアロックの1つ目を解除し外を観察します。
すると、銃創を負った女性が現れ、傷を手当てして欲しいと訴え近づいてくることに気がつきました。外の世界に人間がいることに困惑した少女は感染を恐れたものの、防護服を着せた状態でエアロックを開き、彼女を迎え入れます。
エアロックの解除に気がついた「母」が駆け付け、咄嗟に「ちょっと開けただけ」と嘘をついた少女は「母」に試験へと連れて行かれます。
試験の最中、エアダクトの様子を見に行った「母」の隙を突き、女性のもとへ向かった少女はその女性が何にも感染しておらず、外の世界について「母」に嘘をつかれていたことを知ります。
少女が薬や包帯を探すうちに、少女が「母」と呼ぶ相手がロボットであることに気がついた女性は少女が戻るや否や、所持していた銃で「母」を壊そうと考えます。
少女は彼女を止めようとし叫び声をあげると、「母」が駆け付けます。女性は「母」に発砲しますが、「母」に深い損傷を与えることは出来ず取り押さえられます。
女性の生きる外の世界では人類はロボットである「ドーザー」に攻撃され続けているため、彼女は「母」のことを信用できず、「母」が行おうとする治療を拒否しました。「母」は「治療を望まないのなら自由にしなさい」とだけ告げて医務室から去ります。
外の世界に人がいることを少女に詰問されると、「母」はこの施設が「フェイルセーフ」の施設であり、実際に外の世界で壊滅的な何かが起きたからこそ起動されたのだと話します。
人類を破壊する目的であるならあなたを育てないと話す「母」の言葉に納得した少女。
「母」の「生き残りの人間がいるならここにかくまえばいい」という提案を受け入れ、女性との信頼関係を深めようとしますが、女性は「ドーザー」に対し敵意を燃やしており、治療すらも拒否します。
人助けのため外の世界に出た場合、ロボットである「母」が人間に襲われるのではないかと不安を抱く少女。
一方で、女性の容態は深刻な状態まで悪化し、体内の弾丸を除去し傷口を縫合、抗生物質の注射をしなければ助からない状況に追い込まれます。そのような状況に至っても「母」の介入を拒否する女性に対し、人体の勉強もしてきた少女が「母」の介助抜きで治療をすると申し出ます。
彼女の提案を承諾した女性の手術は無事成功し、「母」は少女の腕を絶賛。手術の最中に気を失った女性が目を覚ますと、正しい処置に感謝し、少女の差し出した食事に手を付け始めます。
自身と「母」のことを信じて欲しいと話す少女でしたが、女性は食料を集落に持ち帰る道で「ドーザー」に襲われ、兄弟分を失い自身も負傷したことを少女に話します。
一緒に集落のある鉱山に来ないかと誘われますが、そこに「母」が現れ、中断されていた試験を行うと言い少女を連れ出しました。
試験に向かう道すがら、「母」は少女に、女性の体内から取り出した銃弾と自身が撃たれた銃弾の形が一致したことから、彼女は「ドーザー」ではなく人間に撃たれたのだと語り、2人だけの接触は控えるように忠告。
試験を行い、過去最高の成績を出した少女に、「母」は新しい家族を増やす権利を与えます。
少女は喜び、胎児の培養されたケースから男の子を選ぶと、培養液に浸けました。
医務室の中にあるものでナイフを作る女性に、少女は先程の話が嘘だったことを批難します。しかし、逆に女性は「母」の言った「銃弾の一致」を自分の目で確認したのかと問いかけました。
真実を確かめるために、少女は「母」の休止している間に2つの銃弾を見比べました。
映画『アイ・アム・マザー』の感想と評価
近未来を舞台にした壮大な世界観ながら、登場人物はたった3人で物語が展開されるという濃密なSFドラマである本作。
人生の全てをシェルターの中で過ごし、外の世界はおろかテレビの映像以外で「人間」を知らなかった少女が、侵入者の出現によって重大な選択を迫られます。
信じるべきなのは、長年自分を育ててくれた「ロボット」なのか。それとも、自身の生きてきた世界に突如侵入してきた初対面の「人間」なのか。
どこか冷たさを感じる「母」の声とヒラリー・スワンクの絶妙な演技によって、どちらのサイドも怪しく見え、疑心暗鬼に陥っていく少女の葛藤とそれを乗り越えて下した決断が臨場感たっぷりに表現されており、徐々に明らかになる真相には思わず身の毛がよだちます。
世界観やメカニックデザインも秀逸で、機能性重視の施設内を包むひんやりとした雰囲気が伝わってくる作品でした。
まとめ
物語の根底を揺るがす衝撃的な展開が待ち構える『アイ・アム・マザー』。
しかし、決して突拍子もない真実というわけではなく、その伏線はしっかりと物語や、何気ない会話の最中に張られています。
タイトルにもなっている『アイ・アム・マザー』は誰の目線での言葉なのか。そして、「母」の全てのセリフに意味があることを念頭に入れた上で、本作の鑑賞をオススメさせていただきます。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile055では、タイムトラベルを繰り返し大切な人を救うNETFLIXプレゼンツ映画『シー・ユー・イエスタデイ』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
6月26日(水)の掲載をお楽しみに!