Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/08/26
Update

映画『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』感想と考察評価。キャラが出す“最後の答え”に感動の総集編は空中戦が見どころ|SF恐怖映画という名の観覧車117

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile117

「女子高生」と「戦車」と言う真逆の印象を持つ2つの要素を組み合わせ、大ヒットとなったアニメシリーズ「ガールズ&パンツァー」。

今もなお最新作が公開され続ける「ガールズ&パンツァー」シリーズは、ミリタリー好きから高い評価を受けた「徹底的に拘り抜いた戦車の描写」がヒットのきっかけとも言われました。

今回はそんな「ガールズ&パンツァー」シリーズを手掛けた水島努監督が「レシプロ戦闘機」をメインとし製作したアニメ『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』(2020)の魅力を紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』の作品情報


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
水島努

【声のキャスト】
瀬戸麻沙美、山村響、鈴代紗弓、幸村恵理、仲谷明香、富田美憂、矢島晶子、藤原啓治、小西克幸

映画『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』のあらすじ


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

世界の底が抜けたことで海の水が全て落ち、見渡す限り荒野となってしまった世界「イジツ」。

ある日、空に突如現れた「穴」からやってきた異世界の人間「ユーハング」は、「イジツ」には無い飛行機の文明を残し「穴」へと帰っていきました。

月日は流れ、「穴」も「ユーハング」も過去の出来事となった「イジツ」で運び屋として活躍するレオナ(声:瀬戸麻沙美)は、親友のザラ(声:山村響)と共に凄腕パイロットを集めた傭兵集団「コトブキ飛行隊」を結成し…。

新規カットを追加した総集編映画


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

本作『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』は2019年の1月から3月に放送されたアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」を監督の水島努が約15分の新規カットを挿入した上で再編集した、いわゆる総集編映画です。

そのため本作は鑑賞前に予備知識を入れる必要がなく、連続アニメ版を未鑑賞と言う方にも安心して観ていただくことが出来る安心設計の作品となっています。

海の水が無くなり荒野になった世界「イジツ」を舞台に、「コトブキ飛行隊」の結成から「イジツ」の運命を賭けた決戦までを各キャラクターの魅力を損なうことなく描き切る本作。

その物語には魅力的な「SF」の要素と、「人はなぜ戦うのか」と言う根源的なメッセージが含まれていました。

大空を舞いながら見出す、戦うことの「意味」


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

本作には水島努監督が作品のメインとして採用を望んだ1930年年代から1950年代の戦闘機が登場します。

それらの戦闘機の登場ありきで世界観や物語が製作された本作ですが、その設定は「SF」映画好きとしてとても心躍らされるものでした。

かつて空に現れた「穴」から戦闘機で飛来した「ユーハング」と呼ばれる異世界の人間たち。

その正体は作中で明らかになりますが、「穴」の正体や世界の水が消えた理由はしっかりと明らかにはなりません。

荒廃した「大地」を捨てるかの如く人々は「空」へと飛び立ち、友好的だった「ユーハング」の消失と共にイジツは「戦乱」へと向かうことになります。

「穴」がもたらした「恩恵」と「戦乱」の中、「コトブキ飛行隊」はなぜ戦うのか。

考察が捗り、そして彼女たちが見出した「答え」に感動すること間違いなしの作品です。

7.1chサラウンドとMX4Dで蘇る迫力の空戦


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

本作の見どころは何と言っても大迫力の空戦にあります。

沢山の戦闘機が空を舞い、大量の銃弾が飛び交い、時に被弾して散っていく。

映画館では家庭で鑑賞する際には抵抗のあるレベルの大音量での上映が楽しめるだけでなく、一部劇場では7.1chサラウンドでの上映に加え、座席の動きで空戦を再現する「MX4D」での上映も行われます。

単なるアニメの総集編に留まらない究極の進化を遂げた『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』は、鑑賞済みの人でも劇場で再鑑賞する価値があると自信を持ってオススメ出来ます。

とことん拘り抜かれた「レシプロ戦闘機」


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

本作は主人公たちの乗る「一式戦闘機」を始め、登場する機体のほぼ全ては実在する機体がモチーフとなっています。

本作ではピストン駆動で動作するレシプロエンジンを搭載した「レシプロ戦闘機」と呼ばれる戦闘機の描写に驚くほどに力が入れられており、物語の序盤の搭乗シーンではエンジンの起動から離陸までにいくつかの手順を踏む様を長尺でみせるほどのこだわりぶり。

ミリタリー監修に水島努監督の代表作でもある「ガールズ&パンツァー」と同じ二宮茂幸を起用し、戦闘機の挙動チェックを日本人唯一の米連邦航空局のエアショーライセンス無制限クラスを保有するパイロット内海昌浩が率いる「ウイスキーパパ競技曲技飛行チーム」が担当しています。

本作は「レシプロ戦闘機」は物語のための「道具」ではなく、作品の軸でありメインなのだと言う監督の力強い意気込みが聴こえてくるような作品でした。

まとめ


(C)「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

とことんまで戦闘機と空戦描写にこだわられた最新アニメ映画『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』は2020年9月11日(金)より全国劇場でロードショー。

全方位に動き回り、あらゆる方向に銃弾が飛び交う大迫力の空戦をぜひ劇場でご覧になってください。

また、7.1chサラウンドでの上映や「MX4D」での上映情報は劇場によって異なります。

本作の魅力を最大限に楽しめる「7.1chサラウンド&MX4D」上映を希望の方は上映情報をしっかりとご確認の上、劇場へ足を運んでください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile118では、映像配信サービス「Netflix」が世界に配信した最新メキシコ映画『闇に潜むもの』(2020)をネタバレあらすじを含めて魅力をご紹介させていただきます。

9月2日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『蹴る』感想と内容解説。中村和彦監督が電動車椅子サッカーに情熱を注ぐ者たちを撮る|だからドキュメンタリー映画は面白い13

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第13回 電動車椅子を“足”とする者たちが、フィールドを駆け回る――障がいを抱えながらも、彼らはなぜ、そうまでしてボールを追い続けるのか? 『だからドキ …

連載コラム

映画『リトル・ガール』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。少女サシャのトランスジェンダーの人権と尊厳に“監督や母親”は如何なる視点であるのか|タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」3

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第3回 今回はご紹介するのはフランスのドキュメンタリー『リトル・ガール』。 毎年11月20日に行われる、トランスジェンダーの人権と尊厳 …

連載コラム

映画『TAR/ター』あらすじ感想と評価解説。ケイト・ブランシェットは主演作で“天才指揮者リディアター”を怪演|映画という星空を知るひとよ147

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第147回 トッド・フィールド監督とケイト・ブランシェットの最強タッグが放つ驚愕のサイコスリラー『TAR/ター』。 ⾳楽界の頂点に上りつめたと言えるベルリンフィ …

連載コラム

『誰がための日々(一念無明)』感想と考察。ウォン・ジョン作品を香港映画史から読み解く | アジアン電影影戯1

激動の香港映画史を俯瞰する映画『誰がための日々』 連載コラム「アジアン電影影戯」を担当する映画評論家の加賀谷健です。 第1回では、“新香港ニューシネマ”の呼び声が高い新星ウォン・ジョン監督の『誰がため …

連載コラム

講義【映画と哲学】第7講「恋愛・性的欲望・性的行為について:サルトルの観点から『デカローグ6』を見る」

講義「映画と哲学」第7講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 第7講では、恋愛・性的欲望・性的行為に対してサルトルが展開した「眼差し」論を踏まえた上で、彼の「眼差 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学