連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile012
人の作る「物語」には不思議な力があります。
それは時に誰かに「夢」や「希望」を与えたり、道を進んでいく動力源にもなれる、ドラマや映画などエンタメのあるべき姿だとも言えます。
今回は、9月7日公開の映画『500ページの夢の束』をいち早く鑑賞した筆者が、「自分」を表現する物語の小道具として、「SF」が使われた今作を紹介していこうと思います。
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CONTENTS
映画『500ページの夢の束』のあらすじ
自閉症の少女ウェンディ(ダコタ・ファニング)は、ケースワーカーのスコッティ(トニ・コレット)の保護のもと、施設の中で日常のルールを徹底しながら過ごしています。
そんな彼女は、大好きな「宇宙大作戦(スター・トレック)」の脚本コンテストに応募するため、長大な脚本を書き溜めていました。
しかし、結婚し娘も出来た姉のオードリー(アリス・イヴ)と問題を起こしたウェンディは、集荷の関係で郵送では締め切りに間に合わないことを確信すると、ロサンゼルスまで歩いて行くことを決めるのでした。
翌日、スコッティに内緒で施設を抜け出すウェンディ。
こうしてウェンディと、彼女についてきた愛犬ピートの長い旅が始まります。
全編に溢れた「スター・トレック」の小ネタたち
参考映像:傑作SFドラマ『宇宙大作戦(スター・トレック)』
以前のコラムでも紹介させていただいた傑作SFドラマ『宇宙大作戦(スター・トレック)』。
今作では物語の主軸に「スター・トレック」が置かれ、非常に重要な役割を果たします。
もちろん、主軸とは言えど小道具の1つであるため「スター・トレック」のことを知らなくても楽しめるのですが、知っているとより作品を楽しめる要素を紹介させていただきます。
「ウェンディ」=「スポック」
「スター・トレック」の登場人物の中でもメインの人物であるヴァルカン人のスポック。
理知的であり感情を意のままにコントロール出来るヴァルカン人であるため、感情表現が乏しいスポックが、対照的とも言える行動的な主人公、カークと親交を深めていく「スター・トレック」。
『500ページの夢の束』の主人公ウェンディが書き記す「スター・トレック」の脚本では、まさしくそんな2人が絶望的な状況下に置かれるシナリオが展開されます。
最期の時を間近に2人が語ること、それは感情表現が乏しいスポックをウェンディが自分自身と重ね合わせていることであり、物語の根幹に非常に関わっていることと言え、特に注目して欲しいポイントです。
他にもクスリと出来る要素はたくさん
上記のように物語の根幹に関わる要素もありますが、「知っていると面白い」にとどめている要素も多くあります。
ウェンディを保護するケースワーカーの名前が、「スター・トレック」に登場するモンゴメリー・スコット、通称「スコッティ」と同名であったり、姉のオードリーを演じるアリス・イヴが『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)のメインキャストとして出演している俳優であったりと、細かなファンサービスから始まり、
「スター・トレック」内に登場する細部まで綿密に作られた「ある言語」が重要な活躍をするシーンなど、知っていれば知っているほどクスリと出来るシーンが多くある「スター・トレック」ファンには、特に見て欲しい作品です。
「自分」を表現する物語
ウェンディが患う自閉症と言う病気は、度合いや個人差が多くありますが、基本的に他者とのコミュニケーションが上手く取れないと言う特徴があります。
絵本作家であり、詩人でもある東田直樹さんは自閉症を患っていますが、彼の作り出す世界は独特かつ優しさに溢れていて、会話でのコミュニケーションを上手に行えない東田さんが「自分」の中にある世界を表現していることが伝わってきます。
一方で、今作のウェンディは、大好きな「スター・トレック」の脚本を書きあげ、脚本コンテストでの入賞を目指しています。
序盤では賞金の10万ドル目当てとも、大好きな「スター・トレック」に応募したいだけとも取れる彼女の行動ですが、物語が進むうちにしっかりとした「目的」を持っての行動だと分かります。
上手くコミュニケーションを取ることが出来ない自閉症のウェンディだからこそ、自身を投射できる「スポック」と言う登場人物を使い紡いだ物語。
そんな「自分」を描いた物語を「誰に」見せたいと彼女は考えるのか。
時に笑えて、時に心を強くしてくれる、暖かい「夢」と「冒険」の物語をぜひ劇場でご覧になってみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile013では、9月15日公開予定の北村龍平監督による最新映画『ダウンレンジ』(2018年)から、シチュエーションスリラーとしての見どころをご紹介していこうと思います。
9月5日(水)の掲載をお楽しみに!