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Entry 2018/10/30
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是枝裕和監修映画『十年』より「PLAN 75」感想と考察。高齢化社会の行き着く先とは【十年 Ten Years Japan】|SF恐怖映画という名の観覧車21

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile021

世界には様々な「SF」オムニバス作品が存在します。

イギリスのSFオムニバスドラマ『ブラック・ミラー』では、約1時間と言う尺で様々な未来を描きだし人間の未来の多様性と、その先にある社会の「残酷さ」を提言していました。

一方、2018年11月3日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル梅田他全国順次公開される、映画『十年 Ten Years Japan』。

僅か「10年後の日本」と言う今、既に足を踏み出している「未来」が描かれています。

高齢化、AI教育、デジタル社会、原発、徴兵制など様々な題材の作品群の中で、今回は特に我々の「未来」にほど近い問題を描いた『PLAN75』についてご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『十年Ten Years Japan』とは


(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners
香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』を元に、新鋭監督達が自国の抱える問題点を軸に10年後の社会・人間を描く、日本、タイ、台湾の国際共同プロジェクト「Ten Years International Project」。

釜山国際映画祭2017での製作発表以来、世界中のメディアから注目され、『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクンが監督として参加したタイ版が、第71回カンヌ国際映画祭で特別招待作品として選出されるなど、世界から注目されている本プロジェクト。

日本版のエグゼクティブプロデューサーは、日本映画界を牽引する映画監督・是枝裕和。

杉咲花、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴ら実力派俳優たちが各作品に集結しました。

是枝監督の最終ジャッジのもと、脚本のクオリティ、オリジナリティ、将来性を重視して選ばれた5人の新鋭監督たちが描く”5つの未来”を通じて、今、日本が抱えている問題、これからの私たちの未来が鮮明に見えてきます。

映画『十年Ten Years Japan』作品情報

【公開】
2018年 (日本映画)

【エグゼクティブプロデューサー】
是枝裕和

『PLAN 75』

【『PLAN 75』監督】
早川千絵

【『PLAN 75』キャスト】
川口覚、山田キヌヲ、牧口元美、美谷和枝

【『PLAN 75』作品概要】

オムニバス映画『十年』のトップを飾る短編『PLAN 75』。

75歳を越える高齢者に国が安楽死を勧めると言う過激な世界観を短編映画『ナイアガラ』でぴあフィルムフェスティバルを始めとした数多くの賞を受賞した早川千絵が描き出す。

主演は舞台、ドラマ、映画と幅広く活躍する演技派俳優、川口覚が務めた。

『PLAN 75』のあらすじ


(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する国の制度『PLAN75』。

公務員の伊丹(川口覚)は、貧しい老人達を相手に複雑な想いを抱えながらも”死のプラン”の勧誘にあたっています。

今回の参加者は身寄りも家も無い、老人ホームに仮住まいする1人の老人(牧口元美)です。

一方、出産を間近に控えた妻・佐紀(山田キヌヲ)は認知症の母親を抱え途方に暮れていて…。

現代社会の問題を描いた日本版『ソイレント・グリーン』

「現代社会の抱える問題」と「安楽死」を組み合わせた作品として、1つ思い浮かぶ作品があります。

『ソイレント・グリーン』(1973)

1973年にアメリカで公開された映画『ソイレント・グリーン』では、人口爆発によりあらゆる資源が枯渇した世界で起こる殺人事件が描かれ、最終盤に主人公が行き着く真実があまりにも衝撃的で今もなお「SF」好きには語り継がれるほどの名作です。

この作品では、人口が増え続けることによって限界を迎えた2022年が舞台となっていて、政府は安楽死を推奨する施設、通称「ホーム」を完備し人口の削減を行っています。

現代から約10年後を描いた『PLAN75』でもこの構図で描かれていますが、その様相は『ソイレント・グリーン』は違ったものになっていました。

避けられない高齢化社会の現実と『PLAN75』


(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

1970年当時、人口の増加は止まるところを知らず、「人口爆発」によって世界の資源は底を尽きるとさえ言われていました。

しかし、想像とは違い人口の増加率は年月を重ねるほどに減少を始め、我々の住む日本では別の問題が姿を表し始めます。

2015年には日本人口のおよそ4分の1が65歳を越える「高齢化社会」が現実のものとなり、年々その数値は悪化しています。

認知症患者の増加、年金制度の崩壊、孤独死の増加など、「高齢化社会」における様々な弊害が現実のものとなりかけている現代社会で制作された『PLAN75』は、とても刺激的な作品でした。

作中の「安楽死制度」は「痛みも苦しみもなく」、「不安感をそぐ無料カウンセリングが受けられ」、「10万円の支度金配布される」など至れり尽くせりな上に、あくまでも「希望性」であり、募集から参加までを付き添う主人公の存在により「温かみ」すら感じます。

ですが、その実態は「負担」となる存在の「排除」でしかなく、本人たちのいない影の部分では残酷な判断が繰り広げられています。

その判断が本当に自分の心からの意見なのか、それとも誰かからの誘導により導かれた結論なのか、様々な想いが頭の中を駆け巡る作品でした。

暖かで残酷な世界を彩るキャストたち


(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

今作の軸になる「暖かさ」と「残酷さ」のギャップを生み出したのは実力派俳優でそろえた役者たちの演技だと言えます。

「PLAN75」の参加者である老人を演じた牧口元美は様々な映画に出演し、その印象の濃さを植え付けるだけでなく自身の劇団を立ち上げるなど舞台でもその活動が幅広く知られています。

そんな、彼の「人生」の「重み」を感じる演技により、「PLAN75」と言う「安楽死」が一見「温かみ」に溢れた制度のように感じます。

しかし、一方で山田キヌヲ演じる佐紀の抱える認知症の母の問題がこの制度の問題点を巧みについています。

日本テレビ系ドラマ「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」にレギュラー出演するなど、着実に活躍の場を広げる山田キヌヲならではの絶妙な演技で「PLAN75」に救いを求める彼女の心理が描写され、演技以外にも歌手としての活動もするなど長きにわたり活躍する美谷和枝の認知症の演技が「高齢化社会」の問題を体現していました。

まとめ

医療の発達や、女性の社会進出による晩婚化により「高齢化社会」は今後一層深まっていくとされています。

より良い社会の発展の代償として直面している問題に目を背けず、しっかりと向き合わなければいけない。

主人公の伊丹が迫られる決断は、そんな我々の「未来」を示しているようにすら思える、現代の日本に生きる人間全てが鑑賞するべき、とすら言える作品でした。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile022では、映画とは密接な関係にある「都市伝説」を中心に、様々な映画に関する「都市伝説」や、逆に「都市伝説」を映像化した作品たちを紹介していこうと思います。

11月7日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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