連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile105
記憶に新しいにも関わらず、冷静に考えるとかなりの年月が経過しているという感覚の奇妙さを感じる2000年代。
様々な映画の功績によりVFXの技術が安定したこの時代は、高いクオリティのCGを駆使し派手さを追求したお祭りのようなSF映画や、1900年代から受け継いだ堅実な内容で魅せるSF映画など多岐に及んだ種類の作品が登場します。
今回は「SF映画おすすめ5選!2000年代の名作傑作選」と題し、2000年代のおすすめSF映画をランキング形式でご紹介させていただきます。
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CONTENTS
2000年のおすすめSF映画:5位『マイノリティ・リポート』
映画『マイノリティ・リポート』の作品情報
【原題】
Minority Report
【公開】
2002年(アメリカ映画)
【監督】
スティーヴン・スピルバーグ
【キャスト】
トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドー、ロイス・スミス
【作品概要】
『ブレードランナー』(1982)の原作となった小説を書いた大物SF作家、フィリップ・K・ディックによる小説をスティーヴン・スピルバーグが映像化したSF映画。
演技派俳優として有名であり、自分自身でアクションスタントを行う肉体派俳優として近年話題のハリウッドスター、トム・クルーズが主演を務めました。
【映画『マイノリティ・リポート』のあらすじ】
予知能力を持った3人の少年少女による予知を科学的に解析し、未来に起こる殺人の被疑者を事前に逮捕することで殺人の発生を食い止めることが可能になった未来。
犯罪予防局の刑事として高い検挙数を誇るジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は、ある日自分が見知らぬ誰かを殺害する予知が報告されたことから追われる立場となってしまい……。
高いクオリティのCGで魅せる近未来クライムサスペンスの秀作
ハリウッド映画界の巨匠、スティーヴン・スピルバーグが手掛けた近未来を舞台とした映画『マイノリティ・リポート』(2002)。
本作では「殺人の予知」という近未来のシステムを物語の主軸とし、冤罪をかけられた男の逃亡と絶対的システムに潜んだ「陰謀」をアクションなどの見せ場をふんだんに使用し描いています。
劇中のCGは2000年代初頭でありながらも「銀残し」と呼ばれる「あえて彩度を低く見せる手法」を起用しているため、パッと見では2020年代に鑑賞しても何ら遜色のない高いクオリティの映像に見え、スピルバーグの指揮する作品の技術力の高さを感じることが出来ます。
クライムサスペンスとしても本作は秀逸で、タイトル通り「少数派の報告(マイノリティ・リポート)」が物語のキーとなり「多数派」と「少数派」の問題が「最大多数の最大幸福」のために「少数派」を切り捨てるのか、というメッセージにも繋がる奥の深い作品。
複雑に見える事件の様相もスピルバーグらしい筋の通ったストーリーラインによりしっかりとまとまるため、SF映画の入門の方にも自信を持ってオススメできる作品です。
2000年のおすすめSF映画:4位『エイリアンVSプレデター』
映画『エイリアンVSプレデター』の作品情報
【原題】
Alien vs. Predator
【公開】
2004年(アメリカ映画)
【監督】
ポール・W・S・アンダーソン
【キャスト】
サナ・レイサン、ラウル・ボヴァ、ランス・ヘンリクセン、ユエン・ブレムナー、コリン・サーモン
【作品概要】
人気SF映画シリーズ「エイリアン」と「プレデター」のメインクリーチャーがぶつかり合うことで話題を呼んだSF映画。
監督として本作を彩ったのは日本のゲームを実写化した映画シリーズ「バイオハザード」の監督としてもお馴染みのポール・W・S・アンダーソン。
【映画『エイリアンVSプレデター』のあらすじ】
人工衛星によって南極に発見された未知の遺跡を調査するため、大富豪によって集められた調査隊。
南極と言う過酷な地帯での調査を可能とするために呼ばれた登山家レックス(サナ・レイサン)は、まともな訓練を受けてすらいない調査チームに不安を覚えますが……。
大人気の2大クリーチャーがぶつかり合うコラボ映画の金字塔
高い凶暴性を持ち、人の体内に寄生体を産み付け、傷つけると体内から酸を吹き出す「恐怖」を具現化したようなクリーチャー「エイリアン」。
そして、様々な地球外兵器を使いこなし人類を「獲物」としか見ていないものの、心の中に高い誇りを持つ「捕食者」としての格好良さを持つ「プレデター」。
そんな大人気の2大クリーチャーが一挙に集った映画『エイリアンVSプレデター』(2004)は「コラボ映画」として、流行の先駆者であると同時に指針を示した金字塔的作品であると言えます。
本作では「未知の場所」に調査隊が入り「エイリアン」に襲われるという「エイリアン」シリーズのお決まりの展開と、「プレデター」による「狩り」というお互いのシリーズの定番を組み合わせ、違和感の無いシナリオとしています。
それだけでなく人に寄生し体内から食い破る「エイリアン」の恐ろしさと、「プレデター」による攻撃の鮮やかさと誇りがそれぞれ一切の妥協なく魅力的に描かれており、両シリーズのファン双方にも満足な作品となっています。
なぜ2つのシリーズが愛され続けるのか、という疑問にもこれ1作で回答できてしまうほどの「愛」が詰まった本作は、両シリーズ観鑑賞の方にほど観て欲しい作品です。
2000年のおすすめSF映画:3位『スキャナー・ダークリー』
映画『スキャナー・ダークリー』の作品情報
【原題】
A Scanner Darkly
【公開】
2006年(アメリカ映画)
【監督】
リチャード・リンクレイター
【キャスト】
キアヌ・リーブス、ロバート・ダウニー・Jr、ウディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダー
【作品概要】
フィリップ・K・ディックの小説「暗闇のスキャナー」を後に『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)で多くの賞を受賞することになるリチャード・リンクレイターが映像化した作品。
主演を務めたのは『マトリックス』(1999)や『ジョン・ウィック』(2015)など、多くの主演映画が大ヒットとなったキアヌ・リーヴス。
【映画『スキャナー・ダークリー』のあらすじ】
「物質D」と呼ばれる麻薬が蔓延る近未来、麻薬の摘発のため常習者たちのコミュニティに潜入する捜査員は自身の本名や素顔を上司にすら秘匿とすることで安全を保っていました。
ある日、潜入捜査員のフレッド(キアヌ・リーブス)は上官から麻薬の常習者であり密売人の疑惑のある「男」の監視と報告を命じられますが、監視対象となる「男」はフレッド本人であり……。
特殊な映像で「異常性」を表現した奇作
俳優たちの演技を実写として撮影し、その映像をアニメに落とし込む方法で製作された『スキャナー・ダークリー』(2020)。
本作はその独特な手法で製作された映像が作品の主軸である「自分を監視する自分」というテーマと合わさり、作品内に漂う「異常性」の表現に成功していました。
主人公のフレッドは麻薬の潜入捜査員であり、信用を得るために自身も強力な麻薬を常習しています。
さらに自身の正体を知らない上官から自身の監視を命じられ、麻薬による意識の混濁と自分自身の監視が重なり徐々に現実と幻覚の差が曖昧になっていきます。
ロバート・ダウニー・Jrが演じる麻薬の常習者の1人であるバリスのマシンガントークも幻覚を見ているような本作の感覚をさらに助長させる正にドラッグムービーな本作。
絶望的ながらも1つの希望を見出せる清々しさも感じれるラストは秀逸であり必見の作品です。
2000年のおすすめSF映画:2位『パプリカ』
映画『パプリカ』の作品情報
【公開】
2006年(日本映画)
【監督】
今敏
【キャスト】
林原めぐみ、江守徹、堀勝之祐、古谷徹、山寺宏一、田中秀幸、こおろぎさとみ、阪口大助
【作品概要】
『千年女優』(2002)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003)でアカデミー賞長編アニメ賞の候補作として選出された経験を持つ今敏が「時をかける少女」などの著作を持つ筒井康隆の同名小説を映画化した作品。
アメリカでも大ヒットを記録した本作は批評家からも高い評価を受け、海外を中心に未だに根強い人気を誇っています。
【映画『パプリカ』のあらすじ】
夢を共有する装置を使い深層心理に抱える悩みを解決するサイコセラピストの千葉敦子(林原めぐみ)。
その装置を悪用し他者を精神崩壊に追い込む人間の存在を知った千葉は犯人と事件の真相を追いますが…。
アニメだからこそ出来る「夢」の世界の事件簿
CGなどのVFXの技術が進化し表現の出来ない描写は徐々になくなってきているとは言え、技術的にも資金的にも再現の難しい描写はまだまだ多くあります。
制御できない世界であるがゆえに理不尽であり、それでいて魅力的な空間である睡眠中に見る「夢」。
想像次第でどんなことでも可能になる夢の世界を「アニメーション」と「音楽」を駆使し、その「理不尽性」と「魅力」を最大限に引き出した作品『パプリカ』(2006)。
2010年に46歳と言う若さで逝去した天才今敏が作り上げた夢の世界は美しくて恐ろしい、誰にも真似の出来ない映像作品として今も世界中に愛されています。
2000年のおすすめSF映画:1位『オーロラの彼方へ』
映画『オーロラの彼方へ』の作品情報
【原題】
Frequency
【公開】
2000年(アメリカ映画)
【監督】
グレゴリー・ホブリット
【キャスト】
ジェームズ・カヴィーゼル、デニス・クエイド、エリザベス・ミッチェル、ショーン・ドイル、アンドレ・ブラウアー
【作品概要】
ウィリアム・ディールの小説を実写化した『真実の行方』(1996)が批評家から高い評価を受けたグレゴリー・ホブリットがメガホンを取ったSF映画。
主人公の父フランク・サリヴァンを演じたのは『僕のワンダフル・ライフ』(2017)など、近年も積極的に映画に出演する名優デニス・クエイド。
【映画『オーロラの彼方へ』のあらすじ】
幼いころに父を失ったNY市警のジョン(ジェームズ・カヴィーゼル)は、ニューヨークでオーロラが観測された日に父の趣味であった無線を発見します。
父との思い出を胸に無線を操作していると30年前、ニューヨークにオーロラが出た日の父親にその無線が繋がり……。
親子の絆とタイムパラドックスを描いたSFサスペンスの傑作
「ブラジルで蝶々が羽ばたくことでテキサスに竜巻が起こる」という例が有名なバタフライ効果と呼ばれる現象があります。
あくまでも先述の文章は例であり、実際は「些細な変化が、大きな現象を生むきっかけとなる」という表現の1つですが、歴史上の様々な人物が「些細な行動」をきっかけに名前を残すことになったように「バタフライ効果」は今もどこかで世界を動かしています。
2000年に公開された映画『オーロラの彼方へ』(2000)は、既に死亡している父と無線で会話できたことで父の死の未来を変えようと主人公が父に助言します。
しかし、「父を生かしたこと」が本来の世界であれば起こり得るはずのなかった悲劇を生み出します。
親子の絆とタイムパラドックス、父が生き残ったことによる絶望と全てを救うために未来と過去で親子が奮闘する、「SF」であり「サスペンス」であり「ヒューマンドラマ」の魅力とその全ての要素が高い基準でまとまっている作品です。
まとめ
VFXの安定だけではなく「SF」映画として、かつての時代より受け継いできた様々な要素を進化させた時代だと感じる2000年代のSF映画たち。
さらなる進化を目指しあらゆる意味で「ぶっ飛んだ」作品が好まれるようになる2010年代とはまた違い、安定と挑戦のちょうどいい地点を目指した時代だったかもしれません。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile106では、映像作家の遠藤麻衣子監督によるテレパシーで交信する2020年を生きる少女を描いた作品『TOKYO TELEPATH 2020』(2020)の魅力をご紹介させていただきます。
6月10日(水)の掲載をお楽しみに!
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